126 / 228
第六章 俺様、東方に行く
(閑話)聖女と花嫁衣装
しおりを挟む
タイラーツ領では色々ありましたが、無事にオーリエンの王都であるハレタに着きましたの。
先を急ぐ旅行きであるにも関わらず拐われた私を助けるためにリージェ様が来てくださったことを思い返す度に、私の胸はとても熱くなるのです。
『気に病むことはない。ルシアは操られていただけなのだから』
リージェ様を攻撃してしまい、会わせる顔がないと馬車に籠る私にリージェ様はそう声をかけてくださいました。
操られていたとはいえ、あの時は本気でリージェ様が憎いと、ご主人様の仇を討つのだという気持ちになっておりましたのに。
全てを許すと仰ってくださったのです。 未熟な私はリージェ様の足を引っ張ってばかり……。このご恩に報いなければ。
「お待たせしてしまった申し訳ございませんが謁見までこちらでお過ごしくださいませ」
案内していただいたのは、オーリエンの陛下が用意してくださったというとても大きな施設でした。他国からの賓客をもてなすための迎賓館ですが、普段は保養施設として貴族の方に解放されているとのことで、とても様々なお店が一体化しているというとても珍しい施設でした。
「キュゥゥゥ……」
そこで供された食事は、6年以上も前にお城で食べていたような、見た目の美しさを重視したコース料理で。スープや前菜に始まり、サラダ、お肉と順々に提供されます。
コショウや砂糖といった、運搬にとてもコストがかかるため高級品とされる調味料がふんだんに入っているのは、オーリエンの経済力を誇示するためでもあるのでしょう。貴族の食事とはだいたいどこもこのような感じで。昔はこれを美味しいと思っていたのですが、修道院の素材そのままの料理やカナメ様の作る食事を食べてしまった後ではとても食べられたものではありません。量が少ないのが唯一の救いでしょうか。
初めは興味津々に目を輝かせていたリージェ様も、今はとても悲しそうな眼をされて、尻尾まで力無く垂れております。
念話で不満を伝えるようなことはされませんが、食事で満足されていないのは誰の目にも明らかでした。
「ここに来るまでに見かけましたが、一般市民の居住区では市が立っていたようですよ。食べ物の屋台もありましたし、気晴らしに行ってみませんか?」
「そうですね。それが良いですわ」
『行く!』
エミーリオ様の提案はとても素晴らしい物でした。
貴族居住区を抜けてその市を目指すと、とてもたくさんの人がいて。あちこちから喧騒が聞こえてきます。
リージェ様は鼻をひくつかせて尻尾を揺らしておりました。屋台で買った食べ物も、ちょうど良い味つけでとても美味しかったです。食事の後でしたから食べきれない分をリージェ様に差し上げたらとても喜んでくださいましたわ。
そんな楽しいひと時も過ぎるのはあっという間で。
私たちはオーリエンの国王であるドゥラーマ・ドラゴーネ・オーリエン陛下との謁見の時を迎え、途中デシデーリオ伯爵様に心無い言葉を投げかけられる場面もありましたが無事に勇者様達と出立する式典の打ち合わせをすることができました。
……できた、のですが……あの、私は今、何故陛下に手を握られ甲にキスをされているのでしょうか……?
「天使よ」
潤んだような瞳でじっと見つめられ、背筋に怖気が走るのを感じました。
これまで私に触れてくる殿方は今行動を共にしているアルベルト様達くらいしたが、こんなふうに鳥肌が立つようなことはありませんでしたわ。
怖い、と思いつつ相手は他国の王。握られたその手を振り払うことは許されません。
正妃に、というお言葉までいただきましたがとてもではないですが嫌です。
『俺様の聖女だ』
はっきりお断りしましたのに諦めてくれない陛下にほとほと困っていると、リージェ様が私の手から陛下を引きはがしてくださいました。
何やら二人で話されていたようですが良く聞こえず、「俺様の聖女だ」という部分だけ聞こえ顔が熱くなりました。
ああ、リージェ様。貴方にそれほど大切に思っていただけて、光栄ですわ。私もリージェ様が大切です。私の聖竜様。
退室の際に「帰ったら結婚式を」なんて不穏な言葉が聞こえてしまいました。婚約を結んだわけではありませんのに、あの陛下なら本当に戻り次第式の準備が整ってそうで恐ろしいですわ。
『大丈夫だ、ルシア。この国に来なければ良いだけの事。仮にそなたの父が丸め込まれていようと、俺様がルシアを抱えて逃げよう』
私の不安を見抜いたかのように、リージェ様がそう仰っいました。
まぁ、なんてことでしょう。私が好かない殿方の手に落ちそうになったら、リージェ様が私を攫っていってくださるのですね。二人の愛の逃避行……なんて素敵な響きなのでしょう。
そのためにもまずは暗黒破壊神を倒して、二人で生き延びねばなりませんね。
ふわふわとした心持のまま迎えた祝典の儀。私に用意されたのは、まるで王族の結婚式で着るような純白のドレスで。教会の修道服風にアレンジされていましたが、どこからどう見ても花嫁衣装にしか見えませんわ。
『よく似合っているぞ』
褒めてくれるリージェ様の言葉に、再び頬が熱くなります。
昨日の「俺様の聖女」というリージェ様の言葉が頭の中で何度も思い返されて顔がにやけてしまいそうですわ。
昔話の中のお話ですので真実は定かではありませんが、歴代聖女の中には聖竜と結ばれた乙女もいるのです。二人の真実の愛が奇跡を起こし、子を成したとまでありますわ。
いずれ誰かと結ばれなければいけないのであれば、私はリージェ様が……。
いつかくる日を想いながら改めてドレスを見ると、この衣装も悪くないと思えるのです。
ええ、早くこんなお役目を終えて、リージェ様のためだけにドレスを着る日を迎えたいですわ。
先を急ぐ旅行きであるにも関わらず拐われた私を助けるためにリージェ様が来てくださったことを思い返す度に、私の胸はとても熱くなるのです。
『気に病むことはない。ルシアは操られていただけなのだから』
リージェ様を攻撃してしまい、会わせる顔がないと馬車に籠る私にリージェ様はそう声をかけてくださいました。
操られていたとはいえ、あの時は本気でリージェ様が憎いと、ご主人様の仇を討つのだという気持ちになっておりましたのに。
全てを許すと仰ってくださったのです。 未熟な私はリージェ様の足を引っ張ってばかり……。このご恩に報いなければ。
「お待たせしてしまった申し訳ございませんが謁見までこちらでお過ごしくださいませ」
案内していただいたのは、オーリエンの陛下が用意してくださったというとても大きな施設でした。他国からの賓客をもてなすための迎賓館ですが、普段は保養施設として貴族の方に解放されているとのことで、とても様々なお店が一体化しているというとても珍しい施設でした。
「キュゥゥゥ……」
そこで供された食事は、6年以上も前にお城で食べていたような、見た目の美しさを重視したコース料理で。スープや前菜に始まり、サラダ、お肉と順々に提供されます。
コショウや砂糖といった、運搬にとてもコストがかかるため高級品とされる調味料がふんだんに入っているのは、オーリエンの経済力を誇示するためでもあるのでしょう。貴族の食事とはだいたいどこもこのような感じで。昔はこれを美味しいと思っていたのですが、修道院の素材そのままの料理やカナメ様の作る食事を食べてしまった後ではとても食べられたものではありません。量が少ないのが唯一の救いでしょうか。
初めは興味津々に目を輝かせていたリージェ様も、今はとても悲しそうな眼をされて、尻尾まで力無く垂れております。
念話で不満を伝えるようなことはされませんが、食事で満足されていないのは誰の目にも明らかでした。
「ここに来るまでに見かけましたが、一般市民の居住区では市が立っていたようですよ。食べ物の屋台もありましたし、気晴らしに行ってみませんか?」
「そうですね。それが良いですわ」
『行く!』
エミーリオ様の提案はとても素晴らしい物でした。
貴族居住区を抜けてその市を目指すと、とてもたくさんの人がいて。あちこちから喧騒が聞こえてきます。
リージェ様は鼻をひくつかせて尻尾を揺らしておりました。屋台で買った食べ物も、ちょうど良い味つけでとても美味しかったです。食事の後でしたから食べきれない分をリージェ様に差し上げたらとても喜んでくださいましたわ。
そんな楽しいひと時も過ぎるのはあっという間で。
私たちはオーリエンの国王であるドゥラーマ・ドラゴーネ・オーリエン陛下との謁見の時を迎え、途中デシデーリオ伯爵様に心無い言葉を投げかけられる場面もありましたが無事に勇者様達と出立する式典の打ち合わせをすることができました。
……できた、のですが……あの、私は今、何故陛下に手を握られ甲にキスをされているのでしょうか……?
「天使よ」
潤んだような瞳でじっと見つめられ、背筋に怖気が走るのを感じました。
これまで私に触れてくる殿方は今行動を共にしているアルベルト様達くらいしたが、こんなふうに鳥肌が立つようなことはありませんでしたわ。
怖い、と思いつつ相手は他国の王。握られたその手を振り払うことは許されません。
正妃に、というお言葉までいただきましたがとてもではないですが嫌です。
『俺様の聖女だ』
はっきりお断りしましたのに諦めてくれない陛下にほとほと困っていると、リージェ様が私の手から陛下を引きはがしてくださいました。
何やら二人で話されていたようですが良く聞こえず、「俺様の聖女だ」という部分だけ聞こえ顔が熱くなりました。
ああ、リージェ様。貴方にそれほど大切に思っていただけて、光栄ですわ。私もリージェ様が大切です。私の聖竜様。
退室の際に「帰ったら結婚式を」なんて不穏な言葉が聞こえてしまいました。婚約を結んだわけではありませんのに、あの陛下なら本当に戻り次第式の準備が整ってそうで恐ろしいですわ。
『大丈夫だ、ルシア。この国に来なければ良いだけの事。仮にそなたの父が丸め込まれていようと、俺様がルシアを抱えて逃げよう』
私の不安を見抜いたかのように、リージェ様がそう仰っいました。
まぁ、なんてことでしょう。私が好かない殿方の手に落ちそうになったら、リージェ様が私を攫っていってくださるのですね。二人の愛の逃避行……なんて素敵な響きなのでしょう。
そのためにもまずは暗黒破壊神を倒して、二人で生き延びねばなりませんね。
ふわふわとした心持のまま迎えた祝典の儀。私に用意されたのは、まるで王族の結婚式で着るような純白のドレスで。教会の修道服風にアレンジされていましたが、どこからどう見ても花嫁衣装にしか見えませんわ。
『よく似合っているぞ』
褒めてくれるリージェ様の言葉に、再び頬が熱くなります。
昨日の「俺様の聖女」というリージェ様の言葉が頭の中で何度も思い返されて顔がにやけてしまいそうですわ。
昔話の中のお話ですので真実は定かではありませんが、歴代聖女の中には聖竜と結ばれた乙女もいるのです。二人の真実の愛が奇跡を起こし、子を成したとまでありますわ。
いずれ誰かと結ばれなければいけないのであれば、私はリージェ様が……。
いつかくる日を想いながら改めてドレスを見ると、この衣装も悪くないと思えるのです。
ええ、早くこんなお役目を終えて、リージェ様のためだけにドレスを着る日を迎えたいですわ。
0
あなたにおすすめの小説
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる