配達人~奇跡を届ける少年~

禎祥

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一通目 夜空の虹

#14

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「あの、楓さん。寝てないんですよね? 大丈夫ですか?」
「おー、大丈夫大丈夫。危ない所は昨日のうちにやってしまったし。さすがに動きながら寝られるほどの器用さは無いよ」

 笑いながら言うけれど、その言葉に力はない。

 夜通しやったという作業は、天井部分が中心だった。
 切れたり割れたりしている蛍光灯を交換し、埃や蜘蛛の巣を払ったらしい。
 上を見上げると確かに蛍光灯が新しくなっており、壁と色が違く見えるくらい綺麗になった天井がある。
 灯りも明瞭になったことで、余計に壁や床の汚れが目立つ。

「今日の作業説明な。廊下は、壁、床の順に汚れを落とす。各室内備え付けの棚、テレビの埃を拭き取って最後掃除機で仕上げ。駐車場は除草作業後鉢植えの設置」

 一通り説明を受け、廊下は楓さんがやるので私は室内を、とハンドモップと雑巾を渡される。
 楓さんが掃除機を持って掃除は上から! と言うので五階からスタートする事になった。

「あ、落書きや破損以外は照明でどうとでもなるから、普段家でやる感じでやってくれれば良いよ」


 部屋数は多く、人手は少ない。
 真剣にやっていると、時間はあっという間に過ぎた。

 お昼にルナさん、要さん、香月君も手伝いに駆けつけてくれ、三人が作業している間に休憩を済ませる。
 楓さんは食事も取らずに眠っていた。


 午後、三階部分まで終わった頃、体格の良い革ジャンの男性が、パーカーの男性二人を連れてやってきた。
 主張激しい顎髭のその男性は、ジャラジャラと身に着けたシルバーアクセのせいかとても威圧的な印象で。
 兄さんとはまたタイプが違うが怖い人だと感じる。
 そんな革ジャン男性の指示に従うパーカー二人も無表情で、ちょっと怖い。

「青野さん、来たんですか」
「おお、木下さん。撮影前に状況確認するのは当然だろ」
「それにしても、汚い所っすね。本当に撮影できるんっすか?」
「馬鹿野郎! 片付けてくれてんのが見えねぇのか! 廃墟の状態からここまでコンディション整えてくれてんだぞ、それもたった一日でだ!」

 楓さんに声をかけられた青野、という男性が例の監督だろうか。
 偉そうな物言いが気になると言えば気になるが、汚い、というパーカー男性の発言を真っ先に諫めたのも青野という男性であった。

「若いのが悪いね、とにかくカメラテストで入らせて貰うよ」
「どうぞ。三階から上はもう清掃も済んでます。足りない部分は照明やカメラワークで何とかしてください」
「ああ。それも含めてのテスト撮影させて貰う。行くぞ」

 青野さんはカメラと照明器具を持った二人を連れて上に上がっていった。

「ま、そんな訳で撮影してるけど、よほど邪魔って言われない限りそのまま作業してていいから」
「カメラテストって?」
「撮影する際の役者やカメラの立ち位置を決めたり、照明の明るさ決めたり、ってとこ?」

 俺も実はよくわかってない、と笑う楓さんに作業再開と促されて二階へ上がる。
 作業中に青野さん達三人が下りてきてカメラを回しながら台本を確認し、何やら指示を出してまたカメラを回したり台本に何か書き加えたりしているのを見かけた。

 怖い印象だったけど、特にこちらに何か話しかけてくることもなくてホッとした。
 見た目より怖くはないのかな?

 そうこうしているうちに、二階も終了。
 一階へ降りてきた時に、駐車場に誰かが駆けてくるのが見えた。


「夏樹!」
「兄さん? 何でこんな所に?」

 血相を変えた兄さんが駆け寄ってくる。

「良かった! 夏樹、本当に良かった……!」

 腕を上げるのが視界に入り、また殴られると身を固くした瞬間、その両腕に抱きしめられた。


 一体何が起きているの?
 兄さんが私を抱きしめるとか、あり得ない状況に固まってしまう。
 嬉しいとか思う前に、新手の嫌がらせか何かだと身構えてしまう自分がいる。

 困惑して助けを求めて楓さんを見る。
 ニヤニヤしながら様子を見守る楓さん達と、何故か私に向けてカメラを回す三人が見えた。 

「今まですまなかった。だから、自殺だなんてやめてくれ!」
「…………は?」

 自殺? 誰が? 私が?

「関口から連絡を貰ったんだ。お前の様子がおかしいって。自殺するんじゃないかって」

 関口……あの店員だ。
 ロープを買ってすぐに連絡をしたのか。
 でも、そんな憶測くらいで私を探しに来る兄さんではないはずだ。

「ここに来るって言ってた事も聞いた。でも色々あってすぐには来られなかった。手遅れなんじゃないかってずっと焦ってて。間に合って本当に、良かった……」

 兄さんが、泣いてる?!

 頬にポタポタと水滴が落ちる感覚に視線を上げた私が見たのは、そんな衝撃の光景だった。
 兄さんに一体何が起きたのだろうか?

「あの、兄さん?」

 おずおずと声を掛けると、兄さんは返事の代わりにズズ、と鼻をすすった。

「私は普通に買い物をしただけだよ? 何で、私が自殺するかもなんて話信じたの?」
「……実は、昨夜、夢に父さんが出てきたんだ。」
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