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一章

卒業まで我慢のはずが、まさかの進展

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 キャノソニアス魔法学園寮の一室にて、私は人生最大のピンチを迎えていた。湯浴みも夕食も済ませ、クランさんと並んでソファに腰かけていたのだが、私の体は彼女から匂い立つ色香に反応してしまったのだ。

『ありがとうございます……私も、貴方が好きです。……っ、しかしここは、勉学に励む場所。……ですからこうしたことは、私たちが無事に卒業してからにしましょう?』

 二ヶ月ほど前、同室のクランさんに想いを伝えて受け入れてもらったときに告げられた言葉が、脳裏によみがえる。想いの通じた嬉しさに舞い上がり、思わず滑らかな頬に口づけてしまった私は、がっつきすぎている自分が恥ずかしくなったものだった。順調に進級できたとしても卒業するまで一年半はあるけれど、大切な彼女の言い分はもっともだ。恋人としてより深い信頼関係を築いていくためにも彼女の意思を尊重すべきだと思った私は、覚悟を決めて頷いたのだが––。
 変化に気付かれて真面目なクランさんにジト目で睨まれるのを想像すると、それはそれで興奮してしまいそうになる。しかしせっかく恋人になれたのに、約束を反故にして振られてしまいたくない。
 ふたなりの私は、都市貴族として商店を営む実家から発情抑制剤––ふたなりのあまりに旺盛な性欲を指して、発情などと称されている––を送ってもらい服用しているため、常に性欲を抑え込んでいる状態だ。そのため周囲が女性ばかりの学園生活を過ごしていても、なんの問題もなかった。にもかかわらず、大好きなクランさんの側にいるだけでふとした拍子に体が反応してしまう。

(うわ、ど、どうしよう……。ひとまず前屈みになって……、ばれないように、ベッドに行けば……!)

「……こうしてのんびり過ごせるのは、ひさしぶりですね」
「っ……! そ、そうだね」

 手を握ってくれることさえめったにないクランさんが、自分から体を寄せてくれた。艶やかなショートボブの銀髪が、肩まで伸びた私の紺青の髪を撫でる。左半身に感じる愛おしい重みと柔らかな温もりに感動してしまい、動き出すタイミングを見失ってしまった。

(はっ!? まずい……っ! クランさんの可愛さに蕩けてる場合じゃない! 両手を股間に置いて押さえてるから誤魔化せていると信じたいけど、つ、つらい……!)

 寝間着のズボン越しにも、先ほどより股間の膨らみが増してしまったのがわかった。湧き上がる欲望と頼りない理性の板挟みになりながら、ついクランさんに集中してしまう意識を別のことに向けようとする。

(ふーっ……、落ち着け、私! クランさんが言っていたように、学生の本分を考えよう。来週の風魔法実技課題は苦手だから、よく練習しておかないと。そうだ、魔法史の小テストもあるからその勉強もしておかなきゃ! それにしても…………クランさん、良い匂いだな……)

「なんだか、体が強張っていますね。……触れ合うのは嫌でしたか?」
「まさか……っ! クランさんと触れ合うのが嫌だなんて、ありえない! それどころか、私は……!」
「ぁ……」

 クランさんの凛とした声が震えたことに動揺した私は、勢いよく体を起こして、彼女の手を両手で包み力強く答えた。触れ合うのを心から望んでいるのだと伝えたい一心だったのだが、息を呑んだクランさんの視線を追いかけて凍り付く。手を離してしまった私の股間は、あまりにも不自然に寝間着を押し上げていた。

「っ……ぁあ! あの、こ、これは……」

 血の気が引いていく感覚があるのに、視線を浴びているそこは小さくならない。同室で過ごすことが決まる前に自分がふたなりであることは伝えていたから、いまどんな状態になっているのかはクランさんにもわかってしまったはずだ。
 急いでクランさんの手を離し、股間を押さえる。澄んだ薄緑の瞳に軽蔑の色が浮かんでいたらと思うと、まともに顔を見ることもできない。痛みを感じるほど強く押さえても主張する昂ぶりを忌々しく思いながら、「ごめんなさい……」と謝罪の言葉を絞り出した。

「……謝っていただく必要があるとは思えませんが、その……どうして、そうなったのでしょう?」
「それは…………」

 正直に伝えるか迷う。クランさんと触れ合うたびにこんなことになっていたのだと知られたら、それこそ嫌われてしまうのではないだろうか––? 私が黙り込んでしまうと、クランさんは普段よりも上ずった声で質問を重ねた。

「……私が、貴方に体を寄せたからですか?」
「っ……!」

 見透かされてしまった気まずさで、顔を俯かせる。まるで飢えた獣のような恋人が同じ部屋で過ごしていたのだと知った彼女が次になにを言い出すのか考えると、怖くて仕方がなかった。

