[改稿版]これは百貨店で働く俺の話なんだけど

だいきち

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 結局その日は鬱々とした気持ちで帰宅をした。見慣れたグレージュの鉄の扉に鍵を差し込み、カチャリとかしこまった音を立てて扉を開ける。
 旭の部屋は至ってシンプルだ。趣味も特にないので、我ながらつまらない部屋だなあとも思う。
 購入してからあまり使っていない綺麗なテーブルの上にスマホを置いて、まずは着替えと着ていたシャツのボタンを外そうとした時だった。
 
 初期設定から変えていない通知音が、柴崎の名前を表示して、ピコンとメッセージを受信する。似合わぬ猫のスタンプと共に送られてきたのは、内覧会のお知らせという一文であった。
 
「む…」
 
 一体、どんな顔をしてこのスタンプを選んだのだろうか。旭はスマホ画面をまじまじと見つめた後、内覧会なる言い回しに、少しだけ逡巡した。
 
 既読がついてから、しばらく経ったからだろうか。柴崎から再度、うちに遊びに来いよ、という旨の連絡が入る。内覧会などと小洒落た言い回しをしなくてもいいだろうに、いちいちキザくさい。きっと、画面の向こうでつまらなさそうな顔でもしているのだろうと、そんなことが容易に想像できて、小さく笑う。
 
「てか、なんで休みだって知ってんだろ。」
 
 そうごちて、思い出した。そういえば次回の飲み会の日を決めるのに、シフトを送りつけたのだ。明日は空いているし、旭は、粗探しに伺います。と可愛げのない返信をして、スマートフォンをテーブルに置いた。
 
 なんだか、計ったかのようなタイミングだな。そんなことが思い浮かんで、首を振る。己が弱っているせいで、こんな軟弱なことを思うのだ。旭が行くと言ったのは、柴崎の住む家に興味が湧いたから、という理由に違いないと己自身に刷り込むと、部屋に備え付けられているクローゼットに向かったのであった。
 
 
 
 
 
 
 まとわりつくような冷気のせいで肌寒い。翌日、旭は柴崎によって教えてもらった駅に降り立った。各駅でしか停まらない割に、駅前はなんだか賑々しい。気の早いイルミネーションでライトアップされたショッピングモールが、駅前にはドカンと聳え立っていた。
 こんなに早くから飾り付けをして、一体電気代はいくらになるのだろうか。そんな野暮なことを考えてしまうあたり、旭もなかなかに一人暮らしがいたについてきた。そもそもこういったイベントに恋人と過ごしたことなんて、一度あったかどうかも記憶があやふやだ。
 恋人たちの鐘、なるオブジェがなかなかに怪しい雰囲気を醸し出している。変に悪目立ちしそうなそれを横目に、スマートフォンで連絡をとる。端的に、今つきました。ただそれだけ。年季の入った石畳の道を人並みに沿って歩きながら、目端についたコンビニにでも寄ろうかと思った時だった。
 
「あり?」
 
 目を細める。コンビニ前の喫煙所に、なんとなく既知感のある男性を見かけた。寝起きですと言わんばかりの髪型のくせに、上背もあり、腰の位置まで高い。
 屯しているものたちの中でも抜きに出て雰囲気のあるその男性は、上下をグレーのスウェットをだらしなく着こなし、つっかけサンダルを履いたままという自業自得な格好で、寒そうに縮こまっていた。連絡するまでもない、柴崎である。
 
「ちょ、何その格好…柴崎さん気温見てないの?」
「ぬかった…家が近いから寝起きできたらこのざまよ…。」
「俺と会う約束しておいて寝巻き…?」
「何彼女みてえなこと言ってんだ。おんも寒い、肉まん買って旭くん。」
「柴崎さんの方が彼女みたいなこと言うじゃん!」
 
 旭よりも十センチも背が高いというのに、縮こまっているせいで、背丈もあまり変わらないくらいになっている。構わないが、少しだけ面白い。鼻の頭を赤くさせながら、防寒対策をした旭にくっついてくるものだから、肩で押し返しながらコンビニに入る。
 
「いい歳して、そんなんで風邪引いたらマジダサいですよ。」
「ほら、俺子供の頃は風の子だったからさ。」
「いやそういうこと言ってんじゃないっす。」
 
 旭の後ろについて歩きながら、寒いというくせに冷えたビールと缶チューハイを籠に入れる。まさかの柴崎宅で昼のみコースになるようだ。旭が呆れた顔で見上げると、人の金で食う肉まんって美味いんだろうなあなどと、わざとらしく可愛らしい声で宣う。
 
「後輩に奢らせるか普通…」
「無邪気で可愛げのある先輩でごめんね旭くん。」
「いやしくてしたたか、の間違いじゃないですかねー!」
「癒し系で温か?過大評価しすぎだろ、照れるぜ全く。」
「耳呪われてんじゃねっすかマジで。」
 
 くだらない言葉の応酬が楽しい。とはいってもお呼ばれした時点で、何か手土産を持っていかねばと思っていたのだ。特に気にはしていないが。
 
 しかし、職場でのバイヤーとしての顔を知っている分、オフの日の気の抜けた柴崎のギャップにころりとくるものもいるだろう。
 もし、自分が女だったらと考えて、不毛な考えに囚われる気がしたのでやめた。
 
 
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