41 / 64
三通目 親子の情
#4
しおりを挟む
「ふぅん、そいつは災難だったなぁ、坊主。まぁ、食え食え。嫌なことは美味いもんを食って忘れるもんだ」
そう言いながら僕のお皿を山盛りにするのは映画監督の青野さん。
楓が片手間にやっている貸しスタジオの常連さんだ。
そう言えば、夏樹に手伝ってもらった時も来てたっけ。
「帰るぞ」と言って車に乗せられた後、連れて来られたのは何だかきらびやかなパーティー会場だった。
中央に丸テーブルがいくつかと、会場の両側に置かれた長テーブルにたくさんの料理が並ぶ立食形式で、入ってきた僕たちに気付いた青野さんが椅子と小さなテーブルを手配して座るように言われた。
帰るんじゃなかったの? と楓を見ると、こっそり、ここで次の仕事の打ち合わせがあるから少し付き合えって耳打ちされた。
楓が僕を連れてきた経緯を青野さんに説明している。
「しかし、坊主、香月だったか。木下さんとは血が繋がってなかったんだな」
「血が繋がってないとダメですか? 俺は、香月と要は少なくともこいつの本当の親よりちゃんと親子だと感じてます」
「いや、違うんだ木下さん。そういう意味で言ったんじゃ……あぁ、すまんな香月。俺が悪かった。ほら、これでも食って機嫌直して、な?」
僕が落ち込んだ様子を見て楓がまた怒ったような声を出し、青野さんが慌てて謝罪し、すでに山盛りになった僕のお皿にさらに料理を重ねる。
僕がここに連れて来られてから、一度も立ち上がる隙もなくどんどん料理が運ばれてくる。
さっきから、綺麗な服を着たお姉さん達が「これも食べて~」と入れ替わり立ち代わり次々と僕のお皿に料理を乗せていくのだ。
その度に青野さんが「今大事な話をしているから」と追い払っているけど。
落ち込んだ気持ちをごまかすために目の前に置かれたご馳走を口に運ぶけど、よく味がわからない。
そんな僕をしばらく黙って見ていた青野さんが、再び口を開いた。
「木下さんや弟さんが香月を大事にしているのは短い付き合いだがわかる。香月が同じように二人を好きだってのもな。だけど、血の繋がりってのはそうそう捨てられないんだよ。嫌われてるってわかってても、もしかしたら、って期待してしまう。子どもにとって本当の親ってのはそのくらい大きな存在なんだ」
びっくりして青野さんの顔を見ると目が合った。とても真剣な目だった。
「わかるさ。俺も施設で育ったんだ。育ての親は好きだし、施設にいる兄弟たちも好きだ。でも、本当の親がいつか迎えに来てくれるんじゃないかって、ずっとそう思っていた。香月は施設じゃないけど、それでも似たような気持ちだろう?」
青野さんの言葉はまさに僕の心そのもので。
コクン、と頷いたら、さっきまで耐えてきた涙が零れてきた。
オロオロしながら楓がティッシュを取り出し、僕の涙と鼻水を拭ってくれる。
「僕……ちゃんとわかってるよ……パパとママが僕を嫌いっていうのも……ヒック……要も楓も僕を大事にして……くれてるって……」
ズズ、と鼻をすすりながら、涙を何とかこらえようとするけれど、止まらない。
「でも……どうしても……パパとママに……会いたいっ……て」
「香月……」
「要たちに大事に……してもらってるのに……そんなこと思っちゃ……ダメだって……僕……」
パパとママに会いたいって思ってるって、要に知られるのは怖かった。
要を悲しませるのも、要に嫌われるのも辛い。
「もういいよ、香月」
「そうそう。不満があるわけじゃないのに、本当の両親を求めてしまうのは香月だけじゃないよ」
泣きじゃくる僕を宥めるように楓が抱きしめて、青野さんが頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。
そんな二人から伝わってくるのは、今は泣いていいんだよっていう優しい気持ちで。
「うああぁぁぁん!」
僕は数年ぶりに声を抑えずに泣いた。
いくら泣いても、二人はパパやママみたくうるさいとか思わずに僕が落ち着くまで傍にいてくれて。
少し落ち着いたところでふと、そう言えば「次の仕事の打ち合わせがある」って言ってなかったっけ? と思い出す。
何とか「僕の事は気にしないで、お仕事してきて良いよ」と声を振り絞って伝えると、二人は離れてくれた。
改めて周囲を見回すと、どうやらこのパーティーは撮影が終了した打ち上げっぽいことが分かった。
大泣きしていたのを遠巻きに見られていたのを恥ずかしく思い、周りの人の視線を気にしないように目の前の料理に手を伸ばす。
周りを意識しないよう料理に集中する僕の横で、二人は次の映画の企画とかコンセプトとか撮影の入りがいつからとかそういう話をしていた。
「じゃぁ、そんな感じで作っておきますね」
「おう、また宜しく頼む」
「ええ、こちらこそ。宜しくお願いします」
「それにしても、打ち上げの時くらい次の仕事のこと忘れたらどうですか?」
「間空けると感覚が鈍るんでな」
そんな会話をしながら見送ってくれて、去り際に僕の頭をまたワシワシと撫でるから、青野さんの本心は楓もスタッフの一員として打ち上げに参加して欲しかった、というのがわかってしまった。
「楓、僕もう少しパーティーにいたい。まだデザート食べてないもの」
「香月、お前……さっきまで泣いてたくせに……」
「ははっ! 良いぞ、たくさん食べていけ。さぁ、木下さんも」
楓の服を引っ張って中に戻りたい、と言ったら青野さん凄く嬉しそうにしてくれて。
