29 / 47
第三章
9 煽ったのは君だ
しおりを挟む
「待てないと言っただろ? だいたい煽ってきたのは君だ」
なにかに耐えるようにそう言って、彼がミアに覆いかぶさった。
そしておもむろに手を伸ばし、ミアの鎖骨から首筋、耳の後ろと指先で順に辿っていく。触れるか触れないか、ギリギリのところで薄皮の上を這う指先は羽根で撫で上げるかのような感触だ。
「……ん、ぁ」
背筋がぞくぞくして、鼻にかかった甘い吐息が漏れる。
高い位置でまとめていた髪を優しくかき乱されると、青を基調とした上質なベッドカバーに栗色の波が広がった。
「……あお、る……って?」
どういう意味か分からなくて、ミアは潤んだ瞳をぱちぱちと瞬かせた。
その弾みに涙が一筋こぼれ落ちると、アルベルトの舌がそれを追う。彼の吐息が頬をくすぐって、ミアは刺激にすらぴくんと反応してしまった。
「ぁ……、どういう、意味なの?」
思わず上げそうになった甘い声を抑え、ミアは彼に問う。
そういえばデビュタントの舞踏会の後に彼と2人きりになった時も分からないことだらけだった。母から与えられた本で表面的な知識は身につけたつもりだったが、やはりアルベルトの言うことは難しい。
もっと早く、彼に釣り合うような大人の女性になりたいのに。
心底不思議そうなミアの様子を見たアルベルトは、少し切なそうに眉を潜めた。その憂いを帯びた壮絶な色気に、ミアはきゅうっと胸を締め付けられる。
そしてわずかに嘆息したアルベルトがミアの首筋に顔を埋めた。
「アル?!」
「……男と寝台の上で2人きりになって、『攫われてもいい』なんて大胆な誘い文句を言って……本当に無事でいられると思った?」
「そ、れは」
ミアが口ごもると、彼の顔が少しずつ下がっていく。
無事でいられるとか、いられないとか、そんなことは考えずに口からこぼれてしまったのだ。いけなかったかもしれないと気付いたのは、もう後戻りできなくなってからだった。
「私は悪い男だと言っただろう?」
「ぃ……っ!」
突然、胸元にぴりりと痛みが走った。
慌ててそこを見れば、なんとレースで覆われていたはずの胸元がほとんど露出させられているではないか。侍女以外には見せたことのない柔らかなふくらみがアルベルトの目の前に晒され、しかも彼がそこにくちづけていたのである。
いつの間に、と驚くと同時に羞恥心が襲って、ミアの顔は一瞬で真っ赤になる。
「やだ、恥ずかしい……!」
急いでドレスを直そうとしたが、それはあっさりと制止された。
「ミアはいつも無防備に男を煽ってくる。もっと気をつけてくれないと、危なっかしくて私は心配なんだ。ずっと鳥籠にでも閉じ込めて出してやれなくなるよ?」
「それはだめ!」
大きな鳥籠の中で暮らしている自分が思い浮かんで、ミアはぷるぷると首を振った。
閉じ込められるのは困る。オルガやヴィオラにも会いに行けなくなるし、ジーノの勉強をみてあげるという約束も守れなくなるではないか。
だがその一方で、一日中アルベルトの側で羽を休め、アルベルトのためだけに囀る生活も悪くないかも、と少しだけ思ってしまう自分もいた。
「遠征軍の凱旋の時もそうだ。綺麗に着飾った君を一体何人の男が見ていたと思う? あの場ですぐに馬から降りて、君は私のモノだと、誰も目に入れてはならないと叫んでしまいたかった」
「え……? 私に気が付いていたの?」
予想外の彼の言葉に、ミアは軽く目を瞠(みは)った。
ミアはあの大行列からアルベルトを見つけようと必死にがんばっていたのに、どうしても彼を見つけることは出来なかった。
だが、王城へ続く長い街道へ凱旋行進を一目みようと詰め掛けた多くの国民の中から、彼はたった1人のミアに気付いていたというのだろうか。
「あぁ、あの宝石店のテラスにいるとすぐに分かったよ。美しい3人のご令嬢の華やかさは軍でも話題になっていたな。……まぁ、君は全く私を見てくれなかったが?」
「ご、ごめんなさい」
アルベルトの責めるような視線に、ミアは思わず小さくなって謝罪する。
だがそれと同時に、抑えきれない喜びが湧き上がって仕方なかった。
彼が見つからなくてミアが沈んでいた時も、ちゃんと彼は自分を見つけてくれていたのだ。本当にその場で叫んでくれていたらすぐに再会できたのにと少し残念に思うものの、職務中に規律を乱す行為をする訳にはいかないと、さすがのミアにも理解できた。
