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四章 椿蓮
九十九話 王と魔王
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閉じた瞼に熱を感じる。半分閉じていた意識がぱっと戻り、それと同時に轟音が鼓膜を激しく叩いた。
目を開けるとすぐ側に誰かが立っていた。私に背を向けて、髪を揺らしながら。
どうしてーーー
「やめてよ……っ」
彼女が瓦礫を私の左腕からどかす。そして腰を持って抱え上げた。手が震えているのが分かる。しかし力強く支えていた。
「意識はっ…ありますか」
声がした。
私はそれに応える代わりに右手を伸ばし、メグリさんの襟を握った。
「逃げて…っ、なんで…!」
ぽたっと頬に冷たいものが落ちるのを感じ、そこで初めてメグリさんの左目の辺りが赤黒い血で覆われているのに気が付いた。傷口から血が輪郭を伝って流れて、私の頬に落ちている。
「良かったです」
「…っ! あなたは…」
よく見ると私を抱えている左手も傷だらけな事に気が付く。
「下ろして…それで早く逃げて! なんで…どうして来たのよ!」
全身の痛みを堪え、力を振り絞って声を出す。私の手も震えていた。メグリさんの傷口が目に入る度にギリギリと喉が痛む。
「まだ…」
メグリさんの声と同時に、また、頬に冷たいものが落ちた。
そしてメグリさんを見た途端、全ての感覚が一瞬ふっと消えたように感じた。
視界がさっきよりクリアになる。痛みも引いてきた。私の左手の傷も消えていた。暗くなってきた空の下でもよく見えるその顔は、初めて対面した時とは大きく変わっていた。
「…まだ、こんな状況になってもそんな事言ってるの…?」
私の目をしっかりと見てメグリさんが小さく口を動かし、言った。
「こんな、死んじゃうかもしれない状況でまだ、逃げろって言うのっ!!?」
「えっ…」
「助けを求めてよ! 嘘を…つかないでよ!!」
「自分の事も少しは考えて…ください」
魔王軍の鉄則である『負傷した場合速やかに退く』
何よりも命を優先しろと、クロメが着任後すぐに作った掟。
しかし私が何よりもそれを遵守出来ていない。とてもメグリさんに言える立場ではない。
「それでも……」
全滅した地下の者達の事が頭に浮かぶと同時に、これまで考えるのを抑えていた、今は亡き者達の顔が思い浮かぶ。
「生きていて…ほしかった……」
知ってる人が、大切な人が死ぬのはやっぱり嫌だ。どうしようもなく不安になる。今日は何人死んだ? 私の指揮で本来何人が生きていられた?
とめどなく溢れる感情は抑えきれず、魔王になって初めて、泣いた。
目を開けるとすぐ側に誰かが立っていた。私に背を向けて、髪を揺らしながら。
どうしてーーー
「やめてよ……っ」
彼女が瓦礫を私の左腕からどかす。そして腰を持って抱え上げた。手が震えているのが分かる。しかし力強く支えていた。
「意識はっ…ありますか」
声がした。
私はそれに応える代わりに右手を伸ばし、メグリさんの襟を握った。
「逃げて…っ、なんで…!」
ぽたっと頬に冷たいものが落ちるのを感じ、そこで初めてメグリさんの左目の辺りが赤黒い血で覆われているのに気が付いた。傷口から血が輪郭を伝って流れて、私の頬に落ちている。
「良かったです」
「…っ! あなたは…」
よく見ると私を抱えている左手も傷だらけな事に気が付く。
「下ろして…それで早く逃げて! なんで…どうして来たのよ!」
全身の痛みを堪え、力を振り絞って声を出す。私の手も震えていた。メグリさんの傷口が目に入る度にギリギリと喉が痛む。
「まだ…」
メグリさんの声と同時に、また、頬に冷たいものが落ちた。
そしてメグリさんを見た途端、全ての感覚が一瞬ふっと消えたように感じた。
視界がさっきよりクリアになる。痛みも引いてきた。私の左手の傷も消えていた。暗くなってきた空の下でもよく見えるその顔は、初めて対面した時とは大きく変わっていた。
「…まだ、こんな状況になってもそんな事言ってるの…?」
私の目をしっかりと見てメグリさんが小さく口を動かし、言った。
「こんな、死んじゃうかもしれない状況でまだ、逃げろって言うのっ!!?」
「えっ…」
「助けを求めてよ! 嘘を…つかないでよ!!」
「自分の事も少しは考えて…ください」
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しかし私が何よりもそれを遵守出来ていない。とてもメグリさんに言える立場ではない。
「それでも……」
全滅した地下の者達の事が頭に浮かぶと同時に、これまで考えるのを抑えていた、今は亡き者達の顔が思い浮かぶ。
「生きていて…ほしかった……」
知ってる人が、大切な人が死ぬのはやっぱり嫌だ。どうしようもなく不安になる。今日は何人死んだ? 私の指揮で本来何人が生きていられた?
とめどなく溢れる感情は抑えきれず、魔王になって初めて、泣いた。
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