恋に恋するお年頃

柳月ほたる

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第三章

9 煽ったのは君だ

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「待てないと言っただろ? だいたい煽ってきたのは君だ」
 なにかに耐えるようにそう言って、彼がミアに覆いかぶさった。
 そしておもむろに手を伸ばし、ミアの鎖骨から首筋、耳の後ろと指先で順に辿っていく。触れるか触れないか、ギリギリのところで薄皮の上を這う指先は羽根で撫で上げるかのような感触だ。
「……ん、ぁ」
 背筋がぞくぞくして、鼻にかかった甘い吐息が漏れる。
 高い位置でまとめていた髪を優しくかき乱されると、青を基調とした上質なベッドカバーに栗色の波が広がった。

「……あお、る……って?」
 どういう意味か分からなくて、ミアは潤んだ瞳をぱちぱちと瞬かせた。
 その弾みに涙が一筋こぼれ落ちると、アルベルトの舌がそれを追う。彼の吐息が頬をくすぐって、ミアは刺激にすらぴくんと反応してしまった。
「ぁ……、どういう、意味なの?」
 思わず上げそうになった甘い声を抑え、ミアは彼に問う。
 そういえばデビュタントの舞踏会の後に彼と2人きりになった時も分からないことだらけだった。母から与えられた本で表面的な知識は身につけたつもりだったが、やはりアルベルトの言うことは難しい。
 もっと早く、彼に釣り合うような大人の女性になりたいのに。

 心底不思議そうなミアの様子を見たアルベルトは、少し切なそうに眉を潜めた。その憂いを帯びた壮絶な色気に、ミアはきゅうっと胸を締め付けられる。
 そしてわずかに嘆息したアルベルトがミアの首筋に顔を埋めた。
「アル?!」
「……男と寝台の上で2人きりになって、『攫われてもいい』なんて大胆な誘い文句を言って……本当に無事でいられると思った?」
「そ、れは」
 ミアが口ごもると、彼の顔が少しずつ下がっていく。
 無事でいられるとか、いられないとか、そんなことは考えずに口からこぼれてしまったのだ。いけなかったかもしれないと気付いたのは、もう後戻りできなくなってからだった。
「私は悪い男だと言っただろう?」
「ぃ……っ!」
 突然、胸元にぴりりと痛みが走った。
 慌ててそこを見れば、なんとレースで覆われていたはずの胸元がほとんど露出させられているではないか。侍女以外には見せたことのない柔らかなふくらみがアルベルトの目の前に晒され、しかも彼がそこにくちづけていたのである。
 いつの間に、と驚くと同時に羞恥心が襲って、ミアの顔は一瞬で真っ赤になる。

「やだ、恥ずかしい……!」
 急いでドレスを直そうとしたが、それはあっさりと制止された。
「ミアはいつも無防備に男を煽ってくる。もっと気をつけてくれないと、危なっかしくて私は心配なんだ。ずっと鳥籠にでも閉じ込めて出してやれなくなるよ?」
「それはだめ!」
 大きな鳥籠の中で暮らしている自分が思い浮かんで、ミアはぷるぷると首を振った。
 閉じ込められるのは困る。オルガやヴィオラにも会いに行けなくなるし、ジーノの勉強をみてあげるという約束も守れなくなるではないか。
 だがその一方で、一日中アルベルトの側で羽を休め、アルベルトのためだけに囀る生活も悪くないかも、と少しだけ思ってしまう自分もいた。

「遠征軍の凱旋の時もそうだ。綺麗に着飾った君を一体何人の男が見ていたと思う? あの場ですぐに馬から降りて、君は私のモノだと、誰も目に入れてはならないと叫んでしまいたかった」
「え……? 私に気が付いていたの?」
 予想外の彼の言葉に、ミアは軽く目を瞠(みは)った。
 ミアはあの大行列からアルベルトを見つけようと必死にがんばっていたのに、どうしても彼を見つけることは出来なかった。
 だが、王城へ続く長い街道へ凱旋行進を一目みようと詰め掛けた多くの国民の中から、彼はたった1人のミアに気付いていたというのだろうか。
「あぁ、あの宝石店のテラスにいるとすぐに分かったよ。美しい3人のご令嬢の華やかさは軍でも話題になっていたな。……まぁ、君は全く私を見てくれなかったが?」
「ご、ごめんなさい」
 アルベルトの責めるような視線に、ミアは思わず小さくなって謝罪する。
 だがそれと同時に、抑えきれない喜びが湧き上がって仕方なかった。
 彼が見つからなくてミアが沈んでいた時も、ちゃんと彼は自分を見つけてくれていたのだ。本当にその場で叫んでくれていたらすぐに再会できたのにと少し残念に思うものの、職務中に規律を乱す行為をする訳にはいかないと、さすがのミアにも理解できた。
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