強くてニューサーガ

阿部正行

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アニメ化記念SS

第十一話 鉱山の都市から職人の都市へ

「なんでこんなに問題が立て続けに起こるのよ……」
 鉱山都市カランのジルグス国大使館の執務室で、大量の書類に囲まれながら、ミランダは頭を抱えるように大きなため息をついていた。

「……まさか採掘量がこんなに下がっていたなんて」
 苦々しい声を出しながら、手にしている書類を見る。そこに書かれているのは、バックス都市長が改ざんし、隠蔽していたカランの正確な現状だ。

 良質な鉱石、特に希少な魔法金属のミスリルは大陸全土を見渡しても、採掘地は限られており、その数少ない生産地として大陸中に名を馳せてきたのがカランだ。
 そのミスリルが、カランの生命線と言っていい、鉱脈が枯渇しかけている。これはガルガン帝国と争ってまで従属都市にしたというのに、ジルグス国にとっても大きな痛手となる。
 そのバックス都市長はもはや満足に会話もできない状況だし、責任追及したところで、現状が改善するわけでもない。

 救いは鉱石の在庫はまだ余裕があったのと、何よりも大量の高純度のミスリルを手に入れるができたことだ。

「とんでもない量よね……本当に何者なのかしら?」
 軽く打ち合わせをしたが、カイルが持ち込む予定のミスリルは本当に質が良いうえに、その量も破格だ。
 勿論それとてずっと続くわけではなく、都市の延命が出来たに過ぎないが、間違いなく時間を稼ぐことは出来る量だ。

「大きな方向転換が必要ね……」
 元々カランの強みは豊富な鉱石資源以外にも、それを利用したドワーフを始めとする優秀な鍛冶師による加工した製品があった。これを強化していくしかない。
 当面は原料としての鉱石の輸出は絞っていき加工品を、それも量より質を重視して生産していく必要があり、その為には腕の良い鍛冶師や職人をもっと育成していく必要がある。

「こうなると、新しい都市長としてガザスは適任ね」
 その人選には私情も混ざっていたが、面倒見のいい彼だ。職人育成に関しては大きな力になってくれるだろう。

「鉱山の都市から職人の都市へと変遷していく……これしかないわね」
 最低でも十年単位で時間がかかるだろうが、幸いその猶予はある。
 何とか首の皮一枚繋がっている状況だが、カランの再生に関しては、とりあえずの道筋を立てることは出来た。

「残るは問題は……」
 ミランダは椅子から立ち上がり、窓の外を見る。遠目に大きな建物、ガルガン帝国の大使館が見えた。

「魔族……今になって何故?」
 ミランダの声には嫌悪や怒り、恐怖など様々な感情が入り混じっていた。

 人族の永遠の敵対者であり、個々の能力は遥かに上回る魔族。
 両種族は長年争い続けてきたが、三百年前に穏健な魔王に代替わりして以来、魔族が攻めてくることはなく小康状態となっていた。
 しかしその恐るべき敵対者が、今現在このカランに潜入しているのだ。
 その被害は凄まじく、帝国大使館内で行われた凄惨な虐殺現場を思い出し、ミランダは少し身震いをする。

 問題なのはこの件に関して、打つ手がないということだ。

 カイルからは被害が広がるだけなので、魔族には手を出すなと言われているが、これにはミランダも同意せざるを得ない。
 魔族は大使館で僅かに垣間見たに過ぎないが、思い出しただけで身震いするくらいで、普通の人間ではとても太刀打ちできず、被害を増やすだけだと心から理解できた。
 為政者としては忸怩たる思いだが、ここはカイル達を頼るしかない。

「……こういうどうしようもないことを何とかしてしまうから、英雄と呼ばれるのかしらね」
 自嘲気味の笑みを浮かべながら、ミランダは今頃魔族と戦っているだろう、カイル達の顔を思い浮かべる。
 そんなことを考えていると、扉がノックされ返事をすると、ゴウが入ってくる。

「ミランダさん、父さんが起きましたよ」
 ガザスはカイルから頼まれた品を不眠で作り上げた後、倒れるように寝込んでいたのだが、起きたら会いたかったので、ゴウに知らせてくれるように頼んでいたのだ。

「ありがとう、すぐ行くわ」
「はい……大丈夫ですよ。あの人達なら必ず無事に戻ってきます」
 ミランダの顔を見て、その心配を感じ取ったのか、ゴウが元気づけるかのように言った。

「そうね……ゴウ君は信じてるのね?」
「ええ、まだ会って数日ですけど、何か信じられるんですよ」
 自信満々のゴウに、ミランダも軽く笑い、気持ちが少し楽になる。

「……ただ接着剤を持っていたのは、よく分かりませんでしたけど」
「接着……剤? 何に使うの?」
「さあ? 他にも気合入れて、お茶とお茶菓子を選んでましたね」
 気合を入れていたのは、主にシルドニアだったのだがピクニックとしか思えない行動に、急に不安になってくるミランダ。

「……魔族と戦いに行ったのよね?」
「はい、そのはずですけど」
 本当に大丈夫かしら? 声を出さずにそんなことを思うミランダだった。

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