こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「最高だ!!うわははは!!やはり俺の愛し子は頭がおかしい!たかが一度寝た男なんぞに本気になるなんて、お前は愚かですね!あっはっは!」

 限界が来ると、突飛な行動に出るらしい。ミハエルのことをよく理解しているルキーノだからこそ、これは予測できたことなのかもしれない。サリエルは肩で息をしながら、泣きながら斧をぶん投げたミハエルを見て、それはもう大いに喜んだ。ならば、一体どこから斧を出したのか。

「まさか、切羽詰まって作り上げるとは!!」




 エルマーたちが来る大凡一時間前程だ。ミハエルは熱が下がらぬまま、安静にしていろと言われたのも丸無視をして、あの後すぐに紙とペンをとりだした。
 首に回された魔力制御の首輪。このせいで、ミハエルは魔力を消費する物質の呼び出しや、治癒、そして手紙を飛ばすということができなかった。可能なのは部屋の電気をつけることなどの生活魔法のみ。このままでは父がサディンに迷惑をかけてしまう。そう考えたミハエルは、ずっと前から溜め込んでいた魔石の入った箱を取りだした。
 ミハエルの魔力を感じる小石程度の魔石がみちりとつまったその箱の中身を、ふよふよと浮いていたサリエルは不思議そうに覗き込む。

「おい、それはなんですか。なにやらお前の魔力を感じる。」
「これは…、僕が凝ったものを散らすために魔力を使った余剰分をためたものです…」
「凝った…?」
「…せ、生理現象を、散らすために…」

 熱で赤い顔を更に赤らめる。サリエルはぽかんとした顔で暫く見つめていたが、口から細い声を出すと、笑いを噛み殺すかのように慌てて口を塞ぐ。信じられない。こいつ、オナニーをしないで魔力で散らしていただと!つまるところ、これはミハエルの行き場のなくなった欲の塊だとわかると、それはもう面白すぎて仕方ない。欲の塊がみちりと菓子の箱に詰まっていたのだから、笑うなという方が無理である。

「んくっ、く、ぐぅ、ふふっふ、ふっ…!!」
「し、仕方ないでしょう!クズ魔石位にしか移せなかったんですからっ!」
「お、おまえ、こんな、欲を散らすためだけに魔力を練るだなん…てっ、ぬ、抜けばいいだろう…!!」
「あ、あなたのおかげで、練習中はその必要もありませんでしたからっ!!も、もうだまりなさい!少し集中したいのでっ!」

 そういうと、ミハエルは出した紙の上にガリガリと計算をし始める。大きなコンパスのようなものまで引きずり出して、そのインクを入れる部分を空けた。インベントリから培養液と、細胞を活性化させるためのポーションを取り出す。それをコップに移した培養液の中に慎重にいれると、それを零さないようにインクの代わりに注ぎ込む。時折ぶしゅんとくしゃみをしながら、ずびりと鼻水を拭う。熱と体のだるさなんかで止まっていられるか。ミハエルはサリエルに手伝ってもらい、クズ魔石を粉々に砕いて、魔力を帯びた砂の粒のようにしてもらうと、それを液体の中に入れた。

「何をしてるんだミハエル。」
「魔力が制御されているなら、初心に帰ればいいのです。」
「あん?」

 意味の理解していないサリエルは、その大きなコンパスを床にぶっ刺してガリゴリと計算をしながら陣を描いていくミハエルを、不思議そうに見やる。
 ただ、なんとなく面白そうなことが始まりそうだなあというのはわかるので、決して止めるような野暮はしない。ただニヤつきながら見つめているだけだが、サリエルの獅子の尾はご機嫌にブンブンと揺れていた。
 あらかた陣を描き終えたミハエルは、次いでペン先やらペーパーナイフ、時計の針やら縫い針、はてはベッドの装飾まで無心にもぎりとってガチャガチャと集めていく。箪笥の取手もすべて取り払い、ドアの持ち手まで外したミハエルは、最後に使っていた細い鉄製の定規までぽいっとまとめてその小山の上に放り投げる。

「俺の力は必要か、ミハエル。」
「…熱を加えてほしいですが、あなたがやると火事になりかねません。」
「なんだ、溶かすだけでいいのなら出来るぞ。浮かせてやればいい。」
「なら鉄の塊にしてください!」

 ミハエルのおねだりに、サリエルはふわりとそれらのかき集めた物を浮かばせる。外側から一気に熱を加えて流動性のある鉄に変えると、ミハエルはわたわたしながらその陣に少ない魔力を慎重に流した。

「お願い…!」
「む。」

 カッと陣がミハエルの魔力に反応して輝いた。サリエルの目の前で、その鉄の塊がじわじわと姿を変えていく。どうやらミハエルのイメージを反映するらしく、その形質をなんだか妙な形に変化させた。これは、斧なのだろうか。それにしてもなんとも気の抜けたデザインであった。ゴトリ、と硬質な音を立てて出来上がったそれは、刃物らしい刃の反対側に、棘のようなものがついたハルバードらしい。しかし、その肝心の刃の部分は、なんというかシルエットだけでいうなら妙な曲線を描いている。まるで凍らした水溜りに柄を付けたような仕上がりに、流石サリエルもぽかんとしてしまった。

「で、きました…、やった!かっこいい!」
「何だそれは、随分と気の抜けたデザインだな。」
「えーと、ば、バトルアックス的なやつをイメージしてみたんですけど。なにか変ですか?」
「うん。なんだか切れ味はよくなさそうだなあ。」

 数字の3がみょんみょんと並んでいるような刃だ。ミハエルは出来に満足しているらしいが、いざこれで戦闘となったら、打撃のみしかできなさそうだ。

「いいんです、これで。僕の話を少しでも聞いてもらうには、ハッタリも必要ですから。」
「それでハッタリができるかと言われたら同意はしかねる。」
「う、うるさいですよサリエル!」

 ミハエルは決意をしたかのような顔に、目元を赤らめたままそういうと、むんずっとその持ち手を掴む。ドアが開かないのなら、壊せばいい。持ち手を頑張って引っこ抜いても開かなかったのだ、おそらくダラスによって術がかけられているに違いない。ミハエルは、泣き顔のままずびりと鼻を啜ると、あまり大きな音をたてないように壊して、外に出る。僕が武器を持つほどだと思ってもらえれば、きっとお父さんも本気を認めてくれるはず。そう心に誓いながら振り上げる。
 この一振りは決意を表す。自分のエゴで抱いてもらった。だからこそサディンに迷惑なんかかけたくない。行動を起こして、きっとダラスからはこっぴどく怒られることだろう。しかしミハエルは、自分の叱責よりもサディンの立場を揺るがしてしまう方がいやだった。どうせ泣くなら、好きな人のために泣きたい。


「っ、これで…お父さんに、僕の本気がつたわ、ひゃ…っ!」
「お、」

 しかしミハエルは自分の力を過信しすぎていた。その細腕で振り上げた斧は、遠心力で確かにきれいな起動を描いた。しかし、熱で体調が優れなかったのだ。だから、普段よりも余計にドジが前に出た。そして、ミハエルの壊滅的なイメージで頭でっかちになったハルバードは、ミハエルがその重みで体をよろめかせたせいで、団扇で扇ぐように大きな範囲をドアに叩きつけることとなる。

「ぅわ、あっ!」
「あーあー‥」

 バキャ!!それはミハエルの思った以上にものすごい音を立ててしまう。サリエルがわかりやすく吹き出した。ミハエルはというと、勢い余ってずっこけた。斧はしっかりと上半分をめり込ませて自立した。ドアから突き出したそれは、まるでおのが仕事を全うしたかのようにツルリと光った。そうしてようやく、耐えきれなくなったサリエルが手を叩いて大喜びし、冒頭に戻るのであった。


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