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カルテNo.4 百数十歳、女性。魔族、紫髪。強制入院。先生の言うことは聞きなさい。
①
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至る所に立ち上る白煙。燃え盛る炎。
崩れ落ちたコンクリートからは、鉄骨がむき出しになっている。ひしゃげたそれは、受けた衝撃の激しさを物語っていた。鼻腔をくすぐる焦げ臭さが胸をざわつかせる。
ここは病院からほど近い、日本一の高さを誇る電波塔がある街だった。それを背景に赤く染まった景色は、これでもかと熱を帯びている。
だが、その電波塔の高さはもう過去の話。何年もたてて建てられたテレビ塔は崩れ落ちていた。ぽきりと折れた先端が、周囲の街並みを踏みつぶしていた。
泣き叫ぶ人々の声。響き渡る怒号。戦乱の最中のような目の前に広がっていた。
そんな中、サラは白く光る両手剣を構えながら、目を皿のようにして周囲を警戒していた。
その姿は、満身創痍。身体の至る所に裂傷と打撲。外からはわからないが、身体の張れ具合から、どこかの骨はひびなり折れていたりするのかもしれない。
それでも膝を折らず、剣を構え、鋭い眼差しを絶やさないこの少女は、やはり勇者なのだろう。
魔王を追ってきてみれば、そこでは無残な破壊活動が行われていた。それを止めるべく全力を出してきたが、サラの体力は底を尽きかけている。最低限の治癒魔法を自身にかけつつ、それ以外の魔力はすべてを剣に乗せていた。一振り一振りにすべてをかけた。その一振りは容易に大岩を切り裂くほどの威力をもっていたが、魔王はあざけるようにそれを避ける。もちろん何度か直撃はするのだが、大岩のようにはいかない。
魔王と自分との差を感じつつ、サラはそれでも止まることはなかった。
『ほら。この女を助けたければせいぜい必死になるんだな』
そんな月並みな台詞を聞いて、魔王の作った亜空間に放り込まれた奈緒を見たサラ。
剣を降ろすわけにはいかなかったのだ。
周囲を警戒していたサラの右手の方で、唐突に爆発音が響いた。咄嗟に視線を向けるサラだったが、からかうような声色がサラの耳元で囁く。
「よそ見をするでない」
「な――っ」
反射で声がしたほうに剣を振るうも、宙を切る。
振り返ったサラの前には魔王が佇んでおり、その手のひらに黒く光る球体を携えていた。
「もう限界か?」
魔王の手から放たれた黒い魔力。
凄まじいスピードで打ち込まれた魔力を必死に剣腹で受けながらサラは吹き飛んだ。瓦礫をかき混ぜながらサラは落ち、そしてすぐさま体制を整える。
――が、サラの背中に強い衝撃。
魔王が、サラを踏みつけていた。
「ぐっ、がぁ……」
口から血を吐き出しながら、サラは腹這いになる。背中は魔王に足蹴にされており、食い込むつま先がサラを苦しめていた。
「勇者よ……。つまらないなぁ。この世界はこんなにも物珍しいというのに、なぜ我の心は踊らないのか」
そう言いながら、ぐりぐりとサラの背中に足を食い込ませていく。それとともに漏れ出るのはサラの喘ぎ声だ。どんどんと顔は苦痛で歪んでいく。
「現世界……そういうのであったな、こちらの世界は。異世界でも現世界でも、我は孤独だ。誰もが我にかなうことはない。この空虚な心は誰が埋めてくれる? 我はお前だとおもっていたのだがな、サラ・アルストラ。封印されたときは肝を冷やしたが……詰めが甘い。お前も、あの男も、我を楽しませるには足りない、足りない。この、イルマ・クリスタスを満たすものは現れぬものか! なぁ、神よ! 答えてみよ!」
魔王――イルマ・クリスタスはそう言って高笑いを上げた。
足元では、サラは屈辱に身を染めていた。
崩れ落ちたコンクリートからは、鉄骨がむき出しになっている。ひしゃげたそれは、受けた衝撃の激しさを物語っていた。鼻腔をくすぐる焦げ臭さが胸をざわつかせる。
ここは病院からほど近い、日本一の高さを誇る電波塔がある街だった。それを背景に赤く染まった景色は、これでもかと熱を帯びている。
だが、その電波塔の高さはもう過去の話。何年もたてて建てられたテレビ塔は崩れ落ちていた。ぽきりと折れた先端が、周囲の街並みを踏みつぶしていた。
泣き叫ぶ人々の声。響き渡る怒号。戦乱の最中のような目の前に広がっていた。
そんな中、サラは白く光る両手剣を構えながら、目を皿のようにして周囲を警戒していた。
その姿は、満身創痍。身体の至る所に裂傷と打撲。外からはわからないが、身体の張れ具合から、どこかの骨はひびなり折れていたりするのかもしれない。
それでも膝を折らず、剣を構え、鋭い眼差しを絶やさないこの少女は、やはり勇者なのだろう。
魔王を追ってきてみれば、そこでは無残な破壊活動が行われていた。それを止めるべく全力を出してきたが、サラの体力は底を尽きかけている。最低限の治癒魔法を自身にかけつつ、それ以外の魔力はすべてを剣に乗せていた。一振り一振りにすべてをかけた。その一振りは容易に大岩を切り裂くほどの威力をもっていたが、魔王はあざけるようにそれを避ける。もちろん何度か直撃はするのだが、大岩のようにはいかない。
魔王と自分との差を感じつつ、サラはそれでも止まることはなかった。
『ほら。この女を助けたければせいぜい必死になるんだな』
そんな月並みな台詞を聞いて、魔王の作った亜空間に放り込まれた奈緒を見たサラ。
剣を降ろすわけにはいかなかったのだ。
周囲を警戒していたサラの右手の方で、唐突に爆発音が響いた。咄嗟に視線を向けるサラだったが、からかうような声色がサラの耳元で囁く。
「よそ見をするでない」
「な――っ」
反射で声がしたほうに剣を振るうも、宙を切る。
振り返ったサラの前には魔王が佇んでおり、その手のひらに黒く光る球体を携えていた。
「もう限界か?」
魔王の手から放たれた黒い魔力。
凄まじいスピードで打ち込まれた魔力を必死に剣腹で受けながらサラは吹き飛んだ。瓦礫をかき混ぜながらサラは落ち、そしてすぐさま体制を整える。
――が、サラの背中に強い衝撃。
魔王が、サラを踏みつけていた。
「ぐっ、がぁ……」
口から血を吐き出しながら、サラは腹這いになる。背中は魔王に足蹴にされており、食い込むつま先がサラを苦しめていた。
「勇者よ……。つまらないなぁ。この世界はこんなにも物珍しいというのに、なぜ我の心は踊らないのか」
そう言いながら、ぐりぐりとサラの背中に足を食い込ませていく。それとともに漏れ出るのはサラの喘ぎ声だ。どんどんと顔は苦痛で歪んでいく。
「現世界……そういうのであったな、こちらの世界は。異世界でも現世界でも、我は孤独だ。誰もが我にかなうことはない。この空虚な心は誰が埋めてくれる? 我はお前だとおもっていたのだがな、サラ・アルストラ。封印されたときは肝を冷やしたが……詰めが甘い。お前も、あの男も、我を楽しませるには足りない、足りない。この、イルマ・クリスタスを満たすものは現れぬものか! なぁ、神よ! 答えてみよ!」
魔王――イルマ・クリスタスはそう言って高笑いを上げた。
足元では、サラは屈辱に身を染めていた。
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