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第三章 魔王様のいない世界
第15話 初めての戦闘
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転職の儀式を終えた翌日、俺たちは枯れ果てた森の出口とハーニルの町への行き方を聞いた後、結界の外に出て森の中を歩き始めた。木々は枯れているので見通しはよかったが、道は整備されていないので険しく歩きづらかった。森の出口まではそんなに距離はなく日が傾く前に着くことが出来た。
「まだ日が高いからこのままハーニルの町まで行こうと思ってるんだけど、大丈夫?」
「ちょっと待ってラルフ、私森の中とか整備されていない道を歩いたことがなくて、ちょっと休みたいんだけどいいかしら?」
「うん、まだ夜になるまでは時間があるし大丈夫だよ。せっかくだしここで少し休憩してからハーニルを目指そう……。ってあれ? ファイスさんその腕はどうしたの?」
「ウォオオ……」
ファイスさんの腕が片方取れている事に気づき、俺は来た道を戻り腕を探した。幸い近くの木に引っかかっていたのですぐに見つけることが出来たけど、ファイスさん自身腕が取れても痛みは感じなかったため本人も気づかない間に取れていたようだった。それは出発前ゴードンさんから聞いていたファイスさんの職業『コラプスゾンビ』の特徴と一致していて、ゾンビに比べ腕や足などのパーツが取れたり崩れたりしやすく、色んな感覚も鈍いということだった。
「こうやってくっつければ大丈夫みたいだね、これからは注意しないとね」
「ウォォ……」
「あまり気にしなくていいよ、腕が取れちゃうのは仕方のないことなんだから」
「そうよ、ゾンビってそういうものよファイスさん」
「うん! あたいもそう思うよ!」
「ウォオオ!」
「……あれ? 今ファイスさんの言っていることが俺達にも分かったような。ちゃんとした言葉として聞こえたわけじゃないけど言いたいことは理解できたよ! これってもしかして!」
アレン兄さんやロザリーさんの言っていることもわからないか試してみたら、ファイスさんと同じで言葉としてはっきりとはわからないけど、俺やアオイ、リンも言いたいことがなんとなくはわかるようになっていた。もしかすると転職の儀式を終えたことにより魔力が上がったのかもしれない。森の出口からは今までと違って整えられた道があり、それに沿ってしばらく歩き日が傾き始めた頃、町の明かりらしきものが見えてきた。
「日が落ちる前にハーニルの町に着くことができたわね」
「そろそろ日が暮れるから早く行ってみようよ! あたいはもう疲れたよー」
「そうだね、でも何があるか分からないからちょっと様子を見るために入口近くまでゆっくり行ってみよう」
俺たちが町の入り口に近づくと、そこに人影が見えた。気づかれないように近くの茂みで息を潜めながらどんな人物か観察することにした。
「グルルルゥ……」
そこにいたのは犬の頭に人の身体を持つコボルト族の少女だった。身長はリンよりちょっと大きいくらいで、魔力が暴走しているのか、鋭い目つきで低い唸り声をあげていて正気を失っている様だった。
「魔力が暴走してしまうと魔族はあんな風になってしまうのか……。話に聞いていただけじゃなくて実際に目の当たりにすると恐ろしいね」
「あたい達もこの魔使いのペンダントがなかったらあの子みたいになっちゃうんだね」
リンは首にかけていたペンダントを強く握りしめた。
「幸いこちらにはまだ気づいていないみたいだから、一気に取り押さえた後このペンダントを首にかけて、正気を取り戻させてあげよう。スピードが大事だから……。俺とアレン兄さんで奇襲を仕掛けるからそしたら皆で……」
「ワォオオオン!」
作戦会議をしている途中でコボルトの少女がこちらの方を向き、大きく遠吠えをした。コボルト族は嗅覚が優れているからそれで気づかれたのかも知れない。間もなく町の中から細身と大柄のコボルト二人が現れ、ゆっくりとこちらへ向かってきた。俺達は体勢を整える間もなくあっという間に距離を詰められてしまった。
「この子はあたいが! ラルフとアオイは他の二人をお願い!」
リンの言う通り俺は大柄のコボルトと対峙し、アオイは細身のコボルトと対峙した。相手は二足歩行のコボルト族だから同じく二足歩行で、ある程度のスピードに対応できる俺達が相手にするのは理にかなっている判断だと思った。いざ相手と目を合わせるとその目は血走っていて興奮した獣そのものだった。お互いその場から動けないまま辺りの空気はピンと張り詰めていた。キーンという耳鳴りが聞こえてきて収まった時、コボルト達が一斉に曲刀を振りかざしてきた。
「強い!? くそっ!」
俺達はなんとかその攻撃を受け止めたものの、こちらは皆力負けしている状態だった。まともな実戦は初めてなのもあるかもしれないが、理性を失っている相手のその容赦ない力に圧倒されてしまった。アオイとリンは持っている武器の大きさが同じくらいなので、上手く耐えることが出来ていたけど、俺は短い短剣だったので攻撃を耐えることが難しかった。守ることをしっかりと考えていなかったことを後悔した。
