ブックメイカー ~ゴミスキルを開花させた少年は、孤児から頂点へと成り上がる~

卯月 みつび

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第三章 スキルの力と金策と裏切り

二十

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 部屋の中央で僕とクラウンは刃を交えて押し合っていた。

 オークキングよりは力は弱い。けれど、スピードは相当のもので、危うく剣で受け止めきれないところだった。



 目の前で僕を睨みつけている彼は、僕をじっと観察しているようだった。



「てめぇ。ナニモンだ?」

「オリアーナの協力者です。それよりも、どうしてもお金は返してもらえないのですか?」

「秘密を知られた相手を生かしといちゃ、今後の活動に差しさわりがあるんでな」



 クラウンはすばやく距離をとると、背後に回り込んでくる。

 目で終える範囲であり僕は余裕をもって彼の攻撃を受け止められる――。



 と思った瞬間、クラウンがさっきまでいた場所から、なぜだかナイフが飛んでくる。



 背後から飛んでくるナイフに気づき辛うじて躱すが、それは僕の頬を掠めた。



「ほぉ。今のを躱すか。やるねぇ。じゃあ、これはどうかな?」



 そういうと、クラウンは歪んだ笑みを浮かべ僕へと迫ってくる。



 一体今は何をされた?

 背後からの攻撃。だが、クラウンは既に移動した後だ。

 だが、この部屋にはほかに人間はいない。なら、なぜ――。



 思考を中断させるかのように、彼は僕に迫っていた。

 一振り、二振り。

 余裕をもって躱すが、三振り目。

 躱したはずの攻撃が、一瞬おくれて僕に襲い掛かってきた。

 そのナイフは、僕の肩を切り裂きたまらず後ろに飛びのいた。



「ははっ! いい反応だぁ。やっぱりおめぇは見た目通りじゃねぇな。危険だよ。危険すぎる」

「一体、何を?」

「馬鹿か、おめえは。いうわけないだろうが。種明かしは、あの世でしてやるよ。俺が逝くまで待ってられるならな」



 会話が終わる瞬間。

 突如として襲い掛かる斬撃。

 その数は十数。

 隙間のない攻撃に面をくらうも、僕はすぐさま飛び上がり、被害を最小限に抑えた。全身は傷だらけだ。



「くっ――!」

「待て待て! あんまり逃げると苦しい時間が増えるぞぉ? そぉら!」



 立て続けに繰り出される攻撃。そして、無作為に襲ってくるわけの分からない攻撃を避けながら僕は考えた。

 何が起こっているのかを。

 そして、クラウンをよく見ていると一つのことに気が付いた。

 それは、攻撃が襲ってくる直前――その攻撃と同様の軌道でクラウンが攻撃を繰り出していたのだ。



 それに気づいた僕は、部屋にあったテーブルを盾にして、身を隠す。



「――攻撃が遅れてやってきているのか?」



 そのつぶやきが聞こえたのだろう。クラウンは楽し気に笑った。



「そこに気が付くとはやっぱり怖えガキだな……。普通は気づく前に死んでるんだが……」



 テーブル越しに近づいてきているのがわかる。

 僕は現状を打開するために、思考をフル回転させた。



 おそらく、彼の攻撃は自分の攻撃を遅らせることができるようだ。

 つまり、振りぬいた攻撃が数秒後にやってくるというもの。だからこそ、誰もいない場所から斬撃が飛んできたり、避けた攻撃が再びやってくる。

 完璧に防ぐには、目に見える攻撃だけではなく、全ての攻撃を記憶していつ来るか想定する必要があるということだ。

 高速で動いている最中に、それは不可能。



 冒険者として魔物とは戦ってきたが、対人相手、スキル相手の戦いの経験値が圧倒的に少ないせいなのだろう。

 やはり足りない。

 だが、わかったこともある。



 ドロフェイに調べてもらった限り、クラウンは凄腕の暗殺者らしい。

 であるならば、戦闘能力も一級品なのだろう。

 しかし、僕は気づいてしまった。

 いや、ようやくわかってしまった。



 孤児だった僕が。

 何もできなかった僕がこんなことを言うのはおこがましいかもしれない。

 けれど、きっと事実だ。

 僕は――この男よりも強い。

 それだけじゃない。クラウンが凄腕ならば、凄腕と名の付く人達相手でも僕はきっと劣らないのかもしれない。

 たりないのは一つだけ。

 それさえそろえば、僕はこの男に勝てる。



 ――この人は、僕が大事なものを奪おうとしている。だからいいんだ。



 思考を切り替える。

 話し合いは通じない。

 相手は、オリアーナだけじゃない。僕自身へも危害を加えようとしているんだ。



 だから仕方ない。

 そう、仕方ない。

 僕はおもむろに、盾にしていたテーブルから出る。

 すると、クラウンは楽し気に口角をあげた。



「お? ようやくあきらめたかぁ? だがな、もう碌な死に方させねぇぜ」

「残念だよ。僕は、あなたのその力はとても素晴らしいものだって思ってるんだけど」

「あぁ? なんだそれ?」

「もっと別の出会い方をしたかった。それならきっと……僕はあなたを手に入れようとしたかもしれない」

「だから、一体何の――」



 ごとり。



 僕は、何かを言いかけているクラウンの横を通り過ぎる。

 その時に、そっと肩に剣を這わせると、彼の腕は床に落ちた。当然、彼は反応できない。それだけの速度で動いたのだから。

 痛みを知覚する前に剣を切り返し、同じ側の足を横なぎにする。  



「なん――――」



 攻撃が遅れてくるなら、その攻撃が来る前に対処すればいい。

 相手を傷つけることをいとわないなら、そう難しいことでもなかった。

 足りなかったのは覚悟。

 それさえあれば、僕は戦える。



 ただ僕は、こんなにも素晴らしい力をもった彼を失うのがとても心苦しかった。



 そう思いながら、崩れ落ちていくクラウンの目を見る。

 まだ何が起こったのか理解していない彼の視線。



 僕は、せめて苦しまないで欲しいと、彼の視界を真っ二つに切り裂きすべてを終わらせた。



「ご主人様」



 気づくと、レイカが隣にいる。

 顔を上げると、僕とレイカを取り囲んでいる男達がいた。

 ドメーノが出した大きな音で集まってきたのだろう。



「ふふっ! クラウンが打ち取られたことは驚くべきことですが、この人数相手では手もでないでしょう!! おとなしく捕まりなさい! あなたは利用価値がありそうだ」

「あなたがオリアーナを苦しめていた張本人だ。その言葉をそのままお返ししましょう」

「おや……どうやら、まだ立場が理解できていないようだ。…………お前ら、やれ」



 ドメーノがそういうと、男達は僕らを取り囲み逃げ場を封じる。

 やるか。

 そう思った矢先、レイカが焦った様子で耳打ちをしてくる。



「ご主人様。本の世界に何かがあったようです」

「なんだって?」



 僕は、周囲の男達を警戒しながらも、すぐさまレイカに問い返す。



「私は本の世界の主ですからわかるのです。急ぎ、対応が必要かと」



 普段冷静なレイカの目は、焦りの色に染まっていた。
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