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夢と日常と幸せと。
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朝、いつもの目覚ましで目が覚めた。何だか妙な違和感を感じたが、横にいる彼を起こさないようにそっとベッドから降りて朝食の支度をする。時刻は午前6時半、まだぼんやりとした頭で今日の朝食は何にしようか考えながら買い物を終えたばかりで中身の詰まった冷蔵庫を漁る。
「今日はトーストと、目玉焼きと、ウインナーと……、昨日作ったオニオンスープでいいかな」
流石に朝から手の込んだ物を作る気にはなれない。彼には申し訳ないが簡単にお腹の満たされる物で許してもらうとしよう。キッチンに立つ前に居間のカーテンを開けて、ぐっと伸びをする。やっぱりまだ眠たいがこればっかりは仕方がない。
トーストをグリルで焼きながらフライパンで目玉焼きとウインナーを焼いて、オニオンスープを温める。そして毎朝彼が好んで飲む珈琲を淹れて食卓に並べて、7時ぴったりになったらまだ暖かなベッドで決して可愛くはない寝息を立てている彼を起こしに行くまでが私の毎朝の仕事だ。
勿論寝起きの悪い彼は中々起きてくれないのだが。毎度格闘する事数分。痺れを切らして掛布団とタオルケットを引っぺがし、まだ眠いのですがと言わんばかりに目を固く閉じる彼を仕方がなく抱き起こそうとする。力は強い方だがやはり体格差という物はどうにもならず肩を掴んで引っ張り起こす形になるのだが。元々良くはない腰が悲鳴を上げているが、それでようやく起き上がった彼に眼鏡を渡してやっと朝食にありつける。
……ううん、でも何だかやっぱり違和感を感じる。特にこれが、という訳ではないけれど何となく気になるのだ。いつもの起床時間、いつもの朝食作り、いつも通り彼を起こして、本当にいつも通りなのだ。この謎の違和感以外は。
朝食を済ませた後は彼の身支度を眺めながら今日の予定を考える。裁縫、編物、ゲーム、ちょっと手の込んだ夕飯の仕込み、ガーデニング、家事、やる事はまあなくはない。ただ、独りぼっちで家にいる時間はやることがあっても中々に寂しいのだ。それでも数ヶ月前に婚約をした彼と同棲を始めて、大体毎日一緒に朝と夜のご飯を食べて、少し話をしたり、一緒に寝たり、充実はしているはずで。寧ろしていなくてはいけないのだと、そんな事を考えたりもしながら用意の済んだ彼に忘れ物はないか確認をして玄関まで見送りをした。
「いってらっしゃい、気を付けてね」
パタン、と玄関の扉が閉まると私は肩を落とした。今日もまた独りぼっちの日中がやって来たのだ。
朝食に使った食器を片付けて、すっかり冷めてしまった自分の分の珈琲を口に運ぶと何だか急に眠気がやって来た。ああ、まだ洗濯も、掃除も……やって、ないのに……。
――……ううん、誰かに揺さぶられてる気がする。確かに見送りの後玄関の鍵は閉めたはずなんだけど。
「もう、いつまで寝てるの。早く起きないと遅刻しちゃうわよ」
やけに聞き覚えのある声。それこそ10何年聞き続けた母の声だった。いや、でも私は今実家とは遠い場所に住んでいて、遅刻も何も仕事はこの間辞めたばかりで、さっき起きて朝食を食べて彼の見送りをして……、ああ、もう訳が分からない。取り敢えず起きよう。瞼を擦って身体を起こすとそこにはやっぱり見慣れた母がいて、何となく切なくなって思い切り抱きついた。久しぶりに抱きしめた母はやっぱり暖かかったが、聞こえてくるはずの心音はなかった。
「たまには帰ってきて顔を見せてよね。ママ、心配してるんだから」
