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第一章 死神と呼ばれた男
襲来⑨
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ルクスは、門の外に出てから、ただひたすらに水魔法を行使していく。
当然、魔法を使えば使うほど身体への負担が増え、ましてや魔力を空っぽにしようものなら意識を保っているのすらつらく感じるだろう。しかしながら、ルクスの魔法は止むことがない。延々と続く地獄を何度も繰り返すような圧迫感に耐えながら、一匹、また一匹と命を奪っていく。
――空は無理か。
魔法の射程の範囲外にいる飛ぶ魔物はルクスには手に負えなかったが、そこは街にいるものに任せようと割り切った。
そんなルクスだが、唐突に倦怠感が彼を襲った。
思考すらも鈍くなったような感覚に陥り、魔法もうまく使えない。
突如として立ち止まったルクスを見ながら、魔物達は何事かと様子を窺っていた。当然、そのまま魔物達が押し寄せればルクスを殺すことができただろう。しかしながら、ルクスが魔物を殺すのを見たことにより、その圧倒的な殺し方を見たことにより、本能的な恐怖が魔物達の脳裏に浮かび上がった。
そのことでできた間だったのだが、それが功を奏したのだ。
一瞬の間ができたその時、ルクスの後ろから門が開く音と、男達の叫び声が分厚い層となって押し寄せた。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
鎧を纏った騎士団が、隙間なく魔物達へとぶつかっていく。
当然、動けなくなったルクスを押しつぶすことなく、その身をもって魔物達と街とを隔絶する壁となった。
ルクスはすぐさま騎士団に抱きかかえられ、そして魔力回復薬を飲まされた。
「団長が言ったんだ。おそらく魔法を使っているだろうから、これを持っていけってな。どうだ? 少しは動けるだろう?」
「あ……ああ。大丈夫だ、です」
徐々に満たされていく感覚。歓喜の声を上げる身体。
そんなやり取りをしている間に、騎士団達は魔物達を撃退していた。冒険者達も、その中に加わっていく。ルクスもそれに負け時と再び先頭に立って魔物を退けていった。
そうして何時間が立ったのだろうか。
ドンガの街が誇る騎士団、約二千人。冒険者達が三百人程。それだけの戦力を用いて、徐々に戦線を門から遠ざけることに成功した。ようやく、余裕を持ちながら魔物と戦っているルクスだが、おそらく限界が近づいているのだろう。
全身を襲う疲労感と頭痛。おそらくは魔法の使いすぎによる副作用だと思われる症状は、ルクスに警笛を鳴らしていた。限界まで酷使された肉体と精神は、その犠牲にふさわしい戦果を挙げていた。
「このままいけば――」
そうつぶやいたルクスが唐突に腹部に違和感を感じた。触れると、どろりとした感触と温かみが手を包み、見ると赤い。
腹から突き出た突起が引き抜かれたかと思うと、全身を激痛が襲う。
「ぐああああぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら倒れ、振り返ると、そこにはいつの間にか広がった血の海と赤い獅子がいた。
赤い獅子の背中には、蝙蝠のような黒い翼が生えている。そして、優雅に揺らしている尻尾は、まるでサソリのような禍々しい棘を有していた。そんな魔物がじっとルクスを見つめている。その顔は、魔物にもかかわらず、いやらしくにやついているように見えた。
その醜悪な姿はルクスも話に聞いたことがあった。
人の好んで食らうという凶悪な魔物。多くの金級冒険者の命を奪ってきた厄災。
マンティコアという魔物が、ルクス達を舌なめずりしながら見つめていたのだ。
当然、魔法を使えば使うほど身体への負担が増え、ましてや魔力を空っぽにしようものなら意識を保っているのすらつらく感じるだろう。しかしながら、ルクスの魔法は止むことがない。延々と続く地獄を何度も繰り返すような圧迫感に耐えながら、一匹、また一匹と命を奪っていく。
――空は無理か。
魔法の射程の範囲外にいる飛ぶ魔物はルクスには手に負えなかったが、そこは街にいるものに任せようと割り切った。
そんなルクスだが、唐突に倦怠感が彼を襲った。
思考すらも鈍くなったような感覚に陥り、魔法もうまく使えない。
突如として立ち止まったルクスを見ながら、魔物達は何事かと様子を窺っていた。当然、そのまま魔物達が押し寄せればルクスを殺すことができただろう。しかしながら、ルクスが魔物を殺すのを見たことにより、その圧倒的な殺し方を見たことにより、本能的な恐怖が魔物達の脳裏に浮かび上がった。
そのことでできた間だったのだが、それが功を奏したのだ。
一瞬の間ができたその時、ルクスの後ろから門が開く音と、男達の叫び声が分厚い層となって押し寄せた。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
鎧を纏った騎士団が、隙間なく魔物達へとぶつかっていく。
当然、動けなくなったルクスを押しつぶすことなく、その身をもって魔物達と街とを隔絶する壁となった。
ルクスはすぐさま騎士団に抱きかかえられ、そして魔力回復薬を飲まされた。
「団長が言ったんだ。おそらく魔法を使っているだろうから、これを持っていけってな。どうだ? 少しは動けるだろう?」
「あ……ああ。大丈夫だ、です」
徐々に満たされていく感覚。歓喜の声を上げる身体。
そんなやり取りをしている間に、騎士団達は魔物達を撃退していた。冒険者達も、その中に加わっていく。ルクスもそれに負け時と再び先頭に立って魔物を退けていった。
そうして何時間が立ったのだろうか。
ドンガの街が誇る騎士団、約二千人。冒険者達が三百人程。それだけの戦力を用いて、徐々に戦線を門から遠ざけることに成功した。ようやく、余裕を持ちながら魔物と戦っているルクスだが、おそらく限界が近づいているのだろう。
全身を襲う疲労感と頭痛。おそらくは魔法の使いすぎによる副作用だと思われる症状は、ルクスに警笛を鳴らしていた。限界まで酷使された肉体と精神は、その犠牲にふさわしい戦果を挙げていた。
「このままいけば――」
そうつぶやいたルクスが唐突に腹部に違和感を感じた。触れると、どろりとした感触と温かみが手を包み、見ると赤い。
腹から突き出た突起が引き抜かれたかと思うと、全身を激痛が襲う。
「ぐああああぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら倒れ、振り返ると、そこにはいつの間にか広がった血の海と赤い獅子がいた。
赤い獅子の背中には、蝙蝠のような黒い翼が生えている。そして、優雅に揺らしている尻尾は、まるでサソリのような禍々しい棘を有していた。そんな魔物がじっとルクスを見つめている。その顔は、魔物にもかかわらず、いやらしくにやついているように見えた。
その醜悪な姿はルクスも話に聞いたことがあった。
人の好んで食らうという凶悪な魔物。多くの金級冒険者の命を奪ってきた厄災。
マンティコアという魔物が、ルクス達を舌なめずりしながら見つめていたのだ。
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