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アニメ化記念SS
第一話 前日譚 魔王城突入前夜
「…………」
カイルは、闇の中で幾度目かの寝返りを打つ。
そこは草木もろくに生えておらず、巨大な石柱が乱立する、まさに魔族領らしい荒れ地だった。
身を隠すには丁度いい場所で、目立たない一角に堅い岩肌へ薄い毛布を敷いただけの簡素な野営が張られている。
暗がりの中、周囲からは複数の寝息が聞こえてくる。カイルも含め、全員が武装したまま、雑魚寝の体勢だ。
寝なければならない。心身ともに疲れ切っている。
それでも――眠れなかった。
「……最後くらい夢でも見たいんだがな」
誰にも聞こえないような小声でカイルは呟く。
これが自分の人生で、最後の睡眠だと解っているカイルが、自嘲気味に笑う。
大侵攻と呼ばれる魔族からの総攻撃が始まって一年、初動の対応の悪さが響いて、人族は追い詰められていった。
最後まで組織だって抵抗していたガルガン帝国もとうとう滅び、絶滅の危機に瀕した人族には一か八かの手段しか残されていない。
それは直接魔王を倒すと言う作戦とも言えない、ほとんど勝算は無いが他に手のない賭けだった。
人族の精鋭を集め魔族の本拠地である魔王城に乗り込む、無謀とも言えるが滅びかけている人族にできる最後の反抗で、カイルも含めここにいるのは全員死を覚悟した決死隊だ。
魔王城まではもうすぐで、これが最後の休憩だと解っているが、色々と考えてしまいカイルは眠れないでいた。
(あれから一年か……)
とりとめのないことを考えながら、全てが変わってしまったあの日のことを思い出す。もう一年と言う気もするし、まだ一年という思いもある。
「…………リーゼ」
自分の腕の中で動かなくなり、冷たくなっていった幼馴染の名を呟く。
友人、家族、そして愛する人……失ったものの大きさを改めて感じ、どうしようもない自分への怒りもわいてくる。
あの日、突然の魔族の攻撃により、何の備えもしていなかった故郷のリマーゼはあっという間に滅んだ。
その滅びに対し、自分は何もできなかったのだ。
当時は変わらない毎日が続けばそれでいい、そんな考えで日々を過ごしていた。
だが平穏な日々とは言い換えれば何もしていなかったということで、その積み重ねが今の現状を招いている。
もちろんそれはカイルだけではない。魔族が攻めてくると本当に備えていた者は、果たしてどれくらいいただろうかという話だが、現実に人族は絶滅の危機にある。
何もしてこなかった自分に後悔しかなく、ああすれば良かった、こうすれば良かった……そんな思いが心にのしかかってくるのだ。
もしやり直すことが出来たら……そんなどうしようも無いことさえ、考えてしまっていた。
(今更感傷的になってどうするんだか……これから死ぬってのに)
再び自嘲するかのように、少しだけ表情を歪める。
明日、正確には数時間後には魔王城に突入しているのだ、そうなれば生き残る可能性はない。
「……眠れないのか?」
どうせ死ぬ、そんな思いで少し捨て鉢な考えになったところで、声がかかる。
すぐ横で同じように寝ていた、エルフの女性に眼を向けた。
「すまん、起こしたか?」
それには答えず彼女は眼を閉じたまま、カイルの方に手を伸ばしその手を握る。
「大丈夫……ずっと……最後まで一緒だ」
その声と手に暖かさを感じ、カイルは固まっていた心がほぐれ、いままで色褪せて灰色だった世界に、すこし色彩が戻ってきたよう感じた。
「そうだな……一緒だ」
カイルも手を握り返しながら答えた。
やがて寝息が聞こえてきて、カイルもようやく眠気を感じてくる。
「まだ守りたいものはある……戦う理由はある」
己に言い聞かせ、カイルは最後の休息を取る。
最後の戦いの為に。
※魔王城に攻め込む前の、カイルの心境です。
滅びかけている人族の絶望的状況が伝われば……
カイルは、闇の中で幾度目かの寝返りを打つ。
そこは草木もろくに生えておらず、巨大な石柱が乱立する、まさに魔族領らしい荒れ地だった。
身を隠すには丁度いい場所で、目立たない一角に堅い岩肌へ薄い毛布を敷いただけの簡素な野営が張られている。
暗がりの中、周囲からは複数の寝息が聞こえてくる。カイルも含め、全員が武装したまま、雑魚寝の体勢だ。
寝なければならない。心身ともに疲れ切っている。
それでも――眠れなかった。
「……最後くらい夢でも見たいんだがな」
誰にも聞こえないような小声でカイルは呟く。
これが自分の人生で、最後の睡眠だと解っているカイルが、自嘲気味に笑う。
大侵攻と呼ばれる魔族からの総攻撃が始まって一年、初動の対応の悪さが響いて、人族は追い詰められていった。
最後まで組織だって抵抗していたガルガン帝国もとうとう滅び、絶滅の危機に瀕した人族には一か八かの手段しか残されていない。
それは直接魔王を倒すと言う作戦とも言えない、ほとんど勝算は無いが他に手のない賭けだった。
人族の精鋭を集め魔族の本拠地である魔王城に乗り込む、無謀とも言えるが滅びかけている人族にできる最後の反抗で、カイルも含めここにいるのは全員死を覚悟した決死隊だ。
魔王城まではもうすぐで、これが最後の休憩だと解っているが、色々と考えてしまいカイルは眠れないでいた。
(あれから一年か……)
とりとめのないことを考えながら、全てが変わってしまったあの日のことを思い出す。もう一年と言う気もするし、まだ一年という思いもある。
「…………リーゼ」
自分の腕の中で動かなくなり、冷たくなっていった幼馴染の名を呟く。
友人、家族、そして愛する人……失ったものの大きさを改めて感じ、どうしようもない自分への怒りもわいてくる。
あの日、突然の魔族の攻撃により、何の備えもしていなかった故郷のリマーゼはあっという間に滅んだ。
その滅びに対し、自分は何もできなかったのだ。
当時は変わらない毎日が続けばそれでいい、そんな考えで日々を過ごしていた。
だが平穏な日々とは言い換えれば何もしていなかったということで、その積み重ねが今の現状を招いている。
もちろんそれはカイルだけではない。魔族が攻めてくると本当に備えていた者は、果たしてどれくらいいただろうかという話だが、現実に人族は絶滅の危機にある。
何もしてこなかった自分に後悔しかなく、ああすれば良かった、こうすれば良かった……そんな思いが心にのしかかってくるのだ。
もしやり直すことが出来たら……そんなどうしようも無いことさえ、考えてしまっていた。
(今更感傷的になってどうするんだか……これから死ぬってのに)
再び自嘲するかのように、少しだけ表情を歪める。
明日、正確には数時間後には魔王城に突入しているのだ、そうなれば生き残る可能性はない。
「……眠れないのか?」
どうせ死ぬ、そんな思いで少し捨て鉢な考えになったところで、声がかかる。
すぐ横で同じように寝ていた、エルフの女性に眼を向けた。
「すまん、起こしたか?」
それには答えず彼女は眼を閉じたまま、カイルの方に手を伸ばしその手を握る。
「大丈夫……ずっと……最後まで一緒だ」
その声と手に暖かさを感じ、カイルは固まっていた心がほぐれ、いままで色褪せて灰色だった世界に、すこし色彩が戻ってきたよう感じた。
「そうだな……一緒だ」
カイルも手を握り返しながら答えた。
やがて寝息が聞こえてきて、カイルもようやく眠気を感じてくる。
「まだ守りたいものはある……戦う理由はある」
己に言い聞かせ、カイルは最後の休息を取る。
最後の戦いの為に。
※魔王城に攻め込む前の、カイルの心境です。
滅びかけている人族の絶望的状況が伝われば……
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