記憶。

ひとしずく

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1章「出会い」

6話「魔法」

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「……その、ごめんなさい。食事を提供してもらったのにも関わらず、無礼な態度を…」

 

頬をふくらませたシンに俯きながら謝る。

シンの頬には真っ赤な手形があり、それを見てまた罪悪感が湧き上がってくる。

しかし、後悔はしていない。

私も悪いけど、シンも悪いもの。

 

「……ほんとほんと。ユキちゃんってば酷い」

 

ほっぺ痛いんですけどーっと頬をつんつんと指さし目を細めるシン。

私はシンに聞こえないぐらいの小さなため息をついた。

 

「本当に、ごめんなさい。悪かったって私でも思ってるわ」

 

「__でも、まだ会って間もない人にあんな言動は許されない。身体で払ってくれてもいい、なんて失礼にも程があるわ。貴方も謝るのが普通よ」

 

私は歩みを止め、シンも立ち止まったのを確認する。そして、するどく睨んだ。

怖気づいたと思うと、シンは口を尖らせて、

 

「…ごめん、なさい。次から気をつける」

 

ボソリ、と呟くように言った。

私はええ、次からは気をつけてね、と言って頷いておく。

 

シンはまだ納得のいっていないような表情で私を見つめていた。

私はそんなシンの表情を無視して歩き始める。

「…はぁ、大して仲良くもない、しかも初対面の人によくあんなことが言えたもんだわほんとに…」

そして、仕方なく、私の旅についてこさせてあげた
なんだか、ふざけた話し方をする割には、俺も行きたいという言葉だけは本気でお願いされているような気がしたから。

あとは…私と共に旅をすることで彼に恩返しができるなら。

「え、待って、ユキちゃん、それってさ」

「?」

「仲良くなったらいいってこと?」

「……何が言いたいのかしら」

「え、だから、ユキちゃん今さ…大して仲良くもない初対面の人にあんなこと言うのありえないって言ったじゃん?それって、仲良くなったらそういうこと言っていいってことになるけど」

は?と思い、シンの方を向く。
どことなく目を輝かせていて、あぁ、こいつ反省してないんだなと思った

「殴られたいの?」 

ニコリ、と笑って言うもシンには効かない。
やれるものならやってみろと言わんばかりにヘラヘラしている

魔法で1体1のタイマン張ってやろうかしら。
見たところそこまで強くなさそうだし

こいつも、炎の大合唱を見れば驚くでしょう?
そこらの庶民と一緒で


「いいわ、やってやるわよ」


すう、と息を吸うと、魔法名を叫ぶ

「炎の大合唱_」

「__やっぱりそう来ると思った。

"魔法消去"」


大きな炎が彼を覆ったと思うと、その炎は綺麗に消えた。

「……え?」

シンに傷はひとつもなく、服も焦げていない。
まるで私が魔法を放たなかったかのように、本当に、そのまま。

シンはニヤリと笑う

「ふふん、俺の方が1個上みたいだね」

さあ、この怒りをどこにやろう。
そうだ、彼の頬にやってしまえばいいわ

ビンタをするのは、今までに1回ある。
それが2回になるだけ。





「__ったぁ!!!!負け惜しみ!?」

「うるさい!!!」
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