なないろのゆめ

棘草

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第四部&エピローグ

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○第四部 真実のものがたり


その三十五 未完成の詩

 どうして何度も繰り返し、同じ夢を見るのだろう。黒いコートをまとった、男の人が、ベッドに横たわる、コウちゃんそっくりの少年のことを、見守り続けている。
 男の人はその手に、古いノートを持っている。そこに記された詩を、声に出して読み始める。窓の外には、雪が降っている。風がうなり、さびしい音を立てながら、空を吹き渡ってゆく。
 風の叫びとともに、歌われた、詩。

「じかんのうた」

 じかんはおそろしいから まえだけをみているから
 いろんなものを ポロポロとこぼしても
 はやく はやく だれにもとめられない
 やのように このせかいを めぐる めぐる
 たましいをささげたって むだ
 すすむ すすむ すすみつづけて
 じごくもてんごくも もう こぼれてしまったよ

 もういちど まえをみる  えいえんがそこにある
 それでも いのりたかったのだ

 カミサマ ときをとめてください
 くだけそうなこころが  つぶされそうないのちが
 このせかいにはあるのですから

 かぜはふきすさぶ うしなわれたものは
 にどとかえってくることがない

 カミサマ いのりとはなんですか
 いのちとは かけがえないものですか
 なにをささげようと  せかいはまわりつづける
 
 カミサマ うつろういのちについて どうかおおしえください
 このせかいのちんもくとはかりあうような
 うつくしいうたを わたしにください

 きせきのはなは  すでに つちのした 
 きせきのひとは  すでに いわのした

 ああ いま このときだって
 ときはながれゆくのだ……

 ああ ああ ああ

 
 ノートには、詩のつづきをどうするか、あれこれ考え続けた、あとが残っている。何度も何度も、書いては消してを繰り返したのだ。けしゴムのかけすぎでページはヨレヨレになり、黒っぽく汚れている。
 それでも、詩人は、やっぱり続きをおもいつけないみたいだ。
「ああ ああ ああ」
 ノートのページを閉じながら、詩人がつぶやく。深い悲しみと、どうしようもないようなあきらめが、にじみ出た声。
 詩人は、少年の寝顔をじっと見つめながら、静かに涙をこぼし続けた……。

 「コウちゃん、朝ごはんができたわよ。……って、あれ」
 もえちゃんは、見た。ベッドの上、コウちゃんは、背中を丸めて眠りながら、涙を流している。その丸く白いほっぺたが、しっとりと濡れている。窓から差し込む、冬の朝の弱々しい光を浴びて、じんわりと輝いている。
「ねえ、コウちゃん、だいじょうぶ?」
 もえちゃんは、弱々しい声で、問いかけた。もえちゃんは、何となく不安だった。コウちゃんの涙が、理由はよくわからないけど、怖かったのだ。
「……もえちゃん?」
 コウちゃんが、ゆっくりと目を開く。しっとりと濡れた、真っ黒なかがみのような瞳が、もえちゃんの姿を映す。
「もえちゃん、おはよう」
 コウちゃんは、そう言った後、大きく口を開いて、あくびをした。
「……おはよう、コウちゃん。ねえ、ところで」
「なぁに?」
「どうして……」
 泣いていたの?――そう問いかけようと思った。でも急に、もえちゃんは、声が詰まってしまった。コウちゃんの、かがみのような瞳で、見つめられると、うまく言葉を発することができなかった。身体がこわばってしまった。
「どうしたの、もえちゃん?」
 ふしぎそうに、首をかしげながら、コウちゃんが尋ねてくる。
「……ううん、なんでもないわ。……それより、朝ごはんができたわよ。冷めないうちにリビングへ来てちょうだい」
 もえちゃんは作り笑顔を浮かべながら、そう答えた。
「わかったよ」
 コウちゃんはそう答えると、元気良く、ぴょんと、ベッドから飛び降りた。
「うふふ、コウちゃんは、やっぱりいつだって、元気な男の子ね……」
 コウちゃんの元気そうな姿を見て、もえちゃんは少しだけ安心した。胸の中の、得体のしれない不吉の予感が、ちょっと和らいだ。
(ああ、わたし、どうもヘンだわ。冬だからかしら。冬って、昔から嫌いだな。世界から、命の気配が、どんどん失われていくのが、なんだかひどく悲しくって……)
 
 
その三十六 ラボでの生活

 コウちゃんともえちゃんが、ジャロのラボで生活を始めてから、すでに二週間がたとうとしていた。そのラボというのは、雪山の奥深くに建てられた、石造りの建物である。そこでコウちゃんともえちゃんとジャロの三人は、静かで平和な暮らしを送っていた。
「やあ、おはようコウちゃん」
「おはよう、ジャロさん」
 コウちゃんがもえちゃんといっしょに、リビングにはいると、ジャロが料理ののったお皿を、テーブルに並べているところだった。ジャロが直接、手を触れなくとも、お皿たちはクルクルと回転しながら、空中を進んでいくのだ。そしてテーブルの上まで来ると、回転するのをピタッとやめて、ゆっくりと着地していく。
「やっぱり、ジャロさんのまほうは、べんりなんだなあ」
 コウちゃんはすっかり感心して、そう言った。ジャロはにっこりと笑うと、右腕の指で、左腕の義手を指さして、答えた。
「こちらの腕が、あんまり役に立たないものですからね。魔法を上手に使えないと、生活を営むことさえ、難しいのですよ」
 まもなくして、コウちゃん、もえちゃん、ジャロの三人は、「いただきます」をした。朝ごはんの献立は、とろろのかかった麦のごはんに、川魚の串焼き、なめこのお味噌汁、卯の花の和え物と、たくあんが三枚だった。山の幸をたくさん使った、おいしい朝ごはんだった。
 朝ごはんを食べた後、コウちゃんは洗面台で顔を洗い、歯を磨いた。そのあと自分の部屋に戻り、パジャマを脱いで洋服に着替え始めた。
 その途中、ドアの外から、もえちゃんの声が聞こえてきた。
「コウちゃん、そろそろ出発するわよ」
「うん! わかってるよ」
コウちゃんはうんと厚着をして、部屋の外に出た。ドアの外では、コウちゃんと同じように、厚手のコートをまとったもえちゃんが待っていてくれた。
「準備できたみたいね。じゃあ、お仕事に向かいましょう」
「うん」
ふたりはそのまま、玄関に向かった。玄関の扉を開けた途端、冷たい空気がどっと押し寄せてきた。ラボの外にはふかふかの雪がどっさり積もっており、朝の日差しを浴びて、きらきらとまばゆく輝いている。二人は、雪が靴の中に入らぬよう慎重に歩いて、ラボの隣の薬草園へと向かった。
 この薬草園というのは、一面ガラス張りの温室だった。二人は入口まで来ると、鍵を取り出し扉を開けて、中へ入った。とたんに今度はむわっとした、あったかくて湿った空気が二人を包み込んだ。二人はすぐに上着を脱ぎ、玄関のそばのコート掛けにかけた。
「あいかわらず、ここはいつでも、はるみたいにあったかいね」
 鼻の上に浮かんだ汗粒をぬぐいながら、コウちゃんが言った。
「温室だからね。寒かったら、植物たちが枯れてしまうもの。それに植物だけじゃなくて、あのこたちも、寒いのはニガテだからね」
 薬草園には所狭しと、いろんな草花や、樹木が植えられている。それらの樹木の枝にからみつき、ウトウトとうたた寝をしていた大きなヘビたちが、一斉に目を開けた。
このヘビたちは、みんな人懐っこかった。二人に気づいた数匹のヘビたちが、にょろにょろと床を這いつつこちらへやってきた。ヘビたちはふたりにグルグルまきついたり、ほおずりをしたりして、じゃれついてきた。
「コウちゃんもすっかり、このこたちになつかれたみたいね」
「そうだねえ。さいしょはおっかなかったけど、なれるとかわいいもんだよ」
 チロチロと、ほっぺたをなめられたお返しに、ヘビの平べったい頭を撫でてやりながら、コウちゃんは答えた。
「じゃあ私は水やりをしてくるから、コウちゃんはいつものをお願いね」
「わかったよ」
 二人はさっそく作業を始めた。もえちゃんは大きなじょうろに、肥料入りの水をたっぷりと注いでいった。コウちゃんは棚から小さな瓶を取り出し、ヘビたちからエキスをもらう作業をはじめた。コウちゃんが、ヘビの口もとに瓶を近づけると、ヘビたちは口を開いて牙をむき出しにする。けれど、噛みついてくることはない。牙の先っぽから、瓶に向かって毒液を垂らすだけだ。大体、5ミリリットルほどもらったら、お礼をする。ジャロの作った、真珠みたいにピカピカした、真っ白なおだんごをひとっつあげるのだ。(コウちゃんは一度、興味を持ち、おだんごをこっそりかじってみたことがあったのだけど、ものすごく苦かった。でも、ヘビたちはこのおだんごを、とてもおいしそうにむしゃむしゃ食べるのだから、不思議なものである)。とにかく、おだんごをあげれば、それで毒液の採取は終わり。また次のヘビから毒液をもらいにいく。
 ヘビたち全員から、毒液をもらう頃には、瓶の中身は真っ黒なエキスでいっぱいになっていた。コウちゃんは中身がもれないよう、厳重にふたを閉めた。また、その頃にはもえちゃんも、花への水やりと、実験に使う薬草の採取を終えていた。
「お互い、作業が終わったみたいね」
「うん。そろそろかえろうよ」
 こうしてふたりはもういちど上着を羽織り、薬草園を出た。

 ふたりは、ラボの中に入ると、薬草と毒液を届けるため、ジャロのもとに向かった。ジャロは、実験室の真ん中に置かれている、台の上をじっと見つめていた。
「……ジャロさん?」 
 ジャロは、ふたりが入って来たことにさえ、気づいていないようだった。ジャロはきゅっと唇を結び、険しい顔つきをして、食い入るように台の上をみつめていた。
(……いったい、何を見てるんだろう?)
 邪魔をしてはいけないと思いながらも、コウちゃんは好奇心に負けて、台のそばまでてくてく歩いていった。そこでは、不思議な実験が行われていた。台の上には、色とりどりの砂がまかれている。
ジャロはその砂の上に、何度も繰り返し魔法をかけていたのだ。そのたびに砂は、海原のように波うち、その色を次から次へと変えていく。それはふしぎで、キレイで、カラフルな実験であり、コウちゃんはついつい見入ってしまった。 
でもそのうち、あることに気づかされた。
 台の真ん中に、真っ黒な砂の塊がある。黒い砂粒だけで、集まって、丸い形を作っている。ジャロがどれだけ魔法をかけても、この砂だけは動くことがない。色を変えることもない。ただそこにとどまり続けるだけ。
「このくろいすなが、もんだいなの?」
 コウちゃんは気になって、ジャロにそう尋ねた。とたんにジャロは、大げさなくらいに身体をびくっと振るわせて、コウちゃんの方を見た。
「……そうですね。問題です。おおいに問題です……」
 ジャロは、まるでうわごとのように、つぶやいた。
「……あの、コウちゃん。わたしといっしょに、別の部屋まで来てくれませんか?」
「べつのへや?」
 ジャロの突然の言葉にコウちゃんは戸惑った。
「試してみたいことがあるのですよ。大丈夫。一時間もすれば、終わりますよ」
「ま、まあいいけど……」
「ありがとう。では、行きましょう。あと、モエギ、申し訳ないのですが、台の上の「心の砂」を、片づけてくれませんか?」
「わかったわよ。ただ、コウちゃんにあんまりヘンなことしないでね」
 こうしてジャロとコウちゃんは実験室を出て、長い廊下を歩き、別の部屋へと向かった。


