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番外編
アルベルト地獄の1年間、3ヶ月目
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「ミア、今日はずっと一緒にいられる?」
北方の国から訪れた大使を歓迎する夜会の最中、アルベルトは大広間の片隅へとミアを誘い込んだ。
大きな柱と開け放たれた扉によって、ここは他の参列者からは死角になっている。
華奢な体を壁際に追い詰めて、腕で囲って。
綺麗にまとめられた栗色の髪に軽く唇で触れれば、目の前の少女は耳元まで赤くなった。
「一緒にいたいけど……私が帰らなかったら家族が心配するわ」
「大丈夫、君の屋敷に使いを出そう。それなら安心だろう?」
キスなら何度かしているというのに、未だにこれだけで恥ずかしそうに下を向く彼女が可愛くて仕方ない。
いつもならコンスタンツィ伯とクラウディオがべっとりと張り付いて威嚇してくるのだが、今日はどちらも予定があったそうでここにはいない。
そんな絶好の機会をアルベルトが逃すはずはなかった。
「大使から珍しい砂糖菓子を献上されたんだ。君もとても気にいると思う」
だめ押しのように囁くと、ミアはぱっと目を輝かせた。
「本当に?!」
「あぁ、北方では粉糖で作った砂糖細工が人気らしい。花に、猫に、鳥に。見ているだけでも楽しいよ。よかったら君の母上や姉上にも差し上げよう」
「アル……っ、嬉しい!」
やっとのことで約束を取り付けたアルベルトは、感動で目を潤ませるミアに微笑んだ。
家族思いの彼女には、こうして攻めるのが一番効果が高いのである。
◆
アルベルトがミアと婚約してから3ヶ月が過ぎた。
初めて両親と顔合わせをした際に彼は、『半年から1年後に結婚を』と発言したが、もちろん婚約公示期間である半年が過ぎたらすぐに結婚するつもりだった。
だから結婚式までは残り3ヶ月、と言いたいところだが、実はあと9ヶ月もある。
関係各所全てから横槍が入ったからである。
「私は可能な限り早く結婚披露式典を行いたいと思っている。半年後の予定はどうなっている」
「殿下、その頃には既に先代国王陛下の慰霊式典が予定されております。また、隣国(ローラン)の王太子殿下の結婚式典にもご出席の予定がございまして、エウフェミア様にも正式な婚約者として同行していただく思っております」
「……そうか、それは忙しいな。ではその翌月にしようか」
「その月は豊穣祈願の花祭りでございます。大々的な祭典が重なるのは避けるべきかと。その翌月には貴族院開院式と王国軍の観兵式がございます」
「…………分かった。ではそのまた翌月でどうだ」
「それが……その月は最悪の星の巡り合わせであると占術師から報告を受けておりまして」
「それでは一体何ヶ月後なら可能なんだ?!」
そんな紆余曲折を経て、彼らの結婚式は1年後に定められた。
それを聞いたコンスタンツィ家の男共は、『1年もあったら気が変わるかもしれないからな』と小躍りしていたのが今思い出しても腹が立つ。
アルベルトの治世になった暁には、コンスタンツィ家の鉱山にだけ何か理由をつけて重税を課してやろうと強く決意した出来事である。
それでもなんとか祝祭典の時期を動かしてもう少し早くに結婚したいとギリギリまで粘ったのだが、
「娘には知識も教養も心構えも、何もかも足りておりませんわ。こんな状態で王家へ嫁がせるなど、当家の面目が立ちません」
と、ミアの母であるコンスタンツィ伯爵夫人が強固に主張したため、結局1年後ということで最終決着したのだ。
アルベルトは誰に対しても常に強気で優位に立つ性格だが、かつての乳母であり、教育係でもあった伯爵夫人にだけは少し弱い。
◆
「きゃあっ、可愛い! 本当に私が全部いただいてもいいの!?」
