平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

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7 騎士団

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 無事、王都の門をくぐった私は、テディさんに高級そうな宿へと案内された。とりあえず荷物をそこに預け、王都を見て回ることにした。





「王都について早々で悪いが、騎士団の方へ寄ってもいいだろうか」

 僅かに眉を下げるテディさんからは、申し訳なさそうな気持ちが伝わってくる。きっと仕事の件だろう。私をもてなすという勤務外労働を強いられている職場に向かうのだろう。可哀そうに。

「いいですよ」

 仏のような心でテディさんに返事をする。働く人はやっぱり大変なんだなぁ。上司からの無茶ぶり、休日出勤、日々のノルマとかがあるのだろうと想像する。

(テディさんに優しくしよう)

 そう心に決めながら、彼の後をついていった。















 王城かと見紛うほどに美しい白亜の建物。
 市街地から少し離れた場所にあるここが、騎士団の本部だそうだ。


「り、立派な建物ですね」

 思ったよりも豪華だった騎士団の建物に恐れおののく。正直、もう少し無骨な感じの建物かと思っていた。流石は都会、どんな場所も洗練されているようだ。

「ここで少し待っていてくれ」

 そう言ってテディさんは門をくぐっていった。
 門から少し離れた場所にベンチがあったため、そこで彼の帰りを待つことにした。


 ボーっとしていると、遠くからなにやら言い争う声が聞こえてきた。

「ちょっと!さっきの女はどういうことよ!?」

「いたっ、叩かないで!彼女はただの友達だって!」

 女性が男性をしばきまわしている。聞こえてきた話の内容的に、男性が浮気をしたという嫌疑がかかっているらしい。女性のほうは、途轍もなくヒートアップしている。

「へえ~?友達にもキスするのね?」

「あ、ああ!親愛の意味をこめてね!」

「そう、じゃあ男の友達にしてらっしゃい。今すぐ」

 冷たい声でそう言う女性は、目がマジだ。今すぐやらないとコロすと言わんばかりだ。あと、私の存在は彼らの視界に入っていないようだ。目の前で昼ドラが始まっている。

「は?!無理に決まっているだろう!」

「じゃあ、あの女は浮気相手ってことね?!」

「なんでそうなるんだよ!!」

 しばらく、やいのやいの言い争った後、男性のほうが走って騎士団の建物に逃げ込んでしまった。

(いや、あなた騎士だったのか)

 前世の知識で「騎士は誠実」みたいな幻想をちょっとだけ抱いていたけど、人は人だった。やっぱり騎士も人間だよなぁ。なのに、どうしてテディさんは人工知能みたいな感じを受けるんだろう……。あの融通がききそうにない感じが、ロボットみたいに思うことがある。

 私が様々なことに思考をとばしていると、目の前の女性が静かに涙を流し始めた。

「!?」

 慌てた私は彼女のそばに駆け寄り、今日たまたま持っていたハンカチを差し出した。よかった、ハンカチ持ってて。普段は持たないけど、今日は遠足気分だったからティッシュも持っている。完璧だ。

「えっ……」

 女性は急に現れた私に驚いた後、差し出されたハンカチを断った。そして周囲に人がいないことを確認すると、私の顔を見て苦々しげな表情をした。

「何よ、同情?言っとくけど、あんたみたいな不細工な顔の女に同情されるいわれなんてないから」

 さきほどの涙が嘘のようになくなり、顔をしかめた女性はそのまま歩き去っていった。

「わお、苛烈」

 まんまと女性の涙に踊ってしまった私は、思わず素直な感想がこぼれた。

「くはっ」

 突然、そばから笑い声が聞こえてきた。声の方を向くと、見知らぬ男性がこちらを見て笑っていた。テディさんと同じような制服を着ているから、おそらく騎士だろう。剣を腰に差しているし、間違いない。

(人を見て笑うなんて、失礼な人だな)

 心の中ですこしむくれながらも、その騎士ににっこりと笑いかける。もちろん、愛想笑いだ。

「こんにちは」

「ああ、こんにちは」

 まだ半笑いの彼は、挨拶をかえしながら私のそばまで来た。
 細身だが背が高く、強者の雰囲気を感じる。例えるなら……豹?

「さっきのレディはすごかったね。俺、こわくて隠れちゃってたよ」

 茶目っ気たっぷりにそう言ってくる彼だが、面白がっているのがとても分かりやすい。せめて口元のニヤニヤは隠してほしかった。

「そうですか」

 関わると面倒そうな相手だと判断し、当たり障りのない返事をする。
 視線を逸らそうと地面に目を向けると、無視できないモノがあった。

(これは、まさか……!)

 地面にあったモノをすぐさま拾い、そばにいた騎士の方を向く。

「ん?急にどうしたんだい?」

 私の急な行動に驚き、そう問いかける騎士に伝言を頼む。

「すみません、急で申し訳ないのですが伝言をお願いします」

「うん、確かに急ではあるけど暇だからいいよ~」

 快く引き受けてくれた彼に感謝しつつ、テディさんへの伝言を頼んだ。
 そして、私は急いでさっきの女性を追いかけ、市街地へと駆けて行った。



















「すまないシロ殿、待たせ……」

 彼女が待っているはずの門の近くでは、その姿がなかった。急いで周囲を見渡すと、知り合いがこちらに向かって歩いてきた。

「よお、ディアクロス。久しぶりだな~」

 締まりのない顔で笑うこいつは、同僚のキリルだ。

「キリルか、悪いが急いでいるんだ。金は貸せない」

「おい、俺がいつも金を借りようとしてるヤツみたいな言い方すんな」

「ここで人を見なかったか」

「無視かよ!」

 なにか騒ぐ男を無視し、自分の質問に早く答えるよう目で促す。

「わかってるよ、シロさんだろ?」

「……!なぜお前がそれを知っている」

 節操のないこいつのことだ。彼女に迷惑をかけたに違いない。そう思い、腰に下げていた剣に手を伸ばす。他の同僚がこいつに関して嘆いていたことに、今更ながら共感する。

「待て!手なんて出してない!」

 焦った様子の奴に、とりあえず言い分を言わせてやることにした。処すのは後でもできる。












「――――というわけだ」

「………」

 彼女からの伝言を聞き、市街地の方へと走りだそうとする。

「待て待て、この子の伝言にもあったようにお前は自由にしていいってあるだろ?わざわざ迎えにいったら嫌がられるかもしれないぜ」

 「嫌がられる」という言葉に足が止まる。彼女は迎えに行った自分を嫌がるだろうか。

 ―――ズキッ
 
「?」

 よくわからない胸の痛みを感じるが、それはすぐに治まった。

「シロちゃんも一人の時間がほしかったんだろうな~」

「その呼び方は失礼だ、訂正しろ」

「堅っ、そんなにお堅いからシロちゃんも息苦しかったんじゃないか~」

 面白がる男の横を通りすぎ、彼女を探しに行く。
 そんな珍しく焦った様子の同僚に、キリルは目を輝かせた。

「あれ?面白いことになってね?」

 そう呟いた男は、意気揚々と自分の同僚の後を追いかけた。

 







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