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3 依頼
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「あら!また来てくれるなんて嬉しいわねぇ~」
薬屋の店主は、明らかに気まずそうな魔女に陽気な声をかける。
(もう帰りたい)
引きこもりの身としては、数日あけないでの外出は厳しい。
「その、最近は……魔女に関する噂ってありますか」
直球すぎる。
どうやらいい感じの世間話を思いつかなかったようだ。
「え?魔女?う~ん、こんな田舎に魔女がいるかしらねぇ」
はい、います。私です。
「ああ!でも、子どもたちの間ではあなたが魔女かもっていう噂はあるわね」
(そう言えば、その現場に遭遇したことあるなぁ)
薬屋の店主にお礼を言い、次は八百屋の女将と肉屋の店主の所へ向かう。
「魔女かい?見たことないねぇ」
「魔女か、いつか見てみたいもんだ!」
現状、この町には魔女の情報が全くないことがわかった。
(つまり、私の仕事は終わった)
さっさと帰宅しようと町のはずれに足を向ける。
足取りは軽い。
「町にいたのか」
「!?」
聞き間違いだろうか、騎士の声が背後から聞こえたような気がする。
「シロ殿、どこに行こうとしているんだ?」
いや、聞き間違いじゃなかった。
振り向くと、白い制服をバッチリ着こなした騎士がいた。
「騎士様……。到着がお早いですね……」
さっき、王都に向かったばかりじゃなかっただろうか……。
「ああ、テレポートを使った」
騎士は無表情で、とんでもないことを言う。
テレポートの限界を超えていると思う。
「最近の魔術は、進歩がすごいですね」
死んだ目をした魔女は虚空を見つめる。
思考を止めた者は、このような虚無の顔になるのかもしれない。
「そうだな、それより」
(ああ、魔女の情報なら収穫はありません)
騎士が聞いてくるであろう質問の答えを脳内で準備する。
「私の名は騎士ではない」
「ん?」
思ってたのと違いすぎた。
え、今それが重要なことだった?
「騎士ではない」
二回言ってきた。
無表情のまま、真面目な話をするように言ってきた。
「……テディさん、魔女の情報はここにはないようです」
いろいろと諦めた彼女は、騎士の要望に従う。ついでに今日の報告も済ませる。
「ああ、ご苦労だった」
表情は変わらないのに、満足げな感じが伝わってくる。
そして、騎士……いやテディさんは歩き始めた。
さっきまで私が目指していた方向だから、私の家に向かうつもりなのだろう。
「依頼を受けた」
「?」
家に着き、椅子に腰を落ち着けた時、テディさんは唐突にそう言った。
「そうですか」
「………」
彼はこちらをじっと見つめてくる。
手を膝の上に置き、姿勢正しく座っている。
「……なんですか」
口数の少ない彼を促す。
彼の無言がこわくないのは、彼の目が雄弁だからだろうか。
「あなたにも同行してもらいたい」
(そうだろうと思った)
この騎士が無意味に言葉を発するはずがない。出会って間もないが、この人の行動がなんとなくわかってきた気がする。そして、この言い方はすでに決定事項だということも薄々わかる。
「……わかりました」
「感謝する」
この短い会話で、私の外出が決定した。
きっとこの依頼は魔女に関連する内容だろうと思う。
(はやく終わらせたい……)
依頼内容を詳しく聞き、三日後の出発のために準備を開始した。
「テディさん、この立派な屋敷はなんですか」
「依頼主の家だ」
「いや、貴族の方が依頼主だとは聞いてないんですけど……」
現在、豪華な屋敷の前に立っている。
テディさんのテレポートによって数秒で連れて来られた。彼のテレポートのすごさと依頼主の正体に感情が混乱状態だ。
「依頼内容は町の異変を調査することじゃなかったんですか……」
「町は調査する。だが、その前に依頼主と話すように言われている」
言葉が足りなさすぎている騎士に、はき出しそうになったため息をのみこむ。そして、安定の無表情の顔を見て言う。
「先に言ってください」
「……すまない」
私の死んだ目をした顔はさすがに罪悪感がわいたのか、テディさんは素直に謝った。
「ようこそいらっしゃいました」
出迎えてくれたのは、この屋敷の使用人たちではなく上品な貴婦人もだった。おそらく、彼女が依頼主の貴族だろう。
「わたくしが依頼を出したイザベラでございます。どうぞよしなに」
丁寧に挨拶をしてくれた夫人は、そのまま私たちを応接室に案内してくれた。
「町を調査させていただく。問題ないだろうか」
テディさんは世間話をすることなく本題を話す。世間話が得意ではない私が言うのもなんだが、貴族の相手にその直球は大丈夫なんだろうか。
「ええ、”風牙の騎士”様なら頼もしいですわ。どうぞわたくしの領民たちをよろしくお願いします」
私の心配をよそに、彼女はテディさんをとても信頼しているようだ。そして、彼女が領主であることもこの会話で判明した。
(それよりも、”風牙”か……。体が無性に痒くなる)
前世の記憶がある者としては、テディさんの二つ名はなかなかキツイものがある。
「それと騎士様、お隣の方をわたしに紹介してくださらないかしら?」
(あ、興味がこっちに)
「協力者だ」
(それだけ?!)
