170 / 228
第八章 俺様、勇者と対立する
7、交渉成立だ
しおりを挟む
せっかく行動不能にした谷岡達を解放しろ、と言う増田。その要望については1号も知らなかったようで慌てたように両手をバタバタと動かしていた。ちょっとキモい動きだ。
『どういうことだ?』
増田の要望に返答する前に問いかける。
外の足跡をこれ以上踏み荒らされないために外で待機しているオーリエンの勇者達ではなく、内側にいたアスーの勇者達の中から選ぶ必要があった。1号が増田を解放してここに連れてきたのは、増田が一番信用できると判断したからだろう。
当の増田はどちらかというとオドオドとした内向的な、前世の俺と同類の匂いがする奴で、目上の奴に意見を言えるようなタイプではない。だというのに、アスーの勇者達を解放しろと言ってきたのだ。その眼には何か強い決意のようなものが込められていた。
「あなたが許可すれば、他の人達は反対しないでしょう? お願いします」
「何でだ? お前、谷岡達とそんな仲良かったか?」
1号も不思議に思ったようで、理由を増田に尋ねたが「理由は言えない」との一点張りだった。
洗脳されている……わけではないか。何か弱みを握られている? それならば向こうが手も足も出ない今の状況の方が増田にとっても都合がいいはず。
「解放するのがダメだというのならば、せめて、先生が彼らを処理する時は私にやらせてください」
「えっ?!」
『処理をやらせろだと?』
何言っているんだこいつ。と増田を見れば、顔半分を隠す長い前髪の隙間から覗く瞳がギラギラと凄みを湛えていた。
怖っ! 怖いよこの子! 今にも噛みつこうとしている野生のライオンと対峙したかのような恐怖を感じる。ルシアちゃんの怒った時が般若だとすれば、こっちは手負いの獣だ。
もしかして、こいつさっきの台詞を物騒なことと勘違いしている? 仲間を助けたいのじゃなく、仕返ししたい的な。
1号も、今ここで増田に事情を説明すると声が反響して奴らに聞こえるからだろう。どうしたら良いかわからないといった様子でオロオロと俺と増田を交互に見ている。
「お願いします! もし聞いていただけないというのであれば、手伝いません」
「ま、待て! わかった。わかったから。良いよな、リージェ?」
クル、と向きを変えて居住区に戻ろうとするする増田を大慌てで1号が引き留める。
うーん、確かに人手は欲しいが……大丈夫か? 谷岡達の暴走もそうだけど、増田の暴走も心配だ。うーん……まぁ、谷岡達は何かしてくるようなら叩きのめすとして、増田は1号に責任持って手綱を握ってもらおう。よし。
『条件がある。1号が良しと言うまで奴らに手出しはしないこと。貴様はあくまでも1号の手足だ。それを守れるか?』
「本庄君を殺そうとした連中の処理を私にやらせてくれると言うのなら」
お? こいつもしかして本庄のこと……。
むふふ、ならばいざとなったら本庄の言うことも聞くか。ならばその条件、呑もうじゃないか!
『良かろう。交渉成立だ』
「ありがとうございます!」
増田とのやり取りが聞こえていたようで、裏切者と叫ぶ声が反響する。しかし、増田はその怨嗟の声すら復讐の内とすら言っているような獰猛な笑みで受け止める。やっぱり怖いこの子。
それからドナートが戻ってくるまでの間、黙々と一人で倉庫の中にあった品々を全て運び出したのだった。
「お疲れー」
「あ、本当に運び出してくれたんですね。えっと?」
「増田和……こちら風に言うならニコ・マスダです。今まで態度が悪くてすみませんでした。これからはたくさんお手伝いしますので、どうぞよろしくお願い致します」
1号と戻ってきたドナートから労いの言葉をかけられ、増田が口の端を持ち上げる。照れ笑いか愛想笑いか、はたまたそれ以外の笑みなのかは長すぎる前髪のせいで表情が隠れていてわからない。
ニコって名前ならもっとニコってしなよ! 怖いよ! さっきから笑みがニヤリって不気味なんだよ!
ドナートが少し表情引きつってる感じがするから、やっぱりドナートも不気味なんだろう。
『それで? 何かわかったか?』
気を取り直して本題に入る。
ドナートも表情を切り替えて、真剣な表情で俺の方に向き直ると頷いて見せた。
「中から外へ向かっている足跡で恐らく一番新しいものは、この方角に向かっている」
『ノルドの方角だな』
ドナートが指し示したのは森の中をノルドまで一直線に結ぶ方角だった。
ドナートの補足説明に合わせて視線を動かすと、確かにその方角へ草が踏み倒されて獣道ができている。
ドナートが更にノルドへ向かったと判断した根拠を続けて述べる。
「他の足跡に潰されていないものが一番新しいと判断する。そうすると、ノルドだけでなくアスーやオーリエンに向かうものもあるにはある。けれど、その中で一番大人数……大きさや歩幅、角度などの歩き方の癖が違う足跡がたくさんあるのはノルドに向かっている」
「大人数で移動する何かがノルドにあるってことか」
『大勢同じ方向に移動したというならば、何か差し迫った状況でここを放棄したわけではなさそうだな』
ならば、増田に運び出させたこれらは敢えて置いて行ったということか。
持ち出す前に鑑定して罠がないか確認したほうが良さそうだ。
『どういうことだ?』
増田の要望に返答する前に問いかける。
外の足跡をこれ以上踏み荒らされないために外で待機しているオーリエンの勇者達ではなく、内側にいたアスーの勇者達の中から選ぶ必要があった。1号が増田を解放してここに連れてきたのは、増田が一番信用できると判断したからだろう。
当の増田はどちらかというとオドオドとした内向的な、前世の俺と同類の匂いがする奴で、目上の奴に意見を言えるようなタイプではない。だというのに、アスーの勇者達を解放しろと言ってきたのだ。その眼には何か強い決意のようなものが込められていた。
「あなたが許可すれば、他の人達は反対しないでしょう? お願いします」
「何でだ? お前、谷岡達とそんな仲良かったか?」
1号も不思議に思ったようで、理由を増田に尋ねたが「理由は言えない」との一点張りだった。
洗脳されている……わけではないか。何か弱みを握られている? それならば向こうが手も足も出ない今の状況の方が増田にとっても都合がいいはず。
「解放するのがダメだというのならば、せめて、先生が彼らを処理する時は私にやらせてください」
「えっ?!」
『処理をやらせろだと?』
何言っているんだこいつ。と増田を見れば、顔半分を隠す長い前髪の隙間から覗く瞳がギラギラと凄みを湛えていた。
怖っ! 怖いよこの子! 今にも噛みつこうとしている野生のライオンと対峙したかのような恐怖を感じる。ルシアちゃんの怒った時が般若だとすれば、こっちは手負いの獣だ。
もしかして、こいつさっきの台詞を物騒なことと勘違いしている? 仲間を助けたいのじゃなく、仕返ししたい的な。
1号も、今ここで増田に事情を説明すると声が反響して奴らに聞こえるからだろう。どうしたら良いかわからないといった様子でオロオロと俺と増田を交互に見ている。
「お願いします! もし聞いていただけないというのであれば、手伝いません」
「ま、待て! わかった。わかったから。良いよな、リージェ?」
クル、と向きを変えて居住区に戻ろうとするする増田を大慌てで1号が引き留める。
うーん、確かに人手は欲しいが……大丈夫か? 谷岡達の暴走もそうだけど、増田の暴走も心配だ。うーん……まぁ、谷岡達は何かしてくるようなら叩きのめすとして、増田は1号に責任持って手綱を握ってもらおう。よし。
『条件がある。1号が良しと言うまで奴らに手出しはしないこと。貴様はあくまでも1号の手足だ。それを守れるか?』
「本庄君を殺そうとした連中の処理を私にやらせてくれると言うのなら」
お? こいつもしかして本庄のこと……。
むふふ、ならばいざとなったら本庄の言うことも聞くか。ならばその条件、呑もうじゃないか!
『良かろう。交渉成立だ』
「ありがとうございます!」
増田とのやり取りが聞こえていたようで、裏切者と叫ぶ声が反響する。しかし、増田はその怨嗟の声すら復讐の内とすら言っているような獰猛な笑みで受け止める。やっぱり怖いこの子。
それからドナートが戻ってくるまでの間、黙々と一人で倉庫の中にあった品々を全て運び出したのだった。
「お疲れー」
「あ、本当に運び出してくれたんですね。えっと?」
「増田和……こちら風に言うならニコ・マスダです。今まで態度が悪くてすみませんでした。これからはたくさんお手伝いしますので、どうぞよろしくお願い致します」
1号と戻ってきたドナートから労いの言葉をかけられ、増田が口の端を持ち上げる。照れ笑いか愛想笑いか、はたまたそれ以外の笑みなのかは長すぎる前髪のせいで表情が隠れていてわからない。
ニコって名前ならもっとニコってしなよ! 怖いよ! さっきから笑みがニヤリって不気味なんだよ!
ドナートが少し表情引きつってる感じがするから、やっぱりドナートも不気味なんだろう。
『それで? 何かわかったか?』
気を取り直して本題に入る。
ドナートも表情を切り替えて、真剣な表情で俺の方に向き直ると頷いて見せた。
「中から外へ向かっている足跡で恐らく一番新しいものは、この方角に向かっている」
『ノルドの方角だな』
ドナートが指し示したのは森の中をノルドまで一直線に結ぶ方角だった。
ドナートの補足説明に合わせて視線を動かすと、確かにその方角へ草が踏み倒されて獣道ができている。
ドナートが更にノルドへ向かったと判断した根拠を続けて述べる。
「他の足跡に潰されていないものが一番新しいと判断する。そうすると、ノルドだけでなくアスーやオーリエンに向かうものもあるにはある。けれど、その中で一番大人数……大きさや歩幅、角度などの歩き方の癖が違う足跡がたくさんあるのはノルドに向かっている」
「大人数で移動する何かがノルドにあるってことか」
『大勢同じ方向に移動したというならば、何か差し迫った状況でここを放棄したわけではなさそうだな』
ならば、増田に運び出させたこれらは敢えて置いて行ったということか。
持ち出す前に鑑定して罠がないか確認したほうが良さそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる