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三通目 親子の情
#7
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『おいおい、落ち着けよ。いなくなった子を探すって言ってここに来たんだろうが』
「ひっ!」
怒声を上げる僕にかけられたお兄さんの声に我に返った。やっぱりお兄さんについてきてもらって正解だった。
僕の肩を掴んだまま、怯えた表情でママが固まっている。
視線は僕の後ろ、お兄さんに向いている。……あ。
「……あなた、誰? いつから……どうやって家の中に…?」
『ん? ずっといたぜ?』
「敏子……香月の後ろには誰もいないぞ……」
ママには特にお兄さんを視せようとか思っていなかったのだけれど。どうやら、僕が怒っていたせいで、視せたいと思わなくても視えてしまっているようだ。
僕に掴みかかるママを止めようとしたのか、パパが奥の部屋から出てきた。視えていないパパからすれば虚空に向かって話しかけるママに青褪めた顔でパパには視えていないことを告げる。
怒っていることで、能力が強まっているってことなら。
「パパ、ママ。僕の力は知ってるでしょ? 僕なら、慶太君を探せると思う。いなくなる前の状況を教えて」
「探すも何も、あんた達が攫ったんでしょ?!」
「やめなさい……香月、本当に慶太を探せるのか?」
パパが真剣な顔で聞いてくるので、頷いて見せる。
状況を教えて、という言葉につられたのか、ママが最後に見た慶太君の様子が目の奥に映る。
「慶太君は、まだ自分じゃ玄関のドアを開けられない。で、縁側の日が当たる部屋で寝かせてた」
明るさからして、僕達が帰ったすぐ後だろう。
気付けば警察官のおじさん達も集まってきて、僕達の話に耳を傾けている。
「で、気付いたら縁側のガラス戸が開いていた」
「そうだ」
青褪めた顔で何も言わなくなってしまったママに代わって、パパが話を肯定する。
きっと警察を呼んだりした中でママから状況を聞いていたんだろう。
「その部屋に入らせて」
「何をするつもり……?」
『良いから、案内しな。言ったろ、いなくなった子を探すって』
ママが僕とお兄さんの顔を交互に見比べている。……もう手は放しているのに、まだ見えるみたいだ。
「……こっちよ」
案内された部屋で、僕は視た通りの場所に迷わず行く。
パパとママは、僕にできるのは幽霊を視ること、心を読むことだけだと思っているみたいだったけど。できることは他にもある。
触れた物に込められた想いや記憶を紐づけて引き出すこと――サイコメトリーだ。
ママの記憶の中で開いていたガラス戸に触れる。
さあ、教えてくれ。この戸を開けたのは誰? 開けた時、どこを見ていた? どこへ行った?
戸にかける小さな手が視える。視線も低い。慶太君だ。鍵はかかっていない。戸が開く。
道路の向こうに、ママより少し若いくらいのお姉さんが手招いている。手に持っているのは……あれは、お菓子?
縁側の置石にあった大きすぎるサンダルを引きずりながら出ていく……ダメだ。ここから視えるのはここまでだ。
「……慶太君、自分で出ていったみたい」
「嘘よ!」
「ここに、サンダルを置いてたでしょ? 黄色いやつ。それを履いて出た。道路から手招くお姉さんがいた。慶太君は自分でついて行っちゃったんだ」
ふらっ、と気を失ったように倒れるママをパパが支えて休ませている間に、僕は周りにいた警察官からお姉さんの顔がどんな感じか細かく聞かれる。
できあっがった似顔絵を見て、なんだかざわついていた。四人のおじさんは何やら電話をかけながら出ていく。
「ねぇ、僕のお父さんとおじさんが、この件で警察に連れていかれて帰ってこないの。帰してくれる?」
「……話を聞いてるだけだから、すぐに帰すよ。大丈夫」
すぐ傍にいたおじさんに聞くと、笑顔でそう言いながら僕の頭を撫でてくれるけど。
その手から伝わってきたのは、僕の言葉が本当かどうか疑う気持ちと。慶太君が見つからない限り、お父さんたちが本当に関与していないとわからない限り解放されないだろうってこと。
……やっぱり、見つけないとダメか。
「坊や? どこへ行くんだい?」
部屋を出て玄関に向かおうとする僕におじさんが慌てたように声を掛ける。
僕の言葉を信じていないくせに。やたら機嫌を取るような声や話し方が気持ち悪い。
「慶太君を見つけるの。じゃなきゃ、お父さんを返してくれないんでしょ?」
振り返らず止まらずにそう答えると、靴を履いて外に出る。
身を乗り出すようにしていたのが視えたからきっとこの辺に触れているはず、とお姉さんが立っていた辺りの壁に手で触れる。
触れた途端、伝わってきたのは喜び。
(ああ、私の坊や! こんな所にいたのね! さぁ、ママと帰りましょう! 甘いお菓子もたくさん買ってきたのよ――)
慶太君を見つける。お菓子を見せて呼び寄せる。出てきた慶太君と嬉しそうに手を繋ぐ。そのまま家路へ――。
慶太君を連れていったお姉さんの想いが強かったからか、今度はハッキリとどこまで行ったか視えた。
取り敢えず、無理矢理連れていかれたわけではなくて良かった。
