異世界に来たら住人が一人しかいなかった

文字の大きさ
6 / 6

6

しおりを挟む
 ご閲覧くださった方、お気に入り・しおりの登録して下さっている方、ありがとうございます。
 更新遅れてすみません。今後も時間がまちまちの更新になるかと思います。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 
 ぱちゃん、と水の跳ねる音がする。

 ひんやりした感触が心地よくて、子どものようにパチャパチャと足をバタつかせた。

 小さな池――もしかしたら大きい水たまりのほうが適切な表現かもしれない――の水際に置かれたベンチに座って、僕は水に足をつけていた。

 ゆるい風が木の葉を揺らす音。自分が立てる水音。木漏れ日の優しい光が降り注ぐ、実に目に優しい景色である。
 先日、森を縦断か横断する形で道を作った後、さらに脇道を通して森の中に作った安らぎスポットのひとつだ。

」なのは察して欲しい。歩いて30分で一周できる空間で、空だけとんでもなく高いってことないよね。そこに見せかけだけでも太陽があるとか良く考えたら怖い。あれだけのやりとりでハロルドさんが太陽制作に乗り気になるとは思わなかったんだよ。

 まぁ、いつものように慌てる僕を楽しんでいた気配が無きにしも非ず、だったけど。

 そんなこんなで景色を整えたりしつつ、ここに来てから5日。

 元の世界に帰る手段がないことに動揺したり、ハロルドさんの優しさに感動したり、改めて気付いたこの空間の実情に切なくなったり。最初の3日くらいは、今までにないくらいの環境変化に遭ったことで気持ちが忙しかったんだけど、それにも落ち着いてしまえば、ここでの生活の単調さに今度は考え込むことが多くなった。

 森の中に散歩コースが出来たことで、ハロルドさんから少し離れて、一人で考えを巡らせる時間を作れるようになって。

 ここにはいつまでいるのか。
 ハロルドさんはここから出たらどうするのか。
 僕はここから出たらどうなるのか。

 気軽に聞いてもいいことばかりだとは思う。それを思いとどまらせていたのは、この空間を作った事情をハロルドさんが教えてくれていないということに尽きた。

 今分かっているのは、この空間はいつか消えるのだということ。特殊な魔法で、特殊な条件の元で作られたから、魔力が尽きたら消えると言っていた。

 ハロルドさんから、外の世界の話はまだほとんど聞けていない。外の時間の流れは地球と変わりないらしいから、おそらく環境もほとんど一緒なのだと思う。季節の存在自体はハロルドさんも知っていたし。

 ここで使う魔法も、ここが特別だから万能なだけで、外では何もかもを魔法でまかなうようなことはしていないのだと予想はできる。

 そして、僕はここでは魔法を使えない。外に出れば使える可能性はある、と。

「あー、ほんと、僕は何したらいいんだろう」

 何もかもハロルドさんに依存する生活がいつまでも続くのは不安がある。
 外に出て僕がやっていけるのかということと、ハロルドさんは僕をそのうち疎ましく思ったりしないだろうか、ということ。

 最初はなんのキャラのコスプレなんだろうって思ったけど、キャラじゃなくそのままだったわけで。けど僕の推し系統のキャラっぽいイケメンなんだよなぁ。大抵はヒロインでもヒーローでもなく脇役推しだったので。こう、お兄さんキャラというか、先生キャラと言うか、さらっといいトコを持っていくお助けキャラのような、クライマックスで主要キャラをかばって消えていくようなキャラと言うか。後々重要な役どころだと判明するキャラ、みたいな。

 だから今思えば、正直第一印象からして良かったんだと思う。だって例えば、あの時現れたのが強面の大男だったり、逆にめちゃくちゃ美人なお姉さんでも、後先考えずに逃げたと思う。森の中にいるのが怪しすぎて。

 だからあの時ハロルドさんに普通に話しかけられたのは、そもそもがハロルドさんのおかげだったと思うんだよね。

 で、そんな人と、ほぼ密室のような空間で二人きり。生活の全てはハロルドさんのおかげで成り立っている。……どういう感情でこの先付き合っていくべきなんだろう。

 頼りにできる大人がいたら、じゃれあえる友達がいたらこうだったんだって、思ってしまう。それ以上に、僕の事を必要だと思っていてほしい。

 ハロルドさんを一人にしたくないと思うのは、自分が「ぼっち」だったから、だろうか。それとも、僕が久しぶりの気安い関係に溺れかけているからだろうか。

 友達付き合いも上手くできなかった。両親はあまり家にいなかった。今までそれが寂しいとも思わなかったし、自分の世界を大事に出来て、それを咎められないのが良いとさえ思ってたんだよ。

 なのに、初対面のハロルドさんに甘やかされて、変なことを言っても冗談を言っても、笑って受け止めてくれる。

 寂しいって気持ちは、形を変えて納得させても消えてはいなかったんだって、気付いてしまう。

 あの時森を見ていて思ったこと。景色がどうとかじゃなくて、それを見てる自分の気持ちがそこに映っていたのだということが、すとんと胸に落ちてきた。

 空っぽなのは、僕だった。

 それを埋めてくれるハロルドさんに、自分もそうだと思ってほしい、僕が来て喜んでいてくれたら、自分も嬉しいなんて思ったら、おこがましい?
 いくらハロルドさんが優しくても、そこまで踏み込むのは違うような気もして、なのに、ここにはお互いしかいない――。



「冬真?」

 振り向くと、ハロルドさんが立っていた。手には何かの布。

「そろそろ暗くなる。遅いから迎えに来たんだ」

「えっ、そんなに時間経った?」

 慌てて立ち上がる。ハロルドさんが手に持った布を広げて肩に掛けてくれた。どうやら厚手のカーディガンだったらしい。

 向きを変えるとまたベンチに座らせられる。
 足元がふわっと暖かくなった。魔法で乾燥させてきれいにしてくれたみたい。

「気温は一定でも、あまり水に浸かると冷える」

 かいがいしく靴まで履かせてくれるのを、黙って見ていた。

「冬真? 顔色が悪いような気がするが、大丈夫か?」
「――うん。大丈夫、ちょっとぼーっとしすぎちゃった」

 なるべくいつも通りにそう言ったつもりだったのに、僕はどういう顔をしていたんだろう。

「熱はないな、冷えてる。帰ってお茶を入れよう」

 頬を触って、おでこに手を当てて、自然に僕の手を取ったハロルドさんに促され、されるがままに手を繋いで歩き出す。

「ねぇ、ハロルドさん。年の離れた弟か妹、いる?」

「いや、いないが。突然どうした? 兄弟は上にいるだけだ」

 ハロルドさん弟妹の世話を焼きなれてる説を否定されて、僕の方がどうしたことかと聞きたかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

処理中です...