配達人~奇跡を届ける少年~

禎祥

文字の大きさ
24 / 64
二通目 水没の町

#6

しおりを挟む
「香月は人に触れるとその人の考えてることがわかるって言っていたけど、俺にもわかった事があるよ」
「わかったこと? 何?」
「……うん、お腹空いちゃったし続きは食べながらにしようか」

 要に言われて手を洗ったり使ったボールなどを洗ったりしている間に、要がどんどん餃子を焼いて食卓に並べていく。
 暫くすると、二人で食べきるのか、というくらいの量が食卓に並んだ。

「「いただきます」」

 きちんと両手を合わせてから食べ始めるのは要の主義だ。
 包み方は下手だけど美味しく作れた餃子に満足しつつパクついているのを、要がニコニコしながら見てくる。

「何?」
「いや、本当、よく食べるようになったなぁって。ここに来た頃は、固形物がほとんど食べられないくらい衰弱していたからね」
「一年も前の話じゃん、それ」
「うん、だから、元気になってくれたのがわかる食べっぷりで嬉しいなぁって。俺、子供ずっと欲しかったんだよね。奥さん早くに死んじゃったからさ」

 言われて、玄関でずっと伏せられたままの写真立てを思い出す。
 今と全く変わらない外見の要が、ウェディングドレスを着たお姉さんと幸せそうに笑っていた。
 倒れているのを直したら、そのままでいいんだよ、と要がまた伏せてそれきりになっている。

「再婚すればいいのに」
「それは、香月を引き取った時にもよく言われた。母親は必要だろうって」

 でも、僕の能力の事もあるし断り続けていたそうだ。
 それ以前に俺のようなおじさんに嫁いでくれる奇特な女性はそうそういないよ、と笑うけど、言うほど歳を取っているようには見えない。

「それに、俺は奥さん一筋なんでね。他の女性とどうこう、なんて考えられないよ」

 話を逸らすように、要が次々と僕のお皿に餃子を乗せてくる。
 これも食べろあれも食べろと次々と勧めてくるのは、要が嬉々として作っていた変わり種のやつだ。
 果物を包んだものは揚げ餃子にしていた。味見したけど、パイ菓子のようだ。美味しいけどご飯は進まないな。うん。

「それで、さっきの話の続きは? 何がわかったって?」

 僕は要がずっと微笑みながら見つめてくるのが照れくさくて、話を戻す。

「うん。香月に触れられている時に、白い猫のようなものが見えたよ。香月は気のせいって言ったけど、ついてきているんだろ。シロ、だっけ? 義夫さんの猫」
「見えたの?」
「ぼんやりとだけどね。それで、この世のものではないってわかった。香月も同じように見えるのかな?」

 ずっとこんな風に見えてるなんて、怖かっただろう? と要が僕を気遣ってくれる。

「ううん、僕にはもっとハッキリと見えるし、声も聞こえてる。それこそ、生きてるのと区別つかないくらい」
「そうか……うん。少しだけでも、香月の見えている世界を理解できて良かったよ」

 見えているものがわかれば、一緒に僕の能力の制御の仕方、隠し方も考えてあげられると要は言う。
 僕のせいで幽霊を見てしまったのに、怖がるどころか、力になれるのが嬉しいと言ってくれる。
 その言葉が何よりも嬉しかった。

「香月は、ただ見えるだけ聞こえるだけでなく、それを誰かに伝えることができる」
「怖くないの? だって、幽霊だよ?」
「うーん、ホラー映画に出てくるようなスプラッターなお化けなら怖いと思うかもしれないけど……」

 少し考えるような仕草をしてから、うん、と首肯いて続ける。

「香月の力は怖くないよ。なんなら、俺の奥さんに会わせて欲しいくらい」

 ニコリと笑って、その言葉が嘘ではないと伝えるためなのか僕の手を握ってくる。

「俺みたいに会いたい人がいて、何かを伝えたい幽霊がいて。それを香月が伝えてやれるなら、それはきっと奇跡と呼べる素敵な事じゃないかな?」
「奇跡……」
 
 そんな風に言ってもらえるのは初めてで。
 嬉しくて一気に視界が滲む。
 堪えきれず泣き出したら、要は席を立って僕の後ろに来るとギュッと抱きしめてくれた。

「その力も含めて、香月の個性なんだ。怖がらなくて良い。できることを少しずつ知っていこう。俺がついてるから」
「……うん……」

 両親に化け物と呼ばれ、ずっと嫌っていたこの能力が、誰かの助けになれるかもしれない。
 誰かに、必要とされるかもしれない。
 要は僕の能力を奇跡だと言ってくれるけど、誰かに必要とされるなら、それは僕にとっての奇跡だ。

「約束をしよう、香月。その力で香月自身が傷つかないために」

 要はそっと僕の左手の小指に自分の小指を絡ませる。

「まず、生きているものかどうか見極めてなるべく関わらないこと。特に、怖い感じのするものには近寄らないこと。二つ目。幽霊の意見を聞いたり、伝えたりするのは、相手を傷つけないものに限定する事。三つ目、読み取る力や伝える力をきちんと使いこなし、不用意に発動しないこと」
「使いこなすって? どうするの?」
「普段から、オンオフをしっかり意識して積極的に使って力をコントロールするんだ。俺を練習台にしてごらん」

 約束できる? と聞かれたので頷くと、約束、と言って絡めた小指をブンブン上下に振ってから離れる。

「それじゃ早速。シロは怖い感じはする?」
「しない。何かを言いたげに見てる」
「聞いてみる? 嫌な感じがしないなら、聞いてあげても大丈夫だと思う」

 念のため、と言って要が取り出したのは食卓に置いてある食塩。
 それをパッパと手の平に大量に出すと、準備完了、と笑う。

 促す要に頷くと、僕はシロの前にしゃがんで問いかけた。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...