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第三章 魔王様のいない世界

第14話 転職の儀式

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 屋根や壁が無く机と椅子のみの冒険者ギルドで、俺達青空の元『転職の儀式』についてゴードンさんから詳しく聞くことにした。

「まずこの儀式には、ある程度の魔力を持った物の存在が必要不可欠となる。これに関してはなにか物に触れる必要もないため、私が担当する。次に地面に魔力を込めた魔法陣を書く必要があるのだが、この中で一番魔力が高く物に触れることが出来るのは……。ファイスだな、頼めるか?」

「ウォオオウ!」

「おお、やってくれるか! では早速私が魔法陣の書き方を教えるからその通りにこの地面を指でなぞってくれ。魔力を込めるのはまだ慣れていないかも知れないが、強く念じれば出来るはずだ」

 ファイスさんがゴードンさんの言うとおりに地面を指でなぞり魔法陣を書き始めた。ゆっくりながらも指示通りに書き進めていき、しばらくするとそこに魔法陣が出来上がった。

「うむ、初めてにしては上出来だ。魔力もしっかり込められているし、ファイスは人間だった時元々兵士だったが、もしかすると魔法使いのように魔力を扱うことのほうが得意かもしれんな。そういった適正も儀式を行い姿見の書を手に入れればわかるはずだ。これで必要な準備は整ったから、一気に全員の儀式をやってしまおう」

 ゴードンさん主導の元、俺達は皆転職の儀式を受けることになった。儀式自体の手順は魔法陣の中で跪き、ゴードンさんが俺達の頭に手をかざし呪文を唱えることにより、姿見の書とウツシカガミの木の苗木が現れるというものだった。俺は人間だから魔力を感じる機会が今までなかったけど、今回の儀式では何か強い力を感じることが出来た。俺は早速自分の姿見の書を見てみることにした。書物自体はいわゆる普通の本の形で、表紙は暑いものページ数がとても少なかった。

「皆の手元にある姿見の書の表紙にはそれぞれの名前が書かれているはずだ、まずはそれに手をかざしてみてくれ」

 ゴードンさんの言うとおりに『ラルフの書』の文字に手をかざし念じると、表紙が勝手にめくられ【目次】と書かれたページが現れた。

「この本は普通に開くだけでなく、このように持ち主が手をかざし念じるだけでも開くことが出来るから、ゴーストの私やサクリでも扱うことが可能だ。皆目次の所に『能力』と書かれた項目があるはずだからそのページを確認してみてくれ。そこには転職後の職業について書いてあるはずだ。最初は適正に合った職業に転職する仕組みだから選ぶことは出来ないが、後々能力が上がり再度転職の儀式を行うときにはいくつか選べるようになるはずだ」

 どんな職業になっているのかワクワクしながら、指示通りに能力のページを開くとそこの職業の欄には『村人』と書かれていた。俺は元々村人だから何も変わっていないということなのか、もしかして儀式が上手くできなかったのだろうか。

「あのぉゴードンさん? 俺の職業が村人のままなんだけど、もしかして儀式が上手くいかなかった?」

「村人? いやそんなはずはない。そもそも転職の儀式をして村人になるなんて聞いたことがない、普通は戦士とか魔法使いとかになるはずなんだが、他の皆はどうなっている?」

 皆の職業を確認してみるとアオイが『元僧侶』リンが『ゴブリン』ファイスさんが『コラプスゾンビ』サクリさんが『レッサーゴースト』アレン兄さんが『ダーティラット』ロザリーさんが『バッドキャタピラー』と全員そのままで特別職業らしきものが書かれていなかった。

「これは……。非常に言いにくいことなんだが、皆能力が低すぎて新たに転職できる職業がなく、そのままということみたいだ。ファイス、サクリ、アレン、ロザリーの元々の種族から変化した者たちに関しては下級職と呼ばれるゾンビ、ラット、キャタピラー、ゴーストですらなく、それよりも更に弱いとされている最下級職だからな……。どうすればいいんだ……」

「え? 俺達ってそんなに弱いの?」

「ああ、やろうとしていることだけでなく、能力的にもアーカス達とは真逆だな。正直今の状態ではまず間違いなく勝ち目がないと思ったほうが良い。まずは仲間を集め人数差では勝てるようにしたほうが良い。ラルフ達の外に行っている間、私の方で皆が強くなれる方法を探しておこう」

 分かっていたことではあったけど、認めたくなかった俺達はとても弱いということが、姿見の書によって認めざる負えない形になった。アーカス達の様なチート能力もなく元々の能力も低い俺達が、今後やっていけるのか不安を感じていないと言えば嘘になるけど、皆と協力してなんとか強くなっていこうという強い気持ちのほうが勝っていた。

「ねぇゴードンさん。この姿見の書の職業の下に書いてある武器って項目は何なのかしら? 私達皆ここが空欄なんだけど本来ならここにも何か書かれるはずなの?」

「そのとおりだ。そこには何が得意かどんな装備が向いているかも文章で書き記してくれるはずだ。どんなに能力が低くても適正武器の1つや2つはあるはず、それが書かれていないということは私が儀式を行うのに向いてなかったのかもしれないな……。せめて武器だけでも合っているものを装備して出発してもらいたいところだが、止む終えない、適正がない武器でもある程度扱うことはできるはずだ。今この場で揃えられるものの中で万全の準備をして出発としよう」

 俺とリンは元々持っていた護りの短剣と棍棒、アオイとファイスさんは城の中で見つけた剣を、アレン兄さんとロザリーさんは武器を持つことは出来ないのでそのままで出発することにした。準備が整った後、最後に俺達はウツシカガミの苗木を植えることにした。

「苗木は持ち運ぶことも可能ではあるものの、大きくなることを見越して広場に植えたほうが良い。今はまだ弱いかも知れないが、お前たちの木はこれから大きく育つ気がする。本来なら王家の者しか使うことを許されない場所ではあるものの、お前たちは特別だ」

「ありがとうゴードンさん」

 俺達は各々の苗木を城の広場に植えた。今の段階では皆同じ様な見た目だけど、これから俺達が経験を積んでいけば姿形が変化しそれぞれの個性が反映されていくらしい。どんな木に成長するのか楽しみにしつつ、いよいよ準備が整った俺達はハーニルの町にへ出発することにした。
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