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無慈悲な通告
しおりを挟む淫魔である彼ら三姉弟は先ほどから何を探しているのかというと、次女の「ファーストバイト」の相手だった。
淫魔は、基本的に人間の精気を食料とし、人間が朝・昼・晩に食事をするのと同じく、定期的に摂取しないと飢えて死んでしまう。精気を吸い取る方法はさまざまあるが、「性的接触による食事行為」が最も基本的な食事方法である。インキュバスは女性を、サキュバスは男性を対象として、「性的接触」――有り体に言えば、愛撫や性行為等によって快楽の絶頂に至らしめることで、人間から漏れ出る精気を摂取し、腹を満たすというわけだ。
淫魔によって趣向は違うため、異性だけでなく同性も対象にしている者もいれば、同性しか対象としない淫魔もいる。人間一人一人に細かな好き嫌いがあるのと同じだ。
そして、その「性的接触による食事行為」を「初めて」行うことを、淫魔の世界では特別に「ファーストバイト」と呼んだ。淫魔が一人前として他の魔族に認められるためには、他にもこまごまとした物事は存在するものの、まずはこの「ファーストバイト」を終えているかどうかが最も重要だった。
「ファーストバイトの相手なんて、私はもう覚えてないわ」
片頬に手のひらを当て、遠い記憶を探るようなまなざしを空に投げるのは長女セレナである。上質なつくりの黒手袋に包まれた腕、その所作はどこまでも淑やかで品が良く、高貴な身分であるとわかる。なよやかに下がった眉尻を見たら、老若男女すべての人間が「自分が守ってあげなければ」と感じるほどである。
「お姉ちゃんったら! ハジメテの相手なのに!」
きゃあ、と恥じらいの声を上げ、くねくねと身をよじらせて顔を赤らめるのは、次女であるアリア。剥き出しの背中で、二つに結われた髪が忙しなく左右に振れている。
「キャロルは? 今もたまに交流してるんでしょ? 何だっけ。愚痴とか聞いてるんだっけ?」
「たまにね。僕もセレナ姉さんと同じく、特にこだわりなんて無かったよ。たまたまそこにいたから」
「え~。二人ともロマンが無いな~」
「そういえば二人のファーストバイトの相手は?」と明け透けに質問をしたのはアリアであるのに、聞いたそばから文句を垂れる。
「私は、絶対、そんじょそこらの相手じゃイヤ! 一目見た瞬間にピカーッて、後光的な? きらきら輝いてる、そういうひとがいいの!」
「アリア姉さんは下界の創作物の読みすぎなんだって……」
「どうしたものかしら……」
まだ見ぬ相手を好き放題に妄想し、頬を両手で挟みながらくるくると上機嫌に回転する次女を、長女と弟は困り果てたように眺める。アリアは、三人の中で最も露出度の高い淫奔な恰好をしているが、その実、三人の中で最も身持ちが固かった。淫魔にとってファーストバイトの相手とは、初めての相手という特別感があるとはいっても、アリアほどの選別はしない。むしろ、セレナやキャロルのように、たまたまそこにいたから、腹が減ったタイミングでちょうど出くわしたから。その程度の理由で一人を魅惑し、「食事」に及ぶのが普通だ。
しかしアリアは強いこだわりを見せ、「私の、は、ハジメテの相手なんだから」、「せっ、せ、せ、性行為をするんだから! 性行為って! やだ、もう!」とたいそう恥じらいながら相手を選り好みし、厳選は今なお続き、未だファーストバイトを終えていないのだった。
三人の中で、唯一アリアだけが、淫魔として半人前なのだ。
では、アリアは生命維持に必須の食事をどうしていたのかというと、性的接触「以外」の行為、そして姉と弟から力を分け与えられることで、これまでどうにか食いつないできた。
淫魔の食料である「精気」とは、人間が持つエネルギー全般のことである。それが放出される瞬間とは、すなわち人間が我を忘れた茫然自失の状態となった瞬間だ。例えば、快楽による絶頂、恐怖による恐慌、驚かされて吃驚仰天、など。ただし、恐慌や驚愕の際のエネルギー放出量は快楽と比べてはるかに少なくなっている。
アリアは今まで、性的な接触によらず、人間を驚かしてみたり、怖がらせてみたりすることによって、ちまちまとした食事をしていたのだった。性行為の方がはるかに効率がいいのに、である。
そして今日も今日とて姉と弟に頼み込み、相手探しを手伝わせている。
「……アリア。真面目に聞いてほしいのだけれど」
あれでもないこれでもないとアリアが道行く人間をチェックしていると、ふいにセレナが沈んだ声を出した。
「? どうしたの、お姉ちゃん」
「もう、私達はあなたを手伝ってあげられないの」
「……え?」
「……」
今までの楽しげな表情は一変、アリアの顔は驚愕に凍り付く。キャロルの方を振り返ると、キャロルもまた、神妙な面持ちで静かに頷いた。
「……うそ?」
「嘘じゃない……父さんからの命令だ」
「昨日、お父様からお達しがあってね」
未だ言われたことを理解できずにいるアリアを置いてけぼりにして、セレナが右腕を高らかに掲げる。すると、すぐに一羽の鴉が彼女の細腕にとまり、羽を休めた。鴉が一声鳴くと、三人の目のまえに文書が映し出される。それは明らかに、彼女ら三人の父親の筆跡だった。
アリアはその文書にかじりつき、震える声で読み進める。
「『セレナとキャロルは一度帰還し、新たな任に就かせる……。アリアは一人で行動するように……!?』」
「僕たちが天界に戻るのは明後日の朝」
「だから、あなたを手伝えるのは明日までなの。残念だけれど……」
「そんな!」
晴れ渡った青天に、アリアの悲痛な声が響いた。
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