その三十七 ひとみの部屋

 「ジャロさん、どこへいくの?」
「だいじょうぶ。すぐに着きますよ。ああ、ここです」
 ジャロは「ひとみの部屋」と記された、扉の前で立ち止まった。ジャロは力をこめて、部屋の分厚い扉を開けた。
「ここは……」
 名前どおりの部屋だった。床にもカベにもまっくろなタイルがしきつめられた、細長い部屋。その奥のカベには、紫色の絵の具を使い、大きな瞳が描かれている。またカベの前には、イスがふたっつ、向かいあう形で置かれている。
「さあ、さあ、座ってください」
 ジャロはそう言って、コウちゃんにイスをすすめた。ふたりは、イスに腰かけ向かい合った。コウちゃんは手前のイス、ジャロは奥のイスに座った 。ジャロの背後には、カベに描かれた大きな瞳があり、コウちゃんの方をじっと見つめてくる。おかげでコウちゃんは、なんだかくすぐったいような、落ち着かない気分だった。
「コウちゃん、先程私が、砂を使って実験していたでしょう? あれは、あなたの魂について知るための、実験だったのです」
「たましい?」
「ええ、あの砂は「心の砂」と言って、人の魂のありようを、色と輝きで表すのです。あの実験をとおしてわかったことがあります。あなたはとても豊かで、キレイな心をもっている。しかし同時にあなたは、恐ろしい秘密を、その心の中に隠してもいる。台の中心の、真っ黒な円は、それを表していたわけです」
「おそろしい、ひみつ……?」
 コウちゃんは少し不安そうな顔をした。そんなコウちゃんをなだめようと、ジャロは穏やかな声を出した。
「怖がらせるようなことを言ってしまい、申し訳ありません。ただ、それだけ異常なことなのですよ。ぽっかり開いた穴のような、黒い砂の円ができる事なんて、これまでの実験ではなかった……」
「……ねえ、ジャロさん、ひとついいかな」
 思い詰めた表情をして、コウちゃんが口を開いた。
「はい、何でしょう?」
「じつはね、ぼく、なんどもくりかえしおんなじゆめをみるんだ」
「夢、ですか?」
「うん。ぼくそっくりのおとこのこが、ベッドのうえにねむっていて、そのとなりに、おとこのひとがいるんだ。そのひとは、しじんみたいでね、よく詩をよんでいるんだ。きょうのあさも、そのゆめをみたよ。その詩はなんだかとてもかなしい詩でね、ゆめのなかのぼくは、ついついなみだをながしてしまって……。もしかしたら、そのひみつって、このゆめにかかわるものなんじゃないかなあ」
 コウちゃんのことばに、ジャロは少し考えた後で、コクンとうなずいた。
「その可能性は、おおいにあり得ますね……。よし、コウちゃん、ひとつ伝えたいことがあります。このひとみの部屋のチカラを使えば、私は、コウちゃんの心の中にもぐることができます。そして、あなたの秘密を直接探ることができます」
「えっ、そんなことができるの?」
「そうです。ただし、自分の心を、他人に踏み荒らされることを嫌う人も、世の中には大勢います。だから私は、いつも相手に許可を取ってから、ひとみの魔法を使うことにしているんです。というわけで、コウちゃん、あなたが選んでください」
「ぼくが……えらぶ?」
「ええ、秘密を知りたいか、どうか。そのために、ひとみの魔法を私が使うことを、許すかどうか。すべてあなたの意志で、決めてほしいのです」
(……ぼくは)
 問いかけられたコウちゃんの心には、大きな迷いが生まれた。その迷いがあまりに深いものだったから、コウちゃんは、気が遠くなるような気分さえ味わった。
(そりゃあ、気になるよ。自分が誰かさえ分かんないなんて、気持ち悪いよ。だけど……)
 コウちゃんの脳裏に、夢の中の詩人の顔が浮かんでくる。深い苦悩のしわがいくつも刻まれた、大人の男の人の顔が……。
(どうしてだろう? なんでか、すごく怖いんだ……。その秘密を知ったが最後、この島で過ごしてきた楽しい日々が、夢のように、失われてしまう気がするんだ……もえちゃんやカタクのような友達とも、二度度会えなくなってしまう気がするんだ……いったい、どうして? こんな気持ちになったの、はじめてだよ……)
 コウちゃんはおおいに迷い、苦しんだ。そんなコウちゃんのことを、ジャロは、静かに見守り続けていた。
 迷いに迷った末に、コウちゃんは答えを出した。
「……ジャロさん」
「はい」
「おねがいします。ぼく、やっぱり、じぶんのこころのなかのひみつを、しってみたいんです」
「……よろしいのですか? 恐怖や不安は、ないのですか?」
「そりゃあまあ、あるよ。だけど、ここでしるのをさきのばしにしたって、けっきょく、モヤモヤしたきぶんをあじわいつづけるだけだもの。ならばおもいきって、しんじつをしったほうがいい。そうおもったんだ」
「……わかりました。では、はじめましょう」
「はい。おねがいします、ジャロさん」
 コウちゃんは強い緊張を感じながらも、なんとかそれを抑えて、ジャロにぺこりと頭を下げた。ジャロもまた目を閉じて、おまじないを唱え始めた。とたんにジャロの背後の、紫の瞳が怪しい輝きを放ち始めた。ジャロの額が怪しい光を放ち、そこに、三つ目の瞳があらわれる。人の心を覗く力を持つ、魔法の瞳である。
(さあ、もぐるとしましょうか)
 ジャロは意識を一点に集中させ、コウちゃんの心の奥深くへともぐっていった。たちまち、コウちゃんの記憶に眠るいくつもの思い出が、ジャロを出迎えた。 
 ――雨の降る砂浜の上を、ハスの葉の傘を差しながら、おじいちゃんともえちゃんと一緒に歩いたこと――カタクと一緒に、ジャミをやっつけた後で眺めた、美しい夜明けの光――ツバサくんのてんしさまの像を見た時の、雷に打たれたような衝撃――ソウくんをビンタしてしまった直後のうずくような心の痛み――あのおそろしいリュウと戦った時の、激しい恐怖と興奮――よみがえったアイちゃんを見たときの、深い驚きと、アイちゃんの恋が実ったことへの、心からの祝福――それらの体験が、ジャロの心の中にも流れこんでくる。
(本当に、豊かな心を持った少年だ……。人の心を覗き、これほど快い気分になったのは、はじめてのことだ……)
 そうやってもぐっていくうちに、だんだん、抵抗感が強まっていく。まるで向かい風のように、前へ進もうとするジャロを、強い力で拒もうとする。
(なんだ? ひどくもぐりづらい。不吉な感じが高まっていく……)
あたりの景色がどんどん暗くなっていく。きれいななないろの思い出に、満たされていたはずの心が、ドス黒く塗りつぶされていく。空気が濁りに濁って、ひどく、重苦しいものとなる。それでも、ジャロは進んでいった。コウちゃんの秘密を確かめるために……
 何の前触れもなしに、それはやってきた。
(――なにっ!?)
突然とどろき渡った、けたたましいうなり。それは、目にもとまらぬ速度でこちらへ飛び込んできた。ジャロはあわわてかわそうとするがそんな暇さえない。刃のように鋭く危険なものが、すさまじい速度で、ジャロを殺そうとまっすぐ迫ってくる。
「うわあああああっ!!」
 コウちゃんはびっくり仰天した。目の前のジャロが、突然、すさまじい叫び声をあげたからだ。
「じゃ、ジャロさん! だいじょうぶ!?」
「ハア、ハア……あ、あれ、ここは……」
「しっかりしてよ! ここはひとみのへやだよ。ジャロさんは、ぼくのこころのなかを、のぞこうとしていたんだよ……」
「あ、ああ……そうだった。あれは、ただの記憶だったのか……危なかった。本当に、危なかった……」
 ジャロの顔は青ざめ、あぶらあせがたっぷり噴き出していた。
「ね、ねえ、ジャロさん……」
「な、なんですか?」
「ぼくのこころのなかには、そんなにおそろしいひみつがねむっているの?」
「……」
 ジャロは答えに詰まった。
(今、私が見たものを伝えても、いたずらに不安をあおるだけ……それよりかは……)
「コウちゃん、よく聞いてください。私はこれから、外出してきます」
「えっ、きゅ、きゅうにどうしたの?」
「私は確かに、あなたの心の奥底に眠る、あるものを見ました。でもそのイメージはあまりに一瞬すぎて、完全に正体をつかむことができなかった。そこで、手掛かりを得るため、ある人物を訪ねようと思うのです」
「それって、だれ?」
「……申し訳ないのですが、今は言えません。その人物は、あまりにも、特殊な人物なのです……」
「……」
 コウちゃんは、ひどくモヤモヤした気分を味わった。言いたいことはいろいろあるのに、それを表すための言葉が見つからないのだ。しかしジャロは、そんなコウちゃんの不安に気づくこともなく、大急ぎで部屋を出ていこうとした。
「あっ、まっ、まって!」
 コウちゃんはジャロの背中に向かって呼び掛けた。しかし、その声すらも届いていないようだった。ジャロは一心不乱に歩き、足早に部屋を去っていった。
「……いったい、どういうことなの。ジャロさんは、なにをみてしまったの……」
 コウちゃんは胸を不安でいっぱいにしながら、困り果てた顔つきで、そうつぶやいた。


その三十八 コウちゃんともえちゃん

 そのあとコウちゃんは、食堂に向かった。のどがカラカラに乾いていたのだ。冷たい水を飲みたくて、仕方なかった。
「あら、コウちゃん、どうしたの? そんなに青い顔をして」
食堂に着くと、そこにはもえちゃんがいた。せっせとキッチンの掃除をしていた。
「も、もえちゃん……」
 コウちゃんは、言葉に詰まってしまった。口をつぐみ、弱々しい表情をしてうつむいた。
 そんなコウちゃんの様子を見て、もえちゃんは、心配そうな顔をして、問いかけた。
「もしかして……ジャロとの実験で何かあったの?」
「……」
 コウちゃんは力なく首を縦に振った。そのあとでぽつり、ぽつりと、ひとみの部屋での出来事について、もえちゃんに話し始めた。もえちゃんはしきりに相槌を打ち、熱心に耳をかたむけ聞き役に努めた。
 コウちゃんの話しが終わった後、もえちゃんは、言葉を発するより先に、コウちゃんのことをそっと抱き寄せた。
「……もえちゃん?」
「あなたが不安になってしまう理由は、よくわかるわ。だって私たち、同じだもの」
「おんなじ?」
「そういえば、コウちゃんにはまだ、話してなかったわね。私が、人形だった頃の話……」
 それからもえちゃんは、そのひとみに、悲しみの気配を漂わせながら、あるうちあけばなしを始めた。それは、ひどく重たい話だった。けれど、大切な話だった。
「私が人形ということは知っているわよね? ただ昔の私は、魂なんて持っていない、ふつうの人形だったの。その頃は、ある、病気の女の子に、とっても大事にされてたの。その女の子は生まれつき身体が弱くて、外で遊ぶのはもちろん、学校にも行けなかった。でも両親は、商人をやっていてね、毎日仕事で忙しくて、病気の娘にかまう暇もなかった。その少女はとっても孤独だったの。そんな彼女にとっての、唯一のお友達が、お誕生日に買ってもらったお人形――要するに、私だったのよ。ねえ、コウちゃん、カンダイさんのところにたくさんいた、つくもがみっておぼえてる?」
「うん。おぼえてるよ。どうぐをだいじにあつかうと、たましいがやどることがある……あっ、もしかして……」
「そう。その少女は、私のことをすごく大事に扱ってくれた。汚れがあればすぐに磨いてくれたし、いろんなお洋服も着せてくれたの。両親にも言えないようなうちあけ話だって、私には話してくれた。おかげでわたしの中には、少しずつ、魂が宿っていった。でもね、あともう少しで、完全な魂を得ることができそうだったのに、あの子の本当のお友達になれそうだったのに……その直前にあの子は、病気で亡くなってしまったの」
「……えっ」
 コウちゃんの顔が、ひどく苦しげにゆがんだ
「ウソでしょ……ねえ……」
 もえちゃんは、そっと目を伏せ、首を横に振った。
「残念ながら、本当のことよ。しかも、さらに悪いことがあった。少女は死んでしまったけれど、すでにわたしは魂を持ちかけていた。ひとりでに動いたり、言葉を発したりしていた。少女の両親はそんなわたしを不気味がって、捨ててしまったのよ。つくもがみを捨てるという行為が、どれだけ危険かも知らずにね。そんなことをすれば、つくもがみの魂は歪みに歪み、悪霊となってしまう。私の場合もそうだった。私は、仕事を理由に少女に孤独を味わわせ挙句の果てに、私を捨てたあの両親たちを心の底から憎んだ。あの時、私はあの二人を殺しかけた」
「えっ……」
 コウちゃんは信じられないといった表情をした。
「ウソでしょ……やさしいもえちゃんが、ひとを、ころすだなんて……」
「……残念ながら、本当のことよ。あの頃の私のこころは、それほど未熟だったの。だけど、異変に気付いたジャロがやってきて、魔法の力で事態を納めてくれた。少女の両親は何とか生き延び、私はジャロに引き取られた。ジャロは私が一人の人間として生きられるよう、ていねいな教育を施してくれた。おかげで私は、自分の中の憎しみを抑えられるようになった。コウちゃんはさっき、わたしのことをやさしいと言ってくれたわね。違うのよ。やさしいこころを保てなければ、また憎しみにとりつかれ、誰かを傷つけてしまうんじゃないか――ほんとうはそれがこわいだけなの。だからだれにたいしても、やさしさのまねごとをするの。人形のクセして、人間のフリをしようとするの」
「そ、そんなのかんけいないよ! もえちゃんのやさしさのおかげで、すくわれてきたひとはたくさんいるよ!」
 コウちゃんは声を張りあげて、そう言った。するともえちゃんはクスリと、弱々しく微笑んだ。
「……コウちゃんは、やっぱりやさしいこね。わたしはあなたほどまっすぐになれない。それとね、もう一つ悩みの種が、残っていてね。私はその少女のことを、ちゃんと思い出すことが出来ないの。あの頃の私は、完全な魂を持っていなかった。その分記憶もあやふやなのね。声もしぐさも、表情も、どれもこれもうっすらとぼやけていて……きちんと思い出すことができない」
 もえちゃんは、今までコウちゃんが、見たことのない顔つきをしていた。その顔は、深い悲しみにかげっていた。
「今、私の命があるのは、あの子のおかげよ。あの子がくれた命なのよ。そして私は、あの子にとって、ただ一人の友達だった。私が一番、あの子のことを忘れてはいけない。あの不幸な女の子の、短すぎた人生のことを、覚えていなければならない。それなのに、あの子の名前でさえ、うまく思い出せない。それがね、時々、途方もなくつらいの。胸がつぶれそうなくらい、苦しいの……」
「……」
 悲しみにかげる、もえちゃんの顔は、不思議なくらい美しかった。だけど、とっても美しいというのに、見ていると、胸が詰まりそうになってしまう。もえちゃんの悲しみがひしひしと伝わってきて、心が痛むのだ。
「ねえ、もえちゃん」
「なあに?」
 こんどはコウちゃんが、もえちゃんのことをギュッとだきしめた。小さい身体に、必死で力をこめて、だきしめようとした……。
「……コウちゃん」
「ぼくね、いつまでも、もえちゃんのそばにいるよ……ゼッタイに、はなれたりしないよ……。もえちゃんといっしょに、いきつづけるよ……。だから、だから……」
 途中から、もう、言葉にならなかった。抑えていた思いが、一気に湧きあがってきて、熱い涙があふれ、吹き出してしまって――
「ありがとう。コウちゃん」
 ある、実感があった。途方もない実感だった。二人は、家族なのだ。本当の孤独を分かち合うことができる二人なのだ。
 幸せだったのだ。人生の長さと比べれば、それは、あんまりにも短い時間だったかもしれない。それでも、じゅうぶんだった……この世界がどれだけ残酷だろうと、不条理に満ちていようと、今このときだけは、ふたりとも、悲しみから解き放たれていた……ふたりは確かに、幸せだった。


