ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ

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後日談

72話 小さな英雄

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「おらああああ!」

 ライルは全ての力を振り絞って、一気に攻める。

 盗賊団のボスであるカズオを倒すことができれば、盗賊団は瓦解する。
 村を守り切る為には、何としても倒さねばならなかった。

 ライルの猛攻をカズオは防ぎきれず、手足にダメージを受けるが、全く怯まずに反撃を行う。

「くっ」

 カズオの武器である大斧は一撃の攻撃が重く、直撃を受ければ致命傷に。
 防御しても、大きな衝撃をその身に受けることになる。

「この世界はいいよな。魔法やスキルなんてものがあるんだからよ。怪我しても、すぐに治せちまうし、痛みを薄れさせることだって出来る。おかげで無茶できるってもんよ」

 カズオは、どれだけ攻撃を受けても、余裕の表情をしていた。


 交戦を続けるライルに、焦りが見え始める。
 カズオは防御面を無視した戦闘スタイルであるが、急所への攻撃だけは的確に防いでいた。
 盗賊団のボスだけあって、腕前は他の盗賊達とは比べ物にならない。
 しかも、これまで外で見ていただけだった為、疲労もダメージも殆どない状態であった。

 反対にライルは疲労もダメージも多く、重い攻撃でいつやられても、おかしくない状態である。
 極めて厳しい状況であった。

「おら、どうした。もう終わりか?」

 カズオの猛攻により、ライルはあからさまに疲弊していた。

(絶対に倒す……。倒せなくても、他の人達が倒せるくらいにはダメージを与えねえと……)

 カズオは、村人達が相手に出来る強さではない。
 ここでライルが倒れたら、防衛が崩壊することは目に見えていた。

 どれだけ疲弊していても、ライルは攻撃の手を緩めることなく、命を削る勢いで猛攻を続ける。
 しかし、それも長くは続かなかった。


 カズオの反撃を受けた時、その手に握っていた剣が折れる。

「しまっ」

 剣を砕いた大斧は勢いを止めずライルの身体を切り裂く。
 ライルは身体から血を吹き出し、後ろに倒れた。

 咄嗟に、後ろに下がって傷は浅くさせたものの、肩から腹にかけ大きく切り裂かれ、ライルは一撃で重傷となっていた。


 息絶え絶えのライルに向けて、カズオが大斧を振り上げる。

「じゃあな」

 大斧を振り下ろそうとしたその時、カズオの首筋を矢が掠めた。
 カズオ動きを止め、首筋を触る。
 付着した血を見て、矢が飛んできた方向に顔を向ける。
 そこには倒れた状態で弓を向けるリュートの姿があった。

「糞ガキがっ」

 危うく大ダメージを受けるところであったカズオは激昂する。
 死に体のライルを放置して、リュートの方へと足を踏み出す。

「や、めろ……」

 リュートの方へと向かおうとするカズオを見たライルは、力を振り絞って立ち上がる。
 そして後ろから、その背中に飛び掛かった。

 必死に、しがみついて、羽交い絞めにしようとする。

「鬱陶しい。この死にぞこないめ」

 カズオはライルを振り払い、大斧で薙ぎ倒す。
 密着していた為、刃は当たらなかったが太い柄で強く打たれる。

 ライルが地に倒したカズオは、再びリュートへ向けて歩み出した。

「待、て……」

 ライルは追おうとするが、その身体は動かない。
 重傷の身体を強打され、既に瀕死状態であった。
 どれだけ動かそうとしても動かない身体に、ライルは朦朧としながらも悔しさで歯を噛み締める。

(リュート……また俺は守れないのか……)


 諦めかけたその時、何処からともなく飛んできた剣が、ライルの目の前に突き刺さった。

 直後、ライルは自分の身体が軽くなった感覚がする。
 それを受け、身体を起こそうと力を込めた。

 すっと立ち上がったライルは、前に刺さっている剣を握る。
 その剣を振り上げ、カズオの背中へ向けて駆け出した。

「うおおおおお」

 その気配に気づき、カズオが振り向く。

「!」

 鬼の形相で迫りくるライルを見たカズオは、咄嗟に大斧を前に出して防御態勢を取る。
 駆け寄ったライルが、カズオに向けて剣を振り下ろした。
 大斧がそれを受け止めるが、次の瞬間受けた部分が砕ける。

「なっ」

 剣は大斧を砕いた勢いのままカズオの身体も両断する。
 真っ二つにされたカズオは反応する間もなく絶命した。


 カズオの死を確認したライルは、すぐさま剣を振り上げ、声を上げる。

「ボスを討ち取ったぞー!」

 その大声が、周りの人々の注目を集める。

「ボスがやられた!? たっ、退却だー!」

 カズオの死を知った盗賊達は慌てて逃げ出し始める。


 逃げ始めた盗賊達を確認したライルは、力尽きるように後ろに倒れた。
 そして横になりながら、リュートへと声をかける。

「リュート、生きてるか?」
「うん」

 すぐに返ってきた返事に、ライルは安堵する。
 村を守り切ることが出来たのだ。

(これで少しは、あいつらに顔向けできるようになったかな……)


――――


 その様子がシンの部屋のモニタに映っていた。

「介入したのか」
「あれでもアリカとミイの幼馴染だからな。死なれてもらっちゃ、後味が悪い」
「ふむ……」

 特に何も言葉を返さないシーゲルだが、その表情は思わしくなかった。

「何か不味かったか?」
「いや……問題はないよ。じゃあ今日は、これでお開きにしよう。また今度」
「うん? ああ、またな」

 通信が切れ、モニタからシーゲルの姿が消えた。



 世界の外側。
 真っ白の空間にシーゲルは居た。
 前にある球体からは、ウィステリアの世界が見える。

「もう少し泳がせておきたかったけど……」

 世界の球体に手を翳すと、一粒の光が出てくる。
 その光がシーゲルの指に触れた瞬間、弾けるように砕け散った。

「やっぱり、紛い物の魂か。これはもう完全にバレちゃってるな」

 砕け散った光、カズオの魂は本物ではなく、意識を複写した紛い物だった。

「信也君の魂を無断で持ってきたことに怒ってるんだろうな。でも、お願いしたところで許可なんてくれなかっただろうし……」

 人の魂は輪廻を回し、生と死を繰り返す。
 循環されるその流れで世界を活性化させる為、神にとって魂は一つの資産だった。
 その魂を勝手に持ち出しては、神同士であっても怒りを買うことは必須。
 シーゲルはシンが元居た世界の神に目をつけられていた。

 カズオは、その神から送り込まれた刺客だったのだ。

「どうしたものかな……。向こうが諦めてくれたらいいけど、最悪、世界同士の戦争になるかも」

 シーゲルは不安げな表情を見せるが、振り払うように頭を振る。

「やってやろうじゃないか。信也君は僕のただ一人の友達だ。どんなことになろうとも手放したりはしない」
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