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第一章 死神と呼ばれた男
襲来④
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聖女とは、神聖皇国の象徴ともいえる存在だ。
ドンガの街の北に位置する神聖皇国はとても寒い地域に存在する国だ。寒冷な気候の中、信仰に勤しむその姿は俗世と切り離された印象を与え、自然の恵みを愛する生き方はまさに神聖皇国が信じる天空教の教えにふさわしいものだった。天空教とは、ディアナと呼ばれる唯一神を信仰する宗教の一派であり、神聖皇国はその天空教が中心となって作り上げた宗教国家なのだ。
天空教の教えの多くは平和を謳ったものが多く、中でも神と悪魔達との争いの神話は、教徒でなくともしっているくらい有名な話だった。全世界に広がる宗教。絶大な影響力を誇る国の一つだ。
そして、その宗教国家の存在意義。それは、神話における神の存在意義と同義であった。
というのも、神は悪魔と対立し、世界を守るために戦い勝つことはできたのだが、滅ぼすことはできなかった。悪魔がもつ強靭な生命力と魔力はすさまじく、神は悪魔達を封印することで世界の平和を守ったのだ。
その悪魔の封印を守るために作られた国家。それが神聖皇国の始まりだと言われている。現実として、悪魔を封印し続ける神聖皇国はこの世界を守っているといっても過言ではない。そんな神聖皇国だが、当然国家として維持していくためには、国を統治していかなければならない。教皇を筆頭とした統治が行われ、グリオース王国とも友好的な関係を築いている。そして、統治とは全く別の立場としておいているのが聖女という肩書だ。
先ほどもいったが、聖女とは神聖皇国において象徴ともとれる存在である。
式典には必ず参加し、国の内外で何かあれば慰問に訪れる。その美しい外見と奉仕の心があふれる生き方は、人民の心を掴んで離さない。神に祈りを掲げるのと同じくらい、人々は聖女に対して信仰に近い想いを抱いているのだ。
そんな聖女だが、実は本来の役割は別だ。
神聖皇国の存在理由である悪魔の封印を守るということ。当然、聖女はそれに関わっているのだ。
「これは、神聖皇国でも一部の人間しかしらないことだが、お前らには話さざるを得ないだろう」
スヴァトブルグはそう前置きしながら小さく息を吐いた。そして、眉をひそめながら二人に語りかける。
「聖女とは、悪魔の封印そのものだ。彼女らは、悪魔をその身に宿し、自らの魔力で封印を維持している。聖女が四人であり、封印された悪魔も四人であることからも、根拠のない話ではない」
ルクスは、突然語られた神聖皇国と聖女の秘密に、驚愕していた。そして、なぜ今この話を、という疑問が徐々に膨れ上がっていく。
「そして、今回の魔物の襲撃の原因は、その封印が解けかけているせいで漏れ出る悪魔の瘴気のせいだという」
「ということは、聖女はこの街にいるってこと?」
その質問ニスヴァトブルグは答えない。そして、思わず首を傾げそうになったルクスの思考に、ざわり、と嫌な予感がひた走った。
「悪魔の瘴気は魔物を呼び寄せ災いを生む。そして、その原因は聖女だという。ならば――その聖女とはだれか。それがわかれば、この事態への対処も取りやすいというものだろう」
ルクスは、今までの話をどこか他人事のように聞いていたが、ここまで来て、突然冷や汗がにじみ出た。鼓動が早くなり、口が乾いている。
「行方をくらましている聖女。それは、神聖皇国の教皇の娘ということだ。その教皇の名前は、ジークルーン・シュトルツアー」
ルクスの耳には、すでにスヴァトブルグの言葉がはっきりとは聞こえない。
自分の中にある懸念を否定しようと、躍起になっていた。
そもそも、なぜこの話を自分たちにしたのだろう。なぜ、駆け出し冒険者である自分たちを呼び寄せたのだろう。そのことを考えると、浮かび上がる答えは一つだけ。しかし、それを認めてはいけない気がしていた。ルクスは怖かったのだ。
「そして、その娘の名は――」
今にも耳をふさぎたかった。
けれど、その後の言葉を聞きたい自分もいたのだ。ルクスは、板挟みになっている感情に締め付けられながらギルド長を睨みつけていた。いや、睨みつけているというよりも、どこかすがるような視線とでもいえばいいのだろうか。
腰が抜けそうになり、床に倒れこむのを必死で抑え込む。
「カレラ・シュトルツアーというらしい。さて……今、私の目の前にいるお前はカレラというのだったな。偶然にしてはできすぎているが、あえて問おう。――お前は、聖女なのか?」
