強くてニューサーガ

阿部正行

文字の大きさ
184 / 190
アニメ化記念SS

第六話 叙勲の裏で

 王都マラッドの王宮にある謁見の間には、これから行われる勲章の叙勲の為に数多くの貴族たちが集まっていた。
 まだ時間がある為あちこちで何人かが固まって立ち話をしており、とある派閥の長にあたる壮年の貴族も、数人の取り巻きと談笑をしている。
 そこに顔見知りである、若い貴族が挨拶に来た。

「ご無沙汰しております」
「ああ、そちらも変わりないようだな」
 壮年の貴族は笑顔で答えた。

 この若い貴族は、数十年ほど前に叙爵された家柄で、古い歴史があるジルグスでは振興の貴族として、一段下に見られている。
 しかしこのように好意的な笑みをもって迎えられるには、当然訳があった。
 それはこの若い貴族は情報通として知られているからだ。耳が早いとでも言うのか、他の者よりも早くそして正確さにも定評があり、実際に以前にもたらされた情報で、得をしたこともありそれ故の笑顔だった。

 挨拶と二三の社交辞令を交わした後、本題に入る。

「しかしまさかゼントス騎士隊長が亡くなるとは夢にも思いませんでした」
「まったくだ……」
 若い貴族の残念そうな言葉に、壮年の貴族や取り巻きも同じように顔を曇らせる。
 ゼントスは誰もが認めるこの国の最高の騎士で、慕う者も多く、そして近衛騎士の数十人に及ぶ死傷者は、ジルグス国全体の痛手と言っていい。

「それに王族の御兄妹揃って襲われるなど……ミレーナ様がご無事だったのが不幸中の幸いというところです」
「うむ、逆でなくて本当に良か……おっと」
 思わず口が滑ったと言う感じだが、流石に不敬が過ぎる、とばかりに壮年の貴族は口を抑える。
 若い貴族の方も気持ちは解るとばかりに、愛想笑いをしつつ、聞こえなかったことにした。
 それほどまでにカレナス王子の評判は悪く、もし間違って王位につくことなったらジルグスの未来は暗いものになるだろう。

「ごほん……それで勲章を受ける平民とはどんな人物なのか知っているか?」
 話題を変えるかのように、今日の本題というか、知りたかったことを尋ねた。
 
「はい、名はカイルと言いまだ若く、ミレーナ様と同年齢だとか」
「ほう、ヒドラを倒すくらいだ、経験豊かな冒険者かと思ったが……」
「そして……ミレーナ様が是非直属の騎士にと取り立てようとしたのですが、辞退したようです。褒賞金もです」
「ほう……功績に比べ勲章のみ、と言うのは少々おかしいと思っていたが」
 壮年の貴族は難しい顔になる。
 ランデネール勲章は最高位の名誉であり、新たな英雄の誕生と言っても良いが、実利は無い。
 
「見返り無しで満足するのか? そのような若さで、まさか本当に英雄の精神性や高潔さを持っているという訳でもあるまいに……」
「……ミレーナ王女は諦めきれず、これからも勧誘を続けるおつもりのようです」
 ここが大事、とばかりに若い貴族が言うと、壮年の貴族は顔をしかめる。

「そこまで気に入っておられるのか……」
 その平民が本当に優秀ならば、自分からも接触を試みようかとも考えていた。
 だがそこまでミレーナ王女が気に入っているならば、邪魔をすることになるし、もし雇おうとして上手くいってしまった場合、顔を潰すことにもなりかねない。
 しばらくは様子見をした方がいいかもしれない、そんな考えに至る。

「……いや、良いことを聞いた。礼を言おう」
「お役に立てたのならば何よりです」 
 若い貴族は深々と頭を下げた。



(さて……こんなものか)
 あの後も二三の顔見知りの貴族に、同じように話題を振って、己の働きに及第点を与える。
 若い貴族は情報通となっているが何のことはない、彼の役目は王家の、正確にはミレーナの命令で真実ではあるが、王家にとって都合が良く得となる情報をばらまくことだ。
 今回の役目は貴族たちによるカイル達への干渉を防ぐとともに、報酬を自ら受け取らなかったことを喧伝することだ。
 
(これで牽制にはなっただろう。それにしても随分と気に入られているな……)
 これは王家の威光で有象無象からカイル達を守る為でもあるが、同時に新たな英雄を独占と言う意味合いもある。

(そして報酬を受け取らない? 英雄ってのはそういうものかもしれないが……)
 新興貴族故に王家からの信頼を得る為、このような裏方的な情報操作をしている身からすればそれらをすべて飛び越え、ミレーナ王女に気に入られた平民に対して妬みの感情も湧きかける。

(おっといかんいかん……それにしても今回の件、どうも情報操作をされているな。表向きは不幸な事故だが、何か裏があるようだが……)
 若い貴族はキナ臭さを感じていたが、真相を知れば得をできる情報もあるが、大抵はやぶ蛇になる。そしてこれは典型的な後者だと直感的に解っている。

 触らぬ神に祟りなし、そこまで考えたところで、従者により王族の入場が告げられ、出席者たちが一斉に頭を下げる。
 レモナス王とそれに付き従うようにミレーナ王女が現れる。

 ミレーナ王女はいつもの柔和な笑顔だが、今日は特に機嫌がいいように思える。
(……おそらく四、五年のうちには女王として即位されるだろうからな、あの方についていけば問題ない!)
 若い貴族は己の立身出世の為に決意を固めていた。

 だがこの日のうちに、ジルグス国そのものを揺るがす出来事が起こり、色々と前倒しとなり、裏方として忙殺されることになるのだがそれはまた別の話。





※ミレーナは情報を集めるのも、広めるのも重視しています。
 そして当然何かあったようだと気が付く者いますが、真相が知られることはなさそうです。



感想 35

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。