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アニメ化記念SS
第九話 王女様のお茶会その2
ジルグス国王都の王宮内にある王族の私室では、ミレーナが午後の休憩であるお茶の時間を過ごしており、室内は湯気とハーブティーの爽やかな香りがふわりと漂っていた。
部屋にはいつも通りキルレンやニノス、アルカ達がおり、本来なら談笑が始まるところだが、空気が重く、テーブルに置かれている茶菓子であるケーキにも手が伸びていない。
なにせとんでもない報告が届いたばかりで、鉱山都市カランのガルガン帝国大使館において、大量虐殺が起こり、それが魔族によるものだということだ。
まだ第一報の状態で、詳細も解っていないが、問題なのはその場にミランダやカイルがいた点だ。
帝国側からしてみれば、真相がどうであれカランがジルグス国の従属都市国家であること、その場にミランダとカイルがいたことを理由に責任追及をしてくる可能性が高い。
ほぼ言いがかりに近いが、何せこちらから一方的な婚約破棄をしたばかりなので向こうもそう簡単には引き下がらないだろうし、前王の急死で、国内がまだ不安定な状態で帝国との争いは避けたいところだ。
そして全く不明な魔族の目的など、問題は山積みと言っていい。
従属都市国家とはいえ、自治が認められているカランに大掛かりな介入は反発を招くので、今は現場にいるミランダやカイルの手腕に期待しつつ、報告待ちをするしかない状況だった。
「……駄目ね、せっかくの息抜きの時間なのだから、少し楽しい話をしましょう。ねえ、アルカ?」
気を取り直すかのようにミレーナは無言で給仕をしていたアルカに微笑みながら声を掛けるが、その声色には多分にからかいが混じっていた。
釣られるかのようにキルレンやニノスも笑みを浮かべるが、アルカ本人は戸惑いと狼狽を浮かべつつ顔を赤くする。
「ミ、ミレーナ様、その話は……」
「何言ってるの、お目出度い話なのだからいいじゃない……良かったわね、アルカ」
からかいは混じっているが、ミレーナの声には心からの祝福があった。
アルカはもう間もなく結婚をすることになっており、相手は子供のころから決まっていた許嫁だ。
貴族出身のアルカは、行儀見習いとして王宮にあがったが、ミレーナが気に入り、魔法も使えるため護衛も兼ねて侍女として側に仕えていた。
家同士が決めた相手ではあるが、その仲はとても良いことをミレーナは知っているので、こうして祝福できるのだ。
「し、しかし……このような大変な時に、ミレーナ様のお側を離れるなど……やはりもう少し延期を」
結婚するとなれば侍女を辞めることになり、本来ならもっと早くに式を挙げる予定だったのだが、ミレーナの側にいたいアルカの希望で伸びていたのだ。
「そんなことを言っていたら、いつまでたっても話が進まないわ。アルカ……そろそろ自分のことを考えなさい」
「ミ、ミレーナ様……お、お湯の追加を持ってまいります」
ミレーナの諭すような言葉に、そそくさと逃げるように部屋から出ていくアルカ。
その様子を見送りながら、もう少し強く押さないと駄目ね、と苦笑するミレーナ。
「……でも本当によろしいのですか? この時期にアルカがいなくなると言うのは」
少しだけ声を抑えてキルレンも確認をする。アルカはミレーナが幼少の頃より仕えており、信頼している侍女がいなくなるのはやはり心配なのだろう。
「流石にこれ以上の延期は悪いわ……それを言うならあなただってそうでしょ、キルレン」
キルレンにもまた婚約者はおり、やはり家同士の決めた相手ではあるが、こちらもその仲はミレーナの眼から見ても悪くないように思えた。
「私はミレーナ様より先に結婚するつもりはありません」
だがキルレンはきっぱりと言う。
母方の従姉妹であり、幼い頃から姉妹同然に育ってきたが、ミレーナが最優先なのは幼い頃から変わらない。
「婚約破棄したばかりの私にそれを言うの?」
苦笑するミレーナだが、そこで次にニノスに眼を向けると
「私は生涯ミレーナ様のお側にいます。幸い相手はいませんし、作るつもりもありません」
きっぱりと、まるで結婚に興味が無いかのようにニノスは言う。
ニノスは早くに両親を亡くし、ミレーナが支援している孤児院に引き取られていた。
そこでその明晰な頭脳を見出され、侍女に抜擢されているので、ミレーナに多大な恩を感じている。その為か彼女もまた自分のことを後回しにしがちだ。
(いずれ私が相手を見つけてあげないと、この子本当に一生このままでしょうね)
思わずそんなことを考えてしまうミレーナだが、ここで自分のことにも考えが及ぶ。
(私も結婚相手は自分で見つけなければならなくなったのよね……)
このジルグス国でミレーナより上の立場の者はもうおらず、何もかも自分で決めなければならない。
女王になる身として、結婚は義務で、早急ではないが、いずれ決めなければならないことだ。
「どこにいるのかしらね……私の相手は」
窓の外を見ながら少しだけ他人事のように呟くミレーナだった。
※ジルグス国としては出来る限り穏便にカランを取り込んでいきたいと言う方針です。
