【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

文字の大きさ
155 / 325
第三章

第148話 機械軍、参戦

しおりを挟む
ユウリナの機械軍は到着するなり凄まじい戦果を見せた。

押されていたマルヴァジア軍の場所に到達するや否や、

たった200名ほどで、あの手強い牙亀族を蹴散らしている。

今までの戦いで手足を無くし、帰国していた兵士たちが、

水を得た魚のように暴れ、わずかな時間で戦況は逆転した。

足が機械化された兵士は噴射システムを駆使し、

とてつもない威力の蹴りを、まるでブレイクダンスのように繰り出し、

一撃で牙亀族を吹っ飛ばす。

腕を機械化された兵は人間離れしたパワーを活かし素手で戦ったり、

ワイヤーを撃ち出す者、掌から衝撃波を出す者、

腕を4本に増やし四刀流で戦う者など、

とにかく圧倒的だった。


混戦の中、中央付近で戦っていた機械化兵が数人宙に舞った。

戦闘に参加していたユウリナの視界に、その犯人が表示される。

「【ニカゼ軍副官、ヘルツォーク】……狼人族ね」

朱色の毛におおわれたヘルツォークは既に〝狂戦士化〟していた。

『ユウリナ、そっちに〝狂戦士化〟した獣人がいるぞ!』

『分かっテるわオスカー。一度ベミーにやられたから対策は万全ヨ』

すでにヘルツォークの前まで移動していたユウリナは手足を倍に増やし、

臨戦態勢だ。

機械化兵を目にも止まらぬ速さで斬り倒したヘルツォークは、

ユウリナに焦点を合わせた。

「ああ珍しや……機械人か。昔シャガルムのダンジョンで何体も殺したな……」

自我を失っていない。

体が巨大化して湯気も出ているが、敵の獣人は極めて冷静だった。

「……それは保守機械ね。私とは種類が違うワ。

あなたはセージ砂漠に住ㇺ獣人族ね。

昔、あなたのお仲間に会っタことがあるわ」

「いつの話だ?」

「何百年も前の事ヨ」

「金色の化物め……」

二人はその場から消え、中央で激突した。

ユウリナは十分警戒していたが、

ヘルツォークの剣によって腕を一本斬り落とされた。

「あら、やっぱり速イわね」

常人では見ることも出来ない速さで二人は攻防を続ける。

周りの兵は敵味方関係なく、巻き込まれまいと距離を取った。

「随分息が上がってるワね。

〝狂戦士化〟は命を縮めるんでしょ?」

「……お前に関係なかろう。

そもそも俺はこの戦争で死を覚悟している!」

叫んだヘルツォークの腕をユウリナが掴んだ。

「ごめんナさい、余計なお世話ね」

ユウリナの手から、ボディの表面に擬態化させていた液体金属が、

どろりと移動する。

それはヘルツォークの体に素早く移り硬質化、行動を制限した。

「な、なんだこれは……!」

〝狂戦士化〟の力でも破壊できない。

「死を覚悟してルなら、何されてもいいわヨね?」

ユウリナは腕を変形させ、ヘルツォークの鼻先にガスを噴射した。

「うっ……」

ヘルツォークは強制的に〝狂戦士化〟を解かれ、意識を失った。





『ベミー、右に展開する牙亀族の軍に一際身体の大きい奴がいる。

将軍だ、仕留められるか?』

ベミーはオスカーの通信を聞いて視界のマップを見た。

赤い光点のウィンドウが開き【牙亀族将軍、エイファ】と表示される。

『了解、任せろ! 今から向かうよ』

ベミーは軍を率いて戦線を離脱、

大きく迂回してエイファの軍勢に突っ込んだ。

力は同等、しかし速さは獣人に軍配が上がる。

ベミーは特に力のある牛人兵を前に配置、

一直線に敵将エイファの元に進軍した。

敵兵を深くまで押し込んだ仲間たちの背中から、

ベミーは高く飛んだ。

空中で槍を構え、エイファの姿を捉えると力いっぱい投げる。

一般兵の1,5倍はあろうかという巨体のエイファは、

これまた大きな盾で難なく槍を防ぐ。

着地したベミーは素早く駆け、

体重を乗っけた拳をエイファの盾に叩き込んだ。

ガンッ!!! と派手な音と共に鉄の盾が曲がった。

「お前……軍団長のベミー・リガリオンだな」

「お、俺のこと知ってんの?」

ベミーは嬉しそうに笑って一歩下がった。

エイファはひげや腕に付けた装飾品を鳴らしながら盾を捨て、

拳に手甲をはめた。

「格闘が好きなら付き合ってやる」

ひげは白いが老人ではない。

人間でいうなら40代後半くらいだろうか。

体中の傷が歴戦の猛者だと語っていた。

「お前、面白そうだな」

ベミーは果敢に攻め込んだ。

圧倒的な速さで手数に任せて猛攻を仕掛ける。

エイファも中々の手練れで、

そつなくベミーの攻撃を防ぐが全ては受けきれない。

しかし鎧と固い表皮であまりダメージは無さそうだった。

反対に時折飛んでくる、手甲をはめた強烈な拳に苦しめられた。

一撃が当たるたびにベミーは身体を持っていかれる。

「っぐう……やるなお前」

顔の半分を血で染めたベミーは身体から湯気を出し始めた。

すぐに何をするのか察知したエイファは距離を取り四つん這いになる。

甲羅を使った最強の防御型だ。

狂暴な顔になったベミーはしかし、急に胸を掴んでその場に崩れ落ちた。

「うぅ……はぁはぁ……痛っ……」

狂戦士化に失敗したベミーは苦しそうに息を荒げる。

異変を察したエイファは防御の陣を解き、

好機とばかりにベミーに襲い掛かった。

強烈な破壊力を持つ拳がベミーに襲い掛かる寸前、

大型の剣が手甲に当たり火花を散らす。

「そこまでだ」

エイファはただならぬ殺気を感じ、慌てて後ろへ飛びのいた。

「お前は……」

「ここからは俺の相手をしてくれよ」

筋骨隆々の大男は返り血で真っ赤に染まった甲冑を光らせ、ニタリと笑った。

傍らの白毛竜は凶悪な牙を見せ威嚇する。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

処理中です...