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第二章
1.尋常人の営み その②:古典経済学
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※このお話の前半部分は読み飛ばしていただいても全く構いません。
―――――――――――――――――――――――――――――――
客の居なくなったバイト先のフロアで、私は今日も賄いを頂いた。いつも通り、余りもので作ったとは思えないほどのクオリティの味を堪能していると、正面の席に着替えを終えた先輩店員のアヒメレクさんが自分の賄いを持って座った。
「おつかれっす、リンちゃん」
「お疲れさまです」
軽い調子で話す彼だが、これでも王都の国立大学に通う学生で、経済について学んでいるそうだ。挨拶もそこそこに彼も賄いを貪り食い始める。
私の方はちょうど賄いを食べ終わったところだったので、暇になった口で何の気なしに彼に雑談を振った。
「そういえば、もう店長には伝えましたが、夏季休暇中は丸々出れなくなってしまいました」
「あれ、そうなんすか?」
アヒメレクさんが食べる手を止めて意外そうな顔をする。私は食べ終わった賄いの食器を横に重ねながら頷いた。
「はい。もともとの里帰りは一週間半ほどを予定していたのですが、急に別の予定ができてしまって、その後ツォアルの方に行かなくてはならなくなりました。移動の時間等も考えると、夏季休暇が終わるまでは王都に戻ってこれそうになくて」
「大変っすねー、学校の事情?」
「いえ、私事です」
私は親元を離れて親戚の家に下宿し、王都の文法学校に通っている……という設定になっている。魔法学院の生徒という肩書は非常に目立つし、こんなところで必死こいて働いている奴なんて漏れなく落ちこぼれ。だから、そういう嘘を吐いた。
そこへ、バイト先で唯一私が魔女見習いの学院生だと知っている店長が、給料袋を手に奥から戻ってくる。
「リンちゃん、夏季休暇のことは了承したけど、お金は大丈夫なの? お給金が一ヶ月分出ないことになるけど……」
「大丈夫です。多少は蓄えもありますし、臨時収入もあるので」
実は、ツォアルに行く用事とは王党派の依頼なのである。その報酬として、いくらかの金銭が提示されている。金銭面で困窮する心配は今のところなかった。
それを聞いて安心したような店長から、私はアヒメレクさん共々給料袋を受け取る。
(薄い……)
不況の影響でジリジリと給料が少なくなっている。覚悟していた事とはいえ、貧乏人の身には堪える。私は何も言わず懐に収めたが、アヒメレクさんは「少ないっすねー」と正直な感想を口にした。
「ごめんなさい。売り上げも下がってるから、これ以上は……」
「分かってるっすよ。これでも、俺は経済を学ぶ身っすから」
「そうだったわね……それにしても、いい加減にどうにかならないものかしら。大学の偉い先生は、何か解決策とか教えてくれないの?」
「ふ~む、とりま、一番は戦争を止めたら良いんじゃないっすかね~」
身も蓋もない事を言う。それが出来れば苦労はしない。だが、真理だ。
「俺らの国は、アルゲニア王国に食いもんにされてるんすよ。『未回収のイリュリア』を巡る戦争によって」
我がイリュリア王国は西の隣国パルティア王国と『未回収のイリュリア』――肥沃な穀倉地帯――を巡って領土紛争を繰り広げている。一年前に休戦協定が締結されたばかりだが、未だ小規模な衝突が絶えないのが現状だ。クラウディア教官が左腕を失ったのも、パルティアの魔法士部隊との戦闘によってのこと。
「酒保商人でもなければ、商人が戦火を避けるのは当たり前っす。略奪の危険も高まるっすから。で、商人たちは当該地域を避けて別の路を選択する訳っすけど、それが南方の路――つまり、[アルゲニア王国ルート]なんすよ」
アヒメレクさんは、戦争の原因を他国アルゲニア王国にも見出しているらしい。
「しかも、俺らの国は戦費を賄うために莫大な借金をしてるんすけど、その大半はアルゲニアから借りてるんすよね。武器や物資の主な調達先もアルゲニア。全く、重商主義も甚だしいっすけど、奴らは元・宗主国の立場に驕ってこっちに反抗される事はないと高を括ってるんす」