いつも通りの言葉の足らなさに、思わず隣に座っているテディさんの顔をガン見する。彼は向かいに座っている夫人の方向を真っ直ぐ見ている。今の言葉の足らなさになんの疑問も抱いてないようだ。
「そうなのですね……」
(ほら、夫人困ってるよ)
「お気を付けていってらっしゃいませ」
(え?)
物分かりの良すぎる夫人に見送られ、町の調査へと乗り出した。
「この町の異変は、気分がひどく落ち込む人たちが増加していることですよね」
「そうだ」
屋敷を出た後、私たちは町を見て回ることにした。
歩きながら、この町の異常を確認した。
「たしかに、すれ違う人たちの顔が異常に暗い……」
すれ違う人の内、数人が暗い顔をしていてもおかしいとは思わない。だが、すれ違う人たち全員が暗い顔なのはおかしい。
「異常な気がある」
テディさんは私に一言断ると、どこかに消えていった。
そして、私は別行動することになった。
とりあえず、周辺にいた人たちに話を聞いてみた。
「はあ、最近の出来事?特にないよ」
「近頃、やる気がでないのよ。まあ、そういう時もあるわよね」
「変わったこと?……ふむ、だいぶ前に領主様が亡くなられたことくらいだな」
「やっぱり、あの事故は領主様がやったんじゃないか?」
「おいやめろ。滅多なことを言うとお前も消されるかもしれないぞ」
「はっ、それならオレ以外にどんくらい消されるんだろうな」
「半分はいくだろう」
(領主が亡くなった?)
詳しく話を聞くと、あの夫人には夫がいて彼がもともとは領主だったらしい。彼が事故で亡くなってからは、例の夫人が領主をしているそうだ。
「それにあの方が亡くなった時、今の領主様が悲しんでいた様子はなかったんだぜ」
話を聞かせてくれた領民たちにお礼を言い、頭の整理をするために道端にあったベンチに座る。
(亡くなった前の領主、それを悲しんだ様子のなかった今の領主……)
……今は憶測の域をでない。
(……心当たりを探ってみよう)
少し前に感じた違和感を確かめようと、私は歩きだした。
「あら、お早いお帰りですのね」
私は屋敷に帰り、夫人と対面している。
「すこし、聞きたいことがあります」
握りしめた手からは汗が流れる。
「そうなのですね、こちらにおいでください」
テディさんと一緒にきた応接室に通される。
「それで、聞きたいことというのは?」
優雅に紅茶の香り楽しみながら、夫人はこちらを見る。
私は意を決して、彼女に問いかける。
「あなたは誰ですか」
「……なにを言っているのです?わたしはイザベラですわ。協力者のお方は体調が悪いのではありませんこと?」
怪訝な顔をした夫人は、持っていたティーカップを置く。
眉をひそめた仕草から、不快に思っていることがわかる。
「最初に自己紹介してくださった方はイザベラ様でした。しかし、今のあなたは違います」
「どうされたの?やはり休んだほうが」
「あなたのその人格は、前領主様、つまりあなたの夫が亡くなられた時にできたものですよね」
「………」
夫人の無言の肯定を受け、これまでの情報を整理する。
最初の違和感は、夫人の一人称だった。「わたくし」と「わたし」の二つを口にしていた。ここではまだ、ちょっとした違和感でしかなかった。
その違和感をはっきりとさせたのは、領民たちから前領主の死を悲しまなかった夫人の話だ。
「あなたはこんなにも前領主様を愛しているのに」
「どうして、それを……!」
驚きに目を見開いた夫人に、困った笑みを向ける。
彼女の足元に転がる無数の結晶の欠片をちらりと見る。これらは『愛』が形づくった結晶の破片。この量から、夫人の愛の深さがわかるのだ。
「愛しているがゆえに、人格がわかれてしまうほど悲しんだんですよね?」
人格が分離してしまうほどの『愛』とは、どんな感じなのだろう。
「その『愛』、捨ててみませんか?」
薬屋の店主は、明らかに気まずそうな魔女に陽気な声をかける。
(もう帰りたい)
引きこもりの身としては、数日あけないでの外出は厳しい。
「その、最近は……魔女に関する噂ってありますか」
直球すぎる。
どうやらいい感じの世間話を思いつかなかったようだ。
「え?魔女?う~ん、こんな田舎に魔女がいるかしらねぇ」
はい、います。私です。
「ああ!でも、子どもたちの間ではあなたが魔女かもっていう噂はあるわね」
(そう言えば、その現場に遭遇したことあるなぁ)
薬屋の店主にお礼を言い、次は八百屋の女将と肉屋の店主の所へ向かう。
