配達人~奇跡を届ける少年~

禎祥

文字の大きさ
33 / 64
二通目 水没の町

#15

しおりを挟む
「あ! 来た!」

 穴から要の姿が見えて、思わず声が出てしまった。

「おう、無事に戻ってきたか」
「はい、目的の物も見つかりました」

 ホッとした顔で声をかける大島さんに、要は笑顔で青いバンダナで包んだ何かを見せる。

「一瞬一気に縄を持っていかれたが、何かあったのか? その後何の合図も無かったから、あと五分待っても戻ってこなかったら突入しようとしてたところだ」
「ああ、ちょっと、床を踏み抜いちゃいまして……でも、問題なかったですよ」

 足もほら、この通り、と要は恐らく床を踏み抜いたらしい左足をプラプラと動かして見せるとボートに乗り込んできた。

(ちょっと危なかったけど、シロが助けてくれた。ありがとう、香月は凄いな)

 心配させてごめん、と声に出して僕の頭を撫でながら、要がそう伝えてきた。
 僕の力が役に立ったのが嬉しくて、自然と顔がにやける。
 と、その時、遠くで光がグルグルと円を描くように動くのが見えた。

「あ、あれ!」
「うん、楓だね。人が来始めたようだ」
「チッ、まだ夜も明けきってねぇってのに。もう用はないな? 戻るぞ」
「はい」
「うんっ」

 大島さんが櫂で大きくボートの向きを変える。
 どれだけ力があるのか、初めゆっくりと進みだしたと思ったら、あっという間にスピードを上げ階段へと戻ってきた。
 ボートを降りて、あっという間にボートをロープで繋いだ大島さんに急き立てられるように階段を上る。


「これっ、岸に寄せてもらって下ろしてもらった方が良かったんじゃ……」
「バカ言え。そんな事したら、関係者以外を入れてたってバレちまう。この暗さなら、こっちを使えば関係者かそうじゃないかなんて区別つかねぇ」

 息を切らしながら言う僕に、大島さんが普通に返す。
 さすが大人は体力が違うなぁ、なんて思ったら要は僕より息切れしてて声も出ないって感じだった。
 降りる時は僕も要も平気だったのにね。

 階段の上まで登り切って、扉から外に出る頃にはすっかり息も絶え絶えといった感じになってしまった僕と要を、大島さんが若いのにだらしないって笑っていた。
 良い人なのは分かるけど、いちいち言葉が悪いなこの人。

 空が明るくなる頃、他の作業員の人が来たので改めて大島さんにお礼を言う。
 何の話か不審げに首を傾げるおじさん達に、大島さんが水が抜け切る前に少しボートに乗せてほしいって頼まれた、と建物に入ったことは内緒にして説明していた。

「坊主、次はちゃんと水が抜け切ってから来いよ」
「はーい。わがまま言ってごめんなさい。入れてくれてありがとうおじさん」

 話を合わせてお礼を言っておく。要と事前に打合せしておいた『見つかった時の対処法』だ。
 まだ呼吸が整わない要も頭を下げてこの場を後にした。

「楓は?」
「ルナさんがいるから放っておいて平気」

 行きも別々だっただろう? と言われて納得。
 一緒に車に乗り込んだシロは、要が持ち帰ってきた包みの傍から離れない。

「首紐だけでなくて、シロの骨も少しだけ持ち帰ってきた。戻ったら、義夫さんと一緒にお墓を作ろう」
「! うん! ありがとう、要」

 僕がシロと包みをジッと見ていたのに気付いた要が教えてくれた。

「その前に、家に帰って着替えないとな」

 ドロドロになってしまったズボンと靴下を見て、要が苦笑する。
 僕はずっとボートでそんなに汚れたつもりはなかったけど、明るくなってきて見たらけっこう汚れてた。
 建物に入った要はもっと酷い。特に、床を踏み抜いたという左足は膝下までドロドロで臭かった。

「お風呂にも入らないとね」
「そうだな」

 車に揺られていると、朝が早かったせいか行きでも寝ていたのにまた眠くなってしまった。
 寝てていいよ、と笑う要の声が遠く感じる。


 今回のことで、僕の能力についてまたわかったことが増えた。
 僕は、他人に幽霊を見せることができる。
 見せたいと思えば、僕が触れていなくても見せることができる。
 そうして見せた幽霊は、普段見えない人でも触れることもできるようになる。
 ただし、あまり長くは持たないようだ。
 それは、今車にいるシロを要が見えていないというのでわかった。

 そのことを教えてくれた要は、これでまた僕の世界が広がるって言ってた。
 僕は自分のこの能力が怖いって、隠すべきものだって嫌っている。
 けど要は、能力は、使い方さえ間違えなければ誰かを傷つけることもなく、むしろ役立てることもできるって言ってくれた。

「実際、俺はシロに、シロに触れるようにしてくれた香月に助けられたよ」

 そう言って要は微笑んでた。
 要はどんな時でも僕を受け入れてくれる。
 要が言うと、この能力もそんなに悪いものではないと思えてくる。


 ありがとうって、言ってもらえた。
 もっと誇って良いんだって、言ってくれた。
 この能力があってこそ僕なんだって。


 少しくすぐったい気持ちになりながら、僕はいつの間にか眠ってしまった。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...