その三十九 おじいちゃんの決闘

 年を取ると、どうしても、眠れない夜が増える。過去の、成功と失敗、得たものと失ったものが、次から次へと思い浮かんできて、頭の中でぐるぐると渦を巻く。
 おじいちゃんもその日の晩、そんな気分を味わっていた。おじいちゃんは、書斎の安楽椅子の上に、どっぷりと腰かけ、窓の外をみつめつつ物思いにふけっていた。新月の夜だった。星々の光もどこか弱々しい。そんな、暗い空のもと、闇の色に染まった真っ黒な海原が、静かに、波打ち続けている……。おじいちゃんはそんな外の景色を、身じろぎもせずにながめていたのである。
(……少し前なら、もえちゃんとコウちゃんがいたからなあ。こんな気分になることもなかった。しかし、こんな暗い夜に、ひとりぼっちだとなあ……)
 おじいちゃんは、数日前にもえちゃんから「おじいちゃんもジャロのラボに来ない?」と誘いを受けていた。けれど、おじいちゃんは「ワシは、山はキライだねえ。海の方がずっといいさ」と答え、それを断っていた。ひとりでいる事を選んでいた。
(コウちゃんの秘密を探るためか……。この一年ほど一緒に暮らしてきて、わしなりに思うところはある。あの子は透明だ。しかし透明だからこそ、その心をいろんな色に染めていくことができる。それはとても素晴らしいことだが……そういう子供というのは、えてして……神様に愛されすぎる)
 考え事をしていた時のことだ。おじいちゃんは、床がきしむような音を聞いた。ほんのわずかな音だった。これほど静かな夜でなければ、まず、聞き取ることはできなかったはずだ。
(……まさか)
 その音は、どんどんこちらへ近づいてくる。おじいちゃんはすぐさま、立ち上がり、机の引き出しを開けた。その中にしまわれていた、薬の玉を手に取り、握りしめた。
 そうしているうちに、とうとうそれがやってきた。
ガチャリ、という音とともに、ドアノブが下がり、扉がゆっくりと開いていく。そうして生まれた隙間から、忍び込んでくるものがいる。紫のウロコを持つ、大きくて、片っぽの目がつぶれたヘビ――ジャミだった。
「失礼な奴だ。こんな夜遅くに、訪ねてくるとはな。それも、ノックの音もなしに……」
「クックックッ、ずいぶんと余裕だな、じいさん。俺が怖くないのか? 俺は毒ヘビだぞ? 俺の牙が皮膚にかするだけで、お前はあの世行きだぞ?」
 ジャミは真っ赤な舌をチロチロとちらつかせながら、おじいちゃんを脅そうとした。けれどおじいちゃんは、涼しげな表情を崩しもせず、答えた。
「ウソをつくなよ、ジャミ」
「あっ?」
「オマエの正体はヘビではなく、人間だろう?」
 ジャミの顔が強い衝撃に歪む。先ほどまでの余裕は、たちまち消え失せ、探るような目つきで、おじいちゃんの顔をじっと見つめはじめた。
 対するおじいちゃんは、ケタケタと笑った。
「そんなにジロジロ見るなよ。なあに、カンタンなことさ。実を言うとわしは、ある人物と知り合いでな、そいつから、お前さんの過去を教えてもらったんだよ」
 またまたジャミは、おおいに驚かされた。
「まさかその知り合いとは、俺の双子の弟――ジャロか!?」
「正解だ。ジャミとジャロ、お前たち兄弟はもともと、大魔法使い・ジャナの弟子だった。けれどジャロが、人の役に立つため、魔術を学んだのに対し、お前は自分の欲望を満たすために、魔術を悪用しようとした。ジャナはそんなお前に怒り、魔法をかけ、お前を一匹のヘビに変えてしまった。ヘビのすがたになったことで、オマエさんはせっかく鍛えた魔法も使えなくなった。それでも悪知恵をめぐらし、あれだけ多くの人を苦しめてきたんだ。まったく、オマエさんはたいした悪党だよ」
「……だまれ」
「おや、ヘビになってからも、血の気の多さは変わってないようだな。気をつけろ。ジャナの時は、それが命取りだったんだろ?」
「だまれといっているだろう!」
 ジャミは牙をむき出しにして、おじいちゃんに襲い掛かろうとした。
(やはり、冷静さを忘れて、突っ込んでくるか。扱いやすいヤツで、助かるぜ)
 おじいちゃんはひらりと身をひるがえし、ジャミの牙をかわすと、手の中に隠していた薬をジャミに投げつけた。クスリはジャミにあたった途端、炸裂し、緑色の煙をあたりにまき散らした。
(これは……あの小娘が用いていたのと、同じものだな! バカめ……一度くらったことで、すでに耐性はついた。もうこんな薬は効かん!)
 相変わらず、そのにおいは、ジャミにとってはものすごく臭く感じられた。それでもジャミは、執念と気合で、煙に耐えようとした。
 けれど、想定外の事態が起きた。
「……えっ?」
 ジャミのウロコが、ドロドロと溶けはじめたのだ。
「こ、これは……」
 とまどうジャミを見て、おじいちゃんは不敵な笑みを浮かべた。
「もえちゃんは、やさしいからな。オマエを殺すクスリはどうしても作れなかったようだ。しかしワシはオマエと同じ、悪党だからなあ。お前を殺せるよう、もえちゃんのクスリを改造させてもらったのさ。この煙は、お前の身体をドロドロに溶かしてしまうぞ」
「き、キサマァ!」
 ジャミは狂ったようにのたうち回り、大口を開け、おじいちゃんを殺そうとした。けれど、冷静さを失ったジャミの攻撃は、おじいちゃんにはあたらなかった。それどころか、おじいちゃんは隠しもっていたナイフを取り出すと、それでジャミの首を切り裂いた。
「ぐああっ!?」
 ジャミの首から、真っ赤な血が噴き出した。さらにおじいちゃんは、華麗な手さばきで、ナイフの持ち手を逆にした。そのまま容赦なく、ジャミの頭へナイフを振り下ろした。ナイフの切っ先が、ジャミの平たい頭を打ち砕く。そこから真っ赤な血しぶきがほとばしる……。
「ギ、ギザマァ・・・・・・」
 おじいちゃんの猛攻にすっかり圧倒され、ジャミはもう、闘うこともできなくなった。そのままその場に崩れ落ちてしまった。
「どうやらオマエも、ここまでのようだな。お前ほどの悪党でも、くたばる時は、案外あっけないもんだ……」
「チクショウ……チクショウ……」
 ジャミは片っぽしかない目で、恨めしそうに、おじいちゃんの顔をにらみつけた。
 ジャミの目が一瞬、すさまじく真っ赤に燃え上がり、一筋の、怪しい光を放った。


その四十 定め

 おじいちゃんとジャミの決闘が行われたのと、同じ夜の出来事だ。ジャロは真っ暗な、深い森の中を歩んでいた。満月だった。いつであろうと、ここの空だけは、満月のままなのだ。緑色のかさに飾られ、ぎらぎらと怪しく輝く大きな月が、夜空の真ん中に浮かんでいるのだ。
「ハア、ハア……」
 ジャロはもうずいぶん長い間、森の中を歩きつづけていた。普段なら、魔法を使えばもっとラクにすすむことができる。しかしこの森には、あまりに魔力がみなぎりすぎている。そのせいで、どんな魔法だろうとグチャグチャにかき乱され、暴走してしまうのだ。だからジャロは魔法が使えなかった。
(やっと……みえてきましたね)
 それでも、辛抱強く歩き続けた末に、ジャロはとうとう目指す場所にたどり着いた。石造りの鳥居と、その向こうにそびえる立派なお社。そう、かつてコウちゃんが、夢の中で迷い込んだのと同じ場所である。
 そしてコウちゃんの時と同じく、鳥居の上には、お面をつけた少年、クロが座っていた。
「やあ、ジャロ。ここまで、ずいぶんたいへんだったようだね」
「……クロ」
「招かれもしてないのに、ここまでたどり着くことができるのは、この島じゃ君一人だろうなあ。まったく、モノ好きなヤツだよ」
「……あなたが千里眼を使い、ラボを観察していることには気づいていました。あなたが観察していたのは、コウちゃんですね?」
「おや、気づいていたのかい。それで僕の口から、コウちゃんの正体について聞き出そうとして、やって来たわけだね」
「ええ、そのとおりです」
 ジャロの言葉を聞いたクロは、含み笑いの声をもらした。あざけりの意思が明らかな声だった。
「ムダな努力をするものだなあ。僕に聞くまでもなく、きみは、コウちゃんの正体が何か、もううすうす感づいているんだろ? でも、きみのたどり着いた答えが、あんまり残酷すぎるものだから、きみはそれを認めたくなかった。結論を出すのを後回しにした」
「……っ」
 ジャロはゾッとしていた。クロは、ジャロの心を直接覗いているかのように、すべてをあっさり言い当ててしまったのだ。
「……私とて、核心に至ったのは、今日の昼間の体験があったからです。コウちゃんの心を実際に覗き、恐ろしいものと、出くわしてしまったからです」
「じゃあとっとと、コウちゃんに真実を告げればいいんだよ。ためらって、先延ばしにしたところで、状況が良くなることはない。賢いきみならわかることだろう?」
「……」
 ジャロの表情は、いかにも苦しそうにゆがんだ。
「そんな顔をしても無駄だ、ジャロ。きみはぼくが何者か知っているだろう。ならば、ぼくがコウちゃんに興味を持った理由だって、察しがつくはずだぞ」
 ジャロの顔はますますひきつっていった。ジャロは、絞り出すような、かすれ切った声で、言った。
「やめろ……聞きたくない」
「ダメだ。だれであろうと、逃れられない定めがあるんだ。いくら逃げたって、気づかないふりをしたって、いずれ必ずやってくるものが……」
 クロは、ジャロのことを指さした。とたんにジャロは、すさまじい悪寒に襲われた。身体が芯まで凍てつくかのようだった。ジャロは呼吸さえも忘れ、目を見開き、ガタガタと震えながらクロの顔をみつめた。
「こころして、聞け。コウちゃんの正体は――」


その四十一 終わりの始まり

 コウちゃんともえちゃん、おじいちゃんとジャミ、ジャロとクロ――それぞれの夜があった。それぞれの想いが、闘いがあった。そしてとうとう、新月の世は明けた。地平線の向こうから、太陽の最初の光が差し込み、新しい一日が訪れようとする……。
 この一日は、これまでコウちゃんとかかわってきた多くの人々にとって、生涯決して忘れることのできない――運命の日となった。

 とても深い、眠りの時があった。その晩、コウちゃんは一度も夢を見なかった。目覚めたコウちゃんが見たのは、夜明け前の、青い陰りの中に浮かびあがる、美しい少女の顔だった。自分の隣でスヤスヤと寝息を立てる、もえちゃんの寝顔だった。
「ぼくよりも、もえちゃんのほうがねぼすけだなんて、めずらしいなあ」
 コウちゃんはつぶやいた。コウちゃんは目覚めていたけれど、そのままふとんの中に、静かに寝転がっていた。そうしているうちに、窓から差し込む朝の日差しがだんだんまぶしいものとなっていて……もえちゃんが目を覚ました。
「……おはよう、コウちゃん」
「おはよう、もえちゃん」
 普段は別々に眠ることの多い、ふたりだけど、その日は同じお布団で眠っていた。何となく、そうしたのだ。ふたりは底冷えする夜の中、お互いのぬくもりを感じながら、一晩ぐっすり眠ったのだ。
 もえちゃんはベッドの上に身体を起こすと、時計の方を見た。もう七時を回っていた。
「ちょっと、眠りすぎちゃったかもね。とりあえず、朝ご飯を作りましょうか」
「そうだねえ」
 ふたりはベッドからでると、リビングにむかった。ぐっすり眠ったおかげか、寝覚めがとっても良かった。二人はてきぱきと働いて、朝ご飯を作り終えた。
「「いただきます」」
 朝ごはんを食べている最中、ふたりは少しお話しをした。
「そういえば、ジャロさん、まだかえってきてないんだね」
「そうねえ。あの人にしては、珍しいわ。あんなに便利な魔法をたくさん使えるのに」
「だいじょうぶかなあ。じことかに、あってないかなあ」
「心配しすぎよ。あれだけの魔法使いが、事故なんかに遭うはずないもの」
 朝ごはんを食べ終えたふたりは、いつも通り、洗い物をし、歯を磨き、パジャマから普段着に着替えた。そして日課の、薬草園での仕事に向かおうとした。本当に、そこまでは、普段と変わらぬ平穏さだったのだ。
「おーい、入れてくれないかあ!」
 ラボのそとから、急に、大きな声が聞こえてきた。それこそが――終わりの始まりだった。
「あれ、これって……」
 聞き覚えのある声だった。
「おじいちゃんの声ね」
 コウちゃんはふしぎそうな顔をしながら、言った。
「まえに、「おじいちゃんもこっちにこない?」ってさそったときは、ことわってたのに、いったいどうしたんだろ?」
「むかしっから、素直じゃない人だからねえ。強がってたけど、結局、さびしくなったのよ。入れてあげましょう」
 ふたりはラボの外に出て、門の方へと向かった。やっぱり、おじいちゃんが、門の外で待っていた。もえちゃんが門を開けると、おじいちゃんはすぐその中に入って来た。
(……あれ?)
 おじいちゃんの様子は、明らかにおかしかった。顔は真っ赤だし、ひどく息を切らしている。しわの多い肌の上に、汗粒がたっぷり浮かんでいる。
「おじいちゃん……何かあったの?」
「じ、じつは……きのうのよる、ジャミがワシを殺しに来たんだ」
「えっ!? ジャミが!? でも、わたしのあげたクスリがあったはずよ?」
「それが……ダメだったんだよ。ジャミにはあっさりたえられてしまった」
「そ、そんな……」
 もえちゃんは、信じられないといった顔をした。
「それでもワシは何とか逃げ延び、ここまでたどり着いたんだ。ところで、ジャロはいないのか? あの男なら、ジャミをどうにかできるはずだろ?」
「それが……ジャロはいないの」
「いない!? どうして!?」
「きのう、行き先も告げずに出ていったきり、帰ってこないのよ。よりによって、そんなときにジャミが襲ってくるだなんて……」
 もえちゃんだけじゃない。おじいちゃんもまた、びっくりしているようだ。開いた口がふさがっていなかった。
「そ、そうか……ジャロがいないのか……それは、なんとまあ……」
 おじいちゃんの顔が、ぞっとするほど醜い笑いによって、ゆがんだ。
「幸運だなあ」
 次の瞬間、おじいちゃんのブーツの先が、コウちゃんのお腹に勢いよくめり込んだ。油断していたコウちゃんは、蹴りをモロに喰らってしまった。コウちゃんは吹っ飛ばされ、雪の上に身体をうずめた。
「こ、コウちゃん!? なにをするのおじいちゃん!?」
 おじいちゃんは答えなかった。代わりにその細長い腕を伸ばし、もえちゃんのほっそりした首を、力をこめて締め上げた。
「うっ!」
「ハハ、ハハハ……ハーハッハッハァ!」
 おじいちゃんはさぞゆかいそうに笑うと、空いているもう片方の手で、ポケットに隠しておいたナイフをとりだした。
「くるしめ!」
 おじいちゃんは、もえちゃんの右目に、勢いよく刃を突き立てた。もえちゃんが甲高い悲鳴をあげた。しかしそれでも、おじいちゃんは満足していないようだ。おじいちゃんはナイフを引き抜くと、それをふるってもえちゃんの顔を、しつこく切り刻んだ。そして、もえちゃんの顔がボロボロになったのを見ると、ようやく満足して、もえちゃんの首から手を離した。気を失ってしまっていたもえちゃんは、そのまま雪の上に崩れ落ちた。
「な、なんてことをするんだ!」
 コウちゃんは悲鳴のような声を上げた。すると、おじいちゃんがコウちゃんの方へ振り向いた。おじいちゃんの目はぎらぎらと真っ赤に光り輝いていた。
 見覚えのある、目つきだった。
「オマエ……おじいちゃんじゃないな」
 ようやくコウちゃんは、相手の正体に気づいた。
「オマエは……ジャミだな!!」
 おじいちゃん、いや、ジャミは、答える代わりにバカ笑いした。さぞ楽しそうに、腹を抱え、下品な笑い声を山にこだまさせた。
「そのとおり! オレはジャミだ! キサマらに復讐すべく、ここへやって来たのさ!」


その四十二 悪魔

 昨晩の、おじいちゃんとジャミとの決闘の続き。果たしてあの夜、何が起きたのか。
あのとき、ジャミの目から放たれた、光を見た途端、強烈なめまいがおじいちゃんを襲った。
「うっ!?」
 おじいちゃんは立っていることさえできず、その場に膝をついた。脳がぐらぐらと揺れており、目もくらんでいる。
 ――おいおい、ずいぶんと辛そうじゃないか、おいぼれ
 とつぜん、頭の中で、自分ではない誰かの声が鳴り響いた。
(こ、これは……)
 ――クックック……イチかバチかだったが、うまくいったようだな
(ジャミ!?)
 ――そのとおり。俺はあの一瞬で、お前に魔法をかけたのさ。自分の魂を相手に移し、相手の肉体を乗っ取ってしまう魔法――強力な憑依魔法をな。
「ば、バカな、オマエは魔法を使えないはずじゃ……」
――ああそうだ。だが、新月の夜だけは別なんだよ。俺にかけられた封印は、月の光の魔力を借りることで、効果が長続きするよう設計されたものだ。ゆえに封印の力は、満月の夜にこそもっとも強まり、新月の夜に最も弱まる。おかげで新月の夜だけは、俺は、なけなしの力をふり絞ることで、一回だけ魔法を使えるのさ
「そ、そんなことが……」
 悔やんだところで、もう遅かった。おじいちゃんの意識はどんどん薄れていき、とうとう、眠ってるのと同じになった。
 おじいちゃんの顔に、ジャミそっくりの、邪悪な笑いが浮かんだ。
「クックック……イチかバチかだったが、うまくいったぞ! オレは運がいい。今日が新月じゃなければ、俺は間違いなく死んでいただろうなあ……」
 すっかりボロボロになってしまった、かつての自分の肉体を見下ろしながら、ジャミは愉快そうに笑った。

 「なんてことだ……」
 コウちゃんは茫然としていた。考えうる限り、最悪の事態だった。あのジャミが、人間の身体を手に入れてしまった。しかもその身体というのが、よりによって、おじいちゃんのものなのだ……
「さてと……どうしてやろうかな?」
 ジャミは、なめるような目つきで、コウちゃんを見た。ただ見られているだけなのに、恐怖で体がすくんでしまう。逃げなきゃいけない、頭ではそうわかっているのに、身体が動いてくれない。
「よーし、そうだ。オマエにも、オレと同じおもいをあじあわせてやろう」
 ジャミが、パチンと指を鳴らした。それを合図に、空気中に漂う水分が、凍り付いていく。そういう風にして、透きとおる、氷の剣が形作られる。ジャミは剣のつかを、しっかりと握りしめた。
「この剣で、お前の両の腕と、両の足を切り落としてやろう。ヘビのように、もぞもぞと、地面を這いまわることしかできない、ぶざまな身体にしてやろう」
 すさまじい恐怖が、コウちゃんを襲う。ジャミは明らかに本気だった。脅しではない。ジャミは本当に、コウちゃんの両手両足を、切り落とすつもりなのだ。
「おいおい、そんなにこわがるなよ……。そうすぐには殺しはしないから、安心するといい。代わりに、生まれてきたことを後悔するほどの、恐怖と痛みを与えてやるがな……」
 ジャミは邪悪そのものの笑みを浮かべ、言った。けれど、雪の上を這い、こっそりと、ジャミの後ろから忍び寄る、いくつもの影があった。
(あれは……)
 影が、ジャミめがけて襲いかかる。異変に気づき、コウちゃんたちを助けようと駆けつけてきた、薬草園のヘビたちだった。ヘビたちはキバをむき、ジャミに果敢に喰らいつこうとした。
 しかし、現実は残酷だった。あんまりにも残酷すぎた。
「ふひっ」
 ジャミは醜い笑いを浮かべ、鼻を鳴らすと、身をひるがえし攻撃をかわした。そして氷の刃をふるった。刃は一撃で、ヘビの頭をたたき割った。
 そのヘビが頭から、血を噴き出しつつ、地面に倒れた。
「あ、ああ……」
コウちゃんの口から、絶望の呻きがもれた。生命力の強いヘビは、死ぬこともできず、もがき苦しんでいる。そのたびに真っ赤な血のしぶきが、白い雪の上に振り撒かれる。それはあまりにも、痛ましい光景だった。ほかのヘビたちは、仲間を助けたいと思っているようだが、それもできない。わずかにでも動けば、ジャミの刃にたちまちやられてしまう。それがわかっているからだ……
「どうして……どうしてオマエはこんなことができるんだ……」
 コウちゃんは怒りのあまり、身体を震わせながら言った。
「ハハハ、怒ってるなあ。心の底から俺に、腹を立てているようだなあ。だが、これから受ける苦しみの後でも、果たしてお前はそんな顔ができるのか?」
 ヘビの血によって、真っ赤に濡れた氷の刃を振りかざしながら、ジャミは言った。
「楽しいなあ、コウちゃん。人を見下し、バカにし、痛めつけ、踏みにじるのは……最高の楽しみだなあ」
 ジャミは明らかに、自分自身に酔っていた。自分の強さに思い上がっていた。それが何とも邪悪で、薄気味悪かった。見ているだけで背筋に悪寒が走った。
「しかし、むなしくはならないのですか」
 その声とともに、目に見えぬ衝撃波がジャミに襲い掛かった。
「――っ!?」
すっかり油断していたジャミは攻撃をまともに受け、弾き飛ばされた。ジャミはすばやく受け身をとってたちあがり、声の方を向いた。
「お、オマエは……」
「久しぶりですね、兄さん」
 いつのまにか、ジャロがそこに立っていた。ジャロはすぐさまコウちゃんの方を向いて言った。
「コウちゃん、もえちゃんをラボの中に運び、まもってあげてください」
「わ、わかりました……」
 コウちゃんは大急ぎで、倒れるもえちゃんのもとへと向かった。その身体をしっかりと抱きかかえ、ラボの玄関へと一目散に走っていった。
「あなたたちも、中に戻りなさい。大丈夫。あなたたちの仲間の仇は、この私が取ります」
 こんどはジャロは、ヘビたちの方を向いていった。冷静を装っていたけれど、その瞳には、静かな怒りがじりじりと燃えあがっている。ヘビたちは信頼するジャロの言葉を、聞き分け良く受け入れた。ヘビたちはすぐさま、息絶えてしまった仲間のなきがらをくわえ、協力して持ち運び、コウちゃんの後に続きラボの中へと駆け込んだ。


その四十三 兄弟

 「久しぶりだな。弟よ。大体、50年ぶりくらいか?」
 ジャロの魔法を直接喰らったにもかかわらず、ジャミはぴんぴんしていた。余裕の笑みを崩していなかった。
「あまり、なれなれしい口をきかないでください」
 ジャロは、吐き捨てるように言った。
「あっ?」
「わたしはもうあなたを、兄とは思っていない。いや、人間とさえ認めていない。あなたは、悪魔だ。人間に生まれながら人間の心を捨てた、ヒトデナシだ……」
 そのことばをきいたジャミは、ニタニタとわらいはじめた。
「おいおいジャロ、ずいぶん威勢がいいじゃないか? お前は薬草づくりはうまかったが、闘いの方は、からっきしだったじゃないか。それに比べ、俺は闘いのための魔法を最も得意とした。人間の身体を取り戻し、魔法が使えるようになった俺に、勝てるとでも思っているのか?」
「……」
「ジャナのジジイがオレを嫌ったのも、それが理由だろうなあ。ジャナはなあ、きっと俺の才能に嫉妬していたんだよ。俺がヤツを超えるのが、怖くて仕方なかったんだよ。だから俺をヘビに変えて、追放しやがったわけだ。あの偽善者のジジイも、そんなやつを「師匠、師匠」と慕うお前も、どうしようもないバカ野郎だなあ」
 ジャロは怒りに顔をゆがめた。
「先生の悪口を言うな……。先生が、捨て子だった私たちを拾ってくれなければ、私たちは死んでいたんだ。あの人は命の恩人のはずなのに、お前はその恩さえも平気で忘れる……おマエのようなクズは見たことがない……」
 ジャロはプルプルと身体を震わせていた。そんなジャロの様子を見て、ジャミは嘲り笑いを浮かべた。
「おいおい、そんなにつらそうな顔をするなよ。相手をののしっているのは、お前のはずなのに、お前の方が苦しげな顔をしている――理由を教えてやろうか? お前の中に、まだ俺への情が残っているからだ。まだ俺を兄と思っているからだ。そうだろう、優しくて生真面目な、ジャロおぼっちゃん?」
「……」
 ジャロは答えられなかった。ジャミの言葉は、図星だったのだ。
(たしかに、わたしはまだヤツに、情が残っている……兄と闘うのが、殺しあうのが怖い。心の底から恐ろしい……。だが、それでも……)
 ジャロの脳裏に浮かんだのは、かつての師匠、ジャナの姿だった。ジャナはふさふさとした白髭をたくわえ、いつもニコニコ笑っている、気さくな老人だった。
 けれどそんなジャナが、時に、とても厳しい目つきをすることがあった。それはいつも、本当に大事なことを、弟子たちに伝えようとする時だった。
 ――よいか、ジャロよ、愚か者には、恐怖を忘れる事しかできぬ。恐怖に立ち向かい、飲み込み、肝心な時に正しい行いができるのは、賢いものだけなのじゃ。勇気とは、賢いものだけが持つことができる。よく、心にとどめておけよ。いずれ必ず、この言葉が、役に立つ日がやってくる……
 遠い昔の出来事のはずなのに、まるで昨日のことのように、ありありと脳裏によみがえる。それはジャロがジャナの教えを守るため、この数十年間、怠けることなく努力してきたからだ。
(先生、あなたは私に、魔法だけでなく、人間が生きるための道を示してくれました。私は、あなたの教えに従い、命をかけて闘いましょう――正しいことをなすために)
 ジャロはキッと、ジャミのことをにらみつけた。
「兄さん……いや、ジャミ!」
「……あっ?」
「私の答えは、これだ!」
 ジャロがさけんだ。何も持っていなかったはずの、彼の手には、いつの間にか鋼の杖が握られていた。
 ジャロが杖の先をジャミに向ける。そこから真っ赤な火の玉があらわれ、うなりをあげてジャミに向かって行く。
「ちいっ!」
 ジャミもまた反撃した。ジャミが剣を空にかざす。たちまちジャミの前に、ぱきぱきと音を立てつつ、巨大な氷の結晶が広がっていく。結晶は楯のように、火の玉からジャミをかばった。
「むっ!?」
 そのとき、ジャミはあることに気づいた。ジャロの姿が見えないのだ。あの大きな火の玉に、気を取られている隙に、ジャロは姿を消してしまった。
(ば、バカな……いったいどこに……?)
 ジャミはあたりを見回した。ジャミは自分のすぐ背後で、「ザクッ」という、何者かが雪を踏む音を聞いた。
(げっ!?)
 ジャミが振り向いた時にはもう遅かった。鋼の杖の一撃がジャミの顎を打ち据えた。
(透明になる魔法! それを使って、俺の背後に忍び寄ったんだな!)
 ジャミの読みは当たっていた。強力な杖の一撃に、ジャミが体勢を崩したのを見て、ジャロが姿を現した。ジャロはすばやく腕を伸ばし、ジャミの髪をわしづかみにした。そうやって動きを封じたうえで、もう片方の腕を、ジャミの口へねじ込もうとする。
(コイツ……このジジイの身体の中の、俺の魂を引きずり出す気だな!? ならば!)
 ジャミは突然その口から、骨まで凍てつくような、氷の息吹を吐き出した。そのあまりの冷たさに、ジャロはとっさに腕を引っ込めてしまった。その隙にジャミは頭を振りかぶり、ジャロの腕を素早くほどいた。ジャミはすぐさま後ろに下がり、ジャロと距離を取った。
(やはり……ひとすじなわではいかないか。戦闘に関しては、ジャミのほうがずっとセンスがある……)
(短い攻防だったが、ひとつ、分かったことがある。ヤツはどうやら、この肉体を傷つけたくはないようだ。できることなら、肉体の方は無傷のまま、俺の魂だけを引き抜きたい……)
 ジャミは、表情には出さなかったが、心の中ではほくそえんでいた。
(ククク……この情報はデカいぞ! ケンカに勝つには腕っぷしだけでなく、知恵も大切なのだ! それを思い知らせてやろう、愚かな弟よ!!)


その四十四 巣立ち

 ジャロとジャミが闘う中、コウちゃんともえちゃんとヘビたちは、ラボの中にいた。コウちゃんはラボの中に入るとすぐに、もえちゃんの身体を床の上に横たえた。さらに、ヘビたちが全員中に入ったのを見て、素早く玄関の扉を閉めた。
 ヘビたちが、どこからか、ふとんを2枚持ってきてくれた。片方はもえちゃんのため、もう片方は、亡くなったヘビのために使われた。
「もえちゃん……」
 コウちゃんはとても痛ましい気分で、もえちゃんの顔をじっと見つめた。宝石のように美しかった、右目の、深緑色の瞳は、粉々に砕かれてしまっている。よく整った、きれいな顔の上には、深い傷跡がいくつも刻まれている。それは、あんまりにもむごいありさまだった。
(ひどすぎる……なんでもえちゃんのようなひとに、こんなにひどいことができるんだ……)
 コウちゃんはひどく痛ましい気分で、心の中でそうつぶやいた。でも、ちょうどその時だ。もえちゃんの、片っぽしかない瞳が、突然ゆっくりと開き始めた。
「あっ!? もえちゃん!」
「コウちゃん……ここは……」
 もえちゃんは弱々しい、かすれた声でそうつぶやいた。
「さっきね、ジャロさんが来てくれたんだ! いま外では、ジャロさんとジャミが闘ってるところだよ!」
「……行かなくちゃ」
「えっ?」
「ジャロを……助けなきゃ……」
 もえちゃんはそういって、起きあがろうとした。けれど、もえちゃんがおったダメージはあまりに深かった。立ち上がりかけた瞬間、もえちゃんは、また体勢を崩し、よろよろと倒れこんでしまった。
 壊れてしまった人形らしい、ひどくぎこちない動きだった。
「だ、ダメだよ! じっとしてなきゃ……あんなにひどく、いためつけられたのに……」
 コウちゃんは必死でもえちゃんを止めようとした。もえちゃんのことがほんとに心配だった。それでももえちゃんは、ちからを振り絞り、立ち上がろうとするのだ。
「みんなを……まもらなきゃ……わたしのだいじな……かぞくたちを……」
 もえちゃんの、片っぽしかない眼から、真っ赤な涙が流れた。ずたずたに切り刻まれた、もえちゃんの顔の上を、ツーっと伝っていって、赤いシミを作った。
 その涙の赤を見た途端、ある考えが、コウちゃんの頭にひらめいた。
「ねえ、もえちゃん……」
「な……に……?」
「ぼくが、たたかうよ。ぼくが、もえちゃんのかわりに、ジャミとたたかってくるよ。だから、もえちゃんはあんしんして、ゆっくりやすんでて」
 コウちゃんの言葉を聞いたもえちゃんは、突然、手を伸ばした。
「……ダメ……あぶない……わ」
 たぶん、コウちゃんの手首をつかんで、止めようとしたのだ。けれど、もえちゃんの腕は、空をつかむばかりで、コウちゃんの手をかすりもしなかった。
「……」
 そんなもえちゃんの姿を見ていると、ますます、強い思いが沸き上がってきた。
「あぶないのは、わかってるよ。それでも……たたかわなきゃいけないんだ」
 コウちゃんはそういうと、宙を漂ったままの、もえちゃんの手を取った。そして、その白い手の甲に、口づけをした。
 もえちゃんは、夢でも見ているような、ぼんやりした目つきで、コウちゃんのことをじっと見つめている……。
「どんなひとにだっていずれ……たたかわなきゃいけないときがくるんだ。だれかをたよるんじゃなくて、じぶんひとりのちからで、たたかわなきゃいけないときが。ぼくがこのしまで、これまでであってきたひとたちだって、そういうひとばっかりだったじゃないか」
「……コウちゃん」
「いってきます、もえちゃん」
 コウちゃんはそう言い残すと、もえちゃんに背を向けた。ジャミを倒すまでは、絶対に振り向きはしないぞと、そうこころに固く誓って……。

 迷いも恐れも、もうなかった。コウちゃんは集中していた。自分が何をなすべきか、よくわかっていた。
(生身で向かったところで、魔法使い相手に、勝てるわけがない。せめて、何か武器を持たないとダメだ……)
 幸い、うってつけの武器のありかをコウちゃんは知っていた。コウちゃんは一目散に倉庫へ向かっていた。そこには大きな棚がいくつも並べられており、大量のクスリや、魔法の道具が保管されている。コウちゃんはその中の、引き出しの一つを開けた。そこには、紫の矢じりを持つ、数本の矢が収められている。
(やっぱりここにあったか。ヘビ毒のクスリが矢じりに塗られた武器……)
 コウちゃんは一本の矢を手に取ると、すぐさま倉庫を出て、闘いの場に向かおうとした。コウちゃんはラボの裏口を目指し走った。
(バカ正直に玄関から出たら、ジャミにすぐ気づかれてしまう。それじゃあダメだ。チャンスはきっと1回きりだ。そのチャンスをものにするためには、アイツのウラをかいてやらないと……)
 ふしぎな感覚だった。心が研ぎ澄まされているようでも、ふわふわしているようでもある。こころが氷のように冷たい。けれど身体はとっても軽くって、生きてるのと、死んでるのの、ちょうど真ん中にあるかのようで……


その四十五 末路

 ジャロとジャミとの闘いは、まだ続いていた。お互い一歩も譲らなかった。炎の玉が、つららのやりが、空をとびかいぶつかりあった。ジャミが呪文を唱え、大量の毒ヘビを呼び出す。しかしジャロが杖を振りかざすと、恐ろしい毒へビたちはたちまち、一本の縄に変わってしまった。こんな風に魔法を駆使して、激しく戦い続けた結果、ふたりとも、疲れが見え始めていた。
(これだけ長く激しい闘い……ジャミもさすがに疲れているようだ。今がチャンスだ!)
 ジャロは、杖の先っぽを使い、地面をとんとついた。たちまち野太い根っこが、地面を割って盛り上がり、地上へ現れジャミを締め上げようとした。
「むっ!」
ジャミはすぐに、氷の剣をふるって、根っこを切り裂いた。そのせいで、一瞬ではあったけれど、隙が生まれた。ジャロはその間に、素早くまじないを唱えた。
(これで……おわりだ)
 杖の先っぽから、怪しい紫色の光線が放たれる。光線はまっすぐジャミへと向かっていく。
 ジャミは足元の根っこに気を取られ、光線には無防備だった。光線を避けることなど、とてもできそうにない――かのように、見えた。
「かかったなあっ!」
 ジャミがパチンと指を鳴らす。とたんに、ジャミの目の前に鏡の盾があらわる。
「なに!?」
 鏡の盾は、ジャロの光線を反射してしまった。光線は今度は、ジャロめがけて一直線に飛んでいく。驚きのあまり、ジャロは身動きも取れなかった。光線はそのままジャロに命中した。
(しま……った……)
 ジャロが使ったのは、金縛りの魔法である。一度喰らってしまえば、数分間は石のように身動きがとれなくなる。
 身体が固まってしまったジャロを見て、ジャミは勝ち誇った。
「ハーッハッハッハ! 弟よ! オマエが、金縛りの魔法を使うことは、最初から読んでいた。お前の得意とする魔法で、何より、相手の肉体にダメージを与えない。お前が決め手に使うのは、この魔法以外ありえなかった」
(うっ……そこまで読まれて……)
「確かに、金縛りの魔法は強力だ。しかし弱点がある。鏡のように、光を反射するアイテムに弱いことだ。だから私は闘いの最中、派手な魔法を使い続けた。オマエがそっちに気を取られている隙に、こっそりと鏡の盾を呼び出し、透明化の魔法をかけ見えないようにした。そしてオマエはまんまとワナにかかったわけだ」
(……やられた。ゼッタイに負けられない闘いだというのに……ヤツの罠にはまってしまった……)
「ふふふ、安心しろジャロ。お前だけは殺しはしない。但し、お前の肉体を使うのは俺だ。お前の肉体を奪ったら、真っ先に、コウとあの娘を殺してやる。お前の肉体と、魔法の力を使い、お前の愛するあのふたりを徹底的に痛めつけた後で……地獄に送ってやる」
(こ、この、悪魔め……)
 ジャロの心は深い絶望に満たされていった。ジャロはもう、すべてが終わりだと思っていた。コウちゃんも、もえちゃんも、ヘビたちも、みんなジャミに殺されてしまうのだ、そう思っていた。
 けれど――まだあきらめていないものがいた。
(ジャロさん……まけてしまったのか)
 裏口からこっそり、ラボの外へと出てきたコウちゃんが、ふたりの闘いをこっそり眺めていた。コウちゃんは雪の上に這いつくばり、目立たぬようにしながら、ゆっくりとジャミに忍び寄っていた。その手には、一本の矢が握られている。
(まだ、遠い……。もう少し近寄らなきゃだめだ。チャンスは一瞬だ。ミスは許されない……)
 そんなコウちゃんの存在に、ジャミは全く気付いていなかった。ジャロを倒したことで、ジャミはすっかり勝ち誇り、油断していたのだ。
 はやるこころを抑え、少しずつ、しかし確実にジャミのもとへ近づいていく。そしてとうとう、十五歩分くらいの距離まで来た。
 ジャミはあいかわらず、ジャロの方しか見ていない。
(――いまだ!)
 コウちゃんはすばやく立ち上がると、ジャミめがけて、力をこめて矢を投げつけた。とたんに、刃のようにするどい突風が吹き荒れる。矢はジャミめがけ、追い風に力を得て、風にも負けぬ素早さでまっすぐに飛んでいく……
「むっ?」
 風の音に驚き、後ろを振り向いた時にはもう、矢はジャミの目の前まで来ていた。
「なっ!?」
ジャミの身体があまりの驚きにこわばる。さすがのジャミにも、これを防ぐ手立てはなかった。ジャミの肩にそのまま矢じりが突き刺さる。
「うっ、き、キサマァ――!!」
 ジャミは、ようやくコウちゃんの存在に気づいた。ジャミは歯ぎしりしながら、恨めしそうにコウちゃんをにらみ、叫んだ。
「こ、殺してやるーっ!!」
 ジャミがまじないを唱える。ジャミは自分が使える魔法の中でも、最も強力なものを使い、コウちゃんを一撃で殺そうとした。
 しかし……何もおきない。
「ムダだ、ジャミ。それは魔法やぶりの矢――あらゆる魔法の力を封じ込めてしまう武器だ」
「な、なんだとぉ!?」
「オマエはもう魔法を使えない。これで形勢逆転だな」
 それだけではない。矢は、元からかかっていた魔法も、破ってしまうのだ。魔法やぶりの力によって、ジャミがおじいちゃんにかけていた、憑依の魔法もまた解けていく……
「あ、あああああ……」
おじいちゃんの口がガバッと開き、そこから、青白い人魂が飛び出てくる。元の魂に押し出される形で、ジャミの魂は、おじいちゃんの肉体から追い出されてしまったのだ。
(ま、まずい……肉体のない魂は、煙のようにもろい。風が吹いただけで、散り散りになり……消えてしまう!)
 ジャミはあわてて、別の肉体を探そうとした。その時、ジャミは一匹のヘビを見つけた。ジャロとジャミの闘いに驚き、冬眠から目覚めてしまったのだ。まだ寝ぼけているようで、のそのそと、のんびりした動きで雪の上を這っている。
(ち、ちくしょう!)
 ジャミは苦しまぎれに、このヘビの中に入った。なんとか乗っ取りには成功したが、そのヘビはあまりにも弱い存在だった。以前とは違い、身体は一回りも二回りもちっちゃいし、毒だってもっていない。言うまでもなく魔法も使えない。
「あっ、まて! オマエ、まだ悪あがきをするのか!?」
 コウちゃんはジャミがヘビにとりついたことに気づき、大急ぎで追っかけようとした。
(ひ、ひいいっ!)
 ジャミは必死になって身体を動かし、コウちゃんから逃げようとした。細長い身体が幸いし、ジャミは何とか、人間には通れない、庭を囲む柵の隙間をくぐることができた。
「あっ、このやろう! のがさない……ぜったいにのがさないぞ!」
 コウちゃんは、今回ばっかしはさすがに執念深かった。すぐに門から飛び出て、全速力で走り、何がなんでもジャミをつかまえようとした。ふだんはあんまり人を恨まないコウちゃんだったが、ジャミだけははなしが別だった。
(やめろぉ……追ってこないでくれぇ……お願いだから見逃してくれぇ……)
 ジャミはすがるような思いでそう祈りながら、必死になって雪の上を這った。ただ逃げる事だけを考え、前へ前へと進んだ。しかし、それが命取りとなった。
(ああっ!?)
 急ぐあまりジャミは、ガケからはみ出ている、もろい雪の方へ飛び出してしまったのだ。とたんに、そのはずみで、ジャミの下の雪がぼろっと崩れた。
「うわああっ!?」
 ジャミはそのままガケの上を転がり落ちていった。岩肌や、木の枝に身体を傷つけられながら落下していき、しまいには、分厚い雪の上に身体をたたきつけられた。
「痛い……冷たい……もうイヤだ……なんでこんなにつらい目に合わないといけないんだぁ……どうして俺はこんなに惨めなんだぁ……」
 しかし、本当の苦しみはこれからだった。
「えっ……」
 ジャミの肉体が、砂の塊のようなもろさで崩れ始めた。
「う、うわああっ……! なぜ! なぜだあっ!?」
肉体は本来、ひとつの魂を納めるようにしかできていない。そこに二つの魂が宿ると、肉体にはひどい負担がかかる。そこに落下のダメージが合わさり、ジャミの肉体は、早くも崩壊の時を迎えつつあったのだ。
 崩れゆく自身の肉体を見たジャミのこころは、すさまじい恐怖によって、どす黒く塗りつぶされていった。
「あ、あああ……イヤだ……死にたくない、死にたくなィィ……!」
 ジャミはむかしからずっと、タカをくくっていた。死を怖がるのは、その人間が弱いからだと思っていた。自分とは違って、ちっぽけな臆病者だからこそ、死をいたずらにおそれるのだと……。自分のような強者が、死を恐れる必要はないのだと……
 大間違いだった。いざ、目の前に死が迫ると、ジャミの余裕は一気に吹っ飛んでしまった。
 すさまじい恐怖が、ジャミの心を炎のようにあぶりつくした。
「あ、あああ……イヤだぁ! 死にたくないィィ! こんなところで死ぬのはいやだぁぁ……!」
 気が狂ったかのように、泣き叫ぶ。それ以外に、恐怖から逃れるすべがないのだ。ジャミはみじめだった。どんなちっぽけな虫けらよりも、ずっとみじめだった。ムシは、死に文句など言わず、死んでいく。今のジャミの姿は、人間という、善をなすことも、悪をなすこともできる存在だからこその、救いようのない惨めさだった。
「オレだけは特別なんだぁ……他の奴らとは違うんだぁ……こんな惨めな思いなんて、味わわなくていいはずなんだぁ……なのに、どうしてぇ……死にたくないよぉぉ……」
 ジャミの叫びに、死は、これっぽっちも耳を貸してくれなかった。
冴えた山風が突然、どっと押し寄せてくる。ぼろぼろのジャミの身体は、風に吹かれて散り散りになり、あとかたもなく吹き飛ばされてしまった。後にはちっぽけな、青白い人魂がぽつんと残るのみ。その人魂さえも、山風にあおられ、煙のようにあっけなく、吹きちぎられてしまう。そして最後には、冬の山の、深い静寂に飲まれるようにして、見えなくなってしまった。


