こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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 あれからミハエルはオスカーの件についてジルバと話を詰めた後、まずは対等に接してみる。ということで話はまとまった。まあ、駄目そうならサリエルに食ってもらおう。そういう算段になったのだ。
 そして、その話を詰めた翌日の昼。午後からはいよいよオスカーと対面と相成ったわけなのだが。

「お前、なんか隠してないか?」
「ぅぐっ」

 げほごほとサディンの言葉にミハエルは咳で答えた。あからさまな態度の変化をみて、サディンはじっと金色の瞳でミハエルを真っ直ぐに見つめると、すっとその目を細める。ホットミルクを飲んでいたミハエルはというと、口端から零れたそれをハンカチで抑えるように拭うと、まるでサディンの視線から逃げるかのようにゆっくりと目を逸らした。
 ミハエルは嘘をつけない。それはサディンも知っていた。だからこそ、こうしてぎこちない動きをされると気になって仕方がない。

「ミハエル。」
「はいっ」
「俺になにか言えないことでもあるのか?」
「あー…」

 金色の瞳が、ミハエルを写す。今日の昼は共に食べようかと誘われて、昼の兵舎の食堂で机を挟んでサディンと向かい合わせ。今は誰もフォローをしてくれるものはおらず、ミハエルはただうろうろと視線をさまよわせる。

 言えない、サディンに隠してオスカーの治療をはじめるだなんて。言ったら間違いなく雷が落とされる。ミハエルはぎこちなく笑うと、唇を真一文字に引き結ぶ。

「…俺に知られたらまずいことでもあるのか。」
「ええっと…お、怒られるかと、思います…。」

 あ、そこは素直に言うのか。サディンはミハエルの言葉に片眉を上げると、その表情を柔らかく緩める。

「ミハエル。」
「ぁー…ぇ、へへ…」

 その微笑みは怖い!ミハエルは頬を染めながら小さな声で下手くそなごまかし笑いをすると、スプーンを持っていた手をがしりとサディンに掴まれた。かちゃんと音を立ててスプーンが皿の縁を滑った。無骨な指がミハエルの指の間を割るようにして絡められる。そっと持ち上げられ、顔の前まで手を引き寄せられた。

「俺に怒られるようなことを隠して、ミハエルはいつからそんな悪い子になったんだ。」

 まるで夜を思わせるかのような意地悪な声でそんなことを宣うおかげで、ミハエルの顔は一気にぶわわっと染まる。サディンの唇がそっと握られた手に寄せられようとしたときだった。

「ミハエル、時間だ。」
「う、」
「…ジルバ。取り込み中だ、後にして。」

 顔を真っ赤にして硬直したミハエルの肩を掴んだのは、ジルバだった。影渡をしてきたらしい、ミハエルの影から唐突に現れたかと思うと、ニコリと微笑んだ。サディンはジルバが呼びに来たことで余計に機嫌を悪くする。どうせろくなことを頼んでいないと察してしまったからだ。剣呑な光を交えながら、一人だけ立っているジルバの顔を見上げると、面白そうに唇を歪める。

「今回の件、ミハエルもだがサリエルにも用があってな。サディン、お前には用はない。」
「聞くが、危ないことじゃないだろうな。」
「危ないか…、俺にとっては別にだな。」
「それは、一般論として危ないというんだ!」

 肩にジルバの手が乗り、ミハエルの右手をサディンが握りしめる。何だこの状況。ミハエルは妙な緊張感が走った食堂に申し訳なく思いながら、ゆっくりと腰を上げた。

「サディン、大丈夫です。全部終わったらきちんと話しますから。ね?」
「言わせてみようか。」
「へ、」

 サディンの金色の瞳が、くらりと揺らめく。ミハエルがその瞳の不思議な輝きに囚われたかのように目線を奪われると、まるでそれを遮るかのように黒い炎が二人の間に現れた。

「サリエル…」
「息子殿、それは看過できん。」

 珍しく怒ったような顔をするサリエルに、ミハエルはぽかんとした。サディンはというと、ぐっと眉間に皺を寄せると、睨めつけるようにサリエルをみた。

「サリエル、ならば聞くが、ミハエルは何をさせられている。」
「医術局の管轄業務だ。よって騎士団には関係のないこと。」
「サリエル、そんな言い方は!」
「おっと、でたなドクソ真面目。お前が嘘をつけぬから拗れるのですよ。」
「どうだっていいが、ミハエルは借りるぞ。そんなに気にかけなくてもじきにわかるさ。サディンが真面目に働いていればな。」
「……。」

 ジルバとサリエルの組み合わせは最悪だな。そんな内心を曝け出すかのようにサディンは苛立ちを如実に現していると、その手を掬うようにミハエルが握り込む。

「どうしても無理そうなら、貴方に相談します。でも、僕だって頑張ってみたいんです。貴方のような頼りがいのある男になるために、今少し僕に時間をくださいませんか。」
「お前…、」

 真っ直ぐに見上げたミハエルの言葉に、サディンは胸の内側を刺激された。ミハエルが自分のために成長しようとしているとわかったからだ。その言葉を正しく捉えたサディンは、瞼を閉じて小さく息を吐いた。自分のなかの蟠りをしまい込むかのように切り替えると、ミハエルのちいさな頭を包むように両頬に手を添えた。

「う、」
「わかった。そのかわり、やばいのに痩せ我慢なんかしたら囲う。」
「加工?」

 一体なにを加工するのだろうと、キョトンとしたミハエルに優しく微笑みを返す。ジルバもサリエルも、いい加減サディンの狂気に気付けと言いたいが、触らぬ神に祟りなし。結局誰もミハエルの勘違いを訂正することもなく、ミハエルはジルバに連れられてオスカーのもとへ行くこととなった。




「愚図、のろま。能天気バカミハエルめ。」
「ちょっと、サリエル貴方、先程から僕に対する罵倒が幼稚すぎやしませんか。もう少し語彙を増やしなさい。」
「ふん、女顔、エロ魔石製造者、初心と見せかけたむっつりすけべ、フルスイング破壊神」
「その罵倒は看過できません…!!」

 もう!と怒ったミハエルが、ぷよぷよと浮かんでいるサリエルの尾を引っ張って抗議する。ギャイン!と情けない声を上げると、サリエルがミハエルの長い髪を引っ張って仕返しをする。

「楽しそうなところ悪いんだが。」

 背後の二人のやり取りに呆れたジルバが、まるで道を開けるように横にずれる。
 城の地下。まるで地底湖のような洞窟のような、少しだけ怖くもある薄暗いその空間を燭台の明かりだけを頼りに歩みを進めていた三人は、大きな鉄格子で出来た扉の前に立っていた。

「切り替えろミハエル、仕事の時間だ。」
「はい…サリエル。」

 ジルバの声に頷いたミハエルが、カバンの持ち手を握りしめる。緊張感はあるものの、その目つきには決意が滲む。

「出番があるまではネコちゃんらしくしておくわ。」

 その姿を晒したまま地面に足をついたサリエルが、ふんと笑う。纏っていた靄のような黒い炎を一気に膨らませると、四足の獅子の姿でおすわりをしていた。赤い瞳孔がミハエルを見上げるのを、そっと眉間を柔らかく掻くようにして手遊びをする。
 扉の奥は、微かに魔力が漏れている。ミハエルは小さく息を呑むと、ゆっくりとオスカーのいる牢へと続く道を踏み出した。


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