ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ

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第二章

44話 打ち上げ

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 その後、エンシェントドラゴンの襲来により、馬車が逃げてしまっていたので、シン一行は近くの村まで徒歩で移動して、何とか街まで帰還した。

 クロスムーンの人達はファイターの少年の死が余程堪えたようで、シン達が何も言わずとも自分達から進んでギルドへ自首をした。
 後日、何かしらの処罰が下されるのだが、あまりの落ち込みっぷりに同情したガウル達が減刑を望むことを申し立てたことや、未遂だったこともあって、重い罰は下されない見込みである。

 イゴルドについては、今回の件で指名手配されることとなった。
 あれからシン達の前には姿を一切見ていないので生死は不明だが、生きているなら発見され次第即刻逮捕となるだろう。


 ギルドやら衛兵詰所やらで、シン達が事後処理を終えた時には夜になっていた。
 それは出発してから日を跨いでのことであった。

 普通なら帰って休むところであるが、シン以外のメンバーは興奮冷めやらぬ状態であった為、そのまま酒場で打ち上げをすることにした。

「いやぁ、まさかエンシェントドラゴンを倒すことになるとはな。自分でも未だに倒せたことが信じられん」

 オルトライム行きつけの酒場で、シン達は酒や軽食をとりながら盛り上がる。

「種類は違ったけど、これで私もドラゴンキラーなんだよね?」
「モコ、ドラゴンキラーどころじゃないぞ。伝説のモンスターを倒したのだから、歴史に刻む英雄と呼ばれてもおかしくない」
「英雄……」

 饒舌に喋るガウルの話をモコはポカーンとした表情で聞く。
 エンシェントドラゴンについてはモコ達はあまり詳しく知らなかった為、いまいち実感が薄かった。

 フィールドに出現するモンスターの中では最強のエンシェントドラゴン。
 出てくることは極々稀でも、空を自由に移動できることから、その長い歴史の中で、度々現れては人々に、その凶悪さを知らしめていた。
 交戦した記録は多くあるものの、ルシフェルと同等の強さのモンスターを簡単に倒せるはずもなく、これまで一度も討伐された歴史がないことから、倒すことが不可能とまで言われていた。
 その為、世間からすると、エンシェントドラゴン討伐は天獄の大迷宮クリアに匹敵する偉業であった。


 アンジェラが酒を飲みながら言う。

「上の方のダンジョンに行ってることは知ってたが、そんなもんまで倒しちまうとね。お前ら成長し過ぎだろ」
「シンが指導してくれたからな。ただ、今回、倒せたのはシンの立ち回りによるものが大きかったのも事実。これからも精進しなければならない」
「やっぱりシンかー。お前は、うちのクランで何処まで名を上げるつもりだ? 伝説のクランとか呼ばれるようになっちまったら、あたしは戻らねーぞ。責任取って、マスターやれよな」

 アンジェラは冗談っぽくシンを小突く。

「それはご勘弁を。というか、何でアンジェラさんが、ここにいるんです?」

 先程から、アンジェラは当たり前のように混じって飲み食いをしていた。
 誰かが呼んだ訳でもなく、自然に紛れ込んでいたので、シンはいつ入ってきたのか分からなかった。

「自分のクランの打ち上げに居て悪いか。休業してても飲み会は全参加だから、そこんとこ、よろしく」
「はぁ……」

 どんな休業だよと思うシンだが、飲み会だけに参加したからと言って、何か支障がある訳でもないので、文句は言わなかった。

「しかし、お前マジですげーな。ただ者じゃないことは分かっていたけど、これ程とは思わなかった。しかも、モコまでエンシェントドラゴンと戦えるレベルに引き上げたって言うじゃねーか。一体、どんな手品を使ったんだ?」
「手品も何も普通に指導しただけですよ。魔法やスキルへの理解と反復練習によるトレーニング。後は状況に応じた対策と立ち回りをすれば、何とでも戦えます」
「ふーん。なら、あたしにも指導してくれよ」
「……攻略への参加はしないのでは?」
「参加はしないが、指導だけー」
「それはちょっと……」

 アンジェラは簡単に言うが、他人に教えるのも楽ではない。
 攻略に使えないのに指導をするのは、負担が増えるだけのことである。
 なるべく早くデバックルームに辿り着きたいと思っているシンは、そのような無駄なことに労力は使いたくなかった。
 だが、難色を示したシンにアンジェラは肩に腕を回して絡みだす。