スヴァトブルグと向かい合っているカレラは、そのまっすぐな視線を決してそらすことはしなかった。
ドンガの街の北に位置する神聖皇国はとても寒い地域に存在する国だ。寒冷な気候の中、信仰に勤しむその姿は俗世と切り離された印象を与え、自然の恵みを愛する生き方はまさに神聖皇国が信じる天空教の教えにふさわしいものだった。天空教とは、ディアナと呼ばれる唯一神を信仰する宗教の一派であり、神聖皇国はその天空教が中心となって作り上げた宗教国家なのだ。
天空教の教えの多くは平和を謳ったものが多く、中でも神と悪魔達との争いの神話は、教徒でなくともしっているくらい有名な話だった。全世界に広がる宗教。絶大な影響力を誇る国の一つだ。
そして、その宗教国家の存在意義。それは、神話における神の存在意義と同義であった。
というのも、神は悪魔と対立し、世界を守るために戦い勝つことはできたのだが、滅ぼすことはできなかった。悪魔がもつ強靭な生命力と魔力はすさまじく、神は悪魔達を封印することで世界の平和を守ったのだ。
その悪魔の封印を守るために作られた国家。それが神聖皇国の始まりだと言われている。現実として、悪魔を封印し続ける神聖皇国はこの世界を守っているといっても過言ではない。そんな神聖皇国だが、当然国家として維持していくためには、国を統治していかなければならない。教皇を筆頭とした統治が行われ、グリオース王国とも友好的な関係を築いている。そして、統治とは全く別の立場としておいているのが聖女という肩書だ。
先ほどもいったが、聖女とは神聖皇国において象徴ともとれる存在である。
式典には必ず参加し、国の内外で何かあれば慰問に訪れる。その美しい外見と奉仕の心があふれる生き方は、人民の心を掴んで離さない。神に祈りを掲げるのと同じくらい、人々は聖女に対して信仰に近い想いを抱いているのだ。
そんな聖女だが、実は本来の役割は別だ。
神聖皇国の存在理由である悪魔の封印を守るということ。当然、聖女はそれに関わっているのだ。
「これは、神聖皇国でも一部の人間しかしらないことだが、お前らには話さざるを得ないだろう」
スヴァトブルグはそう前置きしながら小さく息を吐いた。そして、眉をひそめながら二人に語りかける。
「聖女とは、悪魔の封印そのものだ。彼女らは、悪魔をその身に宿し、自らの魔力で封印を維持している。聖女が四人であり、封印された悪魔も四人であることからも、根拠のない話ではない」
ルクスは、突然語られた神聖皇国と聖女の秘密に、驚愕していた。そして、なぜ今この話を、という疑問が徐々に膨れ上がっていく。
「そして、今回の魔物の襲撃の原因は、その封印が解けかけているせいで漏れ出る悪魔の瘴気のせいだという」
「ということは、聖女はこの街にいるってこと?」
その質問ニスヴァトブルグは答えない。そして、思わず首を傾げそうになったルクスの思考に、ざわり、と嫌な予感がひた走った。
「悪魔の瘴気は魔物を呼び寄せ災いを生む。そして、その原因は聖女だという。ならば――その聖女とはだれか。それがわかれば、この事態への対処も取りやすいというものだろう」
ルクスは、今までの話をどこか他人事のように聞いていたが、ここまで来て、突然冷や汗がにじみ出た。鼓動が早くなり、口が乾いている。
「行方をくらましている聖女。それは、神聖皇国の教皇の娘ということだ。その教皇の名前は、ジークルーン・シュトルツアー」
ルクスの耳には、すでにスヴァトブルグの言葉がはっきりとは聞こえない。
自分の中にある懸念を否定しようと、躍起になっていた。
そもそも、なぜこの話を自分たちにしたのだろう。なぜ、駆け出し冒険者である自分たちを呼び寄せたのだろう。そのことを考えると、浮かび上がる答えは一つだけ。しかし、それを認めてはいけない気がしていた。ルクスは怖かったのだ。
「そして、その娘の名は――」
今にも耳をふさぎたかった。
けれど、その後の言葉を聞きたい自分もいたのだ。ルクスは、板挟みになっている感情に締め付けられながらギルド長を睨みつけていた。いや、睨みつけているというよりも、どこかすがるような視線とでもいえばいいのだろうか。
腰が抜けそうになり、床に倒れこむのを必死で抑え込む。
「カレラ・シュトルツアーというらしい。さて……今、私の目の前にいるお前はカレラというのだったな。偶然にしてはできすぎているが、あえて問おう。――お前は、聖女なのか?」
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