平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

文字の大きさ
3 / 25

3 依頼

しおりを挟む
「あら!また来てくれるなんて嬉しいわねぇ~」

 薬屋の店主は、明らかに気まずそうな魔女に陽気な声をかける。

(もう帰りたい)

 引きこもりの身としては、数日あけないでの外出は厳しい。

「その、最近は……魔女に関する噂ってありますか」

 直球すぎる。
 どうやらいい感じの世間話を思いつかなかったようだ。

「え?魔女?う~ん、こんな田舎に魔女がいるかしらねぇ」

 はい、います。私です。

「ああ!でも、子どもたちの間ではあなたが魔女かもっていう噂はあるわね」

(そう言えば、その現場に遭遇したことあるなぁ)

 

 薬屋の店主にお礼を言い、次は八百屋の女将と肉屋の店主の所へ向かう。

「魔女かい?見たことないねぇ」

「魔女か、いつか見てみたいもんだ!」




 現状、この町には魔女の情報が全くないことがわかった。

(つまり、私の仕事は終わった)

 さっさと帰宅しようと町のはずれに足を向ける。
 足取りは軽い。

 
「町にいたのか」

「!?」

 聞き間違いだろうか、騎士の声が背後から聞こえたような気がする。

「シロ殿、どこに行こうとしているんだ?」

 いや、聞き間違いじゃなかった。

 振り向くと、白い制服をバッチリ着こなした騎士がいた。

「騎士様……。到着がお早いですね……」

 さっき、王都に向かったばかりじゃなかっただろうか……。

「ああ、テレポートを使った」

 騎士は無表情で、とんでもないことを言う。
 テレポートの限界を超えていると思う。

「最近の魔術は、進歩がすごいですね」

 死んだ目をした魔女は虚空を見つめる。
 思考を止めた者は、このような虚無の顔になるのかもしれない。

「そうだな、それより」

(ああ、魔女の情報なら収穫はありません)

 騎士が聞いてくるであろう質問の答えを脳内で準備する。

「私の名は騎士ではない」

「ん?」

 思ってたのと違いすぎた。
 え、今それが重要なことだった?

「騎士ではない」

 二回言ってきた。
 無表情のまま、真面目な話をするように言ってきた。

「……テディさん、魔女の情報はここにはないようです」

 いろいろと諦めた彼女は、騎士の要望に従う。ついでに今日の報告も済ませる。

「ああ、ご苦労だった」

 表情は変わらないのに、満足げな感じが伝わってくる。
 そして、騎士……いやテディさんは歩き始めた。

 さっきまで私が目指していた方向だから、私の家に向かうつもりなのだろう。









「依頼を受けた」

「?」

 家に着き、椅子に腰を落ち着けた時、テディさんは唐突にそう言った。

「そうですか」

「………」

 彼はこちらをじっと見つめてくる。
 手を膝の上に置き、姿勢正しく座っている。

「……なんですか」

 口数の少ない彼を促す。
 彼の無言がこわくないのは、彼の目が雄弁だからだろうか。

「あなたにも同行してもらいたい」

(そうだろうと思った)

 この騎士が無意味に言葉を発するはずがない。出会って間もないが、この人の行動がなんとなくわかってきた気がする。そして、この言い方はすでに決定事項だということも薄々わかる。


「……わかりました」

「感謝する」

 この短い会話で、私の外出が決定した。
 きっとこの依頼は魔女に関連する内容だろうと思う。

(はやく終わらせたい……)


 依頼内容を詳しく聞き、三日後の出発のために準備を開始した。
 

















「テディさん、この立派な屋敷はなんですか」

「依頼主の家だ」

「いや、貴族の方が依頼主だとは聞いてないんですけど……」

 

 現在、豪華な屋敷の前に立っている。
 テディさんのテレポートによって数秒で連れて来られた。彼のテレポートのすごさと依頼主の正体に感情が混乱状態だ。


「依頼内容は町の異変を調査することじゃなかったんですか……」

「町は調査する。だが、その前に依頼主と話すように言われている」

 言葉が足りなさすぎている騎士に、はき出しそうになったため息をのみこむ。そして、安定の無表情の顔を見て言う。

「先に言ってください」

「……すまない」

 私の死んだ目をした顔はさすがに罪悪感がわいたのか、テディさんは素直に謝った。










「ようこそいらっしゃいました」

 出迎えてくれたのは、この屋敷の使用人たちではなく上品な貴婦人もだった。おそらく、彼女が依頼主の貴族だろう。


が依頼を出したイザベラでございます。どうぞよしなに」


 丁寧に挨拶をしてくれた夫人は、そのまま私たちを応接室に案内してくれた。






「町を調査させていただく。問題ないだろうか」

 テディさんは世間話をすることなく本題を話す。世間話が得意ではない私が言うのもなんだが、貴族の相手にその直球は大丈夫なんだろうか。

「ええ、”風牙の騎士”様なら頼もしいですわ。どうぞわたくしの領民たちをよろしくお願いします」

 私の心配をよそに、彼女はテディさんをとても信頼しているようだ。そして、彼女が領主であることもこの会話で判明した。

(それよりも、”風牙”か……。体が無性に痒くなる)

 前世の記憶がある者としては、テディさんの二つ名はなかなかキツイものがある。

「それと騎士様、お隣の方をに紹介してくださらないかしら?」

(あ、興味がこっちに)

「協力者だ」

(それだけ?!)

 いつも通りの言葉の足らなさに、思わず隣に座っているテディさんの顔をガン見する。彼は向かいに座っている夫人の方向を真っ直ぐ見ている。今の言葉の足らなさになんの疑問も抱いてないようだ。

「そうなのですね……」

(ほら、夫人困ってるよ)

「お気を付けていってらっしゃいませ」

(え?)

