純情淫魔ちゃんと冷淡天使様!

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運命の人

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 アリアはこれ以上ないほどにはしゃいでいた。右手で姉セレナ、左手で弟キャロルの手首を引っ掴み、浮かれた足取り――ならぬ翼取りで、目標のもとへと一目散に駆けてゆく。
 アリアがこんなにも喜び勇んでいるのは、ようやく念願の、まさに自分の理想通りの人間が見つかった、というだけではない。もちろんそのこともただならぬ喜びをもたらしたが、何より、これでようやく姉と弟に苦労をかけることもなくなる、と思ったからだった。いかに能天気なアリアと言えど、自分のわがままのために二人の時間を浪費させてしまうのは心苦しいと思っているのだ。
 三人で一緒に行動するのは、とても楽しかったけれど。
 でもこれでようやく、それも終わる。寂しいけれど、二人の時間をこれ以上奪うわけにもいかない。それに父上から直々にお呼び出しもかかっている。
 これまでの長い道のりをまるで走馬灯のように脳裏に蘇らせながら、アリアは二人を引っ張って目標の地点までたどり着いた。

「いた!」

 その言葉を合図に、三人は羽搏くのをやめた。近くの研究棟の屋上に立ち、三人並んで下の様子を窺った。

「どれだよ?」

 と問うのは、腕組みをして地上を見下ろすキャロル。
 アリアは「ふっふっふ~」と得意気に笑ってから、目的の人物目掛けて指を指した。

「あれよ!」

 セレナとキャロルは指し示された先を注意深く見つめた。ほどなくして、研究棟の向かいにある大樹の下、アリア曰くの「運命の人」を捕捉する。
 そこには、確かに、周囲の人間とは一風異なる雰囲気を持った男子学生が佇んでいた。

「あら、あら……」
「……なるほど。まあ、納得と言えば納得かな……」
「何よ、その反応!」

 その男は美形だった。烏の濡れ羽のような黒髪、透き通るような白い肌、端正な顔立ち、涼しげな風采。かといって線が細いわけでもなく、逆に男くさいわけでもなく、いわゆる中性的な美貌を備えていた。
 誰かと待ち合わせでもしているのか、樹の幹に背を凭せ掛けて文庫本に目を通しているその姿は、確かにアリアの好み通りの怜悧な佇まいだ。額にかかる前髪、伏せ気味の瞼を縁取る睫毛の一本一本が繊細で、ページをめくる指先ひとつにも気品が漂っている。どこか人間離れした、卓越した雰囲気を纏っているその美青年は、木陰にいるというのに、全身から冴え冴えとした光を放っているようにさえ見えた。
 男の容姿をまじまじと観察するキャロルは、これなら確かに好みにうるさいアリアも一目惚れをするだろう、と思った。青年の表情はいささか冷淡なようにも見えるが、姉はきっと「それもまた良いじゃない」などと言うのだろう。青年から視線を外し、隣のアリアの様子を窺うと、彼女はやはり熱のこもった瞳でじっとその男を見つめていた。白い頬はすっかり薄桃色に染まっていて、胸だってどきどきと高鳴っているに違いないと容易に察せられた。
 彼の周囲を歩いている人々も、彼のただならぬ風貌に思わず目を奪われ、また通りすがった後も振り返って二度見、三度見をしているほどだ。そしてそんな周りの様子に、本人は何ら気にした様子もない。慣れているのだろう。

「人間にしてはびっくりするほどの美形だわ。魔族の中にも天使の中にもそうそういないわよ……。そう思わない、お姉ちゃん?」
「ええ、そうね……。う~ん、でも……」

 アリアは同意を求めてセレナに問いかけるが、セレナの返事は煮え切らない。姉の珍しい様子にアリアは訝るも、「姉さん、あそこを見てよ」と肩を叩くキャロルの呼びかけに注意を奪われた。

「ほら、女の子たちの集団が彼をずっと見てる。もじもじしちゃって、彼に話しかけたいんだろうね」
「あー! ちょっと! 私が先に目を付けたのよ!」
「人間と張り合うなよ。……ああ、でも諦めて行っちゃった。確かに彼、ちょっと近寄りがたい雰囲気だよね。神秘的っていうかさ……」

 キャロルは男に興味は無いが、美しいものは好きだった。その弟にこれだけ言わしめたのだから、アリアの機嫌はますますうなぎ上りになる。

「ほんとに! 神がかり的な美しさよね。私の目に狂いは無いわ!」
「まだ何もしてないのに、誇るなよ……」

 先端がハート型の尻尾をぶんぶんと揺らしながら好き放題に男を品評する二人の横で、セレナだけは神妙な面持ちで彼の様子を見つめていた。

「……あの人、どこかで見たことがあるような……?」

 セレナの呟きは、男の美貌をああだこうだと楽しげに形容する二人の耳には届いていなかった。
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