勇者に改心の一撃を!~僕の世界は異世界の勇者達に壊された~

若葉さくと

文字の大きさ
16 / 24
第三章 魔王様のいない世界

第15話 初めての戦闘

しおりを挟む
 転職の儀式を終えた翌日、俺たちは枯れ果てた森の出口とハーニルの町への行き方を聞いた後、結界の外に出て森の中を歩き始めた。木々は枯れているので見通しはよかったが、道は整備されていないので険しく歩きづらかった。森の出口まではそんなに距離はなく日が傾く前に着くことが出来た。

「まだ日が高いからこのままハーニルの町まで行こうと思ってるんだけど、大丈夫?」

「ちょっと待ってラルフ、私森の中とか整備されていない道を歩いたことがなくて、ちょっと休みたいんだけどいいかしら?」

「うん、まだ夜になるまでは時間があるし大丈夫だよ。せっかくだしここで少し休憩してからハーニルを目指そう……。ってあれ? ファイスさんその腕はどうしたの?」

「ウォオオ……」

 ファイスさんの腕が片方取れている事に気づき、俺は来た道を戻り腕を探した。幸い近くの木に引っかかっていたのですぐに見つけることが出来たけど、ファイスさん自身腕が取れても痛みは感じなかったため本人も気づかない間に取れていたようだった。それは出発前ゴードンさんから聞いていたファイスさんの職業『コラプスゾンビ』の特徴と一致していて、ゾンビに比べ腕や足などのパーツが取れたり崩れたりしやすく、色んな感覚も鈍いということだった。

「こうやってくっつければ大丈夫みたいだね、これからは注意しないとね」

「ウォォ……」

「あまり気にしなくていいよ、腕が取れちゃうのは仕方のないことなんだから」

「そうよ、ゾンビってそういうものよファイスさん」

「うん! あたいもそう思うよ!」

「ウォオオ!」

「……あれ? 今ファイスさんの言っていることが俺達にも分かったような。ちゃんとした言葉として聞こえたわけじゃないけど言いたいことは理解できたよ! これってもしかして!」

 アレン兄さんやロザリーさんの言っていることもわからないか試してみたら、ファイスさんと同じで言葉としてはっきりとはわからないけど、俺やアオイ、リンも言いたいことがなんとなくはわかるようになっていた。もしかすると転職の儀式を終えたことにより魔力が上がったのかもしれない。森の出口からは今までと違って整えられた道があり、それに沿ってしばらく歩き日が傾き始めた頃、町の明かりらしきものが見えてきた。

「日が落ちる前にハーニルの町に着くことができたわね」

「そろそろ日が暮れるから早く行ってみようよ! あたいはもう疲れたよー」

「そうだね、でも何があるか分からないからちょっと様子を見るために入口近くまでゆっくり行ってみよう」

 俺たちが町の入り口に近づくと、そこに人影が見えた。気づかれないように近くの茂みで息を潜めながらどんな人物か観察することにした。

「グルルルゥ……」

 そこにいたのは犬の頭に人の身体を持つコボルト族の少女だった。身長はリンよりちょっと大きいくらいで、魔力が暴走しているのか、鋭い目つきで低い唸り声をあげていて正気を失っている様だった。

「魔力が暴走してしまうと魔族はあんな風になってしまうのか……。話に聞いていただけじゃなくて実際に目の当たりにすると恐ろしいね」

「あたい達もこの魔使いのペンダントがなかったらあの子みたいになっちゃうんだね」

 リンは首にかけていたペンダントを強く握りしめた。

「幸いこちらにはまだ気づいていないみたいだから、一気に取り押さえた後このペンダントを首にかけて、正気を取り戻させてあげよう。スピードが大事だから……。俺とアレン兄さんで奇襲を仕掛けるからそしたら皆で……」

「ワォオオオン!」

 作戦会議をしている途中でコボルトの少女がこちらの方を向き、大きく遠吠えをした。コボルト族は嗅覚が優れているからそれで気づかれたのかも知れない。間もなく町の中から細身と大柄のコボルト二人が現れ、ゆっくりとこちらへ向かってきた。俺達は体勢を整える間もなくあっという間に距離を詰められてしまった。

「この子はあたいが! ラルフとアオイは他の二人をお願い!」

 リンの言う通り俺は大柄のコボルトと対峙し、アオイは細身のコボルトと対峙した。相手は二足歩行のコボルト族だから同じく二足歩行で、ある程度のスピードに対応できる俺達が相手にするのは理にかなっている判断だと思った。いざ相手と目を合わせるとその目は血走っていて興奮した獣そのものだった。お互いその場から動けないまま辺りの空気はピンと張り詰めていた。キーンという耳鳴りが聞こえてきて収まった時、コボルト達が一斉に曲刀を振りかざしてきた。

「強い!? くそっ!」

 俺達はなんとかその攻撃を受け止めたものの、こちらは皆力負けしている状態だった。まともな実戦は初めてなのもあるかもしれないが、理性を失っている相手のその容赦ない力に圧倒されてしまった。アオイとリンは持っている武器の大きさが同じくらいなので、上手く耐えることが出来ていたけど、俺は短い短剣だったので攻撃を耐えることが難しかった。守ることをしっかりと考えていなかったことを後悔した。

「これ……! あたいたちじゃ力負けしちゃう!」

「私もこれ位以上は……!」

「チュウ!」

「キシャアアア!」

 俺たちが攻撃を抑えられなくなってきたところで、アレン兄さんが三人に噛みつきロザリーさんが足元をめがけて糸を出してくれたおかげで、相手に一瞬の隙が生まれ、攻撃を振り払い後ろに下がり距離をとることができた。俺達はすごい力に押され腕が痺れて動かなくなっていた。ロザリーさんの糸は粘着性のあるものだから、ある程度動きを封じることが出来るけど、上半身は自由なため、ペンダントをかけられるくらい相手を無力化出来てはいなかった。

「アレン兄さん! ロザリーさんありがとう! でもここからどうすれば……。もうすぐ動き出してしまう!」

「ウォオオオウ!」

 俺達が距離をとるのと反対に、ファイスさんが剣を持ちながらゆっくりと相手に近づいているのが見えた。

「ファイスさん! いくらなんでも一人じゃ危険だよ! 今は一旦体勢を整えて……!」

 俺の言葉に反応して止まったファイスさんは、力強い声を一言発して再び相手の元へ歩いていった。なんて言っているかは相変わらずわからなかったけど、囮になるつもりなのと来るなと伝えたいことだけはわかった。まだ糸が絡まっていてその場から動けない相手の目の前までファイスさんが行き、細身のコボルトめがけて剣を振り下ろした。

「グルルゥ」

 コボルトはファイスさんの剣を受け止めたもののさっきより力が入っていないように見えた。そのまま押し切れそうになった時、力に耐えきれずファイスさんが剣を握っていた腕がとれてしまった。そしてコボルトの曲刀が刺さり辺り一面にファイスさんの緑色の血が広がった。

「グルァアアアアア!」

 ファイスさんの血を浴びたコボルトが今度は悲鳴を上げ、鼻を抑えながらその場でのたうち回り苦しんでいた。俺には何が起こったのか全く理解できなかった。

「もしかして……。ファイスさん! その取れた腕ともう片方の腕を残りの二人の顔に投げつけて! とにかく私の言うとおりにしてみて!」

「アオイ!? 急に何を言って……」

「ウォオオオオウ!」

 アオイの言うとおりにファイスさんが腕を二人に投げつけると、さっきの細身のコボルトと同じように鼻を抑えその場でのたうち回り始めた。しばらくするとコボルト達は気絶し、その場に倒れ込んでしまった。

「ラルフ! リン! 後は私達でペンダントを首にかけるよ!」

 何が起きたのかわからないままではあったけど、アオイの指示通りに俺達はコボルト達にペンダントをかけた。

「アオイ、一体これはどういうことなの?」

「あのコボルトの女の子ってさっき私達の存在に臭いで気づいてたわよね? それで思い出したんだけど私のやってたゲームに出てくるゾンビって凄い腐臭を漂わせてるって存在だったのよ。私達はファイスさんの臭いで苦しむほどじゃないけど、嗅覚が鋭いコボルト相手なら武器になるかなって。ファイスさん腕を投げろなんてとんでもないお願いをしてごめんね」

「ウォオウ」

 アオイの言葉に軽く首を振り見つめるファイスさんは気にするなと言っているようだった。ファイスさんの行動とアオイの機転で俺達はなんとか相手を抑えることが出来た。

「……あれ? あたしらは何を……。なんだこれ!? なんて臭いだよまったく!」

 目を覚ましたコボルトの少女は大きな声を上げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...