その四十六 おじいちゃんとジャロ

 「ジャミのヤツ、いったい、どこに逃げてしまったんだ……」
 ジャミが死んだことも知らず、コウちゃんは雪山の中を探し回っていた。すると、後ろから声が聞こえてきた。
「コウちゃん、もう、ジャミを探す必要はありませんよ」
 ふりむくと、ジャロがいた。
「あっ、ジャロさん」
「先ほど探索魔法を使い、この山をくまなく調べました。ジャミの魂はどこにも見つかりません。ヤツは、完全に死んだのです」
「えっ、ホントに!?」
「ええ! もう私たちだけでなく、この島のだれもが、ジャミを恐れなくてよくなったのです。コウちゃん、あなたのおかげですよ……」
 ジャロはそう言って、コウちゃんの肩をポンとたたいた。
「よ、よかった……ぼくたち、かったんだね。アイツにくるしめられてきたひとたちの、かたきをとることができたんだ……」
「そのとおりですよ。というわけで、ラボにもどりましょう。あなたに伝えないといけないことが、たくさんあるんです」
 そういうとジャロはおまじないを唱え、例の、空間の穴を作った。ふたりはそれをくぐりラボへと戻った。

 「おかえりなさい! ふたりとも!」
「あっ、も、もえちゃん!」
 穴は、ラボの庭へとつながっていた。庭のすみ、薬草園のすぐそばに、土饅頭が作られている。そこに薬草園のヘビたちと、もえちゃんが集まっていた。
「もえちゃん! もうあるけるようになったの!?」
 コウちゃんは一目散に、もえちゃんのもとへかけよっていった。もえちゃんの方も、コウちゃんを見ると、満面の笑みを浮かべた。キズはまだ残っていたけれど、それでもその笑顔は、美しかった。
「ええ。わたしは人形だもの。あの程度、へっちゃらよ……」
 もえちゃんはそう言って、胸を張ろうとした。けれどその途端、あっけなく体勢を崩し、その場によろよろと崩れ落ちてしまった。
「あっ、だ、だいじょうぶ……?」
「だ、だいじょうぶよ……。ちょっとよろめいただけ……」
 強がるもえちゃんに対し、ジャロが心配そうに叫んだ。
「だいじょうぶなハズ、ないでしょう! あれだけのダメージを受けたんですよ? 本来なら、歩くこともできないはずなのですが……」
「だって、わたしは人形だもの……あんなの全然聞かないわ。それより……」
 もえちゃんはよろよろと立ちあがると、ポケットから、ハンカチにつつまれた、あの真っ白なおだんごを取り出した。
「それって、ヘビたちのこうぶつの……」
「そうよ。この土饅頭ね、あの子のお墓なの。お墓を作ったなら、お供え物もしないとでしょう?」
 もえちゃんはそう言うと、ぎこちない指使いで、ハンカチを地面に広げた。そしてその上に、おだんごをそっとのっけた。
「……もえちゃん」
「あのこは、りっぱに闘って死んだんだわ。そのことを、忘れないようにしなきゃ……」
 もえちゃんはそう言うと、よろめきながらもなんとか立ちあがって、お墓に向かって手を合わせた。コウちゃんもジャロも、それに倣った。ヘビたちは手がないかわりに、ペコリと頭をさげ、祈りをささげた。

 その後ヘビたちは、薬草園に戻っていた。コウちゃんたちもラボの中に入った。みんなが向かったのは、医務室だった。
 部屋に入ると、ベッドの上に、おじいちゃんが横たわっていた。顔はすっかり青ざめ、死んでいるかのように、血の気がなかった。呼吸だって、浅いものだった。おじいちゃんは目に見えて衰弱していた。
「おじいちゃん……だいじょうぶなの?」
 コウちゃんは一目見るなり、不安に駆られジャロにそう尋ねた。たちまち、ジャロの顔に影が落ちた。
「……コウちゃん、もえちゃん、いいですか。落ち着いて聞いてください」
 表向きは、穏やかな口調。だけどその声からは、事態の深刻さがひしひしと伝わってくる……。
(まさか……)
「彼は昨日の夜からずっと、ジャミに憑依されていたのです。そのせいで、肉体がもうボロボロになっています。しかも彼は老人で、体力も衰えています。はっきり言いましょう、もう回復の見込みはありません」
 ――回復の見込みはありません、そのひと言は、コウちゃんの心にあまりにも残酷なショックを与えた。
「ねえ、それって……」
「彼は、あと数時間もすれば、死んでしまいます」
 なんだか、実感がわかなかった。うまく受け止めることができなかった。
「……ウソでしょ? そんなに、あっけないの……? ジャロさんでさえ、どうすることもできないの……?」
「コウちゃん、ジャロをあんまり困らせてやるな」
 みんなの視線は、いっせいにおじいちゃんの方へ向いた。おじいちゃんはいつの間にか、目を覚ましていたのだ。
「あなた……起きていたのですか!?」
「つい、さっきな。ジャロ、オマエの話しも、聞こえちまったよ。ワシもいよいよ、おしまいってわけだな……」
「……」
 ジャロはその言葉を聞くと、とても複雑そうな表情をして、うつむいてしまった。
「はは……ジャロよ、そんなかおをするな。どうせジャミに襲われなくとも、あと数年もすれば、亡くなっていた命さ。年を取るっていうのは、そういうことさ……」
 おじいちゃんはそう言うと、近くに置かれていた、水差しを手に取った。おじいちゃんはコップになみなみと水をつくと、とてもうまそうに、一息で飲みほしてしまった。
「ふう……なあ、ジャロ」
「……なんですか?」
 おじいちゃんは、水差しをもとの位置に戻すと、身につけていた、病衣の襟を整えた。そして、ジャロに向かって深々と頭をさげた。
「ほんとうに、すまなかった。あのときのことは、すべてワシが悪かった……」
「……べつに、あやまる必要はありませんよ。私は最初から、あなたのことを、恨んでなどいません……」
 コウちゃんともえちゃんは、ふたりの言葉の意味がよくわからなかった。目を丸くして、ふたりのやり取りを見守っていた。
「えっ、ど、どういうこと……? おじいちゃんと、ジャロさんって、知り合いだったの?」
「ああ。そうさ。ワシがまだ、若者だったころ、友達だったんだ」
 おじいちゃんはそう言うと、また、水差しの方に手を伸ばした。今度はジャロが気を使い、代わりに水を注いでやった。おじいちゃんはジャロから、軽いお辞儀をしつつ、水の注がれたコップを受け取った。さっそく口をつけて、一口分の水をすすった。
「そうだな。どうせだし、最後に身の上話でもしてから、死ぬとするかい。困ったことに――あと少ししか時間がない――そういう状況にならないと、ほんとうのことというのは、なかなか話せんようだ。人の愚かなサガだな」
 おじいちゃんはそう言って、含み笑いの声をもらした。なんだか、とっても不思議だった。これから死ぬ人とは思えないくらい、おじいちゃんの態度はサッパリしていた。ことによると、普段のおじいちゃんよりも、晴れ晴れとした顔つきをしているようにも見えた。


