婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!

月白みき

文字の大きさ
3 / 23

婚約者のいる『運命の番』

メアリーはロザリーの中央付近に陣取れず、端っこの方に座っていた。

「君はロザリー嬢と付き合いは長いの?」

反対側に座っていた男子生徒に声をかけられた。
ロザリー……彼はロザリー目当てなの? 婚約者のいる女性なのに。

「いえ、クラス替えで知り合ったばかりです。これからもっと仲良くなりたいと思っています」

ロザリーと仲良くなりたくても橋渡しできないと暗に伝えつつ、無難で面白みのない返答をしてしまう。
ロザリーの周りは賑やかで、出会ったばかりの男子生徒達とも楽しく打ち解けているのに。
しかし彼は気にするふうでもなく続ける。

「そう。僕はセドリックとは学園に入学した中等科からの付き合いだよ。騎士科はクラスが違っても色別対抗試合が多いから、繋がりは深いかも。君は一般科? 学科が違っても同じ学園の学生なのだから、もっと交流できたら良いと思わない??」

ロザリーの婚約者の知り合いアピールをしているのかと思いきや、単に共通の話題であるセドリックとの繋がりを説明して会話を和ませているだけだった。

よく見ると、騎士志望にしては中肉中背で温和そうな顔立ち。政府高官を目指す文科の生徒としても通用しそうだ。
実は大柄な男性ばかりでメアリーは少し緊張していたので、自然と表情が緩む。

「僕は子爵家の嫡男なんだ。後継は大抵、文科に進むけれど勉強は一人でもできるし、足りない知性は有識者を雇うこともできる。結局最後に頼りになるのは自分の身一つだから、身体を鍛えることは我が家の家訓なんだ。だからセドリックが騎士科に在籍している気持ちはわかるよ。身分は違うけれどね」

さっきロザリーが婚約者には騎士になってほしくないと仄めかしていた。
騎士は危険が伴う仕事だからロザリーの気持ちはわかる。
けれど貴族籍の多くは近衛だったり安全な場所に配置されるし、さすがに爵位を継げば引退するだろう。
男性には男性の身の振り方があるようだ。

「あ、女の子にはこんな難しい話は良くなかったかな」
「いいえ、将来のことを真剣に考えてらして、とても立派に思いました」

微笑みを浮かべながら相手を見つめ返すると、男子生徒は目を丸くし少し驚いた顔をした。

真面目な回答過ぎたかな? でもこれは本心。メアリーも身の振り方を考えなければならない。
そう――ロザリーのように、戦略的に。
自分をよく見せて、価値を高める振る舞いをするべきだ。

……分かっている。分かってはいるが、メアリーにはできそうもない。

和を乱さない努力はできても、和から突出して自分を目立たせるなんて無理だ。周りからどう思われるか気が気じゃないし、嫌われたらどうしようと不安が募る。

結局メアリーは運良く誰かに見初めて貰うしかないのだ……。自らの才覚で未来を切り拓ける人は本当に尊敬に値する。

将来を憂いてついぼんやりしていると、男子生徒が突如佇まいを正す。何かあったのかな? 少し顔が赤く見える。

「あ、あの……君は! いや、自己紹介もまだだったね。僕は……」

さっきまで流暢に話していたのに、たどたどしくなったことに少し可笑しさを感じてクスクス笑いながら相手の言葉を待っていると、ワァと賑やかな歓声が聞こえてきた。

「セドリック、良かったよ!」
「お前、すげぇな。くじ運が良かったとはいえヒューバートに勝ったじゃん!」

騎士科の男子生徒達に囃し立てられながら、ロザリーの婚約者がこちらにやって来た。

トクン

メアリーは妙な胸騒ぎを覚えた。

「ああ、彼がロザリー嬢の婚約者のセドリックだよ。公爵家の嫡男で父親は王弟殿下。王位継承権を持つ身分なのに少しも鼻にかけないいい奴だよ。成績も良いし剣術はあの通り。セドリックはいつだって皆んなの中心で憧れなんだ」