 物分かりの良すぎる夫人に見送られ、町の調査へと乗り出した。









「この町の異変は、気分がひどく落ち込む人たちが増加していることですよね」

「そうだ」

 屋敷を出た後、私たちは町を見て回ることにした。
 歩きながら、この町の異常を確認した。

「たしかに、すれ違う人たちの顔が異常に暗い……」

 すれ違う人の内、数人が暗い顔をしていてもおかしいとは思わない。だが、すれ違う人たち全員が暗い顔なのはおかしい。

「異常な気がある」

 テディさんは私に一言断ると、どこかに消えていった。
 そして、私は別行動することになった。


 とりあえず、周辺にいた人たちに話を聞いてみた。



「はあ、最近の出来事?特にないよ」

「近頃、やる気がでないのよ。まあ、そういう時もあるわよね」


「変わったこと?……ふむ、だいぶ前に領主様が亡くなられたことくらいだな」

「やっぱり、あの事故は領主様がやったんじゃないか?」

「おいやめろ。滅多なことを言うとお前も消されるかもしれないぞ」

「はっ、それならオレ以外にどんくらい消されるんだろうな」

「半分はいくだろう」


(領主が亡くなった?)

 詳しく話を聞くと、あの夫人には夫がいて彼がもともとは領主だったらしい。彼が事故で亡くなってからは、例の夫人が領主をしているそうだ。

「それにあの方が亡くなった時、今の領主様が悲しんでいた様子はなかったんだぜ」

 話を聞かせてくれた領民たちにお礼を言い、頭の整理をするために道端にあったベンチに座る。



(亡くなった前の領主、それを悲しんだ様子のなかった今の領主……)

 ……今は憶測の域をでない。

(……心当たりを探ってみよう)

 少し前に感じた違和感を確かめようと、私は歩きだした。












「あら、お早いお帰りですのね」

 私は屋敷に帰り、夫人と対面している。


「すこし、聞きたいことがあります」

 握りしめた手からは汗が流れる。

「そうなのですね、こちらにおいでください」



 テディさんと一緒にきた応接室に通される。

「それで、聞きたいことというのは?」

 優雅に紅茶の香り楽しみながら、夫人はこちらを見る。
 私は意を決して、に問いかける。



「あなたは誰ですか」

「……なにを言っているのです?はイザベラですわ。協力者のお方は体調が悪いのではありませんこと?」

 怪訝な顔をした夫人は、持っていたティーカップを置く。
 眉をひそめた仕草から、不快に思っていることがわかる。

してくださった方はイザベラ様でした。しかし、今のあなたは違います」

「どうされたの?やはり休んだほうが」

「あなたのその人格は、前領主様、つまりあなたの夫が亡くなられた時にできたものですよね」

「………」

 夫人の無言の肯定を受け、これまでの情報を整理する。

 最初の違和感は、夫人の一人称だった。「わたくし」と「わたし」の二つを口にしていた。ここではまだ、ちょっとした違和感でしかなかった。
 その違和感をはっきりとさせたのは、領民たちから前領主の死を悲しまなかった夫人の話だ。

「あなたはこんなにも前領主様を愛しているのに」

「どうして、それを……!」

 驚きに目を見開いた夫人に、困った笑みを向ける。
 彼女の足元に転がる無数のの欠片をちらりと見る。これらは『愛』が形づくったの破片。この量から、夫人の愛の深さがわかるのだ。

「愛しているがゆえに、人格がわかれてしまうほど悲しんだんですよね?」

 人格が分離してしまうほどの『愛』とは、どんな感じなのだろう。





「その『愛』、捨ててみませんか?」










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~

黒猫子猫
恋愛
ディアナは欲深く、夫にも結婚を強いた悪女として知られた女王だ。当然のように人々から嫌われ、夫婦仲は悪く、病に倒れた時も誰も哀しまなかった。ディアナは、それで良かった。余命宣告を受け、自分の幸せを追い求める事などとうに止めた。祖国のためにできる事は全てやった。思うままに生きたから、人生をやり直せると言われても、人間などまっぴらごめんだ。 そして、《猫》になった。日向でのんびりと寝ている姿が羨ましかったからだ。いざ、自堕落な生活をしようと思ったら、元夫に拾われてしまった。しかも、自分が死んで、解放されたはずの彼の様子が妙だ。 あなた、隙あらば撫でようとするの、止めてくれる? 私達は白い結婚だったでしょう。 あなた、再婚する気がないの? 「お前を愛したりしない」って嬉しい事を言ってくれたのは誰よ! 猫になった孤高の女王×妻を失って初めて色々気づいてしまった王配の恋のお話。 ※全30話です。

『白い結婚のはずでしたが、夫の“愛”が黒い。 限界突破はお手柔らかに!』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
白い結婚のはずだった。 姉の遺した娘――カレンの親権を守るため、 私と侯爵タイロンは“同じ屋根の下で暮らすだけ”の契約を交わした。 夜を共にしない、干渉しない、互いに自由。 それが白い結婚の条件。 ……だったはずなのに。 最近、夫の目が黒い。 「お前、俺を誘惑してるつもりか?」 「は? してませんけど? 白い結婚でしょうが」 「……俺は、白い結婚でよかったがな。  お前が俺を限界まで追い詰めるなら……話は別だ」 黒い。 完全に黒い。 理性じゃなくて、野生の方が勝ってる。 ちょっと待って、何その目!? やめて、白い結婚の契約書どこ行ったの!? 破らないで! ――白い結婚? 知らん。 もう限界。覚悟しろ。 タイロンの目がそう語っていた。 私、白い結婚で穏やかに暮らす予定だったんだけど!?

処理中です...