記憶。

ひとしずく

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1章「出会い」

9話「それじゃ、僕はこれで」

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認められるわけもない恋。
それが王家の人間となれば可能性は0どころかマイナスに近い

"兄様を…兄様を、私に返して!!!"

苦痛な少女の叫びに私は目を覚ます
まるで自分が叫んだかのように、呼吸が荒くなる
落ち着け、落ち着けとゆっくり息を吸って、吐く。

呼吸が安定した頃に気づいたのは、手足が不自由だったこと
暗闇に慣れない目でじ、と見つめると手枷と足枷のようなものが見えた

まさか、捕まるなんて…

「…ユキちゃん、そこにいるの?」

聞き覚えのある声には、とする。

「その声…シン?」
「うん…その、ここ、どこ?」

「私にも分からないけれど…なんとなく、地下、じゃないかしら。見たところ窓もないし自然光すら入ってこない」

少しずつ慣れてきた目で部屋を見渡す

起きたのはいいとして…今までで1番痛いミスを犯した
盗聴器を落としたままなくした

これでは今どのような状況かもわからないしなんのしようもない。
そして意識をなくして起きるまでどのくらいの時間が経ったのか。
ここからどうやって抜け出すか____

「おや、やっと起きたのかい」

またしても聞き覚えのある中性声。

「こちらだよ」

突然耳元で聞こえたその声にひっ、と短く零れ身をよじる

「そんなに驚かなくたっていいだろう?」
「その声は…あの、路地裏の…?」

「ご名答。いい記憶力だね」

また耳元で、からかうような声色で言う。

「どうやってここまで」
「そんなの簡単さ。忍び込んで鍵盗んでここまで来た」
「説明が簡単すぎるわ」

思わずツッコミを入れると、中性の人はふは、と変な笑い声を発する
暗闇に慣れた目がその姿を見据える。
フードに隠れた紫色のウェーブかかった髪。

「君面白いね、ここから逃がしてあげよう。」

逃がす選択をするのも簡単すぎる

「俺の存在だけ無視してるのかな」
「おや、彼女だけだと思ってたんだけど。知らない男なんて混じってたんだ」

会話にすら入れてなかったのに、存在も気づかれなかったシン。
なんだか少し可哀想、けどしょうがないわね

ガコン、と手枷と足枷が外れ落ちる音が響く。
やはり地下なのだろう、乾いた音がしない。空洞がないのだ。ここ一帯、土に包まれてる

「助けてくれてありがとう、中性の人。私、行ってくるわ。彼をお願い」
「え……え?ちょ」

早口で告げると、牢屋を後にする。
置いていかれた2人は、ぽかんと彼女の背中を見届けた


「……じゃあ、僕はこれで」
「いやいやいやいや待ってよ、俺は!?」
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