隣の彼が説明してくれる。どこか誇らしく、将来有望なセドリックと学友であることが心底嬉しそうだ。
男の子はさっぱりしていて良いな。

メアリーはもちろんロザリーと仲良くなりたいし素敵だと思うが、どこか気後れしてしまう。
相手が素晴らしければ素晴らしいほど、自分が惨めに思えてしまうから。さっきから胸がザワザワするのもそのせいではないだろうか。

卑屈になりたくない。
メアリーだって幸せになりたい。
大業でなくて良い。ささやかで良い。身の丈に合った穏やかな暮らしがしたい。

そのためにも女の子達の社交に上手く取り入らなければ。

「セドリック様、お疲れ様です」

ロザリーがセドリックにタオルを手渡した。本当に気遣いのできる優秀な婚約者だ。
しかしセドリックにタオルは不要だったようで、控えていた従者にそのまま渡した。それもそのはず、セドリックは汗ひとつかいてなく涼しい顔をしているのだから。

「ありがとう、ロザリー嬢。彼女達はお友達かな?」
「ええ。皆さんにわたくしの婚約者を紹介したくて」

ロザリーは頬を染めて恥じらう。完全に恋する乙女だ。
貴族は政略結婚が多いけれど、本命の相手と結ばれるなんて幸せなことだ。
皆穏やかに二人を祝福する。

「ロザリー嬢。応援に来てくれてありがとう。今日は勝てて良かった。皆の前で恥ずかしい姿を見せなくて済んだからね」
「まぁ! セドリック様、とても素敵でしたよ。セドリック様が負けるなんてあり得ません」
「そうです! お見事でした!!」

女の子達も続いて褒め立てる。
セドリックはロザリーの婚約者だが、麗しい美青年を前に声を掛けずにはいられないようだ。その瞳に自分の姿を映して、あわよくば一声かけて欲しいと期待する。

確かにセドリックは魅力的な青年だった。
遠目からでもわかるスラっとした長身に、鍛えられたバランスの良い体つき。生まれの良さが滲む佇まいは王者の貫禄そのものだ。
輝くような金髪に高い鼻梁、きりりとした眉にくっきりとした目――碧い目には力が宿り、それでいて柔らかな物腰。騎士科の同級生から人気があるのも頷ける。

ドクンドクン

穏やかな会合に思えるが、なぜか少しピリッとした空気を感じる。それに胸の鼓動がおかしい。
メアリーは周囲に気取られないよう、そっと顔を伏せた。

「ヒューバート……対戦相手は見事な手前の持ち主だ。決して侮れる相手ではないよ」

笑みは絶やさず、セドリックは穏やかに告げる。

「ええ、ええ! もちろんです。だからこそセドリック様が素晴ら――」
「あと、お披露目は結構だが、騎士棟に来られるのは困る。鍛錬は危険も伴うし、観覧が安全とは到底いえない」
「…………っ!」
「君の身に何かあったら心配なんだ、ロザリー嬢」
「!!!!!」

一瞬、来訪を咎めるような悪い空気になりそうになったが、杞憂だった。ただ婚約者を案じただけ。
これにはロザリーはおろか、周囲にいた女の子たち皆のハートが撃ち抜かれた。
場の雰囲気を完全に支配するセドリックに、王家に連なる百戦錬磨の社交術が垣間見える。

一方、メアリーはそれどころでなかった。
どこか体がおかしい気がする。メアリーは凡庸だが健康だけが取り柄だった。
だからか、自分の異変にどう対応したら良いのかわからない。

友達の婚約者との対面。
きちんと挨拶しなくちゃ。
作法良くできたら、男性を紹介してくれるかもしれない。

幸せな結婚――わたしの夢……!!

気を引き締めて顔を上げたその時、こちらを向いたセドリックと視線が重なる。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ドクンドクンドクンドクン

尋常じゃない鼓動。
雷に打たれたような衝撃。

メアリーは目に涙を溜めた――いや、すでにこぼれ落ちていたかもしれない。

出会いは福音。結ばれることは天啓。
疑いようのない絶対的な感覚は、いつか見た童話の世界で知っていた。

彼は『運命の番』だ!!

……
ああ、なんてこと。彼はすでに友人の婚約者他人のモノだなんて。
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

あなたの隣に私は必要ですか?

らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。 しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。 そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。 月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。 そんな状況で、アリーシアは思う。 私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。 そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。  私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?  自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?