勇者に改心の一撃を!~僕の世界は異世界の勇者達に壊された~

若葉さくと

文字の大きさ
12 / 24
第二章 忘れ去られた王国

第11話 ラクスベルクの希望

しおりを挟む
 サマイをたくさん食べた翌日、俺達はゴードンさんに呼ばれ広場に集まっていた。

「今日は昨日話が途中だった『ウツシカガミの木』やそれに関係することについて詳しく話そう。恐らく君たちには馴染みのない言葉ばかりが出てくるだろうから、質問は私が一通り私が話し終えてからにして欲しい」

 ゴードンさんは広場にある枯れた木の前に立ち、ゆっくりと話し始めた。

「『ウツシカガミの木』というのは、『転職の儀式』の時に生み出される一人一本の小さな木のことだ。最初は小さな苗木だが、持ち主の性格や精神状態、能力の影響を受けどんどん成長していく。もちろん木自体を放置していてはちゃんと育たずに枯れてしまう。木の持ち主本人が自ら水をしっかりあげたり、環境を整えてあげることで大きく成長していく。またこの木には魔力が宿っていてそれにより持ち主とは常に繋がっている。木の成長はそのまま持ち主に良い影響を与え、能力も引き上げてくれる。良い影響を受け成長した持ち主がより経験を積むことによりまた木が成長するというお互い連動して成長していく形になるのだ。もちろん悪い事も同じように影響を与えるので注意が必要だ。正しい行いや良い精神状態を保つことが木を立派に育てること、そして自分自身の成長に繋がるのだ」

 一気に話し終えたゴードンさんは、ホッと一息ついた。

「まずここまででなにか質問はあるかな?」

「『ウツシカガミの木』についてはわかりました。ただ『転職の儀式』というのが何なのか……。職業ってそれになると決めたらなれるわけじゃないんですか?」

「武器屋だとか宿屋だとかそういった職業であればそれでも問題ないのだが、ここで関係してくるのは戦いにおいて必要な職業のことなんだ。戦士だとか魔法使いだとか更にその上の上級職だとか、そういったものはなると言っただけでなれるわけではなくこの『転職の儀式』をおこなってからでないと対応した武器の装備やスキルを使うことが出来ないのだ」

「転職の儀式って私達の世界にあるゲームと同じなのね。アーカスに呼ばれたときには勝手に職業を決められていたから知らなかったです」

「そのゲームというのはわからないが、アーカスは転職の儀式すら自分で行うことが出来るのだな。儀式は基本魔力を持っているものでなければ出来ないから、本来人間には出来ないはずなのだ」

 アオイの言うゲームというのが何なのかは俺もわからなかったので、今度アオイに話を聞いてみようと思った。
他に気になることはなかったので、次の説明をしてもらうことにした。

「次に説明するのは『姿見の書』についてだ。これは転職の儀式を行うことで生み出される一人一冊の本で、個人の情報や能力に関係することが私たちに分かる文字として記載されていく本のことだ。最初はページ数が少ないが、経験を重ねることにより本は分厚くなっていき、最終的にはその人の冒険の歴史や能力など事細かに記載した世界に一つだけの本となる」

「姿見の書はゲームで言うところのステータスみたいなものなのね。アーカスに能力を与えられた時に見たけど、ステータスという言葉を心の中で唱えるだけで自分に関する色んな情報が目の前に浮かび上がっていました」

「心の中で唱えるだけで情報を浮かび上がらせる!? そんなことが出来るとは……魔王様を簡単に殺してしまったことも含め、アーカスという男は私の想像を遥かに超えた存在なのかも知れないな」

 今のアオイの話を聞いて、コウイチがブンさんを殺した時に経験値がどうのと言っていたことの理由がようやくわかった。 

「『姿見の書を制するものは冒険を制する!』というのが冒険者が集まるギルドでも掲げられていた有名な言葉だった。また大事にされた本には精霊が宿り、時には語りかけ時にはアドバイスをしてくれると言われている。この本を上手く活用しながら冒険している者はギルドでも一目置かれていた」

 ゴードンさんは懐かしむような目で遠くを見つめながら話を続けた。

「『立派に育ったウツシカガミの木の元で、分厚くなった姿見の書を読み、冒険の思い出を振り返ることができたなら、冒険者としてこれほど幸せなことはない』という冒険者達の言葉もあった、立派なウツシカガミの木と分厚くなった姿見の書を持つ冒険者は、皆の憧れの的だった」

「楽しい思い出だったんですね」

「ああ、あの頃のラクスベルクはとても活気に満ち溢れていた。魔族ばかりではなく人間の冒険者もいてな、魔力を扱う職業は魔族が担当し、人間は魔力を必要としない職業で力を発揮して、お互い支え合いながら冒険しているパーティが多かった皆が切磋琢磨しながら冒険していた良い時代だったよ」

 話を聞いていて俺はにはある考えが浮かんでいた。

「ゴードンさん。俺たちで冒険者が集まるギルドをまた作ることは出来ないかな?」

「冒険者ギルドを?」

「うん。それだけじゃなくて商店やここに昔あった庭園やこのラクスベルク王国を復興させることは出来ないですか? 規模が大きすぎる話をしていることはもちろん承知しているし、おこがましいことも理解している、相当大変だということもわかっているつもりです。でもこれからアーカス達を止めていこうとするにはこれくらい大きな事をしていかないと駄目だと思うんです」

「ラルフは面白いことを言うな……君が魔族に偏見を持つような人間だったら問答無用で却下していただろう。ただ君がここに来てからの行動を見ていて偏見が無い心優しい人間だということがよくわかった。ラルフだけじゃない、他の皆もな。私も久しぶりに心を動かされた。ラクスベルクの復興……それが出来たらどんなに嬉しいことか! 大歓迎だよラルフ! この広く寂しい忘れ去られた場所を、もう一度活気あふれる場所にしていこう! きっと歴代の国王様達も喜んでくれることだろう!」

「ありがとうございます!」

「そんなにかしこまらなくていい。我々はもう仲間なんだから」

 長い間止まっていた王国の歴史の針が、再び動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...