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第一章
3.サバイバル実習 その④:〝残雪〟の魔女
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ヘレナ主導で行われた作戦会議の中で、今後の方針の他に『拠点』の呼称が決められた。これは作戦行動を円滑に行うためである。
『クラス拠点』から見て、左端の外周線を1列目、右端の外周線を7列目と数え、手前を1段目、奥を7段目と数える。
つまり、左手前から左奥へ向かっては1-1、1-2、1-3……1-7という風になる。
〔図4.拠点番号〕
しかし、それだけだと三つの領地に同じ名称の『拠点』ができてしまう。そこで、更にその後ろに(1)、(2)、(3)と元々の所属を付記することにした。
さっきの例であれば、1-1(3)、1-2(3)、1-3(3)……1-7(3)。これで、私たち三組の初期領地の1列目、1段目から7段目の『拠点』を表す訳だ。
そして、残る『クラス拠点』はそのままクラス拠点、『中央拠点』もそのままCBと呼称した。
一回戦、第3セクション――10分の移動時間が始まった。
既に第1・第2セクションが終了し、その結果として三組は3個の『拠点』を喪失している。
作戦会議においてヘレナが『ポイント重視』の方針を立てたので、私たちはポイントの高い中央周辺の『拠点』を重点的に守った。結果、中央周辺の『拠点』は無傷だが、1-7(3)を一組に、6-7(3),7-7(3)を二組に奪われてしまった。
〔図5.初日一回戦 第2セクション終了時〕
第3セクションは待ちに待った私たち三組の攻撃だ。ここで『拠点』を取れなければ一回戦の収支はマイナスになってしまう。といっても、取られたのはポイントの低い端っこの『拠点』だから、首尾よくポイントの高い中央周辺の『拠点』を取れれば十分に逆転は可能だ。
移動を開始する前に私たち三組は一度集まっていた。端を守っていたクラスメイトも、負けた時点で集合地点まで戻って来ている。
「ヘレナ、どうする?」
マチルダが好戦的な表情で問いかける。その側には品の良さそうな男性型の魔族の使い魔が控えていた。
(魔族の使い魔……とことんムカつく奴だわ)
醜い嫉妬はさておき、今のマチルダの問いは第1・第2セクションでの一組と二組の出方を見て、予定していた動きに変更を加える必要はありそうか? という趣旨の問いだ。これを受け、さっきからじっと瞑目していたヘレナがカッと目を見開いた。
「――変更はなしだ。全員、急いで担当する『拠点』まで移動しろ!」
すっかり我らがリーダーとしての振る舞いを確立したヘレナに了解の意を返し、私たちは速やかに移動を開始した。私が目指すは二組の『拠点』となってしまった7-7(3)だ。
ヘレナの立案した作戦は単純明快。『ポイント重視』の方針に則り、中央周辺に戦力を集中させ、端にゆくほど少ない戦力をあてがう。そして、第1・第2セクションの間に『拠点』を取られた場合はそれを取り返しに動く。それだけだ。
序盤も序盤から変に奇を衒って迷走するよりは、直線的にぶつかっていった方が立て直しもしやすいとの判断からだった。
別にそこのところに異論はないが……私がポイント的に価値の低い西端の7-7(3)を取り返しに向かうということは、私の戦力は随分と低く見積もられているということを意味する。二組としては、せっかく取った『拠点』なのだから守りを固くしてくる可能性も高いというのに、あてがわれたのは私と二人一組を組むもう一人だけだ。
とはいえ、待遇に不満こそあれども、正直にいうと魔法の才相応の評価だとは思っていた。それはこれから巻き返していけばいいだけの話。
ただ問題は……そんな私と組まされる余り物もまた、クラスから見縊られるようなやつだということだ。
「ま、まってぇ~……リンさん、歩くの速いいぃ~!」
「……早くしなさい。もう、戦闘時間が始まっちゃうわよ」
私はしぶしぶ立ち止まって二人一組の相手――ルゥを待った。彼女は病的な細身で、大自然の道なき道に揉まれ既に死にかけだった。
「ひぃ、ひぃ~~!」
「ぽえ?」
情けのない悲鳴を上げるルゥの隣には、彼女の使い魔である木精のメリアスが付き従う。メリアスは容姿こそ童子のようだが、ふよふよと宙に浮遊しているため、さほど移動を苦にはしていなさそうだ。
因みに木精は低位魔族に分類され、〝人界〟の言葉を覚えて会話できる程には知能を有するが、メリアスは見た目通りにまだ幼いらしく〝魔界〟の言葉も覚束ない。
はあ、とため息を漏らしながら、頭痛のしてきた側頭部を抑える。何だか気が重たくなってきた。
「この調子だと、戦闘の前に移動だけで力尽きちゃいそうね」
私の方は温存のために【身体強化】もマネの補助も使ってないというのに、魔法の行使に関して何ら問題を持っていない筈のルゥがどうしてそこまで遅れるのか、不思議でならなかった。
しかも、私たちは3-7(3),5-7(3)と担当して未だ戦闘をしていない。さっきの集まりに顔を出したのも私だけで、ルゥには休ませてあげていたというのに。少し貧弱すぎやしないか。
「す、すみません! がんばりますぅ……」
「残り5分……間に合うかしら」
「ケケッ。おーい、急げ急げー。日が暮れちまうぞー」
「私に引っ付いてるだけのアンタは気楽で良いわねぇ……」
最終的には、私とメリアスの二人がかりでルゥを担いで運ぶ羽目になった。
木々を掻き分けた先に、結界を展開させる魔道具を発見する。その魔道具が青色に点灯しているので、これが目的の7-7(3)と見て間違いないだろう。
無事に辿り着けてほっと息をつくと同時、周囲に結界が張られる。
危ないところだった、本当にギリギリじゃないか。しかし、ゆっくり息を整える間もない。既に50分の戦闘時間は始まっているのだから。
「あ、あれぇ、誰もいない……?」
「ンな訳ないでしょ。ぼやぼやしてないで、アンタもちゃんと警戒しなさい」
周囲に影も形もないので私も一瞬そう勘違いしたが、それならこの『拠点』はとっくに私たち三組の手に陥ちていなければならない。その場合、すぐに結界も解ける。その情報は第1セクション終了時に共有済みだ。
つまり、少数だが二組の生徒がこの結界の中にいる。
私は即座にカラギウスの剣の魔力刃を展開させ、己のうちで魔力を練り上げ始めた。未だ状況が分かっていないらしいルゥにも、肘でつっついて警戒態勢を取らせる。
この結界、なかなか広範囲に展開されている。向こうは一度この『拠点』を攻めているだけあって、結界範囲をしっかり熟知していることだろう。不意打ちを狙ってかどこかに息を潜めて隠れているのだ。
(どこだ……どこにいる……? 隠れられる場所はそう多くない筈……)
慌ただしく木々の合間に視線を巡らす。だが、そんな私たちの精一杯の警戒をあざ笑うかのように、敵は正々堂々と木陰からその姿を現した。
夏山の景色の中にぽっかりと浮いた、残雪を思わせる不自然な『白』――それを認識した瞬間、私は全ての疑問に得心がいった。
「……道理で、せっかく取った『拠点』なのに守りの数が少ない訳ね」
その女は全てが白かった。
制服も白、ベルトもバックルも白、靴下もブーツも白。
髪も、眉も、睫毛も、肌も、全て――白。
肩に担がれた大杖にも白い包帯が巻かれ、纏う魔力の気配すら心なしか白んでいるように感じる。ただ一つの例外として、眉あたりで切り揃えられた前髪の下から覗く、ほのかに濡れた双眸だけが、血のように赤く燃えていた。
彼女こそ、ロクサーヌを抑えて二組で一番目立つ奴であり、その実力と豪放な性格で折節実習を引っ掻き回す二組のリーダー。
――〝残雪〟のグィネヴィアだ。
「三組は中央周辺を重視しているみたいだけど、端にだって一人ぐらいは寄越すと思って来ておいた! 大正解だね! 折角の『クラス拠点』への足がかりを失うわけにはいかない!」
後ろに数合わせだろう気弱そうな生徒を引き連れて、グィネヴィアは自らの作戦勝ちを高らかに宣言した。
確かに彼女ならば、並の魔女見習いが十人がかりでようやく対等。勝ち切るにはもう数人必要だ。それに彼女の戦闘スタイルは集団戦向きじゃない。一人(+数合わせ)で重要な『拠点』を受け持つのは合理的とも言える選択だ。
考えながら、知らず識らずのうちに私は少しずつ後退っていた。
恵まれた魔力量と操作技量に裏打ちされた自信。そして、その特異な容姿からくる圧倒的なまでの存在感。
有り体に言えば、私はグィネヴィアに気圧されていた。
(……しかし、見ようによってはこれは得をしたかもしれないわね……)
なんせ、彼女の相手をするのが私とルゥなのだから。これが他の三組の主力じゃなくて良かった……なんて、卑屈な考えまでよぎってしまう。
「なあ、リン……ちょっとアイツはヤバいかもしれんぜ」
「知ってるわよ。グィネヴィアは……目立つもの」
「……なあ、本当に分離して闘るつもりか?」
マネの最終確認に思わず息が詰まる。疑いようもなく私の素の身体能力だけでは逃げ回るのも難しい相手。だが、私の他に三人しかいない場とはいえ、無闇に裸を晒したくはない。乙女として……いや、一人の人間として、そこは譲れなかった。しかも、勝てそうならともかく、敗色濃厚な局面での戦いなら尚更イヤだった。
「――当たり前でしょ、何度も言わせないで! ルゥ、後ろの奴は無視して良いわ。とにかく、グィネヴィアの攻撃を避けることに集中して。じゃないと、秒で土を舐める羽目になるわよ」
私の次あたりにね。
そうして、どちらからともなく戦端は開かれ、破れかぶれ気味に突貫した数秒後……地面には、憐れにも返り討ちにされた私とルゥが仲良く転がされていた。
『クラス拠点』から見て、左端の外周線を1列目、右端の外周線を7列目と数え、手前を1段目、奥を7段目と数える。
つまり、左手前から左奥へ向かっては1-1、1-2、1-3……1-7という風になる。
〔図4.拠点番号〕
しかし、それだけだと三つの領地に同じ名称の『拠点』ができてしまう。そこで、更にその後ろに(1)、(2)、(3)と元々の所属を付記することにした。
さっきの例であれば、1-1(3)、1-2(3)、1-3(3)……1-7(3)。これで、私たち三組の初期領地の1列目、1段目から7段目の『拠点』を表す訳だ。
そして、残る『クラス拠点』はそのままクラス拠点、『中央拠点』もそのままCBと呼称した。
一回戦、第3セクション――10分の移動時間が始まった。
既に第1・第2セクションが終了し、その結果として三組は3個の『拠点』を喪失している。
作戦会議においてヘレナが『ポイント重視』の方針を立てたので、私たちはポイントの高い中央周辺の『拠点』を重点的に守った。結果、中央周辺の『拠点』は無傷だが、1-7(3)を一組に、6-7(3),7-7(3)を二組に奪われてしまった。
〔図5.初日一回戦 第2セクション終了時〕
第3セクションは待ちに待った私たち三組の攻撃だ。ここで『拠点』を取れなければ一回戦の収支はマイナスになってしまう。といっても、取られたのはポイントの低い端っこの『拠点』だから、首尾よくポイントの高い中央周辺の『拠点』を取れれば十分に逆転は可能だ。
移動を開始する前に私たち三組は一度集まっていた。端を守っていたクラスメイトも、負けた時点で集合地点まで戻って来ている。
「ヘレナ、どうする?」
マチルダが好戦的な表情で問いかける。その側には品の良さそうな男性型の魔族の使い魔が控えていた。
(魔族の使い魔……とことんムカつく奴だわ)
醜い嫉妬はさておき、今のマチルダの問いは第1・第2セクションでの一組と二組の出方を見て、予定していた動きに変更を加える必要はありそうか? という趣旨の問いだ。これを受け、さっきからじっと瞑目していたヘレナがカッと目を見開いた。
「――変更はなしだ。全員、急いで担当する『拠点』まで移動しろ!」
すっかり我らがリーダーとしての振る舞いを確立したヘレナに了解の意を返し、私たちは速やかに移動を開始した。私が目指すは二組の『拠点』となってしまった7-7(3)だ。
ヘレナの立案した作戦は単純明快。『ポイント重視』の方針に則り、中央周辺に戦力を集中させ、端にゆくほど少ない戦力をあてがう。そして、第1・第2セクションの間に『拠点』を取られた場合はそれを取り返しに動く。それだけだ。
序盤も序盤から変に奇を衒って迷走するよりは、直線的にぶつかっていった方が立て直しもしやすいとの判断からだった。
別にそこのところに異論はないが……私がポイント的に価値の低い西端の7-7(3)を取り返しに向かうということは、私の戦力は随分と低く見積もられているということを意味する。二組としては、せっかく取った『拠点』なのだから守りを固くしてくる可能性も高いというのに、あてがわれたのは私と二人一組を組むもう一人だけだ。
とはいえ、待遇に不満こそあれども、正直にいうと魔法の才相応の評価だとは思っていた。それはこれから巻き返していけばいいだけの話。
ただ問題は……そんな私と組まされる余り物もまた、クラスから見縊られるようなやつだということだ。
「ま、まってぇ~……リンさん、歩くの速いいぃ~!」
「……早くしなさい。もう、戦闘時間が始まっちゃうわよ」
私はしぶしぶ立ち止まって二人一組の相手――ルゥを待った。彼女は病的な細身で、大自然の道なき道に揉まれ既に死にかけだった。
「ひぃ、ひぃ~~!」
「ぽえ?」
情けのない悲鳴を上げるルゥの隣には、彼女の使い魔である木精のメリアスが付き従う。メリアスは容姿こそ童子のようだが、ふよふよと宙に浮遊しているため、さほど移動を苦にはしていなさそうだ。
因みに木精は低位魔族に分類され、〝人界〟の言葉を覚えて会話できる程には知能を有するが、メリアスは見た目通りにまだ幼いらしく〝魔界〟の言葉も覚束ない。
はあ、とため息を漏らしながら、頭痛のしてきた側頭部を抑える。何だか気が重たくなってきた。
「この調子だと、戦闘の前に移動だけで力尽きちゃいそうね」
私の方は温存のために【身体強化】もマネの補助も使ってないというのに、魔法の行使に関して何ら問題を持っていない筈のルゥがどうしてそこまで遅れるのか、不思議でならなかった。
しかも、私たちは3-7(3),5-7(3)と担当して未だ戦闘をしていない。さっきの集まりに顔を出したのも私だけで、ルゥには休ませてあげていたというのに。少し貧弱すぎやしないか。
「す、すみません! がんばりますぅ……」
「残り5分……間に合うかしら」
「ケケッ。おーい、急げ急げー。日が暮れちまうぞー」
「私に引っ付いてるだけのアンタは気楽で良いわねぇ……」
最終的には、私とメリアスの二人がかりでルゥを担いで運ぶ羽目になった。
木々を掻き分けた先に、結界を展開させる魔道具を発見する。その魔道具が青色に点灯しているので、これが目的の7-7(3)と見て間違いないだろう。
無事に辿り着けてほっと息をつくと同時、周囲に結界が張られる。
危ないところだった、本当にギリギリじゃないか。しかし、ゆっくり息を整える間もない。既に50分の戦闘時間は始まっているのだから。
「あ、あれぇ、誰もいない……?」
「ンな訳ないでしょ。ぼやぼやしてないで、アンタもちゃんと警戒しなさい」
周囲に影も形もないので私も一瞬そう勘違いしたが、それならこの『拠点』はとっくに私たち三組の手に陥ちていなければならない。その場合、すぐに結界も解ける。その情報は第1セクション終了時に共有済みだ。
つまり、少数だが二組の生徒がこの結界の中にいる。
私は即座にカラギウスの剣の魔力刃を展開させ、己のうちで魔力を練り上げ始めた。未だ状況が分かっていないらしいルゥにも、肘でつっついて警戒態勢を取らせる。
この結界、なかなか広範囲に展開されている。向こうは一度この『拠点』を攻めているだけあって、結界範囲をしっかり熟知していることだろう。不意打ちを狙ってかどこかに息を潜めて隠れているのだ。
(どこだ……どこにいる……? 隠れられる場所はそう多くない筈……)
慌ただしく木々の合間に視線を巡らす。だが、そんな私たちの精一杯の警戒をあざ笑うかのように、敵は正々堂々と木陰からその姿を現した。
夏山の景色の中にぽっかりと浮いた、残雪を思わせる不自然な『白』――それを認識した瞬間、私は全ての疑問に得心がいった。
「……道理で、せっかく取った『拠点』なのに守りの数が少ない訳ね」
その女は全てが白かった。
制服も白、ベルトもバックルも白、靴下もブーツも白。
髪も、眉も、睫毛も、肌も、全て――白。
肩に担がれた大杖にも白い包帯が巻かれ、纏う魔力の気配すら心なしか白んでいるように感じる。ただ一つの例外として、眉あたりで切り揃えられた前髪の下から覗く、ほのかに濡れた双眸だけが、血のように赤く燃えていた。
彼女こそ、ロクサーヌを抑えて二組で一番目立つ奴であり、その実力と豪放な性格で折節実習を引っ掻き回す二組のリーダー。
――〝残雪〟のグィネヴィアだ。
「三組は中央周辺を重視しているみたいだけど、端にだって一人ぐらいは寄越すと思って来ておいた! 大正解だね! 折角の『クラス拠点』への足がかりを失うわけにはいかない!」
後ろに数合わせだろう気弱そうな生徒を引き連れて、グィネヴィアは自らの作戦勝ちを高らかに宣言した。
確かに彼女ならば、並の魔女見習いが十人がかりでようやく対等。勝ち切るにはもう数人必要だ。それに彼女の戦闘スタイルは集団戦向きじゃない。一人(+数合わせ)で重要な『拠点』を受け持つのは合理的とも言える選択だ。
考えながら、知らず識らずのうちに私は少しずつ後退っていた。
恵まれた魔力量と操作技量に裏打ちされた自信。そして、その特異な容姿からくる圧倒的なまでの存在感。
有り体に言えば、私はグィネヴィアに気圧されていた。
(……しかし、見ようによってはこれは得をしたかもしれないわね……)
なんせ、彼女の相手をするのが私とルゥなのだから。これが他の三組の主力じゃなくて良かった……なんて、卑屈な考えまでよぎってしまう。
「なあ、リン……ちょっとアイツはヤバいかもしれんぜ」
「知ってるわよ。グィネヴィアは……目立つもの」
「……なあ、本当に分離して闘るつもりか?」
マネの最終確認に思わず息が詰まる。疑いようもなく私の素の身体能力だけでは逃げ回るのも難しい相手。だが、私の他に三人しかいない場とはいえ、無闇に裸を晒したくはない。乙女として……いや、一人の人間として、そこは譲れなかった。しかも、勝てそうならともかく、敗色濃厚な局面での戦いなら尚更イヤだった。
「――当たり前でしょ、何度も言わせないで! ルゥ、後ろの奴は無視して良いわ。とにかく、グィネヴィアの攻撃を避けることに集中して。じゃないと、秒で土を舐める羽目になるわよ」
私の次あたりにね。
そうして、どちらからともなく戦端は開かれ、破れかぶれ気味に突貫した数秒後……地面には、憐れにも返り討ちにされた私とルゥが仲良く転がされていた。
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