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アニメ化記念SS
第六話 叙勲の裏で
王都マラッドの王宮にある謁見の間には、これから行われる勲章の叙勲の為に数多くの貴族たちが集まっていた。
まだ時間がある為あちこちで何人かが固まって立ち話をしており、とある派閥の長にあたる壮年の貴族も、数人の取り巻きと談笑をしている。
そこに顔見知りである、若い貴族が挨拶に来た。
「ご無沙汰しております」
「ああ、そちらも変わりないようだな」
壮年の貴族は笑顔で答えた。
この若い貴族は、数十年ほど前に叙爵された家柄で、古い歴史があるジルグスでは振興の貴族として、一段下に見られている。
しかしこのように好意的な笑みをもって迎えられるには、当然訳があった。
それはこの若い貴族は情報通として知られているからだ。耳が早いとでも言うのか、他の者よりも早くそして正確さにも定評があり、実際に以前にもたらされた情報で、得をしたこともありそれ故の笑顔だった。
挨拶と二三の社交辞令を交わした後、本題に入る。
「しかしまさかゼントス騎士隊長が亡くなるとは夢にも思いませんでした」
「まったくだ……」
若い貴族の残念そうな言葉に、壮年の貴族や取り巻きも同じように顔を曇らせる。
ゼントスは誰もが認めるこの国の最高の騎士で、慕う者も多く、そして近衛騎士の数十人に及ぶ死傷者は、ジルグス国全体の痛手と言っていい。
「それに王族の御兄妹揃って襲われるなど……ミレーナ様がご無事だったのが不幸中の幸いというところです」
「うむ、逆でなくて本当に良か……おっと」
思わず口が滑ったと言う感じだが、流石に不敬が過ぎる、とばかりに壮年の貴族は口を抑える。
若い貴族の方も気持ちは解るとばかりに、愛想笑いをしつつ、聞こえなかったことにした。
それほどまでにカレナス王子の評判は悪く、もし間違って王位につくことなったらジルグスの未来は暗いものになるだろう。
「ごほん……それで勲章を受ける平民とはどんな人物なのか知っているか?」
話題を変えるかのように、今日の本題というか、知りたかったことを尋ねた。
「はい、名はカイルと言いまだ若く、ミレーナ様と同年齢だとか」
「ほう、ヒドラを倒すくらいだ、経験豊かな冒険者かと思ったが……」
「そして……ミレーナ様が是非直属の騎士にと取り立てようとしたのですが、辞退したようです。褒賞金もです」
「ほう……功績に比べ勲章のみ、と言うのは少々おかしいと思っていたが」
壮年の貴族は難しい顔になる。
ランデネール勲章は最高位の名誉であり、新たな英雄の誕生と言っても良いが、実利は無い。
「見返り無しで満足するのか? そのような若さで、まさか本当に英雄の精神性や高潔さを持っているという訳でもあるまいに……」
「……ミレーナ王女は諦めきれず、これからも勧誘を続けるおつもりのようです」
ここが大事、とばかりに若い貴族が言うと、壮年の貴族は顔をしかめる。
「そこまで気に入っておられるのか……」
その平民が本当に優秀ならば、自分からも接触を試みようかとも考えていた。
だがそこまでミレーナ王女が気に入っているならば、邪魔をすることになるし、もし雇おうとして上手くいってしまった場合、顔を潰すことにもなりかねない。
しばらくは様子見をした方がいいかもしれない、そんな考えに至る。
「……いや、良いことを聞いた。礼を言おう」
「お役に立てたのならば何よりです」
若い貴族は深々と頭を下げた。
(さて……こんなものか)
あの後も二三の顔見知りの貴族に、同じように話題を振って、己の働きに及第点を与える。
若い貴族は情報通となっているが何のことはない、彼の役目は王家の、正確にはミレーナの命令で真実ではあるが、王家にとって都合が良く得となる情報をばらまくことだ。
今回の役目は貴族たちによるカイル達への干渉を防ぐとともに、報酬を自ら受け取らなかったことを喧伝することだ。
(これで牽制にはなっただろう。それにしても随分と気に入られているな……)
これは王家の威光で有象無象からカイル達を守る為でもあるが、同時に新たな英雄を独占と言う意味合いもある。
(そして報酬を受け取らない? 英雄ってのはそういうものかもしれないが……)
新興貴族故に王家からの信頼を得る為、このような裏方的な情報操作をしている身からすればそれらをすべて飛び越え、ミレーナ王女に気に入られた平民に対して妬みの感情も湧きかける。
(おっといかんいかん……それにしても今回の件、どうも情報操作をされているな。表向きは不幸な事故だが、何か裏があるようだが……)
若い貴族はキナ臭さを感じていたが、真相を知れば得をできる情報もあるが、大抵はやぶ蛇になる。そしてこれは典型的な後者だと直感的に解っている。
触らぬ神に祟りなし、そこまで考えたところで、従者により王族の入場が告げられ、出席者たちが一斉に頭を下げる。
レモナス王とそれに付き従うようにミレーナ王女が現れる。
ミレーナ王女はいつもの柔和な笑顔だが、今日は特に機嫌がいいように思える。
(……おそらく四、五年のうちには女王として即位されるだろうからな、あの方についていけば問題ない!)