「何だよ、ケチケチするなよ。あたしのクラン使わせてやってるだろ。ちょっとくらい見返り寄越してくれたって、いいじゃねーか」

 シンはあからさまに嫌そうな顔をするが、アンジェラは酔っぱらっていて気付かない。
 とはいえ、無償でクランを借りているのも事実である為、そう言われてしまったらシンも無下にはできなかった。

「……空いている時になら」
「よっしゃ。約束だからな」

 約束を取り付けたことでアンジェラは絡ませていた腕を離した。
 漸く解放されたシンは、また絡まれないように、さりげなく席を移動して離れる。

 移動した先が偶々アリカの隣になるが、アリカは誰かと話すこともせず、神妙な表情で料理をつついていた。

「どうした? 気分でも悪くなったか?」
「ううん。ちょっと考え事してただけ。……前に、天獄の大迷宮攻略するって言ってたじゃない。あの時、全然本気にしていなかったけど、昨日のことで急に実感が沸いてきちゃって」

 それまでシンは夢として語っているとアリカは思っていた。
 シンの指導による効果は目を見張るものであったが、それでも天獄の大迷宮へ挑めるほどではないと思っていたのだ。
 しかし、伝説のモンスターと呼ばれるエンシェントドラゴンを倒したことで、自分達の力が、どれほどのものであるか気付いた。
 そして漸く今になって、シンが初めから本気で言っていたことを理解したのだ。

「冗談だと思ってたのか? まぁ別にいいけど、近いうちに天獄の大迷宮への攻略を始める予定だから覚悟はしておけよ」

 シンがそう言うと、アリカと、そして近くで聞き耳を立てていたモコが驚く。

「もう!? 嘘でしょ!?」
「は、早すぎじゃないですか? まだ勉強、全然途中ですよ」

「本当は、もうちょっと鍛えてから行こうと思ってたけど、中ボスのルシフェルと同等のエンシェントドラゴンを倒せちゃったからね。もう普通に行けるっしょ」

 アリカ達は、まだまだ成長途中だったが、既に戦力としては天獄の大迷宮へ挑める水準にまでなっていた。
 昨日、倒したエンシェントドラゴンを素材とした装備も作るので、より安全に攻略することができる見通しである。

「あ、それと今、気が付いたけど、二人とも、そろそろクラスチェンジできるんじゃない?」
「「ええー!?」」
「昨日の戦いで見た感じ、俺の見立てでは、もう条件を満たしている。明日にでも教会に検査しに行ったら?」

 シンが教会へ行くことを勧めるが、二人は驚いた表情のまま、何も反応を示さない。
 立て続けに驚かされて、頭が真っ白になっていたのだった。


「ねぇねぇ、あたしはあたしはー?」

 そこでミイが話に入ってくる。

「普通に、まだだけど? ミイはこの前、入ったばかりだろ。アリカみたいに勤勉ならまだしも、多少、物覚えが良い程度じゃ、そんなに早くはクラスチェンジできないから」
「ぶー、二人だけ狡いー」

 ミイは文句を垂れる。
 どうしようもないと放置しようと思ったシンだが、ふと考える。

 ミイは上級クラスの希望が特になかったので、シンが攻撃能力が高いアサシンを目指させることにした。
 アサシンの条件は一定以上の筋力と敏捷、そして討伐ポイント。あと攻撃スキルの熟練度である。
 その中で一番大変な討伐ポイントはエンシェントドラゴンで既に満たされていた。
 あとは基礎能力と攻撃スキル熟練度であるが、ミイは物覚えが良く、元のスペックも低くない為、集中的に鍛えれば、そんなに時間をかけずに条件を満たすことが出来そうであった。
 当然のことながら、ミイもクラスチェンジしてくれた方が、戦力も上がって攻略は、より楽になる。

「そんなに早くクラスチェンジしたいか?」
「そりゃ勿論だよー」
「じゃあ強化特訓するか。集中的に鍛えれば、数日でクラスチェンジできるようになるだろうから」
「集中的に? えーっと……やっぱりいいかな」

 ミイは、どんな目に遭わされるのか感づいて遠慮する。
 指導に関してシンはスパルタだった為、大変な目に遭う気しかしなかった。
 だが、シンの頭の中では既に鍛え上げるつもりで予定を組んでしまっていた。

「遠慮するな。付きっきりで指導してやる。人気のないダンジョンでデートといこうじゃないか」
「そんなデート、嫌だー」

 ミイの悲鳴は酒場の喧騒に、かき消された。
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