ああ、やっぱりこれは夢だったんだ。私が寂しがっているから態々夢に出てきてくれたんだろうか、少し嬉しい。それから暫く夢の中の母とお茶を飲みながら話をしたりした。自分なりに一生懸命家事はしているという事、家に独りぼっちの時間は結構寂しいという事、趣味が増えたという事、療養の為に仕事を辞めた事が未だに気にかかるという事、お金の管理は結構大変だという事、色々な話をしたけれど母は微笑んで聞いてくれた。
長々とそうしているうちにまた眠気がやって来て、これで目が覚めるだろうと思った私は母に少しはにかんだように笑って見せて目を閉じた。
さて、これは一体どういう事だろうか。気持ちよく目覚めるはずだった私の身体は何故かバスの後部座席に座らせられて車の振動で揺られている。揺られている、気がするだけでやはり感覚はない。周りを見ると前に勤めていた会社でそれなりに関わりのあった人達にがっちり囲まれている。唯一役職なしの私はとんだ場違いだ、もう既に開放してほしい。別に何か話しかけてくる訳ではない、寧ろ周りで話している雰囲気は感じるが私には一切聞こえない、ただ、居心地の悪い空間に独りとりのこされているだけ。
もしかしたら私が拒絶しているのかもしれない、もう辞めた職場の人達、その人達との会話、触れ合い、その全て。かろうじて読み取れたのは。
「大丈夫、君なら出来るよ」
出来なかったから辞めたのに、まだ、私に出来るよなんて言うんですか。その励ましの言葉は私にとってとても残酷だった。
さっきまでの母との空間とは裏腹に急に恐怖を感じる。私にだけ聞こえていないであろう会話、聞こえない笑い声、ずっと続くバスの揺れ。その場から逃げ出そうと思った。立ち上がろうとしたその時強く両腕を掴まれた気がしてはっとして顔を上げると、皆が、見ていた。私を、満面の笑みで。辞めたって逃げられない、そう言われているようで吐き気を覚えた。ぐらりと視点が歪んで暗転する。やっとこの恐ろしい夢から覚められる、私はとても安堵して意識を飛ばした。
……またか、と私は思った。今度は深海で目が覚めた。
これは私がよく見る夢だ。微かな明かりしかない海の中で膝を抱えて揺蕩う私、また独りぼっち。周りにはふわふわと私の今までの記憶たちが浮かんでいて、思い出してくれと言わんばかりに寄り添っては離れていく。不格好な魚たちも一緒に私と記憶の泡を眺めてゆらゆらと微睡んでいた。
ぱちん、と記憶の泡が弾ける。小学生の頃の私、泣き虫で変に正義感が強くてよくいじめられていたっけ……、特にいじめが酷かった小学校半ばでは長く伸ばしていた髪をバッサリ切って、強い私になるんだと意気込んで男の子みたいな強い「私」になろうとした。それからぱちん、ともう1つ。男の子みたいに強くなりたい「私」と女の子らしくありたい私とがせめぎあう正に思春期。ちょっと変わり者ばっかりで集まった数人のグループ。楽しい事も沢山あったけれど、最終的にはほとんどバラバラになってしまって強がったけど本当は凄く悲しかったっけ。誰かのせいには出来ないけれど、皆が皆自分自身の変化についていけなくていっぱいいっぱいだったんじゃないかと今は少しだけ納得もしている。ぱちん、高校の私。毎日部活部活で凄く辛かったな、先生も大嫌いだった。中学の時に付き合い始めた彼とは別々の高校になって、喧嘩もよくしたしたまに別れ話もしたりして、あっちもこっちも凄く忙しくて辛くていっぱいいっぱいだったな。もっと周りの人のことを考える気持ちの余裕があったらよかったのに。
ぱちん、ぱちんと記憶の泡が弾ける度に私はどんどん苦しくなっていく。いつもそうだ、思い出したくなくていつも心の奥底にしまっている記憶たちは忘れるなと言わんばかりに定期的に夢に出てきて私に忘れることを許してくれない。周りの不格好な魚たちは苦しくて潰れそうな私をただただ見つめて、苦しくて潰れそうで小さく丸くなる私の周りで微睡んでいる。苦しい、悲しい、辛い。もう今の生活が充実しているのかなんて疑問は持たないから、もう止めて、早く目が覚めて。今は、私、凄く凄く幸せなんだから……。
朝、いつもの目覚ましで目が覚めた。さて、どこから夢だったのかな。横にいる彼を起こさないようにそっとベッドから降りて朝食の支度をする。時刻は午前6時半、やけにすっきりとした頭で今日の朝食を作り始めた。
「今日はトーストと、目玉焼きと、ウインナーと……、昨日作ったオニオンスープ」
やはり流石に朝から手の込んだ物を作る気にはなれない。彼には申し訳ないが簡単にお腹の満たされる物で許してもらおう。キッチンに立つ前に居間のカーテンを開けて、ぐっと伸びをする。
トーストをグリルで焼きながらフライパンで目玉焼きとウインナーを焼いて、オニオンスープを温める。そして毎朝彼が好んで飲む珈琲を淹れて食卓に並べて、7時ぴったりになったらまだ暖かなベッドで決して可愛くはない寝息を立てている彼を起こしに行く。いつもよりちょっとだけ優しめに。
やはり寝起きの悪い彼は中々起きてくれないのだけど今日は何としても起きてもらう、もう朝食は出来てるんだから。掛布団とタオルケットを引っぺがし、まだ眠いのですがと言わんばかりに目を固く閉じる彼をぎゅっと抱きしめて頭をよしよしと撫でる。少しびっくりして目を薄く開けた彼に優しく声をかけて私はにっこり笑った。
「おはよう、朝ご飯出来てるよ。早く起きて一緒に食べよう」
寝ぼけながらも少し嬉しそうにしながら起き上がった彼に眼鏡を渡して、いつも通り一緒に朝食を食べる。
いつもの起床時間、いつもの朝食作り、いつもより少しだけ優しく彼を起こして、後は本当にいつも通りだ。
朝食を済ませた後は彼の身支度を眺めながら今日の予定を考える。裁縫、編物、ゲーム、ちょっと手の込んだ夕飯の仕込み、ガーデニング、家事、やる事はまあなくはない。だから、今日はやれる事、やりたい事からゆっくり自分のペースでしようかなと考えたりもしながら用意の済んだ彼に忘れ物はないか確認をして玄関まで見送りをした。実は婚約して同棲を始めてから見送りと出迎えはささやかな楽しみだったりする。
「いってらっしゃい、気を付けて。今日も頑張ってね」
パタン、と玄関の扉が閉まると私は踵を返してベッドにダイブした。今日はまずまったりするところから始めよう。ああ、今日も私は幸せだ。
「今日はトーストと、目玉焼きと、ウインナーと……、昨日作ったオニオンスープでいいかな」
流石に朝から手の込んだ物を作る気にはなれない。彼には申し訳ないが簡単にお腹の満たされる物で許してもらうとしよう。キッチンに立つ前に居間のカーテンを開けて、ぐっと伸びをする。やっぱりまだ眠たいがこればっかりは仕方がない。
トーストをグリルで焼きながらフライパンで目玉焼きとウインナーを焼いて、オニオンスープを温める。そして毎朝彼が好んで飲む珈琲を淹れて食卓に並べて、7時ぴったりになったらまだ暖かなベッドで決して可愛くはない寝息を立てている彼を起こしに行くまでが私の毎朝の仕事だ。
勿論寝起きの悪い彼は中々起きてくれないのだが。毎度格闘する事数分。痺れを切らして掛布団とタオルケットを引っぺがし、まだ眠いのですがと言わんばかりに目を固く閉じる彼を仕方がなく抱き起こそうとする。力は強い方だがやはり体格差という物はどうにもならず肩を掴んで引っ張り起こす形になるのだが。元々良くはない腰が悲鳴を上げているが、それでようやく起き上がった彼に眼鏡を渡してやっと朝食にありつける。
……ううん、でも何だかやっぱり違和感を感じる。特にこれが、という訳ではないけれど何となく気になるのだ。いつもの起床時間、いつもの朝食作り、いつも通り彼を起こして、本当にいつも通りなのだ。この謎の違和感以外は。
朝食を済ませた後は彼の身支度を眺めながら今日の予定を考える。裁縫、編物、ゲーム、ちょっと手の込んだ夕飯の仕込み、ガーデニング、家事、やる事はまあなくはない。ただ、独りぼっちで家にいる時間はやることがあっても中々に寂しいのだ。それでも数ヶ月前に婚約をした彼と同棲を始めて、大体毎日一緒に朝と夜のご飯を食べて、少し話をしたり、一緒に寝たり、充実はしているはずで。寧ろしていなくてはいけないのだと、そんな事を考えたりもしながら用意の済んだ彼に忘れ物はないか確認をして玄関まで見送りをした。