若い貴族は己の立身出世の為に決意を固めていた。
だがこの日のうちに、ジルグス国そのものを揺るがす出来事が起こり、色々と前倒しとなり、裏方として忙殺されることになるのだがそれはまた別の話。
※ミレーナは情報を集めるのも、広めるのも重視しています。
そして当然何かあったようだと気が付く者いますが、真相が知られることはなさそうです。
まだ時間がある為あちこちで何人かが固まって立ち話をしており、とある派閥の長にあたる壮年の貴族も、数人の取り巻きと談笑をしている。
そこに顔見知りである、若い貴族が挨拶に来た。
「ご無沙汰しております」
「ああ、そちらも変わりないようだな」
壮年の貴族は笑顔で答えた。
この若い貴族は、数十年ほど前に叙爵された家柄で、古い歴史があるジルグスでは振興の貴族として、一段下に見られている。
しかしこのように好意的な笑みをもって迎えられるには、当然訳があった。
それはこの若い貴族は情報通として知られているからだ。耳が早いとでも言うのか、他の者よりも早くそして正確さにも定評があり、実際に以前にもたらされた情報で、得をしたこともありそれ故の笑顔だった。
挨拶と二三の社交辞令を交わした後、本題に入る。
「しかしまさかゼントス騎士隊長が亡くなるとは夢にも思いませんでした」
「まったくだ……」
若い貴族の残念そうな言葉に、壮年の貴族や取り巻きも同じように顔を曇らせる。
ゼントスは誰もが認めるこの国の最高の騎士で、慕う者も多く、そして近衛騎士の数十人に及ぶ死傷者は、ジルグス国全体の痛手と言っていい。
「それに王族の御兄妹揃って襲われるなど……ミレーナ様がご無事だったのが不幸中の幸いというところです」
「うむ、逆でなくて本当に良か……おっと」
思わず口が滑ったと言う感じだが、流石に不敬が過ぎる、とばかりに壮年の貴族は口を抑える。
若い貴族の方も気持ちは解るとばかりに、愛想笑いをしつつ、聞こえなかったことにした。
それほどまでにカレナス王子の評判は悪く、もし間違って王位につくことなったらジルグスの未来は暗いものになるだろう。
「ごほん……それで勲章を受ける平民とはどんな人物なのか知っているか?」
話題を変えるかのように、今日の本題というか、知りたかったことを尋ねた。
「はい、名はカイルと言いまだ若く、ミレーナ様と同年齢だとか」
「ほう、ヒドラを倒すくらいだ、経験豊かな冒険者かと思ったが……」
「そして……ミレーナ様が是非直属の騎士にと取り立てようとしたのですが、辞退したようです。褒賞金もです」
「ほう……功績に比べ勲章のみ、と言うのは少々おかしいと思っていたが」
壮年の貴族は難しい顔になる。
ランデネール勲章は最高位の名誉であり、新たな英雄の誕生と言っても良いが、実利は無い。
「見返り無しで満足するのか? そのような若さで、まさか本当に英雄の精神性や高潔さを持っているという訳でもあるまいに……」
「……ミレーナ王女は諦めきれず、これからも勧誘を続けるおつもりのようです」
ここが大事、とばかりに若い貴族が言うと、壮年の貴族は顔をしかめる。
「そこまで気に入っておられるのか……」
その平民が本当に優秀ならば、自分からも接触を試みようかとも考えていた。
だがそこまでミレーナ王女が気に入っているならば、邪魔をすることになるし、もし雇おうとして上手くいってしまった場合、顔を潰すことにもなりかねない。
しばらくは様子見をした方がいいかもしれない、そんな考えに至る。
「……いや、良いことを聞いた。礼を言おう」
「お役に立てたのならば何よりです」
若い貴族は深々と頭を下げた。
(さて……こんなものか)
あの後も二三の顔見知りの貴族に、同じように話題を振って、己の働きに及第点を与える。
若い貴族は情報通となっているが何のことはない、彼の役目は王家の、正確にはミレーナの命令で真実ではあるが、王家にとって都合が良く得となる情報をばらまくことだ。
今回の役目は貴族たちによるカイル達への干渉を防ぐとともに、報酬を自ら受け取らなかったことを喧伝することだ。
(これで牽制にはなっただろう。それにしても随分と気に入られているな……)
これは王家の威光で有象無象からカイル達を守る為でもあるが、同時に新たな英雄を独占と言う意味合いもある。
(そして報酬を受け取らない? 英雄ってのはそういうものかもしれないが……)
新興貴族故に王家からの信頼を得る為、このような裏方的な情報操作をしている身からすればそれらをすべて飛び越え、ミレーナ王女に気に入られた平民に対して妬みの感情も湧きかける。
(おっといかんいかん……それにしても今回の件、どうも情報操作をされているな。表向きは不幸な事故だが、何か裏があるようだが……)
若い貴族はキナ臭さを感じていたが、真相を知れば得をできる情報もあるが、大抵はやぶ蛇になる。そしてこれは典型的な後者だと直感的に解っている。
触らぬ神に祟りなし、そこまで考えたところで、従者により王族の入場が告げられ、出席者たちが一斉に頭を下げる。
レモナス王とそれに付き従うようにミレーナ王女が現れる。
ミレーナ王女はいつもの柔和な笑顔だが、今日は特に機嫌がいいように思える。
(……おそらく四、五年のうちには女王として即位されるだろうからな、あの方についていけば問題ない!)
若い貴族は己の立身出世の為に決意を固めていた。
だがこの日のうちに、ジルグス国そのものを揺るがす出来事が起こり、色々と前倒しとなり、裏方として忙殺されることになるのだがそれはまた別の話。
※ミレーナは情報を集めるのも、広めるのも重視しています。
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