Dランク水魔法使いが実家を追い出された後、真理を手に入れて死神と呼ばれる冒険者となる話

卯月 みつび

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第一章 死神と呼ばれた男

殺された死神③

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「君がルクス君かな?」

 ルクスが止まる安宿に、一人の男が訪れていた。
 全身を、輝く鎧で包み、腰には透き通った美しい剣を携えている。流れるような真っ黒な髪をかき上げながら、整った顔立ちをルクスに向けていた。

「診療所にいるって聞いたんだがね。こっちに移れるくらい良くなったようで安心したよ」
「体よく追い出されただけですよ」

 ぶっきらぼうな物言いに、男は少しだけ目を開くと、笑みを浮かべて右手を差し出す。

「はじめましてだな。俺は勇者と呼ばれているものだ。先日、悪魔との戦いに敗れ、慌てて敗走したお笑いぐささ」

 差し出された右手を一瞥すると、ルクスは再び外を見つめ始めた。
 
 少し困った様子で肩をすくめる勇者の後ろには、見知った顔が並んでいる。

「本当に聞いた通りだな。腑抜けになってやがる」

 腕を組んだまま、ギルド長であるスヴァトブルグはため息をつく。その横では、端正なたたずまいの騎士、マルクスが瞑目していた。

「誰しも挫折はあるものです。仕方のないことかもしれません」
「でもなぁ。こいつが頼みの綱なんだから、しゃきっとしてもらわないと困るんだがな」

 その二人の影に隠れるように立っていたフェリカが顔を出した。
 フェリカは、御者として雇われており、本来ならばドンガの街に帰ってきた時点で契約は終了しているのだが、ルクスやカレラを気にしてなんども見舞いに訪れていた。

「こんなやつに期待しても無駄よ。ずっとこの調子なんだから」

 明後日の方向を見ながらむくれているフェリカだったが、その視線が決して刺々しくないことから、彼女の気持ちも想像に難くない。

 ルクスがドンガの街に帰ってきてから、すでに十日以上たっている。
 にもかかわらず、悪魔による蹂躙はまだ世界のどこでも行われてはいなかった。ルクスは、そのことに疑問を持ってはいたが、それを知ろうとすら思わなかった。

「つれないな。まあいい……。今日、ここに来たのは、世界の現状とお願い事をするために来たんだ。すこし話に付き合ってもらおうか」
「別に何も聞きたくない」
「まあ、そう言うな。すこしばかり、俺の愚痴に付き合ってくれるだけでいいんだからな」

 そういって苦笑いを浮かべると、勇者は静かに語り始める。

「そうだな……まずは、俺達がどうやって戦って、どうやって負けたか。それから話そうか――」

 勇者は、普段は帝国に居を構えている。
 そんな勇者の元に悪魔の復活が聞かされてからは、怒涛の毎日が過ぎていった。

 まずは、かつて共に戦ったパーティーメンバーへの連絡だ。それは、魔法を用いて行われ、数時間後には皆が知ることとなった。帝国にいる勇者と、連合国にいる覇者、神聖皇国にいる剛腕と聖女、グリオース国にいる奇術師。この五人が勇者のパーティーメンバーと言われている。皆は、二つ名で呼び合っていたが、それは本名を知られるといろいろと厄介なことが多かったからだ。唯一、身元がはっきりしているのは神聖皇国の聖女だ。今回は、聖女を求めているという悪魔の書状があったため、戦いに訪れることはなかった。

 そのような関係で、四人はひとまず封印の祠からほど近いドンガの街へと集まった。すぐさま、悪魔の討伐に行く旨を領主であるテオフェル・スヴェーレフに伝え、騎士団の応援も受けることができ、四人を中心とした討伐隊は封印の祠を目指した。

 そこで出会ったのは、黒い身体をもった悪魔だ。
 悪魔は非常に理知的であった。
 各国に聖女を求める書状を送ったのは、世界に混乱を巻き起こしたかったこと、わざわざ自分から乗り込んで聖女を殺すのは美学に反すること、勇者達のような強者を引き寄せ戦いを楽しむことなどが目的であったのだ。悪魔はそれらを自慢げに語り、勇者達と真正面からぶつかり合った。
 
 そして、勇者達は負けた。

 負けたのだ。
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