「本当にごめんなさい……! クランさんとの約束を破るつもりなんてないの……っ! ちゃんと我慢するから……、どうか……許して」

 ソファから下りて正座し、股間を押さえたまま頭を垂れた。別れの言葉が降ってきたらと思うと、きつく閉じた目に涙が滲んでくる。同じ学級で寮の同室にもなった彼女に一目惚れして、友達になってからさらに惹かれて、念願叶って恋人になれたのに––欲望に振り回される自分の不甲斐なさが情けなかった。

「……顔を上げてください」

 ソファから下りたらしいクランさんの気配を、間近に感じる。頬に触れた優しいてのひらに促されて顔を上げると、彼女は予想外の表情を浮かべていた。整った美しい顔にあらわれているのは、呆れや怒りといった感情ではなさそうだった。なにも言えずにいると、細い指で濡れた目元を拭ってくれる。

「私こそ、謝罪すべきでしたね。貴方に我慢を強いていたことに、気付けませんでした。……ごめんなさい」
「……へ?」

 事態を把握できずにいる私の唇に、クランさんが触れるだけの口づけを贈ってくれた。はじめての口づけはあまりに一瞬過ぎて、感触を味わう余裕もなかった。じわじわと顔が熱くなってくるのを感じつつ、振られてしまう危機はひとまず去ったのかもしれない、と遅れて気付く。

「……少しずつ、こうした触れ合いを増やしていくのはどうでしょう? ……もちろん勉学に支障が出ない範囲で、ですが」
「……っ! そ、それはぜひ……っ! あ、でも……」

 思いもよらぬ提案に歓喜して飛び上がりそうになるけれど、もしかすると、これまで以上に理性を試されることになりはしないだろうか? 側にいるだけでも危ういのに、触れ合ったら間違いなく反応してしまう。

「クランさんと触れ合うと、……また、」
「こうなったときは、どうすれば楽になるのですか?」

 うっすらと頬を赤らめたクランさんに、言葉を遮られた。どうすればって……、いつもどうやって処理してるか言わなきゃいけないってこと!?

「ええと……、それって、……どうしても、言わないとだめかな?」
「できることなら、協力したほうが良いと思ったのですが……」
「協力……っ!?」

 クランさんに襲い掛からないためには絶対に断わるべきだ、と理性が答えを弾き出す。しかし––これまでクランさんを想ってしていた行為を当の本人に手助けしてもらえるなんて、魅力的すぎる申し出だ。責任感の強いクランさんらしい発想だから無理をさせてはいけないと思うのだが、私は誘惑を毅然と突っぱねられるような立派な人間ではない。

「……我慢して欲しくないという理由だけではなく、……貴方と、触れ合いたいです」
「クランさん……」

 クランさんは恥ずかしそうに目を逸らしているのに、はっきりと言葉にして望んでくれた。いつもクールな彼女には、意外と照れ屋で大胆なところがあるのかもしれない。そんなところもまたたまらなく魅力的で、胸がときめいた。
 愛する人に求めてもらえる幸せに心打たれて、いつまでも固まっている場合ではない。まとまらない思考をどうにか整理して口にした言葉は、滑稽なほど震えてしまっていた。

「ありがとうございます。……クランさんの想いを教えてもらえて、すごく嬉しい。私も本当は、クランさんと触れ合いたかった。でも、……正直に言うと、理性を保てる自信がなくて……。こんな私だけど、クランさんが嫌なことは絶対しないと誓うから、ぜひ協力してください……!」

 ソファから下りて膝を揃えて座り向き合ってくれているクランさんに、「お願いします……!」とふたたび頭を垂れる。

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

 顔を上げた私を、クランさんは優しい微笑みで迎えてくれた。大好きな笑顔を向けてもらって、恋人関係を解消されなかった実感が込み上げてくる。

「では、さっそく協力しましょう」
「……っ! あ、ありがとう」
「どうすれば楽になるのか、言葉にするのはむずかしいでしょうか?」
「……それはちょっと、いや、かなり……、恥ずかしいかも」
「でしたら、方法をお見せいただくというのは……?」
「えぇっ!? そのほうがむずかしいよ……っ! ええと、……まずは立ち上がろうか」

 真剣に検討してくれているクランさんには申し訳ないけど、恋人に自慰を見せる勇気も度胸も持ち合わせていない。正座を崩して立ち上がり、クランさんの手を取って引き起こした。正面から向き合い、私よりわずかに目線の低い彼女を抱きしめる。

「こうするのは、……嫌じゃない?」
「っ……ええ。……嬉しいです」

 背中に腕を回されて、体がより密着した。重なる柔らかな胸の感触も、伝い響く鼓動も、心惹かれる良い匂いも、愛おしくて仕方がない。しかし意識をクランさんに向けたとたん、押さえを失った股間がいっそう大変なことになってしまった。彼女の香りを堪能してから、少し体を離す。
 大好きです、と囁いて、自分から口づけた。勢いあまって歯をぶつけないように気を付けつつ、クランさんがしてくれた口づけよりも長く唇を合わせる。離れたくないと思わせる艶やかな唇の弾力も、こんなにも近い距離で彼女の息遣いを感じられることにも感激して、すぐに息が上がってしまった。