「いってらっしゃい、気を付けてね」
パタン、と玄関の扉が閉まると私は肩を落とした。今日もまた独りぼっちの日中がやって来たのだ。
朝食に使った食器を片付けて、すっかり冷めてしまった自分の分の珈琲を口に運ぶと何だか急に眠気がやって来た。ああ、まだ洗濯も、掃除も……やって、ないのに……。
――……ううん、誰かに揺さぶられてる気がする。確かに見送りの後玄関の鍵は閉めたはずなんだけど。
「もう、いつまで寝てるの。早く起きないと遅刻しちゃうわよ」
やけに聞き覚えのある声。それこそ10何年聞き続けた母の声だった。いや、でも私は今実家とは遠い場所に住んでいて、遅刻も何も仕事はこの間辞めたばかりで、さっき起きて朝食を食べて彼の見送りをして……、ああ、もう訳が分からない。取り敢えず起きよう。瞼を擦って身体を起こすとそこにはやっぱり見慣れた母がいて、何となく切なくなって思い切り抱きついた。久しぶりに抱きしめた母はやっぱり暖かかったが、聞こえてくるはずの心音はなかった。
「たまには帰ってきて顔を見せてよね。ママ、心配してるんだから」
ああ、やっぱりこれは夢だったんだ。私が寂しがっているから態々夢に出てきてくれたんだろうか、少し嬉しい。それから暫く夢の中の母とお茶を飲みながら話をしたりした。自分なりに一生懸命家事はしているという事、家に独りぼっちの時間は結構寂しいという事、趣味が増えたという事、療養の為に仕事を辞めた事が未だに気にかかるという事、お金の管理は結構大変だという事、色々な話をしたけれど母は微笑んで聞いてくれた。
長々とそうしているうちにまた眠気がやって来て、これで目が覚めるだろうと思った私は母に少しはにかんだように笑って見せて目を閉じた。
さて、これは一体どういう事だろうか。気持ちよく目覚めるはずだった私の身体は何故かバスの後部座席に座らせられて車の振動で揺られている。揺られている、気がするだけでやはり感覚はない。周りを見ると前に勤めていた会社でそれなりに関わりのあった人達にがっちり囲まれている。唯一役職なしの私はとんだ場違いだ、もう既に開放してほしい。別に何か話しかけてくる訳ではない、寧ろ周りで話している雰囲気は感じるが私には一切聞こえない、ただ、居心地の悪い空間に独りとりのこされているだけ。
もしかしたら私が拒絶しているのかもしれない、もう辞めた職場の人達、その人達との会話、触れ合い、その全て。かろうじて読み取れたのは。
「大丈夫、君なら出来るよ」
出来なかったから辞めたのに、まだ、私に出来るよなんて言うんですか。その励ましの言葉は私にとってとても残酷だった。
さっきまでの母との空間とは裏腹に急に恐怖を感じる。私にだけ聞こえていないであろう会話、聞こえない笑い声、ずっと続くバスの揺れ。その場から逃げ出そうと思った。立ち上がろうとしたその時強く両腕を掴まれた気がしてはっとして顔を上げると、皆が、見ていた。私を、満面の笑みで。辞めたって逃げられない、そう言われているようで吐き気を覚えた。ぐらりと視点が歪んで暗転する。やっとこの恐ろしい夢から覚められる、私はとても安堵して意識を飛ばした。
……またか、と私は思った。今度は深海で目が覚めた。
これは私がよく見る夢だ。微かな明かりしかない海の中で膝を抱えて揺蕩う私、また独りぼっち。周りにはふわふわと私の今までの記憶たちが浮かんでいて、思い出してくれと言わんばかりに寄り添っては離れていく。不格好な魚たちも一緒に私と記憶の泡を眺めてゆらゆらと微睡んでいた。
