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四章 椿蓮
百十一話 楽園と呼ばれる世界で
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「兄ちゃん!?」
上半身を強く引っ張られ、後ろへ転がった。
地面に身体が倒れた衝撃で胸の傷がギリッと痛み、呻き声を上げた。
「どうしたの!? 危ないよ! ってケガしてるし……うわっ、血がやばいっ!」
上半身を起こし、慌てた声を出している人間を見た。その人が誰か理解するのに時間は必要無かった。大きく目を見開く。
「…リン…?」
いや、違う。彼女じゃない。
少し成長していて、髪も長い。それにこの世界にいるのは──
「…唯」
「なに?」
事故で死んだはずの唯が、目の前にいる。見間違うはずがない。彼女はこの世界で生きていた時、何よりも大事だった人だから。
「どうして、生きて…」
「どうしてって、兄ちゃんこそなんで落ちようとしてたの!? 自殺とかだったら許さないし!」
答えないと。そう思って頭を使おうとすると、ごちゃごちゃになって言葉が出てこない。
どうしても、言葉が出てこない──
「兄ちゃん!!」
唯の声ではっと我に返る。混沌としていた頭が真っ白になった。目の前には唯の顔がある。怒っているのか眉間に皺を寄せて。
「もう、とりあえず救急車…!! パパとママにも言わないと…!」
ミストの言葉がまた頭の中で響いた。
『生きてれば…分かる。この先いつかは分からない。まだ先かも知れないが、すぐかも知れない。……いいや、必ずすぐに分かる』
生きていれば、すぐに分かる。この世界が楽園だと。
そしてあの術は楽園へ行く為の物だったのだと。
「…その通りだよ」
本当に、ミストの言った通りだ。
ここは本当に──
崖の方を振り返った。月が水面で揺れている。
あのまま落ちていたらどうなっていたのだろう。あの世界に行っていたのか、そのまま死んでいたのか。
飛び降りる寸前、崖の下にあの世界が見えた気がした。家と城、そしてメグリやクルト、リン。
だがもうそれは見えない。
「ここは危ない。…移動しよう」
「行ったのは兄ちゃんでしょうが…」
唯は俺を支えて、2人で歩き出す。心は微かに後ろに引かれるが、それを断ち切るように足を強く踏み出す。
「…ええっ、まじで兄ちゃんどうしたの」
今の表情がどんなのか、溢れる感情が多すぎて想像もつかない。ぼやけた視界からは、唯の表情も見て取れなかった。
上半身を強く引っ張られ、後ろへ転がった。
地面に身体が倒れた衝撃で胸の傷がギリッと痛み、呻き声を上げた。
「どうしたの!? 危ないよ! ってケガしてるし……うわっ、血がやばいっ!」
上半身を起こし、慌てた声を出している人間を見た。その人が誰か理解するのに時間は必要無かった。大きく目を見開く。
「…リン…?」
いや、違う。彼女じゃない。
少し成長していて、髪も長い。それにこの世界にいるのは──
「…唯」
「なに?」
事故で死んだはずの唯が、目の前にいる。見間違うはずがない。彼女はこの世界で生きていた時、何よりも大事だった人だから。
「どうして、生きて…」
「どうしてって、兄ちゃんこそなんで落ちようとしてたの!? 自殺とかだったら許さないし!」
答えないと。そう思って頭を使おうとすると、ごちゃごちゃになって言葉が出てこない。
どうしても、言葉が出てこない──
「兄ちゃん!!」
唯の声ではっと我に返る。混沌としていた頭が真っ白になった。目の前には唯の顔がある。怒っているのか眉間に皺を寄せて。
「もう、とりあえず救急車…!! パパとママにも言わないと…!」
ミストの言葉がまた頭の中で響いた。
『生きてれば…分かる。この先いつかは分からない。まだ先かも知れないが、すぐかも知れない。……いいや、必ずすぐに分かる』
生きていれば、すぐに分かる。この世界が楽園だと。
そしてあの術は楽園へ行く為の物だったのだと。
「…その通りだよ」
本当に、ミストの言った通りだ。
ここは本当に──
崖の方を振り返った。月が水面で揺れている。
あのまま落ちていたらどうなっていたのだろう。あの世界に行っていたのか、そのまま死んでいたのか。
飛び降りる寸前、崖の下にあの世界が見えた気がした。家と城、そしてメグリやクルト、リン。
だがもうそれは見えない。
「ここは危ない。…移動しよう」
「行ったのは兄ちゃんでしょうが…」
唯は俺を支えて、2人で歩き出す。心は微かに後ろに引かれるが、それを断ち切るように足を強く踏み出す。
「…ええっ、まじで兄ちゃんどうしたの」
今の表情がどんなのか、溢れる感情が多すぎて想像もつかない。ぼやけた視界からは、唯の表情も見て取れなかった。
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