やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき

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第1章 ロフミリアの3つの国

第32話 紫色の大地と炎の競演

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 直樹たちは、大きな黒い山を目印にして、月明かりに照らされた濃緑の草原をひたすら歩き続けていた。
 たまにポツンポツンと木があるぐらいで、とても見晴らしが良い。
 迷わず進める反面、敵に見つかって襲われる心配もあったが、視界に魔物の姿は一切無く、直樹がポブロトに会った時に遭遇した空飛ぶドラゴンの姿も見えない。
 この世界にやってきて誰も彼もが「北はヤバい」と言ってきただけあって、この辺りにはむしろ魔物すら寄りつかないのかも知れない。
 それは自分たちにとって良いことなのかどうなのか……と、心に不安をよぎらせながら歩き続けていた直樹の目が、草原の終わりを捉えた。

「おい、あれ!」

 直樹が前方を指差しながら叫ぶ。
 続いて、ささみがタッタッタっと走り出し、

「にゃーん、にゃーん!」

 何かを訴えかけるように地面の土を前肢でかきむしりだした。
 そこには、それまでの草原とは打って変わって草一本も生えておらず、ただただ土あるのみ。
 そして、それは非常に特徴的な色をしていた。

「紫色の地面! ロフニスの地図に書いてあったやつ!」

 月明かりの下、妖しげに映る土の色を見た優衣が嬉しそうに叫んだ。
 直樹は改めて手に持っていた地図に視線を落とす。

『地面が紫色になったら、そこからが北の大地』

 ロフニスが書き記した言葉と、目の前の景色を照らし合わせると、直樹はゴクリと唾を飲み込んだ。
 いよいよ、ここから北の大地か……。
 パッと見、敵の姿は見当たらないものの、今まで以上に気を引き締めて……と、直樹が神妙な面持ちになってるそのすぐ目の前で、

「いえーい! ついたついた~!」
「あと、川があってどーのこーのって書いてあったよね? 早く行こ行こ!!」
「にゃーん!」

 歩斗と優衣、そしてささみまでもが、軽やかな足取りで紫色の地面を小走りに進み出す。

「お、おい! ここは北の大地。とってもヤバいって噂の……って、待ってくれー!」

 直樹は慎重になってる暇も無く、脳天気な家族の背中を追って走り出した。



 草も木も何も無い紫色の地面をひたすら進み続けると、視界の端から端を貫く一本の筋が見えてきた。

「あれは……川か!」

 直樹は叫びながら、また地図に目をやる。

『隠れみのオーブがあるのは、橋の手前周辺にある地下ダンジョンの中』

 その文言を見て、ついに目的の場所まであと少しまできたことに安堵しつつ、

『橋は絶対に渡ってはだめ。そこから先は本当に危険』

 という注意書きにギュッと心臓をキツく締められたような気分にさせられた。

「おい、みんな。ここからは本当に慎重に行くべき──」
「うわっ! なにあれ!!」

 直樹の言葉を遮るように、優衣が思いきり腕を伸ばして右斜め前辺りを指差しながら叫んだ。

「な、なんだアレは!? 鳥……かな?」

 悲しいかな、父直樹の目には星空の下を飛ぶ謎の物体は遠すぎるあまり豆粒ぐらいにしか見えず、空を飛んでるからそれだろぐらいの感覚でつぶやいた。。
 
「違うよパパ! アレは……なんだろうでっかい鳥みたいな……」

 優衣の訂正に対し、なんだよやっぱり鳥じゃないかもう、と心の中でツッコむ直樹。

「違うよ優衣! アレは……ドラゴンだ! 超でっかいドラゴンだよ!」

 ファンタジー好きの歩斗が確信に満ちた目で叫ぶ。
 すると突然、目の前が眩しく輝きだした。

「おおおお!!」
「うおおぉぉ!」
「すごぉぉぉ!」
「にゃぁぁぁぁ!」

 3人と1匹は口を揃えて、驚きと感動が入り交じった声を発した。
 それは、毎年夏になると家族揃って近所の花火大会を観に行った時の光景に似ていた。
 歩斗の言う超巨大なドラゴンが飛んでいる辺りから、地面に向かって斜めに巨大な赤い炎が吹き出し、もの凄く距離が離れているにもかかわらず目がくらむほど明るく輝いたのだ。
 
「本当にドラゴンだったのか……」

 直樹が歩斗の言葉を信じる暇も無く、優衣はまた違う何かを見つけて指差した。

「地面の方に何かいる! でっっっかいやつ!!」
「なんだありゃ!? 亀か、亀か!?」

 ハイテンションで驚き叫ぶ優衣と歩斗。
 
「か、亀……??」

 直樹は半信半疑で優衣の指先の先を目で追った。
 すると、ちょうどドラゴンが吐いた炎の先あたりの地上部分に、大きな何かの影が見えた。

「いや、亀じゃないだろ……とてつもなくデカいぞアレ? 亀と言うより、なんていったっけあれ……ほら、オーストラリアにある大きな岩……あっ、そうだエアーズロッ──」
「うわぁぁぁ! また出たぁぁぁ!!」