ぱちん、と記憶の泡が弾ける。小学生の頃の私、泣き虫で変に正義感が強くてよくいじめられていたっけ……、特にいじめが酷かった小学校半ばでは長く伸ばしていた髪をバッサリ切って、強い私になるんだと意気込んで男の子みたいな強い「私」になろうとした。それからぱちん、ともう1つ。男の子みたいに強くなりたい「私」と女の子らしくありたい私とがせめぎあう正に思春期。ちょっと変わり者ばっかりで集まった数人のグループ。楽しい事も沢山あったけれど、最終的にはほとんどバラバラになってしまって強がったけど本当は凄く悲しかったっけ。誰かのせいには出来ないけれど、皆が皆自分自身の変化についていけなくていっぱいいっぱいだったんじゃないかと今は少しだけ納得もしている。ぱちん、高校の私。毎日部活部活で凄く辛かったな、先生も大嫌いだった。中学の時に付き合い始めた彼とは別々の高校になって、喧嘩もよくしたしたまに別れ話もしたりして、あっちもこっちも凄く忙しくて辛くていっぱいいっぱいだったな。もっと周りの人のことを考える気持ちの余裕があったらよかったのに。
ぱちん、ぱちんと記憶の泡が弾ける度に私はどんどん苦しくなっていく。いつもそうだ、思い出したくなくていつも心の奥底にしまっている記憶たちは忘れるなと言わんばかりに定期的に夢に出てきて私に忘れることを許してくれない。周りの不格好な魚たちは苦しくて潰れそうな私をただただ見つめて、苦しくて潰れそうで小さく丸くなる私の周りで微睡んでいる。苦しい、悲しい、辛い。もう今の生活が充実しているのかなんて疑問は持たないから、もう止めて、早く目が覚めて。今は、私、凄く凄く幸せなんだから……。
朝、いつもの目覚ましで目が覚めた。さて、どこから夢だったのかな。横にいる彼を起こさないようにそっとベッドから降りて朝食の支度をする。時刻は午前6時半、やけにすっきりとした頭で今日の朝食を作り始めた。
「今日はトーストと、目玉焼きと、ウインナーと……、昨日作ったオニオンスープ」
やはり流石に朝から手の込んだ物を作る気にはなれない。彼には申し訳ないが簡単にお腹の満たされる物で許してもらおう。キッチンに立つ前に居間のカーテンを開けて、ぐっと伸びをする。
トーストをグリルで焼きながらフライパンで目玉焼きとウインナーを焼いて、オニオンスープを温める。そして毎朝彼が好んで飲む珈琲を淹れて食卓に並べて、7時ぴったりになったらまだ暖かなベッドで決して可愛くはない寝息を立てている彼を起こしに行く。いつもよりちょっとだけ優しめに。
やはり寝起きの悪い彼は中々起きてくれないのだけど今日は何としても起きてもらう、もう朝食は出来てるんだから。掛布団とタオルケットを引っぺがし、まだ眠いのですがと言わんばかりに目を固く閉じる彼をぎゅっと抱きしめて頭をよしよしと撫でる。少しびっくりして目を薄く開けた彼に優しく声をかけて私はにっこり笑った。
「おはよう、朝ご飯出来てるよ。早く起きて一緒に食べよう」
寝ぼけながらも少し嬉しそうにしながら起き上がった彼に眼鏡を渡して、いつも通り一緒に朝食を食べる。
いつもの起床時間、いつもの朝食作り、いつもより少しだけ優しく彼を起こして、後は本当にいつも通りだ。
朝食を済ませた後は彼の身支度を眺めながら今日の予定を考える。裁縫、編物、ゲーム、ちょっと手の込んだ夕飯の仕込み、ガーデニング、家事、やる事はまあなくはない。だから、今日はやれる事、やりたい事からゆっくり自分のペースでしようかなと考えたりもしながら用意の済んだ彼に忘れ物はないか確認をして玄関まで見送りをした。実は婚約して同棲を始めてから見送りと出迎えはささやかな楽しみだったりする。
「いってらっしゃい、気を付けて。今日も頑張ってね」
パタン、と玄関の扉が閉まると私は踵を返してベッドにダイブした。今日はまずまったりするところから始めよう。ああ、今日も私は幸せだ。
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