現場に丸投げとも言えますが、信頼をしているとも言えますし、支援も惜しみません。
部屋にはいつも通りキルレンやニノス、アルカ達がおり、本来なら談笑が始まるところだが、空気が重く、テーブルに置かれている茶菓子であるケーキにも手が伸びていない。
なにせとんでもない報告が届いたばかりで、鉱山都市カランのガルガン帝国大使館において、大量虐殺が起こり、それが魔族によるものだということだ。
まだ第一報の状態で、詳細も解っていないが、問題なのはその場にミランダやカイルがいた点だ。
帝国側からしてみれば、真相がどうであれカランがジルグス国の従属都市国家であること、その場にミランダとカイルがいたことを理由に責任追及をしてくる可能性が高い。
ほぼ言いがかりに近いが、何せこちらから一方的な婚約破棄をしたばかりなので向こうもそう簡単には引き下がらないだろうし、前王の急死で、国内がまだ不安定な状態で帝国との争いは避けたいところだ。
そして全く不明な魔族の目的など、問題は山積みと言っていい。
従属都市国家とはいえ、自治が認められているカランに大掛かりな介入は反発を招くので、今は現場にいるミランダやカイルの手腕に期待しつつ、報告待ちをするしかない状況だった。
「……駄目ね、せっかくの息抜きの時間なのだから、少し楽しい話をしましょう。ねえ、アルカ?」
気を取り直すかのようにミレーナは無言で給仕をしていたアルカに微笑みながら声を掛けるが、その声色には多分にからかいが混じっていた。
釣られるかのようにキルレンやニノスも笑みを浮かべるが、アルカ本人は戸惑いと狼狽を浮かべつつ顔を赤くする。
「ミ、ミレーナ様、その話は……」
「何言ってるの、お目出度い話なのだからいいじゃない……良かったわね、アルカ」
からかいは混じっているが、ミレーナの声には心からの祝福があった。
アルカはもう間もなく結婚をすることになっており、相手は子供のころから決まっていた許嫁だ。
貴族出身のアルカは、行儀見習いとして王宮にあがったが、ミレーナが気に入り、魔法も使えるため護衛も兼ねて侍女として側に仕えていた。
家同士が決めた相手ではあるが、その仲はとても良いことをミレーナは知っているので、こうして祝福できるのだ。
「し、しかし……このような大変な時に、ミレーナ様のお側を離れるなど……やはりもう少し延期を」
結婚するとなれば侍女を辞めることになり、本来ならもっと早くに式を挙げる予定だったのだが、ミレーナの側にいたいアルカの希望で伸びていたのだ。
「そんなことを言っていたら、いつまでたっても話が進まないわ。アルカ……そろそろ自分のことを考えなさい」
「ミ、ミレーナ様……お、お湯の追加を持ってまいります」
ミレーナの諭すような言葉に、そそくさと逃げるように部屋から出ていくアルカ。
その様子を見送りながら、もう少し強く押さないと駄目ね、と苦笑するミレーナ。
「……でも本当によろしいのですか? この時期にアルカがいなくなると言うのは」
少しだけ声を抑えてキルレンも確認をする。アルカはミレーナが幼少の頃より仕えており、信頼している侍女がいなくなるのはやはり心配なのだろう。
「流石にこれ以上の延期は悪いわ……それを言うならあなただってそうでしょ、キルレン」
キルレンにもまた婚約者はおり、やはり家同士の決めた相手ではあるが、こちらもその仲はミレーナの眼から見ても悪くないように思えた。
「私はミレーナ様より先に結婚するつもりはありません」
だがキルレンはきっぱりと言う。
母方の従姉妹であり、幼い頃から姉妹同然に育ってきたが、ミレーナが最優先なのは幼い頃から変わらない。
「婚約破棄したばかりの私にそれを言うの?」
苦笑するミレーナだが、そこで次にニノスに眼を向けると
「私は生涯ミレーナ様のお側にいます。幸い相手はいませんし、作るつもりもありません」
きっぱりと、まるで結婚に興味が無いかのようにニノスは言う。
ニノスは早くに両親を亡くし、ミレーナが支援している孤児院に引き取られていた。
そこでその明晰な頭脳を見出され、侍女に抜擢されているので、ミレーナに多大な恩を感じている。その為か彼女もまた自分のことを後回しにしがちだ。
(いずれ私が相手を見つけてあげないと、この子本当に一生このままでしょうね)
思わずそんなことを考えてしまうミレーナだが、ここで自分のことにも考えが及ぶ。
(私も結婚相手は自分で見つけなければならなくなったのよね……)
このジルグス国でミレーナより上の立場の者はもうおらず、何もかも自分で決めなければならない。
女王になる身として、結婚は義務で、早急ではないが、いずれ決めなければならないことだ。
「どこにいるのかしらね……私の相手は」
窓の外を見ながら少しだけ他人事のように呟くミレーナだった。
※ジルグス国としては出来る限り穏便にカランを取り込んでいきたいと言う方針です。
現場に丸投げとも言えますが、信頼をしているとも言えますし、支援も惜しみません。
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