「これ……! あたいたちじゃ力負けしちゃう!」
「私もこれ位以上は……!」
「チュウ!」
「キシャアアア!」
俺たちが攻撃を抑えられなくなってきたところで、アレン兄さんが三人に噛みつきロザリーさんが足元をめがけて糸を出してくれたおかげで、相手に一瞬の隙が生まれ、攻撃を振り払い後ろに下がり距離をとることができた。俺達はすごい力に押され腕が痺れて動かなくなっていた。ロザリーさんの糸は粘着性のあるものだから、ある程度動きを封じることが出来るけど、上半身は自由なため、ペンダントをかけられるくらい相手を無力化出来てはいなかった。
「アレン兄さん! ロザリーさんありがとう! でもここからどうすれば……。もうすぐ動き出してしまう!」
「ウォオオオウ!」
俺達が距離をとるのと反対に、ファイスさんが剣を持ちながらゆっくりと相手に近づいているのが見えた。
「ファイスさん! いくらなんでも一人じゃ危険だよ! 今は一旦体勢を整えて……!」
俺の言葉に反応して止まったファイスさんは、力強い声を一言発して再び相手の元へ歩いていった。なんて言っているかは相変わらずわからなかったけど、囮になるつもりなのと来るなと伝えたいことだけはわかった。まだ糸が絡まっていてその場から動けない相手の目の前までファイスさんが行き、細身のコボルトめがけて剣を振り下ろした。
「グルルゥ」
コボルトはファイスさんの剣を受け止めたもののさっきより力が入っていないように見えた。そのまま押し切れそうになった時、力に耐えきれずファイスさんが剣を握っていた腕がとれてしまった。そしてコボルトの曲刀が刺さり辺り一面にファイスさんの緑色の血が広がった。
「グルァアアアアア!」
ファイスさんの血を浴びたコボルトが今度は悲鳴を上げ、鼻を抑えながらその場でのたうち回り苦しんでいた。俺には何が起こったのか全く理解できなかった。
「もしかして……。ファイスさん! その取れた腕ともう片方の腕を残りの二人の顔に投げつけて! とにかく私の言うとおりにしてみて!」
「アオイ!? 急に何を言って……」
「ウォオオオオウ!」
アオイの言うとおりにファイスさんが腕を二人に投げつけると、さっきの細身のコボルトと同じように鼻を抑えその場でのたうち回り始めた。しばらくするとコボルト達は気絶し、その場に倒れ込んでしまった。
「ラルフ! リン! 後は私達でペンダントを首にかけるよ!」
何が起きたのかわからないままではあったけど、アオイの指示通りに俺達はコボルト達にペンダントをかけた。
「アオイ、一体これはどういうことなの?」
「あのコボルトの女の子ってさっき私達の存在に臭いで気づいてたわよね? それで思い出したんだけど私のやってたゲームに出てくるゾンビって凄い腐臭を漂わせてるって存在だったのよ。私達はファイスさんの臭いで苦しむほどじゃないけど、嗅覚が鋭いコボルト相手なら武器になるかなって。ファイスさん腕を投げろなんてとんでもないお願いをしてごめんね」
「ウォオウ」
アオイの言葉に軽く首を振り見つめるファイスさんは気にするなと言っているようだった。ファイスさんの行動とアオイの機転で俺達はなんとか相手を抑えることが出来た。
「……あれ? あたしらは何を……。なんだこれ!? なんて臭いだよまったく!」
目を覚ましたコボルトの少女は大きな声を上げていた。
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「こうやってくっつければ大丈夫みたいだね、これからは注意しないとね」
「ウォォ……」
「あまり気にしなくていいよ、腕が取れちゃうのは仕方のないことなんだから」
「そうよ、ゾンビってそういうものよファイスさん」
「うん! あたいもそう思うよ!」
「ウォオオ!」
「……あれ? 今ファイスさんの言っていることが俺達にも分かったような。ちゃんとした言葉として聞こえたわけじゃないけど言いたいことは理解できたよ! これってもしかして!」
アレン兄さんやロザリーさんの言っていることもわからないか試してみたら、ファイスさんと同じで言葉としてはっきりとはわからないけど、俺やアオイ、リンも言いたいことがなんとなくはわかるようになっていた。もしかすると転職の儀式を終えたことにより魔力が上がったのかもしれない。森の出口からは今までと違って整えられた道があり、それに沿ってしばらく歩き日が傾き始めた頃、町の明かりらしきものが見えてきた。
「日が落ちる前にハーニルの町に着くことができたわね」
「そろそろ日が暮れるから早く行ってみようよ! あたいはもう疲れたよー」
「そうだね、でも何があるか分からないからちょっと様子を見るために入口近くまでゆっくり行ってみよう」
俺たちが町の入り口に近づくと、そこに人影が見えた。気づかれないように近くの茂みで息を潜めながらどんな人物か観察することにした。
「グルルルゥ……」
そこにいたのは犬の頭に人の身体を持つコボルト族の少女だった。身長はリンよりちょっと大きいくらいで、魔力が暴走しているのか、鋭い目つきで低い唸り声をあげていて正気を失っている様だった。
「魔力が暴走してしまうと魔族はあんな風になってしまうのか……。話に聞いていただけじゃなくて実際に目の当たりにすると恐ろしいね」
「あたい達もこの魔使いのペンダントがなかったらあの子みたいになっちゃうんだね」
リンは首にかけていたペンダントを強く握りしめた。
「幸いこちらにはまだ気づいていないみたいだから、一気に取り押さえた後このペンダントを首にかけて、正気を取り戻させてあげよう。スピードが大事だから……。俺とアレン兄さんで奇襲を仕掛けるからそしたら皆で……」
「ワォオオオン!」
作戦会議をしている途中でコボルトの少女がこちらの方を向き、大きく遠吠えをした。コボルト族は嗅覚が優れているからそれで気づかれたのかも知れない。間もなく町の中から細身と大柄のコボルト二人が現れ、ゆっくりとこちらへ向かってきた。俺達は体勢を整える間もなくあっという間に距離を詰められてしまった。
「この子はあたいが! ラルフとアオイは他の二人をお願い!」
リンの言う通り俺は大柄のコボルトと対峙し、アオイは細身のコボルトと対峙した。相手は二足歩行のコボルト族だから同じく二足歩行で、ある程度のスピードに対応できる俺達が相手にするのは理にかなっている判断だと思った。いざ相手と目を合わせるとその目は血走っていて興奮した獣そのものだった。お互いその場から動けないまま辺りの空気はピンと張り詰めていた。キーンという耳鳴りが聞こえてきて収まった時、コボルト達が一斉に曲刀を振りかざしてきた。
「強い!? くそっ!」
俺達はなんとかその攻撃を受け止めたものの、こちらは皆力負けしている状態だった。まともな実戦は初めてなのもあるかもしれないが、理性を失っている相手のその容赦ない力に圧倒されてしまった。アオイとリンは持っている武器の大きさが同じくらいなので、上手く耐えることが出来ていたけど、俺は短い短剣だったので攻撃を耐えることが難しかった。守ることをしっかりと考えていなかったことを後悔した。
「これ……! あたいたちじゃ力負けしちゃう!」
「私もこれ位以上は……!」
「チュウ!」
「キシャアアア!」
俺たちが攻撃を抑えられなくなってきたところで、アレン兄さんが三人に噛みつきロザリーさんが足元をめがけて糸を出してくれたおかげで、相手に一瞬の隙が生まれ、攻撃を振り払い後ろに下がり距離をとることができた。俺達はすごい力に押され腕が痺れて動かなくなっていた。ロザリーさんの糸は粘着性のあるものだから、ある程度動きを封じることが出来るけど、上半身は自由なため、ペンダントをかけられるくらい相手を無力化出来てはいなかった。
「アレン兄さん! ロザリーさんありがとう! でもここからどうすれば……。もうすぐ動き出してしまう!」
「ウォオオオウ!」
俺達が距離をとるのと反対に、ファイスさんが剣を持ちながらゆっくりと相手に近づいているのが見えた。
「ファイスさん! いくらなんでも一人じゃ危険だよ! 今は一旦体勢を整えて……!」
俺の言葉に反応して止まったファイスさんは、力強い声を一言発して再び相手の元へ歩いていった。なんて言っているかは相変わらずわからなかったけど、囮になるつもりなのと来るなと伝えたいことだけはわかった。まだ糸が絡まっていてその場から動けない相手の目の前までファイスさんが行き、細身のコボルトめがけて剣を振り下ろした。
「グルルゥ」
コボルトはファイスさんの剣を受け止めたもののさっきより力が入っていないように見えた。そのまま押し切れそうになった時、力に耐えきれずファイスさんが剣を握っていた腕がとれてしまった。そしてコボルトの曲刀が刺さり辺り一面にファイスさんの緑色の血が広がった。
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ファイスさんの血を浴びたコボルトが今度は悲鳴を上げ、鼻を抑えながらその場でのたうち回り苦しんでいた。俺には何が起こったのか全く理解できなかった。
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「アオイ!? 急に何を言って……」
「ウォオオオオウ!」
アオイの言うとおりにファイスさんが腕を二人に投げつけると、さっきの細身のコボルトと同じように鼻を抑えその場でのたうち回り始めた。しばらくするとコボルト達は気絶し、その場に倒れ込んでしまった。
「ラルフ! リン! 後は私達でペンダントを首にかけるよ!」
何が起きたのかわからないままではあったけど、アオイの指示通りに俺達はコボルト達にペンダントをかけた。
「アオイ、一体これはどういうことなの?」
「あのコボルトの女の子ってさっき私達の存在に臭いで気づいてたわよね? それで思い出したんだけど私のやってたゲームに出てくるゾンビって凄い腐臭を漂わせてるって存在だったのよ。私達はファイスさんの臭いで苦しむほどじゃないけど、嗅覚が鋭いコボルト相手なら武器になるかなって。ファイスさん腕を投げろなんてとんでもないお願いをしてごめんね」
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