妹に次は新しい完璧婚約者を渡せと言われました

さくらもち

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二話

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「価値のないあんたなんていらないのよ!!」

「そうだぞ!せっかくお前の元婚約者がこの家に金を貢いでくれているのに……!!」

 貢ぐやめぃ

 婚約破棄した事と、代わりに妹が婚約した事を伝えると、私に激怒していた。

「まぁでも、安心したわ。リリが婚約者になってくれて。姉とは大違いよ。偉いわね、お礼になんでも買ってあげるわ!」

「ありがとう、お母様…!私もあれが姉なんて恥ずかしいわ……」

 すんすんっとこちらを見ながら、涙を頬からしたらせていた。
 母もまた妹、リリを優しく撫でる。

「あぁ!なんでも頼め!!宝石か?ドレスか?ったく、なんでお前の姉は出来損ないなんだか。やっぱりお前の浮気してできた子だろ?」

「まぁ…っ…!私だって、こんな子望んでできた子じゃないのよ!?」

 ご本人ここにいるのでやめてほしい。
 父はそれを聞くと舌打ちをしながら、不機嫌そうな顔でこちらに近づいてきた。

「っち………おい!聞いてるのか!!名無し!!」

 名無し

 私には名前がない。
 本来なら、この国は五歳以上になったら、やっと親から名前が与えられる。

 けど、リリとさほど年が離れていないので、リリを溺愛していた両親は私に名前なんてつけなかった。 
 代わりに、呼ぶときは必ずこう言う。

 名無し

「お前なんて誰にも望まれてなく生まれてきたんだ…っ!!世話してるだけありがたく思え」

 そう言われた時、私の中でもうめんどくさくなってしまった。

「……お前らは人間じゃない。腐ってる。何が出来損ない、だ。誰にも望まれないだ。誰にも望まれてないからって、出来損ないだからって生きていけないんか?駄目なの?」

「は…っ…親に口答えをするのか?とんだ馬鹿がいるな」

 ぽつり、ぽつりとその言葉が、今までためていた言葉達が口から流れるようにすらすらと出てくる。
 今までは言ってもきっとここまでだっただろう。
 けど、もう無理だった。どうせ私はこの家から出ていくんだし、というのもあるだろう。

「私は本心言っただけよ?お前らは腐ってる、それだけが事実だ。その他には何もいらない。私がなんで今まで反抗しなかったかわかる?負け組に興味なんてねぇんだよ。私は、貧乏な人とか、持病を持った人とかに負け組なんて思わない。だって、お前らが本物の負け組だから」

「な……っ…!お前なんて一族の恥だっ!!!出てけ!!」

「それが?他人からの価値観に囚われてるお前らよりマシ」

 収まりきらない怒りが漏れていく。

「バイバイ」

 本当に出ていくのか、というような表情をしながら、元両親と元妹が私の背中を眺めていた。

 人というものは誰でも自分に利益がある事しかしないだろう。
 利用し、利用され、壊れていく。

 けど、それは誰もがする当たり前のことであり、普通の事だ。
 勝ち残ったものがこの世界の勝者。
 もし、誰かが手を差し伸べてくれるのならば、人はかわれる。

 人間、失格
 もはや私は人間じゃなくなりました
(文豪、太宰治さん『人間失格』の本からの引用)
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