「魔女かい?見たことないねぇ」
「魔女か、いつか見てみたいもんだ!」
現状、この町には魔女の情報が全くないことがわかった。
(つまり、私の仕事は終わった)
さっさと帰宅しようと町のはずれに足を向ける。
足取りは軽い。
「町にいたのか」
「!?」
聞き間違いだろうか、騎士の声が背後から聞こえたような気がする。
「シロ殿、どこに行こうとしているんだ?」
いや、聞き間違いじゃなかった。
振り向くと、白い制服をバッチリ着こなした騎士がいた。
「騎士様……。到着がお早いですね……」
さっき、王都に向かったばかりじゃなかっただろうか……。
「ああ、テレポートを使った」
騎士は無表情で、とんでもないことを言う。
テレポートの限界を超えていると思う。
「最近の魔術は、進歩がすごいですね」
死んだ目をした魔女は虚空を見つめる。
思考を止めた者は、このような虚無の顔になるのかもしれない。
「そうだな、それより」
(ああ、魔女の情報なら収穫はありません)
騎士が聞いてくるであろう質問の答えを脳内で準備する。
「私の名は騎士ではない」
「ん?」
思ってたのと違いすぎた。
え、今それが重要なことだった?
「騎士ではない」
二回言ってきた。
無表情のまま、真面目な話をするように言ってきた。
「……テディさん、魔女の情報はここにはないようです」
いろいろと諦めた彼女は、騎士の要望に従う。ついでに今日の報告も済ませる。
「ああ、ご苦労だった」
表情は変わらないのに、満足げな感じが伝わってくる。
そして、騎士……いやテディさんは歩き始めた。
さっきまで私が目指していた方向だから、私の家に向かうつもりなのだろう。
「依頼を受けた」
「?」
家に着き、椅子に腰を落ち着けた時、テディさんは唐突にそう言った。
「そうですか」
「………」
彼はこちらをじっと見つめてくる。
手を膝の上に置き、姿勢正しく座っている。
「……なんですか」
口数の少ない彼を促す。
彼の無言がこわくないのは、彼の目が雄弁だからだろうか。
「あなたにも同行してもらいたい」
(そうだろうと思った)
この騎士が無意味に言葉を発するはずがない。出会って間もないが、この人の行動がなんとなくわかってきた気がする。そして、この言い方はすでに決定事項だということも薄々わかる。
「……わかりました」
「感謝する」
この短い会話で、私の外出が決定した。
きっとこの依頼は魔女に関連する内容だろうと思う。
(はやく終わらせたい……)
依頼内容を詳しく聞き、三日後の出発のために準備を開始した。
「テディさん、この立派な屋敷はなんですか」
「依頼主の家だ」
「いや、貴族の方が依頼主だとは聞いてないんですけど……」
現在、豪華な屋敷の前に立っている。
テディさんのテレポートによって数秒で連れて来られた。彼のテレポートのすごさと依頼主の正体に感情が混乱状態だ。
「依頼内容は町の異変を調査することじゃなかったんですか……」
「町は調査する。だが、その前に依頼主と話すように言われている」
言葉が足りなさすぎている騎士に、はき出しそうになったため息をのみこむ。そして、安定の無表情の顔を見て言う。
「先に言ってください」
「……すまない」
私の死んだ目をした顔はさすがに罪悪感がわいたのか、テディさんは素直に謝った。
「ようこそいらっしゃいました」
出迎えてくれたのは、この屋敷の使用人たちではなく上品な貴婦人もだった。おそらく、彼女が依頼主の貴族だろう。
「わたくしが依頼を出したイザベラでございます。どうぞよしなに」
丁寧に挨拶をしてくれた夫人は、そのまま私たちを応接室に案内してくれた。
「町を調査させていただく。問題ないだろうか」
テディさんは世間話をすることなく本題を話す。世間話が得意ではない私が言うのもなんだが、貴族の相手にその直球は大丈夫なんだろうか。
「ええ、”風牙の騎士”様なら頼もしいですわ。どうぞわたくしの領民たちをよろしくお願いします」
私の心配をよそに、彼女はテディさんをとても信頼しているようだ。そして、彼女が領主であることもこの会話で判明した。
(それよりも、”風牙”か……。体が無性に痒くなる)
前世の記憶がある者としては、テディさんの二つ名はなかなかキツイものがある。
「それと騎士様、お隣の方をわたしに紹介してくださらないかしら?」
(あ、興味がこっちに)
「協力者だ」
(それだけ?!)
いつも通りの言葉の足らなさに、思わず隣に座っているテディさんの顔をガン見する。彼は向かいに座っている夫人の方向を真っ直ぐ見ている。今の言葉の足らなさになんの疑問も抱いてないようだ。
「そうなのですね……」
(ほら、夫人困ってるよ)
「お気を付けていってらっしゃいませ」
(え?)
物分かりの良すぎる夫人に見送られ、町の調査へと乗り出した。
「この町の異変は、気分がひどく落ち込む人たちが増加していることですよね」
「そうだ」
屋敷を出た後、私たちは町を見て回ることにした。
歩きながら、この町の異常を確認した。
「たしかに、すれ違う人たちの顔が異常に暗い……」
すれ違う人の内、数人が暗い顔をしていてもおかしいとは思わない。だが、すれ違う人たち全員が暗い顔なのはおかしい。
「異常な気がある」
テディさんは私に一言断ると、どこかに消えていった。
そして、私は別行動することになった。
とりあえず、周辺にいた人たちに話を聞いてみた。
「はあ、最近の出来事?特にないよ」
「近頃、やる気がでないのよ。まあ、そういう時もあるわよね」
「変わったこと?……ふむ、だいぶ前に領主様が亡くなられたことくらいだな」
「やっぱり、あの事故は領主様がやったんじゃないか?」
「おいやめろ。滅多なことを言うとお前も消されるかもしれないぞ」
「はっ、それならオレ以外にどんくらい消されるんだろうな」
「半分はいくだろう」
(領主が亡くなった?)
詳しく話を聞くと、あの夫人には夫がいて彼がもともとは領主だったらしい。彼が事故で亡くなってからは、例の夫人が領主をしているそうだ。
「それにあの方が亡くなった時、今の領主様が悲しんでいた様子はなかったんだぜ」
話を聞かせてくれた領民たちにお礼を言い、頭の整理をするために道端にあったベンチに座る。
(亡くなった前の領主、それを悲しんだ様子のなかった今の領主……)
……今は憶測の域をでない。
(……心当たりを探ってみよう)
少し前に感じた違和感を確かめようと、私は歩きだした。
「あら、お早いお帰りですのね」
私は屋敷に帰り、夫人と対面している。
「すこし、聞きたいことがあります」
握りしめた手からは汗が流れる。
「そうなのですね、こちらにおいでください」
テディさんと一緒にきた応接室に通される。
「それで、聞きたいことというのは?」
優雅に紅茶の香り楽しみながら、夫人はこちらを見る。
私は意を決して、彼女に問いかける。
「あなたは誰ですか」
「……なにを言っているのです?わたしはイザベラですわ。協力者のお方は体調が悪いのではありませんこと?」
怪訝な顔をした夫人は、持っていたティーカップを置く。
眉をひそめた仕草から、不快に思っていることがわかる。
「最初に自己紹介してくださった方はイザベラ様でした。しかし、今のあなたは違います」
「どうされたの?やはり休んだほうが」
「あなたのその人格は、前領主様、つまりあなたの夫が亡くなられた時にできたものですよね」
「………」
夫人の無言の肯定を受け、これまでの情報を整理する。
最初の違和感は、夫人の一人称だった。「わたくし」と「わたし」の二つを口にしていた。ここではまだ、ちょっとした違和感でしかなかった。
その違和感をはっきりとさせたのは、領民たちから前領主の死を悲しまなかった夫人の話だ。
「あなたはこんなにも前領主様を愛しているのに」
「どうして、それを……!」
驚きに目を見開いた夫人に、困った笑みを向ける。
彼女の足元に転がる無数の結晶の欠片をちらりと見る。これらは『愛』が形づくった結晶の破片。この量から、夫人の愛の深さがわかるのだ。
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