なにかに耐えるようにそう言って、彼がミアに覆いかぶさった。
そしておもむろに手を伸ばし、ミアの鎖骨から首筋、耳の後ろと指先で順に辿っていく。触れるか触れないか、ギリギリのところで薄皮の上を這う指先は羽根で撫で上げるかのような感触だ。
「……ん、ぁ」
背筋がぞくぞくして、鼻にかかった甘い吐息が漏れる。
高い位置でまとめていた髪を優しくかき乱されると、青を基調とした上質なベッドカバーに栗色の波が広がった。
「……あお、る……って?」
どういう意味か分からなくて、ミアは潤んだ瞳をぱちぱちと瞬かせた。
その弾みに涙が一筋こぼれ落ちると、アルベルトの舌がそれを追う。彼の吐息が頬をくすぐって、ミアは刺激にすらぴくんと反応してしまった。
「ぁ……、どういう、意味なの?」
思わず上げそうになった甘い声を抑え、ミアは彼に問う。
そういえばデビュタントの舞踏会の後に彼と2人きりになった時も分からないことだらけだった。母から与えられた本で表面的な知識は身につけたつもりだったが、やはりアルベルトの言うことは難しい。
もっと早く、彼に釣り合うような大人の女性になりたいのに。
心底不思議そうなミアの様子を見たアルベルトは、少し切なそうに眉を潜めた。その憂いを帯びた壮絶な色気に、ミアはきゅうっと胸を締め付けられる。
そしてわずかに嘆息したアルベルトがミアの首筋に顔を埋めた。
「アル?!」
「……男と寝台の上で2人きりになって、『攫われてもいい』なんて大胆な誘い文句を言って……本当に無事でいられると思った?」
「そ、れは」
ミアが口ごもると、彼の顔が少しずつ下がっていく。
無事でいられるとか、いられないとか、そんなことは考えずに口からこぼれてしまったのだ。いけなかったかもしれないと気付いたのは、もう後戻りできなくなってからだった。
「私は悪い男だと言っただろう?」
「ぃ……っ!」
突然、胸元にぴりりと痛みが走った。
慌ててそこを見れば、なんとレースで覆われていたはずの胸元がほとんど露出させられているではないか。侍女以外には見せたことのない柔らかなふくらみがアルベルトの目の前に晒され、しかも彼がそこにくちづけていたのである。
いつの間に、と驚くと同時に羞恥心が襲って、ミアの顔は一瞬で真っ赤になる。
「やだ、恥ずかしい……!」
急いでドレスを直そうとしたが、それはあっさりと制止された。
「ミアはいつも無防備に男を煽ってくる。もっと気をつけてくれないと、危なっかしくて私は心配なんだ。ずっと鳥籠にでも閉じ込めて出してやれなくなるよ?」
「それはだめ!」
大きな鳥籠の中で暮らしている自分が思い浮かんで、ミアはぷるぷると首を振った。
閉じ込められるのは困る。オルガやヴィオラにも会いに行けなくなるし、ジーノの勉強をみてあげるという約束も守れなくなるではないか。
だがその一方で、一日中アルベルトの側で羽を休め、アルベルトのためだけに囀る生活も悪くないかも、と少しだけ思ってしまう自分もいた。
「遠征軍の凱旋の時もそうだ。綺麗に着飾った君を一体何人の男が見ていたと思う? あの場ですぐに馬から降りて、君は私のモノだと、誰も目に入れてはならないと叫んでしまいたかった」
「え……? 私に気が付いていたの?」
予想外の彼の言葉に、ミアは軽く目を瞠(みは)った。
ミアはあの大行列からアルベルトを見つけようと必死にがんばっていたのに、どうしても彼を見つけることは出来なかった。
だが、王城へ続く長い街道へ凱旋行進を一目みようと詰め掛けた多くの国民の中から、彼はたった1人のミアに気付いていたというのだろうか。
「あぁ、あの宝石店のテラスにいるとすぐに分かったよ。美しい3人のご令嬢の華やかさは軍でも話題になっていたな。……まぁ、君は全く私を見てくれなかったが?」
「ご、ごめんなさい」
アルベルトの責めるような視線に、ミアは思わず小さくなって謝罪する。
だがそれと同時に、抑えきれない喜びが湧き上がって仕方なかった。
彼が見つからなくてミアが沈んでいた時も、ちゃんと彼は自分を見つけてくれていたのだ。本当にその場で叫んでくれていたらすぐに再会できたのにと少し残念に思うものの、職務中に規律を乱す行為をする訳にはいかないと、さすがのミアにも理解できた。
0
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる