配達人~奇跡を届ける少年~

禎祥

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三通目 親子の情

#10

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「さて、大谷さん。長嶋慶太君、中にいますね?」

 今だけは好きなだけ泣かせてあげたい、という雰囲気になっていた僕は、その声で我に返る。
 そうだ。慶太君を探しに来たのだった。
 おじさんに声をかけられたお姉さんは、力なく頷いた。

 ふらり、と立ち上がったお姉さんに案内された室内には、無邪気にすやすやと眠る慶太君がいた。
 

 その後やってきたお巡りさんが二人、心配になるくらい元気のないお姉さんを支えて連れて行った。瑛太君とのお別れを悲しむ間もなかった。
 僕と慶太君は、おじさんを迎えに来たという若いお兄さんに車に乗せられて家に帰った。慶太君は慶太君の家に。僕は僕の家にだ。

 道中、こんな非現実なこと、報告書に何て書けばいいんだとかおじさんが呻いていたから、たまたま見つけたってことにすれば良いんじゃない? と言ったら睨まれた。ちょっと怖い。

 
「ただいま……」
「お帰り、香月。そちらの方は?」

 家に入ると、お父さんが出迎えてくれた。お父さんだ! 帰ってきたんだ!

「お帰り! お父さん!!」

 思わず飛びついてぎゅっと抱きつくと、それまで少し疲れたような顔していたお父さんがびっくりした顔になって、それから嬉しそうに微笑んでくれた。

「香月、今、お父さんって……ただいま」

 嬉しそうに抱き返してくれるから、僕も嬉しい。恥ずかしがっていないで、もっと早くに呼んであげたら良かったな。

「今日はどこで何をして遊んできたんだい? そっちの人は新しいお友達?」
「ううん、違うよ」

 あ、忘れてた。
 僕を送ってくれたおじさんが、何故だかついてきていたのだった。

「西山と申します。今回は香月君には捜査協力をしていただきまして」

 警察手帳をカパッと開いて見せながらおじさんが言う。
 捜査協力? おじさんにはついてきてもらっただけだよ?

「か~つ~き~?」

 どういうことかな? とお父さんが言う。笑顔なのに怖い。

「だ、だって、お父さんすぐ帰ってくるって言ったのに。朝起きてもいなかったから。だから……」
「香月君が、慶太君を探し出してくれたんです」

 お父さんに気圧されたのか、おじさんが若干引きながら助け舟を出してくれる。
 僕がパパとママの家に行った所から順を追って、僕がお父さんを返してって言ったことまで。
 黙って話を聞いていたお父さんは、ふぅ、とため息を吐いた。

「西山さん、でしたか。今回の件、香月が関わったということは伏せていただけませんか?」
「それは……いやしかし、香月君が瑛太君を見つけたということは既に多くの捜査員の知るところです。確かに、具体的にどうやって見つけたかと聞かれると説明に困る案件ではありますが……」

 おじさんは、僕の存在を隠すのは無理だとはっきり言った。

「だからですよ。香月が疑われたり、気味悪がられたりして欲しくないんです。この子は、これまでそういう苦労をしてきたので……」

 僕を心配しているらしいお父さんの言葉を、凄く嬉しく思う。
 お父さんだってきっと瑛太君の事で疑われていて嫌な思いをしたはずなのに、自分の事よりも僕の事を気にしてくれている。

 それでも、僕が瑛太君を見つけたということはもう隠せないというおじさん。
 しばらくお父さんと言い争っていて、最終的にはおじさんが折れた。
 結局、僕が「偶然慶太君があのマンションに知らないお姉さんと入るところを見かけた」ものとして処理してくれるらしい。
 僕が見つけたっていう点は隠せないから、せめてどうやって見つけたかを隠すというお父さんの案をおじさんが了承したのだ。しかも、あくまで報告書上でのことで、僕が関わったことは公表はしないと約束してくれた。


「さて、香月。そこに座りなさい」

 おじさんが帰っていった後、お父さんに居間の椅子に座るよう促された。
 おじさんと話し合っていた時と同じ、ピリピリした空気だ。な、何か怒ってる……?

「俺が何で怒っているかわかる?」

 あ、やっぱり怒ってるんだ。
 プルプルと横に首を振ると、デコピンされた。

「慶太君を探しに行ったことだよ。何で警察に任せなかった?」
「だ、だって、お父さん、朝には帰ってくるって言ったのに、帰ってこなかったから……」
「もし、慶太君を攫ったのが、凶悪な殺人鬼だったらどうする? 俺は、香月が事件に関わったってさっき聞いて、凄く心配した」
「……ごめんなさい……」

 助けようと頑張ったのに、怒られてしまった。
 嫌われたら、どうしよう?
 溜息を吐いてお父さんが立ち上がるので、ビクッとしてしまった。

 そんな僕に近づくと、お父さんが抱き寄せてくれた。

「でも、俺のために頑張ってくれたんだな。ありがとう。香月が無事に帰ってきてくれて良かった」

 さっきまで怒っていたとは思えない、いつもの優しいお父さんで。
 僕は安心して結局泣いてしまった。

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