「見つけた、と思う。おじさん、ついてきて」
僕はおじさんの返答を聞かずに歩き出した。
「ひっ!」
怒声を上げる僕にかけられたお兄さんの声に我に返った。やっぱりお兄さんについてきてもらって正解だった。
僕の肩を掴んだまま、怯えた表情でママが固まっている。
視線は僕の後ろ、お兄さんに向いている。……あ。
「……あなた、誰? いつから……どうやって家の中に…?」
『ん? ずっといたぜ?』
「敏子……香月の後ろには誰もいないぞ……」
ママには特にお兄さんを視せようとか思っていなかったのだけれど。どうやら、僕が怒っていたせいで、視せたいと思わなくても視えてしまっているようだ。
僕に掴みかかるママを止めようとしたのか、パパが奥の部屋から出てきた。視えていないパパからすれば虚空に向かって話しかけるママに青褪めた顔でパパには視えていないことを告げる。
怒っていることで、能力が強まっているってことなら。
「パパ、ママ。僕の力は知ってるでしょ? 僕なら、慶太君を探せると思う。いなくなる前の状況を教えて」
「探すも何も、あんた達が攫ったんでしょ?!」
「やめなさい……香月、本当に慶太を探せるのか?」
パパが真剣な顔で聞いてくるので、頷いて見せる。
状況を教えて、という言葉につられたのか、ママが最後に見た慶太君の様子が目の奥に映る。
「慶太君は、まだ自分じゃ玄関のドアを開けられない。で、縁側の日が当たる部屋で寝かせてた」
明るさからして、僕達が帰ったすぐ後だろう。
気付けば警察官のおじさん達も集まってきて、僕達の話に耳を傾けている。
「で、気付いたら縁側のガラス戸が開いていた」
「そうだ」
青褪めた顔で何も言わなくなってしまったママに代わって、パパが話を肯定する。
きっと警察を呼んだりした中でママから状況を聞いていたんだろう。
「その部屋に入らせて」
「何をするつもり……?」
『良いから、案内しな。言ったろ、いなくなった子を探すって』
ママが僕とお兄さんの顔を交互に見比べている。……もう手は放しているのに、まだ見えるみたいだ。
「……こっちよ」
案内された部屋で、僕は視た通りの場所に迷わず行く。
パパとママは、僕にできるのは幽霊を視ること、心を読むことだけだと思っているみたいだったけど。できることは他にもある。
触れた物に込められた想いや記憶を紐づけて引き出すこと――サイコメトリーだ。
ママの記憶の中で開いていたガラス戸に触れる。
さあ、教えてくれ。この戸を開けたのは誰? 開けた時、どこを見ていた? どこへ行った?
戸にかける小さな手が視える。視線も低い。慶太君だ。鍵はかかっていない。戸が開く。
道路の向こうに、ママより少し若いくらいのお姉さんが手招いている。手に持っているのは……あれは、お菓子?
縁側の置石にあった大きすぎるサンダルを引きずりながら出ていく……ダメだ。ここから視えるのはここまでだ。
「……慶太君、自分で出ていったみたい」
「嘘よ!」
「ここに、サンダルを置いてたでしょ? 黄色いやつ。それを履いて出た。道路から手招くお姉さんがいた。慶太君は自分でついて行っちゃったんだ」
ふらっ、と気を失ったように倒れるママをパパが支えて休ませている間に、僕は周りにいた警察官からお姉さんの顔がどんな感じか細かく聞かれる。
できあっがった似顔絵を見て、なんだかざわついていた。四人のおじさんは何やら電話をかけながら出ていく。
「ねぇ、僕のお父さんとおじさんが、この件で警察に連れていかれて帰ってこないの。帰してくれる?」
「……話を聞いてるだけだから、すぐに帰すよ。大丈夫」
すぐ傍にいたおじさんに聞くと、笑顔でそう言いながら僕の頭を撫でてくれるけど。
その手から伝わってきたのは、僕の言葉が本当かどうか疑う気持ちと。慶太君が見つからない限り、お父さんたちが本当に関与していないとわからない限り解放されないだろうってこと。
……やっぱり、見つけないとダメか。
「坊や? どこへ行くんだい?」
部屋を出て玄関に向かおうとする僕におじさんが慌てたように声を掛ける。
僕の言葉を信じていないくせに。やたら機嫌を取るような声や話し方が気持ち悪い。
「慶太君を見つけるの。じゃなきゃ、お父さんを返してくれないんでしょ?」
振り返らず止まらずにそう答えると、靴を履いて外に出る。
身を乗り出すようにしていたのが視えたからきっとこの辺に触れているはず、とお姉さんが立っていた辺りの壁に手で触れる。
触れた途端、伝わってきたのは喜び。
(ああ、私の坊や! こんな所にいたのね! さぁ、ママと帰りましょう! 甘いお菓子もたくさん買ってきたのよ――)
慶太君を見つける。お菓子を見せて呼び寄せる。出てきた慶太君と嬉しそうに手を繋ぐ。そのまま家路へ――。
慶太君を連れていったお姉さんの想いが強かったからか、今度はハッキリとどこまで行ったか視えた。
取り敢えず、無理矢理連れていかれたわけではなくて良かった。
「見つけた、と思う。おじさん、ついてきて」
僕はおじさんの返答を聞かずに歩き出した。
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