「ふっ……ぁ、は、クランさん……♡」
「はっ……、ぁ……♡」
「キスしながら、手を借りてもいい……? それで、方法を知ってもらえたらと思うんだけど……」
「え、ええ……」

 頬を染めてうっすらと唇を開いているクランさんの凄まじい色気に、眩暈を起こしてしまいそうだ。ぎこちなく彼女を促して、ソファに並んで腰かける。ティッシュの収まっている木箱を、テーブルから手元に引き寄せておいた。いきなり猛々しい昂ぶりを見せるのは恥ずかしいし、驚かせてしまうかもしれない。

(寝間着のズボンの上から触ってもらって、射精するときは下着の中でティッシュに出せばいいかな……?)

 私は左側に座っているクランさんのしなやかな右手を取って股間へ導き、寝間着の上からそっと触れさせた。

(わ……っ! クランさんの細い指の感触、気持ちいい……♡)

 硬くなっているそれをやんわりと包んでもらい、自分の手を重ねてすりすりと撫でるように動かす。寝間着越しで強い刺激でもないのに、気持ち良くて腰が跳ねてしまった。

「ぁ……すごく、硬いですね……♡」
「はっ……♡ クランさん♡」

 左手で彼女の腰を引き寄せて、唇を重ねる。ちゅっ♡ちゅう♡と音を立てて何度も口づけながらクランさんに重ねた手の力を強めて、動きを速めた。

「んぅ……っ♡ は、……ぁっ♡ クランさんの手、気持ち、いい……♡♡」
「んんっ♡ ぁ……んっ♡ ……っ♡♡!」

 口づけの合間に本音を漏らしてしまうと、クランさんの手が昂ぶりをぎゅっと握りしめた。

「……んぁあっ♡♡!?」

 思わず唇を離して、突然の刺激に喘いでしまう。間近で見つめ合うクランさんは、熱に浮かされたような表情をしていた。

「は、ぁ……、クラン、さん……♡?」
「……とても、可愛いです♡♡」
「んんっ♡♡!」
「このくらいの強さが、気持ちいいんですか……♡♡?」
「ぁあっ♡♡ んっ♡♡ 気持ちいいよ……♡♡!」

 私が促さなくても、クランさんが手を動かして昂ぶりを握り、上下に扱いてくれる。あっという間に高まっていく中、隣室に声が聞こえてしまわないように慌てて手で口を押さえた。すると私の耳に唇を近づけたクランさんが熱い吐息とともに、「魔法で音漏れを防いでいますから、安心してくださいね……♡♡」と囁きかける。はじめて聞く声音に、耳もとからぞくぞくとした快感が広がっていく。一人で処理するときも魔法を活用して周囲にばれないようにしていたのに、クランさんに夢中ですっかり忘れてしまっていた。

「ぁっ……♡♡! も、もう、手を離して……っ♡♡!」

 射精が迫り、腰が震える。クランさんは私の懇願を聞き入れ、素直に手を離してくれた。急いで何枚もティッシュを掴み取り、下着の中で先端を覆う。

「んっ……くぅっ、んぁぁあああっ♡♡♡!」

 クランさんに見られているのに強烈な射精欲に耐えきれず、腰を突き出して達してしまった。

(うぁ……、こんなに、出るなんて……♡♡)

 溜まっていた欲望はなかなか収まらず、何度も腰をへこつかせて精液を吐き出した。

(でもこれじゃ、自慰を見られるのと変わらなかったのでは……!?)

 快感と恥ずかしさが幾重にもなり、一気に押し寄せてくる。息を整えながら、せめてもの照れ隠しにクランさんから顔を背けた。

「……方法はわかりました。次は、脱いだ状態でしましょうか」
「はっ……、はぁ……、つぎ……?」

 下着に突っ込んでいた片手を抜かれて、精液塗れのティッシュを取り上げられる。クランさんの手を汚してしまうと思って止めようとすると、ティッシュをくるんで机に置いた彼女は私の寝間着のズボンと下着を引き下ろしてしまった。

「うわぁ……っ!? ク、クランさん……っ!?」

 素早く脚の間に屈みこんでしまったクランさんは、もう復活しかかっているそれを躊躇なく握る。制止の言葉を伝えることもできず、昂ぶりを直に触られた衝撃に「ひっ……♡♡!」とひきつった声を上げるのが精一杯だった。

「まだ、収まっていないようですからね」

 大好きなクランさんが絨毯に座り込んで、私の脚の間に陣取り、股間を凝視して両手で昂ぶりを摩っている。現実離れした光景を目の当たりにして、意識が天国へ羽ばたいてしまいそうだった。

(え……? 夢じゃないよね? クランさんが、私のちんぽ直に掴んじゃってるけど……これって本当に現実?)

 もはや余韻に浸っているどころではない。混乱してされるがままの私を見上げたクランさんは妖艶な微笑を浮かべると、ゆるゆると手を動かしはじめた。
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