私とビリケンさんの物語

出逢い

笑わなくても福来たる

鏡のような水面に桜の花びらが1枚ヒラヒラと落ちて波紋を描いた。
波紋はどんどん広がって水面にうつる一人の少女の顔を揺らした。

「はぁ……」

少女は大きなため息をついた。
この少女がため息をつく理由は一年以上付き合っている彼氏に原因がある。
女癖がすこぶる悪いのだ。
付き合っている彼女がいるにも関わらず別の女と寝いキャバクラには行き風俗には行き…挙句の果てにギャンブルもするダメ男だった。
この少女、中澤愛心(あこ)がこのダメ男と別れたい理由は他にもあった。
暴力だ。日常受けた暴力で愛されるという事が分からなくなってしまったからだった。

愛されるとはなんなのか。
恋人とは一体自分にとって必要な人間なのだろうか。色々なことが頭の中を駆け巡り頭がパンクしてしまったのかは分からないが愛心は彼氏とのトーク画面に長々と文章を打ち込んでいた。


「そ、送信…押さなきゃ…」
送信と書かれたボタンを押そうと試みるが手か震えカタカタと爪が画面に当たり上手く押せない。

「送…しん」
ポチ。

やっとの思いで送信ボタンを押せた頃には額が汗でびっしょりと濡れていた。
初めて彼に反抗することが出来たのだ。
でも怖くて怖くてたまらない。

ピロン。
1分もせずに通知がなる。彼からだった。
『あっそ。お前もう用済みだしいいよ。』
『さよなら。』
と怖くて怖くてたまらなかった人からきた別れ話の返事は2言で終わった。
肩から力が抜けぶらんと携帯を持った手が下に垂れ下がった。と同時に1粒と2粒と大粒の涙が溢れた。
どんなに暴力をうけても罵声をあびせられてもどこかは信じていた。付き合った当初のように優しい人に戻るかもしれない…元々この人はこんな人じゃない。信じていた分余計に悲しかった。私はもう必要ない…そう思うと涙が溢れた。

その日は1日中泣いた。