【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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最終章 大黒腐編

第299話 ニ十一回目の夢

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『〝ロメオ1〟から司令部。



39階は異常なし』



『了解。引き続き索敵を続けろ』



タワー内部に【人型キケイ】が入り込んだ、



という情報が上がってきたのは45分ほど前だ。



僕たち含め複数のチームが、



タワー内を探し回っていた。



外は襲ってきたワーマーの群れで溢れていた。



防衛線はどうなっているのか、



情報が錯綜して混乱しているが、



今のところ、



タワー内部には入ってきていないとの事だ。



その時、バンっと大きな音と共に電気が落ちた。



『あら、ケーブル切断か?』



『もしくはソーラーパネルがやられたか……』



秋人とかぐやは好き勝手言っている。



僕らは3人ともⅯ4カービンのライトをつけた。



ちなみに飛鳥は置いてきた。



打たれた薬は完全に抜けていないし、腹の傷もある。



何より、もう危険なところへは行かせられない。



『こちら〝アルファ2〟



42階の住民が虐殺されてる』



『〝ゴルフ1〟41階も同じだ』



『こちら〝キロ1〟44階もひどいありさまだ。



この辺りにいるぞ』



「聞いたか? 行こう」



僕らは非常階段から上階を目指した。



時折、他局員や一般住民とすれ違う。



「避難しろ! 早く!」



秋人が声を上げる。



『〝イプシロン2〟から全隊。



目標を発見。49階だ。



応援を頼む』



『〝ロメオ1〟から〝イプシロン2〟



一隊では無理だ。



まだ仕掛けるな』



東京遠征時の光景が頭を掠める。



人型キケイの動きは異常だ。



この狭い室内で、更に暗闇では、



厳しい戦いになるだろう。



「49階ってかなり上だな」



かぐやは絶望の口調だ。



既に数階は登ったが、



比例して息も上がってくる。



「ていうか予備電源は?



何でずっと暗いままだよ」



秋人は機嫌が悪い。



「僕も知らないよ。



無理やり都市機能を存続させてるんだから、



上手くいかない部分もあるでしょうよ」



他の数隊も階段で合流した。



「あ、木崎ウルナ……ちゃん?」



水着写真集も出してる有名人だ。



ということは〝ビクター2〟か。



「はい……え?



〝ロメオ1〟の方ですか?



すごい、インビジブルチームだ」



驚いた様子の木崎の声に、



秋人は苦笑した。



「ほんとにそう呼ばれてるんだな」



話している間に目標の49階にたどり着いた。









かぐやと秋人がドアを静かに開け、



素早くクリアリングする。



そこはトレーニングスタジオだった。



僕の後にも3隊が続いて突入する。



全員に緊張が走る。



慎重な足取りで、



物音をたてないように注意しながら進む。



15人分のライトが室内を照らす。



そこには30人ほどの死体が、



所せましと転がっていた。



ほとんどは避難した一般住民だが、



保安局員もいた。



肩の腕章は〝イプシロン2〟。



腸が飛び出て、頭が無かったり、



腕だけが転がっていたり、



とても直視できる状況ではなかった。



壁や天井には無数の銃弾の後や、



おびただしい血の跡があった。



割れて垂れ下がった蛍光灯が、



キイキイと音を立てている。



「ひどいな……」



秋人が呟いたその時、



3メートルほど前方の天井が急に崩れた。



粉塵が舞う。



「散開して!」



全員のライトに照らされたのは……



人型のキケイだった。



天井から現れた人型キケイは着地すると、



すぐさま向かってきた。



奴にとっては一歩で届く距離だ。



全員が銃を構えるが、間に合わない。



奴の爪が僕の目前に迫る、その時だった。



その部屋全体を揺さぶるような轟音が響いたと同時に、



奴の右足が吹っ飛んだ。    



何が起きた?



人型キケイ自身も、



何が起きたが分からない様子だった。



奴が片足だけで立ち上がろうともがいていると、



そこに2回立て続けに轟音が鳴り響いた。



今度は両腕が吹っ飛んだ。



奴は痛みを感じるのか、奇声を発し続けている。



ノイズの様な、



とても長くは聞いていられないような不愉快な声だ。



僕達は全員固まってしまった。



やがてもう一度轟音が轟き、



人型キケイの頭が掻き消えた。



なんだ?



何が起こっている?



そう思った時、1番端の死体が動いた。



全員のライトがそこを照らす。



「まぶしいよ……」



そこには飛鳥が立っていた。



足元には大型狙撃銃バレットM82が置いてある。



ほぼ対戦車ライフル並みの大きさのその銃は、



重さ13キロ。



ここまで持ってくるのも大変だっただろう。



ライトに照らされた発砲煙が飛鳥を包み込む。



「……飛鳥」



僕は思わず飛鳥に駆け寄り、



その身を抱きしめた。



外からの爆発音や銃撃音が微かに聞こえてくる。



飛鳥は立っているのも辛そうで、



脇腹がじっとりと濡れていた。



傷が開き、相当出血している。



「……何でここに?」



そう呟いた僕の声は、



今にも消え入りそうな声だった。



「無線、聞いて……



すぐ上に避難してて……



皆が殺されてくの見ていられなくて、



いてもたってもいられなくて……



ごめん……なさい」



彼女は力なくうつむいた。



「とりあえず、



すぐドクターのところに行こう」



言いたいことは色々あるが、



最優先事項は飛鳥の身体だ。



僕は飛鳥をおぶり、



そのまま階段まで歩いた。



「飛鳥のおかげで助かった、ありがとう」



返事がない。



「おい……」



振り返ると、



すぐ近くに顔があり、思わずどきりとした。



「寝ちゃった……」



静かな寝息を立てている飛鳥の顔を見て、



少しホッとし、緊張の取れた身体を、



階段の壁に預けた。



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