恋に恋するお年頃

柳月ほたる

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第二章

4 ダンドリー商会のテラスにて

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 長らく国境争いに出向いていた遠征軍が輝かしく凱旋する日、ミアははやる心を抑えて身支度を整えた。
 朝早く起きて、今までにないくらい気合を入れて。
 彼を見つけられるとは限らない。
 けれど、もしかしたら奇跡が起こって彼の目に止まるかもしれないから。

 サラに頼み、これでもかというくらい髪を盛る。
 高く結い上げた栗色の髪には買ったばかりの真珠を散らし、あの日と同じ芍薬の花を飾る。思いっきりコルセットで締め上げた腰の細さが際立つように、ふんわりと広がったスカートのドレスを選んだ。
 少女らしく普段は控えめな化粧しかしないけれど、今日は遠くからでも印象に残るようしっかりと色をのせた。発色の良い頬紅をさし、明るい色の口紅を塗る。我ながら涙ぐましい努力だ。
 彼を見つけようと思っても、今のミアにはこのくらいしか出来ないのである。

「お父様、お母様、お兄様、行ってまいります!」
 あんなに朝早くから準備を始めたのに、遠くから見ても目立つ扇は何色かと悩んでいたら出発はギリギリになってしまった。
 サンルームに集っていた家族に挨拶をすると、全員が一斉にこちらを向いた。
「ミア、絶対に! 気を付けて行くんだよ」
「変な男に声を掛けられても返事なんかするんじゃないぞ?」
「やっぱり俺が付いていった方がいいんじゃないのか?」
 最初の発言が父、そして次の2つが兄だ。
 伯爵家の末っ子として生まれたミアは、成人しても相変わらず過保護な家族に囲まれている。

 母の呆れたような視線にも負けず、彼らはぞろぞろとミアの後からついて来た。
「もう。サラが一緒に行ってくれるから大丈夫だったら」
「お嬢様、そろそろ出発しませんと。今日は道も混み合います」
「ごめんなさい。すぐに行くわ」
「ミア! 本当に大丈夫なんだろうな?!」 
 兄の悲痛な叫び声を背に、御者が馬車のドアを閉めた。


 貴族の邸宅が並ぶエリアから街道に出ると、やはりいつもより道が混んでいるようだった。
 凱旋する兵士たちの行列を見ようと人々が沿道に詰めかけているし、物売りもたくさんいる。行列が通るため封鎖されている道もあれば、混雑して警備兵が誘導している道もある。早めに着けばいいのだが。

 そんなミアの切なる願いはあっさりと神から見放され、目的地であるダンドリー商会に着く頃には既に行列はすぐそこまで迫っていた。
「遅くなってごめんなさい!」
「大丈夫よ、もうすぐ先頭が来るから早く座って!」
 はぁはぁと軽く息を弾ませるという、淑女にあるまじき姿で現れたミアは、咎められることもなく、仲のよい従姉妹達に迎えられた。
 日頃は花嫁学校で厳しく躾けられ、扇で口元を隠しながらほほほと笑っていても、やはり同世代の女の子たちで集まると年相応の振る舞いになってしまうものだ。

「ねぇ、それにしてもミアが凱旋行進に興味があるなんて思わなかったわ」
 こう言ったのは、このダンドリー商会の総領娘であるヴィオラ。
 ミアの1つ年上のしっかり者で、もうすぐ婿を取ることになっている。
「ほんと! ミアはどんな縁談も断ってるから、てっきり男嫌いなんだと思ってた」
 こちらは次女のオルガ。ミアと同じ年で、流行りものが大好きな今時の女の子である。

 2人はミアの従姉妹で、父親同士が兄弟という間柄だ。
 長男だった父が伯爵家を継ぎ、次男だった叔父は貴族の人脈を生かして商売を始めた。
 現在は手広く事業を展開しており、特に宝石商としてダンドリー商会の名は有名である。とうとう先日は、賭博にハマって借金を重ねた没落貴族から爵位も買い取ってしまったという。

 彼女たちとは年が近いせいで、ミアは幼い頃からとても仲良くしてもらっている。
 今回は自宅の前の広い道を行列が通過すると知り、2階のテラスにパラソルやクッションを並べて、ミアを招待してくれたのだ。

「やっぱり王太子様が見たかったの? それとも公爵家のステファン様?」
 興味津々のオルガがミアに迫る。
「ちょっと、あなた早速ミアがライバルかどうか探ってるの? ステファン様は第一王女様とのお噂があるじゃない」
「それはあくまでも噂でしょ。う、わ、さ!」
 すぐにきゃあきゃあと大騒ぎになってしまった。
 道端に落ちている石ころでも面白いこの年頃、気になる異性の話題となると尚更、話は尽きる事を知らない。
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