あの手この手で説得したミアを自室へ連れ帰ったアルベルトは、すぐにテーブルいっぱいの砂糖菓子を準備させた。
粉糖を型に入れて固めたそれには淡い着色がされており、まるで小さな花畑にでもなったような様子である。
色とりどり、そして形も様々な砂糖菓子を目にしたミアは、アルベルトが期待していた以上に大喜びだった。
「あぁ。未来の王妃殿下からの覚えがめでたくなるようにと差し出されたものだからね。でも、本当に全部食べられる?」
からかいを含んだ声で問いかければ、愛しい少女はむむむ……と眉間にしわを寄せる。
どうにかしてこの可愛らしい菓子を全て食べられないかと算段をつけているのかもしれない。
「……全部は、無理よね」
だが彼女はあっさりと当然の結論に至ったようだ。
婚約して頻繁に会うようになってから分かったことだが、ミアはあまり物を食べない。
それは元から少食なのに加え、年頃の少女らしく体型を気にしているからのようだ。男のアルベルトからすると、ミアは十分すぎる程細いか、むしろ細すぎるくらいに見えるというのに。
それどころかもっと肉がついた方が抱き心地が良くなりそうで胸が躍るのだが、それを告げると怒らせてしまいそうでまだ言ったことはない。
どう伝えればもっと太ってくれるのか、アルベルトは思案中である。
「だから君の母上と姉上にも差し上げようと言ったんだ。あとで包むものを用意させるよ。……さぁ、そんなに離れていないで、こちらへ」
瞳をキラキラさせて砂糖菓子を見つめていたミアを引き寄せ、心地よい体重を体で受け止めた。
最初のうちはこうして抱きしめるだけでも緊張から体を強張らせていた彼女も、最近はうっとりと体を任せてくれるようになっている。そんな小さな進展ですらも嬉しくて、アルベルトの胸に温かい感情が満ち溢れる。
これが愛というものなのだと、彼は身を以って知った。
「さぁ、口を開けて?」
抱きしめるだけでは飽き足らず、アルベルトはすぐに長椅子に座ってミアを膝の上に横抱きにした。最近の彼が一番お気に入りの姿勢である。
こうすると体全体で密着出来るのに加え、膝から落ちないようにとあちらから擦り寄ってくれるのだ。たまには首に腕を回して甘えてくれ、自然にしっとりとした空気になる。なんと幸せな時間だろうか。
最後まで想いを完遂してはいけないという制限のある彼には諸刃の剣でもあるが、邪な願望はなんとか理性で押さえ込んでいる。
そんな体勢で口を開けるよう言うと、ミアは少しためらってから、恥ずかしそうに言葉に従った。
「……ん」
彼女の小さな口に合わせ、一番小さな花の塊を口に入れてやる。
最初は菓子に似合わない真剣な顔でもぐもぐと味わっていたが、その表情はすぐに砂糖のように甘く溶けていく。
答えは分かりきっていたが美味いかと問うと、頬を押さえたミアがこくこくと頷いた。
そんな様子を見るだけで味が想像出来そうだった。
だが、アルベルトも少しだけ味見させてもらおうと決めた。
せっかく献上されたものの味を知らないようでは相手方に失礼になってしまうから、というのは言い訳だが。
「ねぇ、アルにも食べさせてあげましょうか。お花? それともイチョウの形がいいかしら」
ぴったりと寄り添っていると想いが共鳴するのかもしれない。
ミアにちょうど良い提案をされて、アルベルトは笑みを深くした。確かに食べさせてもらうのも一興だが、今はもっと違う方法が希望だ。
「そうだな、私は君から分けてもらおうか」
「え? …………ゃ、んっ!」
菓子を選ぶために膝から降りようとしていたミアを捕まえて、長椅子に押し倒す。
上から伸し掛かるようにして唇を塞ぐと、一瞬驚いた彼女はすぐに体の力を抜いた。ぬるりと侵入した咥内は、いつもより数段甘い。
この3ヶ月で、ミアは口付けにもかなり慣れた。