その四十七 おじいちゃんの最後


 おじいちゃんの、最後の話が始まった。コウちゃんももえちゃんも、ひとことたりとも聞きもらさまいと、おじいちゃんの言葉に耳を澄ませていた。
「なあ、コウちゃん、もえちゃん、オマエたちの友達に、ツバサくんという子がいるだろう? 若いころのワシはな、あの子と同じくらい、才能があった。そしてあの子よりもはるかに、うねぼれ屋だった。ワシは自分が町のだれよりも賢いと、そう信じていた。他の連中が、頭が痛くなるほど考えたって、解けないような難問を、ワシはすらすら解くことができた。だからといって頭でっかちというわけでもなく、腕っぷしも強かった。喧嘩でも負けなしだった。若いころのワシは賢く、勇気があり、野心家だった。しかしそれゆえに、他人を見くびっていた。町の連中なんてどいつもこいつもバカだと思っていた」
 コウちゃんはあっけにとられた。いまのおじいちゃんも、ちょっとひねくれてはいるけど、そんなに傲慢ではない。むやみに人を見下したりはしない。
「で、でも、いまのおじいちゃんはちがうでしょ?」
「まあな。とは言え当時のワシにも、こいつは自分と同じくらい優れている、そう思える者がいた。ジャロだ。ジャロだけは、ワシと本気で知恵くらべをすることができた。それに度胸もあった。自分が正しいと信じることのためなら、きずつくことをおそれなかった。魔法の腕前も、あのジャナの一番弟子というだけあって、ワシなど足元にも及ばなかった」
「えっ?」
 今度は、もえちゃんが驚きの声をもらした。
「おじいちゃんって、魔法を使えたの? 魔力の気配なんて、一度も感じたことがなかったのに……」
「まあまあ、そうあせらないで、話を聞いてくれもえちゃん。当時のワシはな、とにかくプライドが高かった。しかしな、同時に、ジャロのことがこわくてたまらなかった。自分はジャロと比べたら、大したことがないんじゃないか、そう思うと胸がかきむしられるようだった。実際、ワシはジャロのことを強く意識していたのに対し、ジャロはワシのことなどなんとも思っていないようだった。わたしがヤツの目の前で、どれだけ自分の能力をひけらかしても、ジャロは涼しい顔をしていた。そのことが、ワシのこころをどれほどかきみだしたことか……」
 ここで、ジャロが口をはさんだ。
「わたしは、自分があなたより優れていたとは、まったく思っていません。むしろ今でさえ、自分の未熟さを思い知らされることが多いくらいですよ。おごり高ぶることなんて、できるはずもありません」
 おじいちゃんは膝を打って、くっくっくと含み笑いの声をもらした。
「これほどりっぱなヤツに、なまいきにも嫉妬していたんだ。当時のワシはほんとうにバカだった。それをおもいしらされたのは、ワシの幼馴染の、レイという女の子が、不治の病に侵されたのがきっかけだった。レイの親は、何としてでも彼女を救いたかったのだろう、彼女の病を癒せたものには、莫大な報酬をやると約束した。そこでワシはジャロを誘い、かがみの迷宮に挑んだ」
「えっ……かがみのめいきゅう……あっ!?」
 コウちゃんは、かつてソウくんのかたっていた話を思い出した。
――五十年前、町で一番賢く、いちばん勇敢とうたわれた、ふたりの魔法使いがいた。魔法使いたちは、かがみの迷宮へと向かったが、結果は残酷なものだった。彼らは大失敗した。
「おや、その様子だと、知ってるのかい? そう、わしらはかつてふたりで、かがみの迷宮に挑み、敗れた。途中の関門は、難なく突破できた。しかしさいごのさいご、ガラスのバラの手前で、失敗した。自分のこころの一番弱い部分が、霧の中に化けて出てきた。いかにもずるがしそうな顔をした、ワシ自身がな、耳元でささやきかけてくるんだ。「ジャロを突き落とせ。ジャロを突き落とせ。そうすればお前が、町でいちばん才能ある若者になれるぞ。名誉と栄光をほしいままにできるぞ」とな。わしは取り返しのつかない過ちを犯した。己のこころの弱さに負けて、ジャロを突き落としてしまった」
「えっ……」
 コウちゃんは、もえちゃんは、深い驚きをその顔に浮かべて、おじいちゃんのことをみつめた。
「フ、フフ……そんな目でみないでくれよ。あのときのワシは、弱かった。本当に弱かった。狭い世界しか知らずに思い上がっていた。その上ガラスのバラは、自分のこころに負けたワシのことを拒んだ。バラが手に入るどころか、ワシはバラから罰を受けた。ワシの魂に宿った魔力を、すっかり奪われてしまった」
「あっ、それで……魔力がゼロになっちゃったのね」
「そのとおり。それだけでなく、レイも、そのまま死んでしまった。まあこちらの方は、きみたちが救ってくれたが……」
 コウちゃんともえちゃんはキョトンとした表情を浮かべた。おじいちゃんは、いたずらっぽく笑った。
「わからないのかい? レイというのは、アイちゃんの、昔の名前だよ。幽霊になる前のアイちゃんに、ご両親が授けた名前だよ」
「「えっ!?」」
 これにはふたりとも、開いた口がふさがらなかった。
「オマエたちには、本当に、感謝してるんだ……。取り返しのつかないはずのことを、取り返してくれた。レイ、いや、アイちゃんは、ワシのことなどもう忘れているだろうが……それでいい。今となっては、ソウくんといっしょにしあわせになってくれることを、ただただ 願うばかりだ。まったく、人生ってヤツはつくづく、どこで何が起きるかわからないもんだよ……」
 おじいちゃんの手から、とつぜん、コップがすべりおちた。コップは床にたたきつけられ、粉々に砕け散った。
「うっ……ゲホッ、ゴホッ!」
 おじいちゃんが、突然、激しく咳き込む。しかも咳をするたびに、真っ赤な血のあられが宙を舞った。おじいちゃんの服や、ふとんを、赤黒く汚していく。
「おじいちゃん!」
 コウちゃんともえちゃんが、心配そうな声をあげる。しかし、咳が収まったおじいちゃんは、そんなふたりに笑いかけて見せた。
「は、はは……心配するな。まだ、まだ生きてられる。ほんのもう少しな……」
そうは言うものの、その声はガラガラにしゃがれている。笑いだって、ひどくぎこちない、ひきつるようなものなのだ。それに、目の焦点も合っていない。身体がどんどんダメになっていって、視力さえ失われつつあるのだ。
 それでもおじいちゃんは、話しを続けようとした。
「とにかくな……ワシはあの時自分自身のこころに負け、すべてを失った。自分で自分を殺してしまった。そして、ワシは静かな暮らしのみを望むようになった……。名誉や出世なんかより、もっと確かなものを、手に入れたいと願った。けれど、いつまでたっても、そういったものにたどりつくことはできず、ただ時だけがながれていった……」
 その呼吸はこれまでよりも、さらに浅いものとなっている。ぜえ、ぜえと、苦しげな吐息がひっきりなしに洩れている。顔からはだんだん血の気が失せていって、ぞっとするくらいに、青白い色をしている。青紫色の血管が、くっきりと透けて見える。
 それでもおじいちゃんは、話そうとした。何かにとりつかれているかのように、次の言葉を吐き出そうとした。
「なあ、ジャロ、時間っていうのは、つくづくふしぎなもんだなあ」
「……じかん、ですか?」
「ああ……じかん……あれはつくづくふしぎなもんだよ。一瞬たりともとどまることなく、永遠に流れ続ける……そして、人間。時の流れの中で生まれ、生き、死んでいくもの……。どうして人間のように、かよわい存在が、時という厳しい流れの中で、生きていけるんだろうなあ……」
 半開きの口から、血によって、真っ赤に染まったつばがだらんと垂れる。真っ白なシーツの上に赤いシミをひろげていく。
 けれど、それとは逆に、おじいちゃんの瞳はますます澄んでいく。ふしぎなくらい清らかな色をしている。
「いまになってなあ、過去のかなたに消え去ったはずの思い出が、よみがえってくるんだ……洪水のように、あふれだしてくるんだ……ワシより先に逝ってしまった人々の記憶。何もかもが鮮やかでみずみずしかった、若き日の記憶。もえちゃんやコウちゃんと、はじめて出会った日の記憶……遠くて近い、不思議な思い出の数々が……むう、ジャロよ。あの光はなんだい? ワシにはもうわからなくてなあ。とてもとてもキレイで、まぶしいひかりなんだよ……」
 おじいちゃんが、そっと目を細める。その口元に、子どものように屈託のない微笑みを、たたえながら……
 時計で測ってしまえば、きっとわずかな時間だったはず。けれどおじいちゃんを見守る三人にとっては、永遠に感じられるほど、長く重苦しい沈黙の時が続いた。おじいちゃんは押し黙って、おじいちゃんにしか見えないもの――不思議な光を静かに見つめ続けている。
おじいちゃんは、最後にもう一度だけ、口を開いた。謎に満ちた、不思議な言葉を吐いた。生と死の向こう側をみつめるものにしか、理解できない、特別なことばのこと……
「ああ……ようやくわかったよ。人生において、本当に大切なもの……。死を前にしてもなお、価値を失わないもの。だが、残念ながら、少しだけ遅かったようだなあ……」
 微笑により細められた、おじいちゃんの両の目から、涙があふれだす。おじいちゃんの乾いたほほの上を、静かに伝っていく。
「なみだ、さ。このなみだにこそ、人生のふしぎのすべてが詰まっておる。ふしぎこそが、この世界を動かしている……」
 なみだをあふれさせながらも、おじいちゃんは、最後に笑った。その口元を柔らかく緩めた。
「ああ……いい人生だった」
 それがおじいちゃんの、最後の言葉となった。おじいちゃんの口から、その人生における、最期の吐息がもれた。そして、深い深い静寂がその場に訪れる。
コウちゃんともえちゃんが、おじいちゃんの死に打ちのめされ、呆然とする中、ジャロはそのてのひらを、おじいちゃんの方へと静かに伸ばした。ひらきっぱなしのおじいちゃんのまぶたを、そっと閉じた。
「さようなら、友よ……」
 永遠の、別れ――ジャロにできるのは、もう、祈ることだけだった。友が、自分の人生に満足して死んだことを、心の底から願うばかり……


その四十八 真実

 おじいちゃんの死を見届けたことが、ジャロに、とうとう決心を促した。
「……コウちゃん」
 おじいちゃんのまぶたを閉ざしたジャロは、こんどはコウちゃんの方を振り向いて、ささやいた。
「……なに?」
「はなしがあります。いますぐ、しなければならないはなしです。わたしといっしょに、別室へ来てください」
 ジャロの言葉の一つ一つには、有無を言わせぬような迫力があった。コウちゃんは、ジャロの意図がよくわからなかったけれど、それでも従わざるを得なかった。
「……わかったよ」
「ありがとう。では、リビングに向かいましょう。それとモエギ、あなたはおじいちゃんのなきがらを、棺に入れてください。苦労をかけてしまい、申し訳ありません。ですが、どうか頼みます」
「……わかったわ」
 こうしてコウちゃんとジャロは、もえちゃんを残し、食堂へと向かった。

 食堂に着いても、ジャロはしばらくの間は黙っていた。よっぽど苦しい、迷いがあるようだった。それでもジャロは、最後にはその迷いを乗り越え、口を開いた。
「コウちゃん……あなたが何者か、ようやくわかりました」
「……ほんとう?」
「はい。ようやく、すべてがはっきりしました。まず、この島がどのような場所かについて、説明しましょう。ここは、たましいの夢によって、生まれる島なんです」
 コウちゃんはキョトンとした表情を浮かべた。
「……ゆめ? じゃあ、ここはゆめのなかってこと? でも、それにしては、あんまりにもはっきりとしてるような……」
「あなたが思っているのとは、少し違います。人々が普段見ているのは、頭が見る夢なんです。だけど、たましいだって、夢を見るんですよ。たましいの夢、すなわち、人間の果てしない想像力により生み出されたのが、この世界なんです。実は海の向こうにも、たくさんの夢の島があるんですよ。たましいが夢を見ているとき、たどりつくのがこれらの島々です。あなたがこの島にたどり着いたのも、あなたが深い深い、たましいの夢を見ているからなのです。ここではない、現実の世界で生きている人たちも、みんな、覚えていないだけで、たいていは何度もこの島をおとずれているんですよ」
 そう言われても、わかるようなわからないような……でもともかく、ここは夢の世界のようだ。
「じゃあ、ぼくのたましいはどうして、そんなにふかいゆめをみているの? いつまでたってもめざめずに、このしまにいられるの?」
「あなたが、永遠の眠りへと、沈みつつあるからです」
 コウちゃんの脳裏に、これまで何度も見てきた、あの男の人の、悲しげな顔が浮かんできた。あの詩人はいつも、コウちゃんそっくりの男の子のそばで、詩を読んでいた。そしてその男の子は、いつだって、深い眠りについていたのだ……。
「まさか……」
「ええ、現実のあなたは、眠り続けているのです。偶然、ひどい事故に遭ってしまい、意識の戻らぬまま……お父さんに見守られ……病院のベッドに横たわり続けている……」
 ジャロの言葉を聞いたとたん、記憶が一本の矢となって、コウちゃんの頭を貫いた。コウちゃんはありありと、忘れていた記憶を思い出した。
(ああ、そっか。そういうことだったのか……)
コウちゃんのお母さんは、コウちゃんが物心つく前に亡くなってしまった。それからコウちゃんは、詩人である、やさしくて物静かなお父さんといっしょに暮らしていたのだ。でもある日、お父さんといっしょに、横断歩道を手を挙げてわたっていたのに、一台のバイクがうなりをあげて、コウちゃんの方に飛び込んできて……。
「おもいだしたよ……ぼく、もうぜんぶおもいだしたよ!」
「そうでしょう。あちらの世界の時間で一週間ほど前、あなたはバイクに跳ね飛ばされました。お父さんがすぐ病院に運んでくれたおかげで、死ぬことはなかったのです。けれど目覚めることもなかった。そしてその命もゆっくりと失われていき、燃え尽きようとしている……」
 ようやく、コウちゃんはきづいた。ジャロが自分に伝えようとしている、大切なことが一体何なのか。
「ぼく、しぬんだね」
「ええ、そうです。あなたはもうすぐ死んでしまうのです」
 死ぬ、死ぬ、死ぬ……自分が死ぬことなんて、今まで考えたこともなかった。人間がいずれ死んでしまうということは、もう知っていた。ついさっき、おじいちゃんの死をみとったばかりだ。だけど自分が死んでしまうとなると、なんだか、とても不思議なことに思えて……うまく想像できなかった。
「ねえ、ジャロさん、ひとはしんだらどうなるの?」
「わかりません。それだけは、どんな賢い人にもわからないことなのです。ある人は天国か、地獄、そのどちらかに行くといいます。ある人は、人間は死んだら、無になるのだと言います。またある人は、新しい命を手に入れて、もう一度この世界に生まれてくるのだと言います。だけど、本当のことはだれにもわかりません」
「こわいね。しぬのって、すごくこわいね」
「そうですよ。一度死んでしまえば、もう夢すら見られないのです。ここにいる事だって、できなくなるのです」
「そっか……。ねえ、ジャロさん、ぼくはあとどれくらいいきられるのかな」
「長くても、あと、半日程度でしょう」
「わかったよ。じゃあ、ぼく、いってくるよ」
 ジャロは、ふしぎそうな顔をした。
「どこにいくのです?」
「ぼくがしんでしまうまえに、あいたいひとたちがいるんだよ。さいごにみんなにさようならをいって、そのあとで、ぼくはしにたいんだよ」
 ジャロは、目をふせた。その表情は悲しみにかげっていた。
 ジャロは、これまでにもいろんな死をみつめてきた。いろんな人を失ってきた。それでも、やっぱりまだジャロは、人の死を見るのがつらいのだ。その人と二度と会えなくなってしまうことが、悲しくてたまらないのだ。
「わたしは、あなたのことを忘れませんよ」
「わすれない?」
「この世界では、時とともにすべてが変わっていく。それでもなお、変わらないものがある……」
「それは、なに?」
「おもい、ですよ。自分ではない何かを、心の底からおもうことですよ」
「おもい? それだったら、ぼくはもうもっているよ」
 コウちゃんは少しだけさびしそうに笑いながら、そう答えた。これまで彼が、出会ってきた人たちのことを、とてもなごりおしい気分で、思い返しながら……


最終章 なないろの夢 

 ジャロだって、もう、クタクタだった。一晩中、深い森をさまよい続け、命がけでジャミと闘い、兄と友を立て続けに失った。それでもジャロは、最後の役目を果たそうとした――コウちゃんの最期の望みをかなえてあげるため、残る力を振り絞り、必死で働いたのだ。
 そのあいだコウちゃんは、ひとりで食堂にいた。ジャロが戻ってくるのを静かに待っていた。どれくらいの長さだったろう、だいたい、30分くらいたったのち、ジャロがもどってきた。
「おかえりなさい。ジャロさん」
「ただいま、コウちゃん。準備はすべてすみました。さあ、この扉をくぐってください。その先に彼らがいます」
 ジャロのそばに、ひとつの、時空の穴があらわれた。
「ありがとう、ジャロさん」
 コウちゃんはジャロに、こころからの感謝のきもちを表して、扉をくぐった。
 暗闇の中を歩いているうちに、突然、光が差し込んでくる。目の前にあったものとは、夕暮れ時の海だった。空は美しい緋色に焼け、海は静かになぎ、その水面は、夕日を照り返しキラキラときらめている。水平線のむこうには、沈みゆく、大きくて真っ赤な夕日が見える。
(これは……)
 この一年間、夕暮れ時がやってくるたび、コウちゃんが眺めてきた景色。岬の家の眺め。この世界における、コウちゃんの心のふるさと……。
「おおーい、コウちゃーん!」
 名まえを呼ばれて、コウちゃんは後ろを振り返った。家の庭に、敷物が敷かれている。その上に、これまでコウちゃんが出会ってきたみんながすわっている。カタク、みっちゃん、ツバサくん、もえちゃん、ソウくん、アイちゃん、カンダイさん、薬草園のヘビたち。みんなみんな勢ぞろいしている。
「行きましょう、コウちゃん。みんなあなたのために、集まってくれたんです」
 最後に、コウちゃんの後に続いて扉をくぐり、やってきたジャミがそう言ってくれた。
「うん。そうだねえ」
 コウちゃんは、おだやかにうなずいた。

 つもるはなしが、たくさんあった。カタクやみっちゃんは、もう最初から泣いていた。やってきたコウちゃんの顔を見るだけで、耐え切れなくなってしまったのだ。コウちゃんは大声をあげて泣きじゃくるカタクの姿を見て、苦笑いを浮かべた。
「そんなになくなよ、カタク。きみはもう、たくさんなかまができたじゃないか。まちのひとたちだって、きみのことをみなおしている。ぼくなんていなくても、もう、だいじょぶなはずだよ……」
「なんでそんなことをいうんだ! だいじょぶなもんか! またひとり、ともだちがいなくなってしまうんだ! かけがえのないともだちが……」
「……ごめんね。でもね、それは、しかたないことなんだよ。であいがあれば、いずれ、わかれもかならずやってくるんだ……。それがきっとじんせいってヤツなんだ。どれだけかなしくても、くるしくても、いきてるかぎりは、はをくいしばってのりこえなきゃダメなんだよ……」
 コウちゃんはおだやかな、けれどとても真剣な目つきをして、カタクと向き合いながら言った。コウちゃんは、ほんものの苦しみは、ほんものの言葉でしかなぐさめられないことを、すでに知っていた。だから真っ正面から、カタクに向き合おうとした。
 今度は、みっちゃんが叫んだ。
「わたしも、カタクとおなじおもいよ! なんで、そんなにわらってられるの……死んじゃうのに……コウちゃんが、いなくなっちゃうのに……」
 みっちゃんはコウちゃんにギュッと抱きつき、泣きじゃくった。そんなみっちゃんのことを、やわらかく抱きしめながら、コウちゃんはみっちゃんの頭を撫でてあげた。
「まんぞくしてるからだよ。ぼくは、カタクやみっちゃんたちのおかげで、このいちねんかん、すごくたのしくくらせてきた。だから、わらっていられるんだ……ぜんぶ、みんなのおかげなんだよ……」
 みっちゃんはそれでも、何か言おうとしていたけど、声にならなかった。みっちゃんはわんわん声をあげて、泣きつづけた。
 そんな中、今度は、ツバサくんがコウちゃんのもとに、のっしのしと歩み寄ってきた。ツバサくんは泣いていなかった。張り詰めた、きりっとした表情をしていた。
「ひさびさだね、ツバサくん。さくひんのほうは、じゅんちょうかい?」
 コウちゃんにたずねられたツバサくんは、声を張りあげて、答えた。
「もちろんだよ! 順調すぎて、こわいくらいさ! ボクねえ、いまの作品が完成したら、こんどはキミの作品をつくってやる! キミのようなこがいたことを、みんなが忘れないための作品を……ボクのほこりにかけて……つくって、ゼッタイにつくってやるんだ……」
 たぶん、けっして泣かないぞと、決意していたのだ。それでもツバサくんは、やっぱり泣いてしまった。コウちゃんと面と向かって、話すうちに、感情を抑えきれなくなった。大粒の涙をこぼしながら、泣きじゃくった。
「ありがとう。ぜひ、かんせいさせてくれよ。きみはやっぱり、りっぱなヤツだよ。ほんもののげいじゅつかだよ」
 コウちゃんは、いったん立ちあがって、ソウくんとアイちゃんのもとへいった。夕暮れ時とは言え、やっぱり日差しはドクなのだ。ソウくんとアイちゃんは、カンダイさんがさす日傘の中にいた。
「……やっぱり、まだ、ひざしのなかにはいられないんだね」
 コウちゃんは少し、残念そうに言った。
「うん。だけどこの前、ジャロさんと手紙のやりとりをしてね。アカサビ病を治すための、薬の研究をするって、ジャロさんに言ってもらえて……」
「えっ、ホントに?」
「そうなんだよー。それできのうの夜とかね、ソウくんと、いろいろおはなしをしてさ。春になったらお花見に、夏になったら海水浴に、これまでできなかったことを、たくさん楽しもうって……もちろん……カタクくんやもえちゃんや、コウちゃんたちもさそってさ……」
 アイちゃんが、そっと目をふせる。涙をにじませ、すすり泣きを始める。ソウくんはそんなアイちゃんの方に、そっと腕をまわし、抱き寄せた。
「……そうだね。ホントに……なおるといいね。ソウくんも、アイちゃんも、いつまでもなかよくしてね……。もし、ケンカなんかしたらさ、ぼくがばけて、でてきてやるからね……」
「……そうだねえ。肝に銘じておくよ。あと、コウちゃん」
「なんだい?」
「ありがとう。ぼくたちのために闘ってくれて、ほんとうにありがとう」
 ソウくんは、微笑を浮かべながら、言った。でもやっぱり、その眼には、涙が浮かんでいるのだ。
「どういたしまして」
 コウちゃんはニカッと笑いながらそういうと、ソウくんたちの元を離れた。まだ、キチンと話していない人がいる。コウちゃんと、いちばんながい時を過ごしてきた人、一番強いきずなで、結ばれている人が……。
「……もえちゃん」
「……コウちゃん」
 ふたりはしばらくの間、見つめあっていた。言葉を交わすこともなしに……。
 最初に口を開いたのは、コウちゃんのほうだった。
「あのね、もえちゃん、ぼくね……」
 コウちゃんは、何とか顔をあげて、もえちゃんと目を合わせようとした。傷だらけの顔、無残に破壊されてしまった顔、それでも、その瞳の奥に宿るひかりは、けだかいものだった。これまでコウちゃんが見てきたどんな瞳よりも、偉大な光を放っていた。
 そんな目で、もえちゃんは、容赦がないほどまっすぐに、コウちゃんのことをみつめていた。
 もえちゃんが、言った。
「死ぬのが、こわいのね」
 その言葉を聞いたとたん、目の奥が、ジンとほてりだした。今まで抑えてきた分まで、熱い涙があふれだしてきた。
「…………うん」 
 コウちゃんは泣いた。けれどもえちゃんはその涙を、受け止めてくれた。もえちゃんはコウちゃんのことを、痛いほど強く抱きしめた。
「だいじょうぶよ……なにもこわくないわ。みんないるもの……みんなあなたといっしょだもの……」
 何度も何度も、同じ言葉を繰り返す。誰にもまねできないような、力強さで。死にゆくものを、なぐさめるために。勇気づけるために。その癒しがたい痛みを、癒してやるために……。
 もえちゃんの胸の中だから、思いっきり泣くことができた。もえちゃんの言葉通り、その場にいた誰もが、ふたりのことを見守っていた。ヘビたちだって、涙を流すわけでもなかったけど、そのひとみに何かとても厳かで、奥深い感情をたたえ、抱き合う二人の姿を静かに見守っていた。花々だってそうだ。彼らも今日は歌うのをやめ、吹き渡る夕涼みの風に、その身体をそよそよとそよがせている。カミサマがみまもっているかのような、特別な静けさのとき。大きな癒しの力に、満ち満ちたとき……。
 とてもとても、なごりおしかったけれど、それでも、時はすぎゆく――夕日がほとんど沈みかけ、空もすっかり暗くなったころ、ようやくコウちゃんも泣きやんでいた。涙を流し終えていた。
そして最後のお客が、夕やみにまぎれて、音もなくその場に降り立った。
コウちゃんは、そのお客にあいさつをした。
「やあ。ぼくのさいしょの、そして、さいごのおともだち」
 いつのまにか、クロがそこにたっていたのだ。
「……もしかして、きづいたのかい? ぼくのしょうたいについて……」
「うん。きみ、しにがみだろ?」
「……そうだよ」
 クロが、かぶっていたおめんをはずす。その下にあったものとは、コウちゃんと全く同じ顔だった。
「悪いけれど、もう時間なんだ」
「わかってるよ。だいじょうぶ、もうおわかれはすんだもの。じゅんびは、できてるよ……」
「……きみは、りっぱなヤツだね」
 そうつぶやいたとたん、クロは、いちじんのつむじ風となって、コウちゃんめがけて吹きつけた。たちまちコウちゃんの身体は、羽のような軽さで、空に舞い上がっていった。高く、高く、空へと昇っていき、それにともないその身体もどんどん薄くなっていく……。そして最期には、冬の暮れの空の、澄み切った薄闇に溶け消えるようにして、見えなくなってしまった。


エピローグ


 透明な風に吹かれて、コウちゃんの魂は、空を渡り続けた。そういうふうにして、世界をめぐっていくうちに、コウちゃんはある病室にたどりついていた。その部屋には、真っ黒なコートを着た、大人の男の人がいる。すでに魂が抜けてしまった、愛する我が子の亡き骸をみつめながら、涙をこぼしている。
(おとうさん……)
 お父さんの顔にはいくつもの、深いしわが刻まれている。苦悩のしわだ。この人は人生の悲しみから決して逃げては来なかった。悲しみを悲しみのまま、苦しみを苦しみのまま受け止めてきた。透明なことばと、なないろの夢だけが、このひとの武器だった。だからこのひとは詩を読んだ。詩を作り、詩をうたった。そうすることでしか自分のこころを形にできなかった。なぐさめることができなかった。
 コウちゃんは、とうとう死んでしまった。とてもとてもかわいそうな、愛する息子は、大人になることさえできずに、この世を去った。コウちゃんは窓の外からその人を見つめ続けた。なんとかして伝えてあげたかった。ぼくはさびしくないよ、おとうさんがずっとそばにいてくれたから、詩をうたってくれたから、ぜんぜんさびしくなかったよ。だけど、もうそれはできないみたいだ。
 冴えた夜風が吹き荒れる。コウちゃんの身体は綿毛みたいにあっけなく、風にさらわれてしまった。どんどん地上から、お父さんのいる病室から、遠ざかっていく。
 ――さようなら、さようなら、おとうさん、もしかなうなら、ぼくもういちどおとうさんのこどもに生まれたいな。こんどは事故になんかあわずに、さいごまで、おとうさんといっしょに生きつづけたいな。ふたりでいっしょにあそんだり、ごはんをつくったり、旅にでたり、いろんなことをしてみたいな……
コウちゃんは、知っていた。お父さんは、泣きつづけるだろう。けれどその涙が、あの、未完成の詩の続きを、お父さんに授けてくれるだろう。詩人は、磨きぬかれた言葉と、ゆるぎない思いによって、彼と息子との絆をうたう、美しい詩を完成させるだろう。そうやっておとうさんは、死と、悲しみという名の人生の親せきとともに、この世界を生き延びていくのだろう……。


 風に吹かれて、どんどん空へと舞い上がっていく。その度に、闇が深くなる。星々のきらめきでさえ、闇に溶けて、見えなくなっていく。空のうなりだけがいつまでも響きつづけている。自分が生まれる前にいた場所――色のない世界が、近づきつつある。
 ――ああ、もう、すべてがおわりなんだな
 コウちゃんは、風に流されながら、それを強く感じた。けれどもうこわくはない。ただコウちゃんは、とてもとても名残惜しい気分で、胸にあふれる思い出の一つ一つを抱きしめた。どれもこれも、あたたかかった。ぬくもりと、うつくしい色彩でいっぱいだった。だからコウちゃんは、最期に、微笑むことができた。笑いながら、お別れの言葉を告げることができた。
 ――さようなら、ぼくの、なないろの夢
 最期にそう言い残して、コウちゃんは、このなないろの世界から去っていった……
 

おわり
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