 優衣の叫び通り、地上の影から上空のドラゴンに向けて、オレンジ色に輝くごんぶとの炎が吹き上がった。
 そして、二つの炎は空中でぶつかると、威力が拮抗しているのか真ん中辺りでバチバチと火花を上げ続ける。
 これがもし映画だとしたら、クライマックス間違い無しの迫力と映像美。
 あまりの美しさについつい見とれてしまう直樹。
 これを動画に収めてネットにアップしたらどれぐらいの"いいね"が貰えるんだろうか……なんてことまで考え始めたその時、手に何かが当たる感触。
 
「にゃーん! にゃーん!」

 それは、直樹が持っているロフニスの地図に向かって飛び跳ねるささみの前肢だった。
 
「おいおい、どうした? あれ見て興奮したのか? ……って、そうだ」

 直樹は、ささみのおかげで今一度、ロフニスの言葉を頭の中で蘇らせた。

『橋より向こうは本当に危険』

 その言葉の意味は、今となっては火を見るより明らかだった。
 歩斗の言うとおり、あれが超巨大なドラゴンと超巨大な亀の魔物なんてものだとしたら、北の大地の恐ろしさは想像を絶するなんてもんじゃ無い。
 せめてもの救いは、それらがいる場所まで相当距離が離れている、ということだけ。
 戦いの舞台は紫色の地面を左右に貫く川よりも遙か遠く。
 そして、目的地は……

「地下ダンジョンだ! ロフニスの地図によれば、〈隠れみのオーブ〉の在処は川の手前にある地下ダンジョンの中。おい、ダンジョンの入口を探すぞ!」
「うん。わかった。でもちょっと待って~」
「うん。もうちょい見てたい」
「……ぐぬぬ!」

 確かに、満天の星空の下で繰り広げられる炎の競演は凄まじい美しさである。
 しかし、それは人々を楽しませるために打ち上げられた花火ではなく、巨大なドラゴンと亀によるものであり、その炎の矛先がいつ自分たちに向くか分かったものじゃない……。
 焦りを募らせる直樹。
 とりあえず、子どもたちは放っておいて、地下ダンジョンを探し始めた。
 範囲は広大だが木も何も無い更地状態だけに、地下ダンジョンに入るための扉があればすぐに分かるはずだ……と、ポジティブに考えながら辺りを駆け回った。
 その意志に一人の賛同者……いや、一匹の賛同者がいた。
 それはもちろん、愛猫のささみである。
 ささみは、持ち前の機動力で紫色の地面を猛烈な勢いで駆けずり回った。
 相変わらず拮抗し続ける炎のぶつかり合いを
 すると、あっという間に見つけたのはやはりささみの方だった。

「にゃーん! にゃにゃにゃーん!」
「おお、ささみ見つけたか!!」

 直樹は、飛び跳ねて鳴きまくるささみの元に急いで駆けつけると、地面に見覚えのある木の扉があることに気がついた。

「おい! 歩斗! 優衣! 地下ダンジョンの入口見つけたぞ!! ささみが……ぼそっ」

 子ども達に向かって叫ぶ直樹。
 すると、長期戦の様相を呈し、ほぼ同じ光景のまま止まっている炎の競演に飽きてきた歩斗と優衣は、

「おお!!」
「どこどこどこ!!」

 と、声を上げながらやってくる。

「ほら、これこれ。って、早速入るぞ! 誰かに見つかったらたまったもんじゃないからな……」

 誰か、とは遠くでとてつもないバトルを繰り広げる巨大なドラゴンや亀、はたまたまだ見ぬ北の大地の魔物に他ならない。
 とにかく地下ダンジョンに入って目当てのアイテムをゲットし、さっさとこの薄気味悪い紫色の大地からおさらばしたい一心の直樹は、手早く木の扉を開け、そそくさと階段を降り始めた。
 その後ろを、ささみと二人の子供がついていく。
 ダンジョンの作り自体は森の中にあったやつと似てるのかな……なんてことを考えながらリズミカルに階段を降りていくと、あっという間に少し大きめの部屋にたどり着いた。
 地上の地面と同じように、ダンジョンの壁の色もまた紫色だった。
 ダンジョンと言うからには、何らかの魔物やら敵やらがいるってことは直樹も覚悟していた。
 しかし、その部屋の中央に居たのは……

「ニャギ? オマエらナニモノだ? のモノじゃないなおい。ってことはミリゼアの魔物……いや、ロフレアの人間か。ニャギニャギニャギ! 面白くなりそうだニャギ!」

 クセのある笑い方をする猫。
 ベースは黒猫なのだが、そのおでこには角があり、背中に生えた翼を羽ばたかせて空中でホバリングしている。
 なんだこの生き物は……と、直樹を始め歩斗と優衣、そしてささみまでもが呆然と立ち尽くしていた。

「ん? どうしたニャギ? ああ、ニャレ様の名前《ニャマエ》はユニギャット! このダンジョンの主……というわけでは無く、この辺りの見回りをしてるついでにたまたまちょっと立ち寄って羽を休めていたところだニャギ。それよりオマエらこそナニモノだニャギ。こっちにだけ名を名乗らせてだんまりを決め込むとか失礼にもほどがある……って、勝手に名乗ったんだけど! ニャギニャギニャギ!」

 空飛ぶ黒猫は早口でまくし立てた。
 意外すぎるノリの良さにどう対応したら良いのか、ただただ戸惑い続ける直樹たちであった……。
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