これも愛を交わす手段のひとつだと理解してからは、自分からも積極的に舌を絡める優秀ぶりだ。好奇心が強くて素直な彼女は、教えたことは全て吸収する。
もっと良からぬ知識を植え付けたいという欲求と、アルベルトは必死に戦っていた。
「本当に甘いな。どうする、もっと欲しい?」
「ん……でも、太っちゃうもの……」
「君は十分細いだろう。少しくらい肉がついても色気が増すだけだ」
「……そう言ってくれるのは、アルだけだわ」
彼女の瞳がとろんと潤んできた。
今日はどこまで許されるだろうか。
出来ることなら裸に剥いて、体の隅々まで撫で回して啼かせたい。
本当の意味で最後まで行き着けなくても、2人で昇りつめる方法がない訳ではないのだから。
ミアがされるがままになっているうちに事を進めるべく、寝室へ移動しようとした時だ。
突然部屋の外が騒がしくなった。
「殿下、失礼いたします!」
性急なノックの音と共に室内に滑り込んだのは、女官長であるエリザ。
彼女には戦勝祝賀会の夜からいろいろと融通を利かせてもらっているが、今日は絶対に誰も部屋に入れるなと厳命していたはずだ。
「……どうした」
突然の乱入者に驚いたミアは慌てて体を起こしてしまい、アルベルトは不機嫌さを隠さずエリザを睨み付けた。
恐縮して深々と礼をしたエリザの後ろでドアが大きな音を立てて開く。
「困ります! お待ちください、そちらは開けては……!」
「ミア! 迎えに来たぞ!」
「お兄様っ?!」
アルベルトが想定していた中で、最悪の事態だった。
そこに立っていたのは、今日は他の予定があるからと夜会に出席していなかったクラウディオである。
妹に良い顔をしたいがために出世を重ねているクラウディオは、上級官吏としてそれなりに高い地位にいる。一切の武具を身につけていない高位貴族が妹を迎えに来ただけだと主張すれば、まさか切り捨てる訳にもいかず、ただの衛兵では太刀打ち出来なかったのだろう。
そうは分かっているが、せっかくの甘い時間を台無しにされた怒りで額に青筋が浮く。
「……今日は帰らないと使いを出したはずだが。今は我が婚約者殿と静かに語り合っていたところなんだ。悪いが遠慮してくれるかな」
ズカズカと室内に踏み込むクラウディオには本気の殺意しか湧かない。
とはいえここで感情を露わにしてはミアを怯えさせてしまうため、アルベルトは貼り付けたような笑顔で、あくまでも穏やかに語りかけた。
つまりは、『今すぐ帰れ。殺すぞ』という意味の遠回しな表現である。
が、平和的に解決しようとしたアルベルトの心遣いはあっさりと無視された。
「ミア、明日は外国語の授業だろう。午後からの予定だったが、ジネーブラ夫人の都合によって午前になったんだ。だから今日は早く帰って来なさい」
「まぁ、本当? ……今晩ここで過ごしてしまったら授業に遅れてしまうわね」
「という訳だ。悪いな、アルベルト。だが王家に嫁ぐための準備だから分かってくれるよな」
満面の笑みのクラウディオにそう言われ、アルベルトは奥歯を噛み締めながら乾いた笑いを漏らす。
どうせ、城からの連絡を受け取った後で無理やり夫人の予定を変更させたのだろうに。
この場で奴を殴り倒さなかった自分を褒めてやりたいものだ。
名残惜しそうに別れを告げるミアを見送ってから、アルベルトは長椅子にどさりと倒れ込んだ。
彼女の甘い匂いも、柔らかな唇の感触も、まだ体が鮮明に覚えている。
本当なら今頃、2人きりの寝台でめくるめく時を過ごしていたはずだったのに。
これからも延々と邪魔をし続けるクラウディオと戦う自分を想像すると、また胃のあたりから苛立ちが沸き起こってくるようだ。
正式に結婚するまであと9ヶ月。
アルベルトの我慢はまだまだ続くのであった。
北方の国から訪れた大使を歓迎する夜会の最中、アルベルトは大広間の片隅へとミアを誘い込んだ。
大きな柱と開け放たれた扉によって、ここは他の参列者からは死角になっている。
華奢な体を壁際に追い詰めて、腕で囲って。
綺麗にまとめられた栗色の髪に軽く唇で触れれば、目の前の少女は耳元まで赤くなった。
「一緒にいたいけど……私が帰らなかったら家族が心配するわ」
「大丈夫、君の屋敷に使いを出そう。それなら安心だろう?」
キスなら何度かしているというのに、未だにこれだけで恥ずかしそうに下を向く彼女が可愛くて仕方ない。
いつもならコンスタンツィ伯とクラウディオがべっとりと張り付いて威嚇してくるのだが、今日はどちらも予定があったそうでここにはいない。
そんな絶好の機会をアルベルトが逃すはずはなかった。
「大使から珍しい砂糖菓子を献上されたんだ。君もとても気にいると思う」
だめ押しのように囁くと、ミアはぱっと目を輝かせた。
「本当に?!」
「あぁ、北方では粉糖で作った砂糖細工が人気らしい。花に、猫に、鳥に。見ているだけでも楽しいよ。よかったら君の母上や姉上にも差し上げよう」
「アル……っ、嬉しい!」
やっとのことで約束を取り付けたアルベルトは、感動で目を潤ませるミアに微笑んだ。
家族思いの彼女には、こうして攻めるのが一番効果が高いのである。
◆
アルベルトがミアと婚約してから3ヶ月が過ぎた。
初めて両親と顔合わせをした際に彼は、『半年から1年後に結婚を』と発言したが、もちろん婚約公示期間である半年が過ぎたらすぐに結婚するつもりだった。
だから結婚式までは残り3ヶ月、と言いたいところだが、実はあと9ヶ月もある。
関係各所全てから横槍が入ったからである。
「私は可能な限り早く結婚披露式典を行いたいと思っている。半年後の予定はどうなっている」
「殿下、その頃には既に先代国王陛下の慰霊式典が予定されております。また、隣国(ローラン)の王太子殿下の結婚式典にもご出席の予定がございまして、エウフェミア様にも正式な婚約者として同行していただく思っております」
「……そうか、それは忙しいな。ではその翌月にしようか」
「その月は豊穣祈願の花祭りでございます。大々的な祭典が重なるのは避けるべきかと。その翌月には貴族院開院式と王国軍の観兵式がございます」
「…………分かった。ではそのまた翌月でどうだ」
「それが……その月は最悪の星の巡り合わせであると占術師から報告を受けておりまして」
「それでは一体何ヶ月後なら可能なんだ?!」
そんな紆余曲折を経て、彼らの結婚式は1年後に定められた。
それを聞いたコンスタンツィ家の男共は、『1年もあったら気が変わるかもしれないからな』と小躍りしていたのが今思い出しても腹が立つ。
アルベルトの治世になった暁には、コンスタンツィ家の鉱山にだけ何か理由をつけて重税を課してやろうと強く決意した出来事である。
それでもなんとか祝祭典の時期を動かしてもう少し早くに結婚したいとギリギリまで粘ったのだが、
「娘には知識も教養も心構えも、何もかも足りておりませんわ。こんな状態で王家へ嫁がせるなど、当家の面目が立ちません」
と、ミアの母であるコンスタンツィ伯爵夫人が強固に主張したため、結局1年後ということで最終決着したのだ。
アルベルトは誰に対しても常に強気で優位に立つ性格だが、かつての乳母であり、教育係でもあった伯爵夫人にだけは少し弱い。
◆
「きゃあっ、可愛い! 本当に私が全部いただいてもいいの!?」
あの手この手で説得したミアを自室へ連れ帰ったアルベルトは、すぐにテーブルいっぱいの砂糖菓子を準備させた。
粉糖を型に入れて固めたそれには淡い着色がされており、まるで小さな花畑にでもなったような様子である。
色とりどり、そして形も様々な砂糖菓子を目にしたミアは、アルベルトが期待していた以上に大喜びだった。
「あぁ。未来の王妃殿下からの覚えがめでたくなるようにと差し出されたものだからね。でも、本当に全部食べられる?」
からかいを含んだ声で問いかければ、愛しい少女はむむむ……と眉間にしわを寄せる。
どうにかしてこの可愛らしい菓子を全て食べられないかと算段をつけているのかもしれない。
「……全部は、無理よね」
だが彼女はあっさりと当然の結論に至ったようだ。
婚約して頻繁に会うようになってから分かったことだが、ミアはあまり物を食べない。
それは元から少食なのに加え、年頃の少女らしく体型を気にしているからのようだ。男のアルベルトからすると、ミアは十分すぎる程細いか、むしろ細すぎるくらいに見えるというのに。
それどころかもっと肉がついた方が抱き心地が良くなりそうで胸が躍るのだが、それを告げると怒らせてしまいそうでまだ言ったことはない。
どう伝えればもっと太ってくれるのか、アルベルトは思案中である。
「だから君の母上と姉上にも差し上げようと言ったんだ。あとで包むものを用意させるよ。……さぁ、そんなに離れていないで、こちらへ」
瞳をキラキラさせて砂糖菓子を見つめていたミアを引き寄せ、心地よい体重を体で受け止めた。
最初のうちはこうして抱きしめるだけでも緊張から体を強張らせていた彼女も、最近はうっとりと体を任せてくれるようになっている。そんな小さな進展ですらも嬉しくて、アルベルトの胸に温かい感情が満ち溢れる。
これが愛というものなのだと、彼は身を以って知った。
「さぁ、口を開けて?」
抱きしめるだけでは飽き足らず、アルベルトはすぐに長椅子に座ってミアを膝の上に横抱きにした。最近の彼が一番お気に入りの姿勢である。
こうすると体全体で密着出来るのに加え、膝から落ちないようにとあちらから擦り寄ってくれるのだ。たまには首に腕を回して甘えてくれ、自然にしっとりとした空気になる。なんと幸せな時間だろうか。
最後まで想いを完遂してはいけないという制限のある彼には諸刃の剣でもあるが、邪な願望はなんとか理性で押さえ込んでいる。
そんな体勢で口を開けるよう言うと、ミアは少しためらってから、恥ずかしそうに言葉に従った。
「……ん」
彼女の小さな口に合わせ、一番小さな花の塊を口に入れてやる。
最初は菓子に似合わない真剣な顔でもぐもぐと味わっていたが、その表情はすぐに砂糖のように甘く溶けていく。
答えは分かりきっていたが美味いかと問うと、頬を押さえたミアがこくこくと頷いた。
そんな様子を見るだけで味が想像出来そうだった。
だが、アルベルトも少しだけ味見させてもらおうと決めた。
せっかく献上されたものの味を知らないようでは相手方に失礼になってしまうから、というのは言い訳だが。
「ねぇ、アルにも食べさせてあげましょうか。お花? それともイチョウの形がいいかしら」
ぴったりと寄り添っていると想いが共鳴するのかもしれない。
ミアにちょうど良い提案をされて、アルベルトは笑みを深くした。確かに食べさせてもらうのも一興だが、今はもっと違う方法が希望だ。
「そうだな、私は君から分けてもらおうか」
「え? …………ゃ、んっ!」
菓子を選ぶために膝から降りようとしていたミアを捕まえて、長椅子に押し倒す。
上から伸し掛かるようにして唇を塞ぐと、一瞬驚いた彼女はすぐに体の力を抜いた。ぬるりと侵入した咥内は、いつもより数段甘い。
この3ヶ月で、ミアは口付けにもかなり慣れた。
これも愛を交わす手段のひとつだと理解してからは、自分からも積極的に舌を絡める優秀ぶりだ。好奇心が強くて素直な彼女は、教えたことは全て吸収する。
もっと良からぬ知識を植え付けたいという欲求と、アルベルトは必死に戦っていた。
「本当に甘いな。どうする、もっと欲しい?」
「ん……でも、太っちゃうもの……」
「君は十分細いだろう。少しくらい肉がついても色気が増すだけだ」
「……そう言ってくれるのは、アルだけだわ」
彼女の瞳がとろんと潤んできた。
今日はどこまで許されるだろうか。
出来ることなら裸に剥いて、体の隅々まで撫で回して啼かせたい。
本当の意味で最後まで行き着けなくても、2人で昇りつめる方法がない訳ではないのだから。
ミアがされるがままになっているうちに事を進めるべく、寝室へ移動しようとした時だ。
突然部屋の外が騒がしくなった。
「殿下、失礼いたします!」
性急なノックの音と共に室内に滑り込んだのは、女官長であるエリザ。
彼女には戦勝祝賀会の夜からいろいろと融通を利かせてもらっているが、今日は絶対に誰も部屋に入れるなと厳命していたはずだ。
「……どうした」
突然の乱入者に驚いたミアは慌てて体を起こしてしまい、アルベルトは不機嫌さを隠さずエリザを睨み付けた。
恐縮して深々と礼をしたエリザの後ろでドアが大きな音を立てて開く。
「困ります! お待ちください、そちらは開けては……!」
「ミア! 迎えに来たぞ!」
「お兄様っ?!」
アルベルトが想定していた中で、最悪の事態だった。
そこに立っていたのは、今日は他の予定があるからと夜会に出席していなかったクラウディオである。
妹に良い顔をしたいがために出世を重ねているクラウディオは、上級官吏としてそれなりに高い地位にいる。一切の武具を身につけていない高位貴族が妹を迎えに来ただけだと主張すれば、まさか切り捨てる訳にもいかず、ただの衛兵では太刀打ち出来なかったのだろう。
そうは分かっているが、せっかくの甘い時間を台無しにされた怒りで額に青筋が浮く。
「……今日は帰らないと使いを出したはずだが。今は我が婚約者殿と静かに語り合っていたところなんだ。悪いが遠慮してくれるかな」
ズカズカと室内に踏み込むクラウディオには本気の殺意しか湧かない。
とはいえここで感情を露わにしてはミアを怯えさせてしまうため、アルベルトは貼り付けたような笑顔で、あくまでも穏やかに語りかけた。
つまりは、『今すぐ帰れ。殺すぞ』という意味の遠回しな表現である。
が、平和的に解決しようとしたアルベルトの心遣いはあっさりと無視された。
「ミア、明日は外国語の授業だろう。午後からの予定だったが、ジネーブラ夫人の都合によって午前になったんだ。だから今日は早く帰って来なさい」
「まぁ、本当? ……今晩ここで過ごしてしまったら授業に遅れてしまうわね」
「という訳だ。悪いな、アルベルト。だが王家に嫁ぐための準備だから分かってくれるよな」
満面の笑みのクラウディオにそう言われ、アルベルトは奥歯を噛み締めながら乾いた笑いを漏らす。
どうせ、城からの連絡を受け取った後で無理やり夫人の予定を変更させたのだろうに。
この場で奴を殴り倒さなかった自分を褒めてやりたいものだ。
名残惜しそうに別れを告げるミアを見送ってから、アルベルトは長椅子にどさりと倒れ込んだ。
彼女の甘い匂いも、柔らかな唇の感触も、まだ体が鮮明に覚えている。
本当なら今頃、2人きりの寝台でめくるめく時を過ごしていたはずだったのに。
これからも延々と邪魔をし続けるクラウディオと戦う自分を想像すると、また胃のあたりから苛立ちが沸き起こってくるようだ。
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何度でも読み返したくなる大好きな作品です。
素晴らしい作品を産んでくれてありがとうございます。
これからも読み続けます。
心が温かくなる、可愛らしくて素敵な物語でした。
読ませて頂いて有難うございました。
アルベルト様にも考えがあってのこととは思いますが、ここまで来るとヒロインがけなげな子ではなくあほの子みたいに見えてきてしまってちょっと微妙。
感想ありがとうございました!
今回のヒロインは、健気というか鈍感すぎるアホの子として書いています。
なので存分に、こいつアホだな!と思ってやって下さい。
ちなみにアルベルトは大して何も考えていません笑