結局打ち上げパーティーが終わるまでいた。
そう言いながら僕のお皿を山盛りにするのは映画監督の青野さん。
楓が片手間にやっている貸しスタジオの常連さんだ。
そう言えば、夏樹に手伝ってもらった時も来てたっけ。
「帰るぞ」と言って車に乗せられた後、連れて来られたのは何だかきらびやかなパーティー会場だった。
中央に丸テーブルがいくつかと、会場の両側に置かれた長テーブルにたくさんの料理が並ぶ立食形式で、入ってきた僕たちに気付いた青野さんが椅子と小さなテーブルを手配して座るように言われた。
帰るんじゃなかったの? と楓を見ると、こっそり、ここで次の仕事の打ち合わせがあるから少し付き合えって耳打ちされた。
楓が僕を連れてきた経緯を青野さんに説明している。
「しかし、坊主、香月だったか。木下さんとは血が繋がってなかったんだな」
「血が繋がってないとダメですか? 俺は、香月と要は少なくともこいつの本当の親よりちゃんと親子だと感じてます」
「いや、違うんだ木下さん。そういう意味で言ったんじゃ……あぁ、すまんな香月。俺が悪かった。ほら、これでも食って機嫌直して、な?」
僕が落ち込んだ様子を見て楓がまた怒ったような声を出し、青野さんが慌てて謝罪し、すでに山盛りになった僕のお皿にさらに料理を重ねる。
僕がここに連れて来られてから、一度も立ち上がる隙もなくどんどん料理が運ばれてくる。
さっきから、綺麗な服を着たお姉さん達が「これも食べて~」と入れ替わり立ち代わり次々と僕のお皿に料理を乗せていくのだ。
その度に青野さんが「今大事な話をしているから」と追い払っているけど。
落ち込んだ気持ちをごまかすために目の前に置かれたご馳走を口に運ぶけど、よく味がわからない。
そんな僕をしばらく黙って見ていた青野さんが、再び口を開いた。
「木下さんや弟さんが香月を大事にしているのは短い付き合いだがわかる。香月が同じように二人を好きだってのもな。だけど、血の繋がりってのはそうそう捨てられないんだよ。嫌われてるってわかってても、もしかしたら、って期待してしまう。子どもにとって本当の親ってのはそのくらい大きな存在なんだ」
びっくりして青野さんの顔を見ると目が合った。とても真剣な目だった。
「わかるさ。俺も施設で育ったんだ。育ての親は好きだし、施設にいる兄弟たちも好きだ。でも、本当の親がいつか迎えに来てくれるんじゃないかって、ずっとそう思っていた。香月は施設じゃないけど、それでも似たような気持ちだろう?」
青野さんの言葉はまさに僕の心そのもので。
コクン、と頷いたら、さっきまで耐えてきた涙が零れてきた。
オロオロしながら楓がティッシュを取り出し、僕の涙と鼻水を拭ってくれる。
「僕……ちゃんとわかってるよ……パパとママが僕を嫌いっていうのも……ヒック……要も楓も僕を大事にして……くれてるって……」
ズズ、と鼻をすすりながら、涙を何とかこらえようとするけれど、止まらない。
「でも……どうしても……パパとママに……会いたいっ……て」
「香月……」
「要たちに大事に……してもらってるのに……そんなこと思っちゃ……ダメだって……僕……」
パパとママに会いたいって思ってるって、要に知られるのは怖かった。
要を悲しませるのも、要に嫌われるのも辛い。
「もういいよ、香月」
「そうそう。不満があるわけじゃないのに、本当の両親を求めてしまうのは香月だけじゃないよ」
泣きじゃくる僕を宥めるように楓が抱きしめて、青野さんが頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。
そんな二人から伝わってくるのは、今は泣いていいんだよっていう優しい気持ちで。
「うああぁぁぁん!」
僕は数年ぶりに声を抑えずに泣いた。
いくら泣いても、二人はパパやママみたくうるさいとか思わずに僕が落ち着くまで傍にいてくれて。
少し落ち着いたところでふと、そう言えば「次の仕事の打ち合わせがある」って言ってなかったっけ? と思い出す。
何とか「僕の事は気にしないで、お仕事してきて良いよ」と声を振り絞って伝えると、二人は離れてくれた。
改めて周囲を見回すと、どうやらこのパーティーは撮影が終了した打ち上げっぽいことが分かった。
大泣きしていたのを遠巻きに見られていたのを恥ずかしく思い、周りの人の視線を気にしないように目の前の料理に手を伸ばす。
周りを意識しないよう料理に集中する僕の横で、二人は次の映画の企画とかコンセプトとか撮影の入りがいつからとかそういう話をしていた。
「じゃぁ、そんな感じで作っておきますね」
「おう、また宜しく頼む」
「ええ、こちらこそ。宜しくお願いします」
「それにしても、打ち上げの時くらい次の仕事のこと忘れたらどうですか?」
「間空けると感覚が鈍るんでな」
そんな会話をしながら見送ってくれて、去り際に僕の頭をまたワシワシと撫でるから、青野さんの本心は楓もスタッフの一員として打ち上げに参加して欲しかった、というのがわかってしまった。
「楓、僕もう少しパーティーにいたい。まだデザート食べてないもの」
「香月、お前……さっきまで泣いてたくせに……」
「ははっ! 良いぞ、たくさん食べていけ。さぁ、木下さんも」
楓の服を引っ張って中に戻りたい、と言ったら青野さん凄く嬉しそうにしてくれて。
結局打ち上げパーティーが終わるまでいた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる