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カルテNo.4 百数十歳、女性。魔族、紫髪。強制入院。先生の言うことは聞きなさい。
②
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勇者であるのに、勇者でしかないのに。
自らの存在価値は、勇者であり、その卓越した力であり、魔王を打ち倒すという役割であるのに。
こうして魔王にいいようになぶられ、侮辱され、そして殺される。
なら、自分の価値はなんだったのだというのか。自分は、ただ屈辱の中に潰えて、そして死んでいくだけの存在なのか。
なんて神は無情なのだろう。誰かのためと、死にもの狂いで戦ってきた自分の末路がこんな形だとは。
その事実に、サラは思わず涙する。戦場に落ちた涙は、炎の熱気ですぐに蒸発していった。
それでも、勇者として。一つだけやらなければならないことがある。
このまま朽ちていく運命だとしても、一つだけ。
「……魔王よ」
絞り出すように声を発したサラに、魔王が見下すような視線をむける。
「なんだ、虫けらよ」
「私の命はいい。このまま殺されても構わない……だが、奈緒殿はっ、奈緒殿だけは助けてはくれないか? 恩人のっ……悠馬殿の大事な人なのだ。一度は私を助けてくれた恩人のっ……。頼むっ、頼む!」
そう、サラは助けられた。
悠馬という医者に、治癒魔法師に、いずれは解けるだろう封印の問題から自身を解き放ってくれたのだ。
自らの詰めの甘さでこうした事態に陥ってしまったが、あの男は助けてくれた。だから、奈緒のことはどうしても助けたかった。
――最後は、ひどいことを言ってしまったな。
そんな罪悪感を少しでも拭いたかったのかもしれない。あれだけ憎かった魔王に、懇願する日がくるとは思ってもみなかった。
サラは少しの希望を込めて、踏みつけられながらも魔王に視線を向けた。もしかしたら。もしかしたら、最後である自分の願いを聞き入れてもらえるかもしれないと、そんなことを思いながら。
「わかった」
「――っ!?」
「助けてやろう。お前を殺し、そして、あの女も殺してやろう。こんなつまらない世界に生きるという罰から救ってやろう。魂の解放という名の救いを与えてやろう」
そういって口角を上げた魔王は、醜くい笑顔を浮かべていた。
「き、きさまーーっ!!」
「ははっ、はは! あはははははは!」
激昂するサラを踏み台に、魔王は空高く舞い上がった。
宙に浮かぶ魔王の手元には、先ほどの数倍の大きさの魔力塊が浮かんでいる。サラでは決して抗えない。そんな、暴力がサラに向かって振り下ろされていた。
サラは起き上がろうと腕に力を入れる。しかし、それは叶わず、うつ伏せだった身体を仰向けにするのが精いっぱいだ。
目の前に迫る黒い光。確実に歩み寄ってくる絶望に心を焦がせ、そして歯を食いしばる。
悔しさや無念。それを胸に抱いて、空に浮かぶ魔王に憎しみを抱きながら、こらえきれない涙をその頬に垂らしながら――。
サラは黒い光に飲み込まれる。
視界が、黒く染まる。
自らの存在価値は、勇者であり、その卓越した力であり、魔王を打ち倒すという役割であるのに。
こうして魔王にいいようになぶられ、侮辱され、そして殺される。
なら、自分の価値はなんだったのだというのか。自分は、ただ屈辱の中に潰えて、そして死んでいくだけの存在なのか。
なんて神は無情なのだろう。誰かのためと、死にもの狂いで戦ってきた自分の末路がこんな形だとは。
その事実に、サラは思わず涙する。戦場に落ちた涙は、炎の熱気ですぐに蒸発していった。
それでも、勇者として。一つだけやらなければならないことがある。
このまま朽ちていく運命だとしても、一つだけ。
「……魔王よ」
絞り出すように声を発したサラに、魔王が見下すような視線をむける。
「なんだ、虫けらよ」
「私の命はいい。このまま殺されても構わない……だが、奈緒殿はっ、奈緒殿だけは助けてはくれないか? 恩人のっ……悠馬殿の大事な人なのだ。一度は私を助けてくれた恩人のっ……。頼むっ、頼む!」
そう、サラは助けられた。
悠馬という医者に、治癒魔法師に、いずれは解けるだろう封印の問題から自身を解き放ってくれたのだ。
自らの詰めの甘さでこうした事態に陥ってしまったが、あの男は助けてくれた。だから、奈緒のことはどうしても助けたかった。
――最後は、ひどいことを言ってしまったな。
そんな罪悪感を少しでも拭いたかったのかもしれない。あれだけ憎かった魔王に、懇願する日がくるとは思ってもみなかった。
サラは少しの希望を込めて、踏みつけられながらも魔王に視線を向けた。もしかしたら。もしかしたら、最後である自分の願いを聞き入れてもらえるかもしれないと、そんなことを思いながら。
「わかった」
「――っ!?」
「助けてやろう。お前を殺し、そして、あの女も殺してやろう。こんなつまらない世界に生きるという罰から救ってやろう。魂の解放という名の救いを与えてやろう」
そういって口角を上げた魔王は、醜くい笑顔を浮かべていた。
「き、きさまーーっ!!」
「ははっ、はは! あはははははは!」
激昂するサラを踏み台に、魔王は空高く舞い上がった。
宙に浮かぶ魔王の手元には、先ほどの数倍の大きさの魔力塊が浮かんでいる。サラでは決して抗えない。そんな、暴力がサラに向かって振り下ろされていた。
サラは起き上がろうと腕に力を入れる。しかし、それは叶わず、うつ伏せだった身体を仰向けにするのが精いっぱいだ。
目の前に迫る黒い光。確実に歩み寄ってくる絶望に心を焦がせ、そして歯を食いしばる。
悔しさや無念。それを胸に抱いて、空に浮かぶ魔王に憎しみを抱きながら、こらえきれない涙をその頬に垂らしながら――。
サラは黒い光に飲み込まれる。
視界が、黒く染まる。
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