「え、えーと、つまり……?」
「結論としては、戦争を止めたら大体全部解決するってことっすよ~」
「……しかし、アヒメレクさん。事はそう簡単にいくでしょうか」
堪らず、口を挟んでしまった。私は魔女見習いだ。他人事のようには振る舞えない、当事者なのだ。私は脳裏に浮かんだ懸念点をそのまま伝えてゆく。
「現在、イリュリア王国は関税を限界まで引き下げる事で延命していますよね」
かつては香辛料を東方へ輸出する窓口として我が国は大変栄えた。だが、それも大航海時代の到来前、そして[ネカウⅡ世の運河ルート]が開拓されるまでの話だ。
〔現在の主な交易路(一部)〕
今や我が国は西方と東方を繋ぐ窓口としての役割を失い、単なる傍路のような扱いを受けている。
一応、西方から陸路を通って入ってくる絹と、『未回収のイリュリア』から入ってくる穀物を輸出することで食いつないでいたが、それも戦争で途絶えてしまった。
そこで、イリュリア王国は関税の大幅引き下げに踏み切った。
「[ネカウⅡ世の運河ルート]を通る商船をベレニケ港に誘導し[イリュリア縦断ルート]を使ってもらうことで延命していますが、仮に『未回収のイリュリア』を巡る戦争が落ち着いたところで、果たして[パルティア-イリュリア]間の交易路が本当に再び活発化するでしょうか」
「俺はそう見てるっすよ。パルティア領内には『未回収のイリュリア』とその他の地域を分断するザジロスト山脈があるっすから」
その通りだ。アヒメレクさんの見立ては正しい。
パルティア国内の需要より海外の需要が上回っているため、そしてザジロスト山脈をその領内に取り込んでいる性質上、『未回収のイリュリア』で育てられた穀物の大部分はイリュリア王国を通って東方諸国へ輸出されていた。
だが、それも今までそうだったというだけで、これからもそうであるとは限らない。
「パルティアの対イリュリア感情は過去最悪です。なにせ、十年前に此度の戦端を開いたのは、功に逸って暴走した諸侯派貴族将校の奇襲攻撃ですからね」
そこの処罰・粛清は済んでいるとはいえ、パルティア側の反応を見るにその対応で満足しているとは思えない。
「感情的にイリュリア行の関税を引き上げ、依然として商人たちが[アルゲニア王国ルート]を通るように誘導する可能性だってあります。諸侯がまだ強い力を持つイリュリアと違って、パルティア王国は中央集権的な国ですから地方の反発もある程度は度外視で動けます。また、今は[イリュリア縦断ルート]への商船の誘導を許しているアルゲニア王国だって、状況が変われば[ネカウⅡ世の運河ルート]の関税を引き下げてくる可能性もあります」
現状は、アルゲニア王国のかけるネカウⅡ世の運河の通行料がぎりぎりに採算の取れる法外すれすれの値であり、それを嫌う商人が時間的ロスを受け入れ、[イリュリア縦断ルート]を選択してくれているからこそ辛うじて成り立っている。謂わば首の皮一枚で繋がっているような状態だ。
もし、アルゲニア側が関税の引き下げでもしようものなら、即座に我が国の経済は崩壊しかねない。しかも、その下げ幅は雀の涙ほどで事足りるだろう。
しかし、アヒメレクさんは私の懸念に否定的な見解を示す。
「……どうすかね、パルティアの国内事情に関しては疎い俺っすけど、和解の仕方次第な気もするっすよ。アルゲニアにしても、そう簡単に関税の引き下げはできないんじゃないっすかね」
「それは……何故です?」
「アルゲニアも一枚岩じゃないっす。ネカウⅡ世の運河の収益は、そっくりそのままアルゲニア本国が受け取る訳じゃなく、管理維持費の名目でケメト総督府と山分けしてるっすから、既得権が反発すること必至っすよ」
なるほど……確かに。翻って、我がイリュリア王国が大幅な関税引き下げに踏み切ることができたのは、此度の戦争が諸侯派の貴族将校に端を発するものだった事が大きい。その責を問う形で、王党派が諸侯派をやり込めたのだ。
加えて、イリュリア王国が生存の為に手段を選べなかったのに対し、アルゲニア王国は現在存亡の危機とまでは追い込まれていない。既得権の反発を食らうような、無理な関税の引き下げは出来ないだろう。だからこそ、私は『状況が変われば』と言ったのだが。
ネカウⅡ世の運河はほんの二十年前に作られた人工運河だ。それ以前からケメト一帯を支配していたアルゲニアは、もともとあったネカウⅡ世の運河を拡張する国家プロジェクトを立案した。
ネカウⅡ世の運河会社を設立してそこへ多額の投資をし、動かせる魔法使いも総動員し、国家の威信を賭けたとそのプロジェクトは見事成功に終わった。
だが、その過程で沢山の借りを作ってしまった。その借りはネカウⅡ世の運河の利権に食い込み、未だシコリのように残っている。
「……流石は大学で経済を学んでいるだけありますね、アヒメレクさん」
私は、取り敢えず思い付く限り全ての懸念が尽く論破されたので、そろそろ降参する事にした。
「リ、リンちゃんも凄かったわ。ちゃんと勉強してるのね……」
「ですが――」
話に付いて行けずにいた店長がフォローを入れてくれる。だが、まだ話は終わっていない。今までのは半ば八つ当たりのようなもの。むしろ、ここからが本題だ。
「やはりもっとも重大な懸念は、戦争は止められそうにないという事です」
「っかあ~、それな!」
戦争を止める。さっきも言ったように、それが出来れば苦労はしない。
(この国には、それが出来ない理由がある……)
アヒメレクさんも、そこのところは重々承知の様子だった。一人、やっぱり話に付いて行けずにいる店長が私たちを交互に見て尋ねる。
「え、えと……どういう、こと?」
「今のはただの理想って事っす。うちの王様と王党派――の大体半分ぐらい――は厭戦論を支持してるみたいっすけど、問題は残り半分の王党派と諸侯派っすね。この状況下においてもまだ主戦論が根強いっす」
その理由は、店長には言わない方が良いだろう。今以上に貴族たちに幻滅するだけだろうから。
厭戦論者は憂国の情と派閥的対立からなり、もう一方の主戦論者は軍事的名誉と領土的野心からなる。もう少し詳しく説明すると、功績を打ち立てたい王党派・諸侯派双方の軍官と『未回収のイリュリア』に直接領土を面する諸侯派が主戦論を支持している。
「じゃあ、結局は私たちに打つ手はなしってことなの……?」
「いいえ。店長、俺はさっき『一番は戦争を止めること』っつったんすよ。だから、二番もあるっす。貴族たちじゃなく俺たち平民が打てる方策が……といっても、これまた別の理由で実現困難ではあるっすけど……」
そう前置きし、アヒメレクさんは「とにかく」と続けた。
「二番は失業者をどうにかすることっす。港湾での仕事量が減り、職に溢れた失業者たちをどうにか。実は、失業者の存在は二重に損なんすよ。一つは失業者自身の労働力が機能していない事による損、もう一つは失業者に対して否応なく使われる税金の損。放っておいても治安が悪化するだけっすから、そうなると治安維持組織を拡大しなきゃいけないっすよね? だから、行政としては嫌々ながらも失業者を支援するしかないって寸法っす。或いは、公共事業とかで雇用創出したりして」
失業者に対する福祉制度として、この国では救貧法が定められている。教区ごとに設置された救貧院にて労働の出来ない失業者を養い、労働の出来る失業者に強制労働を科す。孤児院と同じく国教会の管轄で、失業者に子供がいる場合は近くの孤児院へ一時預けられる。
しかし、その実態は健全に機能しているとは言い難く、あまりに苛烈な強制労働を科せられる上、救貧税という税金で運営されている事から入居者に向けられる世間の風当たりも強く、進んで入りたがる者は極少数に留まり、結果として浮浪者が街中に溢れ返る事になった。
また問題は他にもあり、強制労働の利潤だけでは運営費(救貧税)をペイできず、莫大な税金が補助金の名目で投入されている。だが、投じた額に比して悪名高き救貧院の状況は一向に改善しない。はてさて、その補助金は何処へ消えているのやら。
「あの、失業者が居ると駄目ってのは分かったわ。だけど、支援も公共事業も結局は貴族様の意向次第。私たち平民から出来ることなんてないんじゃないかしら……」
「いえ、賃金を下げれば良いんす」
「えっ!?」
アヒメレクさんの答えに、店長は眼を丸くする。
「失業者は、現在雇用されている労働者よりも低い賃金を提示することで就職が可能なんすよ」
理論上はそうだ。供給はそれ自身の需要を創造する――『販路の法則』だ。現行の経済学の根底に流れる考え方だが、それをいきなり言ったところで素人の店長は混乱するだけだ。説明が下手なアヒメレクさんに代わって、私が店長に噛み砕いて説明する。
「店長。もし、商人が自分の店で扱う商品が売れなかった時、どうしますか? その商品は農作物でも工芸品でもなんでも良いです」
「え? 商品を店先に置いといても売れないんだったら……値下げして売る?」
「はい。それが市場機能です」
現に、この店も他の格安店に対抗して出来得る限りのコストカットや値下げを行っている。それが、労働市場に対しても適用されるのだ。
「今のイリュリアには失業者が沢山いる……言い換えると、これは労働者が売れ残っているということです。つまり、失業者は自らの労働力の値段=賃金を下げることで、いつかは職を見つけられるんです」
「そういうことっす。国有企業とかはいち早く下げ始めてるっすよ」
すると、店長は「あっ」と得心が行ったというように手をポンと叩いた。
「私も二人にお給料を下げて渡したわね、そういうこと?」
「まあ、そうっす。なんやかんや、上手いこと『見えざる手』が執り成してくれるんすよ」
「やった、じゃあ解決するのね! ……でも、さっき『別の理由で実現困難』って言ってなかった?」
「……っくぅ~!」
アヒメレクさんは、痛いところを突かれたという顔をしながら、ピシッと指を二本立てた。
「理由は二つあるっす。一つは労働者の抵抗。不況によって全体的な物価が下がってる今、賃金の額面である『名目賃金』が減少しても、その実質的な価値である『実質賃金』は減ってないんすけど、労働者は賃金の値下げが行われるとどうしても感情的に反発しちゃうんすよね」
そう、賃金価格の下落に反発する労働者は多い。しかし、それは経済に対する無理解によるものだと経済学者たちは言う。『名目賃金』は減るが、『実質賃金』は減らない。それも、市場機能による商品価格の自由な伸縮が行われるためだ。
「でも、私はその気持ちも分かるわ。誰だって、お給料が減ったら嫌だもの」
「それはそうっすけど……ま、気持ちの話は置いといて、もう一つの問題は物理的な供給不足っす。このデフレ社会の中で、一つだけ値上がりしてるものがあるっすよね」
「値上がり……あっ、麦ね!」
「そうっす」
イリュリア王国は、国内で消費する穀物の大半を『未回収のイリュリア』からの輸入に依存していた。しかし、それも戦争で途絶えている。
単にパルティアからの輸入が途絶えただけなら、他国から輸入すれば簡単に解決したが、運悪く寒波による世界的な不作も重なってしまった。
元から肥沃な『未回収のイリュリア』と違って、イリュリアには貧しい土壌が多い上に水資源にも乏しく、健康な作物を育てるには土地管理官(魔法使いの役職の一つ。一般魔法士官)による細やかな魔法的補助が不可欠。その為、そのコストに見合った高価格で捌ける商品作物をプランテーション栽培しており食料自給率が低かった。
「絶対数が少ないことに加え、平民を顧みない貴族や商人たちの買い占めも重なって、穀物の値上がりは天井知らずっす。そこに戦費を賄う為の増税と、賃金の減少が重なるとなると……」
王国政府は穀物価格に上限を設けるなどの対策を打ったが、それも買い占めを助長するだけに終わり、国民全員に行き渡っているとは言い難かった。
「……ままならないわね……」
「……これ以上戦争を続けたら、いつか国民皆死んじゃうっすよ」
場に重苦しい沈黙が流れた。
どうしたら良いかなんて、きっと誰にも分からない。もちろん、戦争を止めたら良いのは当たり前だが、それをどうしたら実現できるのかが分からない。
所詮、私たちに現状を変える力なんて……。
(……いや、私は違う)
彼らと違って〝力〟なら持っている。『星団』に入るのはゴールでもあり、またスタートでもあるのだ。私は、皆のためにも頑張らなくてはならない。
(でも、どうやって……?)
どうしたら、この流れを変えられる?
アヒメレクさんとの対話で魔女としての自覚を新たにした私だったが、すぐさま現実にどうしたらいいかという問題に直面した。こればかりは、心の持ちようでどうにかなるものでもない。
そもそも、我がイリュリア王国が抱える問題は外部だけではなく、内部にも民宗派を始めとするゴタゴタがある。まさに、内憂外患こもごも至るといった感じで、それらを一挙に片付ける快刀乱麻の解決策なんてのはすぐには思いつきそうになかった。
その代わりとして浮かんできたのは、思いも寄らぬヘレナの存在だった。
ヘレナは私を勧誘した時、こう言っていた。「共に『革命』を起こそう」――と。その『革命』とやらが、この凝り固まった現状を解きほぐせるというのなら、私はきっと協力を惜しまないだろう。この国のため、国民のために、いけ好かないヘレナの手足となって手伝ってやることもやぶさかでない。それぐらいの良心、愛国心はあるつもりだ。もちろん、見返りとして私の夢への協力は求めるが。
しかし、それは『革命』が本当に正しいと確信できた時の話。あまりに貴族的なものであったり、害悪でしかないトンデモ思想を撒き散らすようなら、逆に潰してやる。
(けど、この前の時は顔合わせだけで、説明らしい説明はなかったのよね……)
今の今まで『革命』のことは忘れていたが、思い出すと段々と気になってくる。やはり、私も魔女の端くれ、この国の行く末には多少なりとも関心があった。
だが、私が『革命』について知りたがっていると分かれば、ヘレナはそれを餌に何を要求してくるか……。
(……良し、ヘレナにバレないようにどっからか聞き出してやろう)
目先の指針が定まったところで、私は学院に帰ることにした。思わぬ議論で時間を食ってしまったので、そろそろ帰って就寝しないと明日に響く。政治や経済に対する大層な懸念を語る前に、まずは卑近なところから居住まいを正さなくては。
「私はお先に失礼します。お疲れ様でした」
「おつかれっすー」「お疲れ様」
笑顔で送り出してくれた彼らに手を振り、荷物を持って店を出た。
(そうだ、聞き出すならアイツが良い)
ヘレナ以外の王党派中核メンバーかつ、『革命』についてポロッと教えてくれそうなほどに口の軽そうな奴……まだ一度の顔合わせをしただけだが、そんな男に私は心当たりが合った。
その男の名は――ベネディクト。
王党派中堅貴族の次男坊で、ディルクルム魔法学院に通う一つ年上の中等部三年生だ。
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客の居なくなったバイト先のフロアで、私は今日も賄いを頂いた。いつも通り、余りもので作ったとは思えないほどのクオリティの味を堪能していると、正面の席に着替えを終えた先輩店員のアヒメレクさんが自分の賄いを持って座った。
「おつかれっす、リンちゃん」
「お疲れさまです」
軽い調子で話す彼だが、これでも王都の国立大学に通う学生で、経済について学んでいるそうだ。挨拶もそこそこに彼も賄いを貪り食い始める。
私の方はちょうど賄いを食べ終わったところだったので、暇になった口で何の気なしに彼に雑談を振った。
「そういえば、もう店長には伝えましたが、夏季休暇中は丸々出れなくなってしまいました」
「あれ、そうなんすか?」
アヒメレクさんが食べる手を止めて意外そうな顔をする。私は食べ終わった賄いの食器を横に重ねながら頷いた。
「はい。もともとの里帰りは一週間半ほどを予定していたのですが、急に別の予定ができてしまって、その後ツォアルの方に行かなくてはならなくなりました。移動の時間等も考えると、夏季休暇が終わるまでは王都に戻ってこれそうになくて」
「大変っすねー、学校の事情?」
「いえ、私事です」
私は親元を離れて親戚の家に下宿し、王都の文法学校に通っている……という設定になっている。魔法学院の生徒という肩書は非常に目立つし、こんなところで必死こいて働いている奴なんて漏れなく落ちこぼれ。だから、そういう嘘を吐いた。
そこへ、バイト先で唯一私が魔女見習いの学院生だと知っている店長が、給料袋を手に奥から戻ってくる。
「リンちゃん、夏季休暇のことは了承したけど、お金は大丈夫なの? お給金が一ヶ月分出ないことになるけど……」
「大丈夫です。多少は蓄えもありますし、臨時収入もあるので」
実は、ツォアルに行く用事とは王党派の依頼なのである。その報酬として、いくらかの金銭が提示されている。金銭面で困窮する心配は今のところなかった。
それを聞いて安心したような店長から、私はアヒメレクさん共々給料袋を受け取る。
(薄い……)
不況の影響でジリジリと給料が少なくなっている。覚悟していた事とはいえ、貧乏人の身には堪える。私は何も言わず懐に収めたが、アヒメレクさんは「少ないっすねー」と正直な感想を口にした。
「ごめんなさい。売り上げも下がってるから、これ以上は……」
「分かってるっすよ。これでも、俺は経済を学ぶ身っすから」
「そうだったわね……それにしても、いい加減にどうにかならないものかしら。大学の偉い先生は、何か解決策とか教えてくれないの?」
「ふ~む、とりま、一番は戦争を止めたら良いんじゃないっすかね~」
身も蓋もない事を言う。それが出来れば苦労はしない。だが、真理だ。
「俺らの国は、アルゲニア王国に食いもんにされてるんすよ。『未回収のイリュリア』を巡る戦争によって」
我がイリュリア王国は西の隣国パルティア王国と『未回収のイリュリア』――肥沃な穀倉地帯――を巡って領土紛争を繰り広げている。一年前に休戦協定が締結されたばかりだが、未だ小規模な衝突が絶えないのが現状だ。クラウディア教官が左腕を失ったのも、パルティアの魔法士部隊との戦闘によってのこと。
「酒保商人でもなければ、商人が戦火を避けるのは当たり前っす。略奪の危険も高まるっすから。で、商人たちは当該地域を避けて別の路を選択する訳っすけど、それが南方の路――つまり、[アルゲニア王国ルート]なんすよ」
アヒメレクさんは、戦争の原因を他国アルゲニア王国にも見出しているらしい。
「しかも、俺らの国は戦費を賄うために莫大な借金をしてるんすけど、その大半はアルゲニアから借りてるんすよね。武器や物資の主な調達先もアルゲニア。全く、重商主義も甚だしいっすけど、奴らは元・宗主国の立場に驕ってこっちに反抗される事はないと高を括ってるんす」
「え、えーと、つまり……?」
「結論としては、戦争を止めたら大体全部解決するってことっすよ~」
「……しかし、アヒメレクさん。事はそう簡単にいくでしょうか」
堪らず、口を挟んでしまった。私は魔女見習いだ。他人事のようには振る舞えない、当事者なのだ。私は脳裏に浮かんだ懸念点をそのまま伝えてゆく。
「現在、イリュリア王国は関税を限界まで引き下げる事で延命していますよね」
かつては香辛料を東方へ輸出する窓口として我が国は大変栄えた。だが、それも大航海時代の到来前、そして[ネカウⅡ世の運河ルート]が開拓されるまでの話だ。
〔現在の主な交易路(一部)〕
今や我が国は西方と東方を繋ぐ窓口としての役割を失い、単なる傍路のような扱いを受けている。
一応、西方から陸路を通って入ってくる絹と、『未回収のイリュリア』から入ってくる穀物を輸出することで食いつないでいたが、それも戦争で途絶えてしまった。
そこで、イリュリア王国は関税の大幅引き下げに踏み切った。
「[ネカウⅡ世の運河ルート]を通る商船をベレニケ港に誘導し[イリュリア縦断ルート]を使ってもらうことで延命していますが、仮に『未回収のイリュリア』を巡る戦争が落ち着いたところで、果たして[パルティア-イリュリア]間の交易路が本当に再び活発化するでしょうか」
「俺はそう見てるっすよ。パルティア領内には『未回収のイリュリア』とその他の地域を分断するザジロスト山脈があるっすから」
その通りだ。アヒメレクさんの見立ては正しい。
パルティア国内の需要より海外の需要が上回っているため、そしてザジロスト山脈をその領内に取り込んでいる性質上、『未回収のイリュリア』で育てられた穀物の大部分はイリュリア王国を通って東方諸国へ輸出されていた。
だが、それも今までそうだったというだけで、これからもそうであるとは限らない。
「パルティアの対イリュリア感情は過去最悪です。なにせ、十年前に此度の戦端を開いたのは、功に逸って暴走した諸侯派貴族将校の奇襲攻撃ですからね」
そこの処罰・粛清は済んでいるとはいえ、パルティア側の反応を見るにその対応で満足しているとは思えない。
「感情的にイリュリア行の関税を引き上げ、依然として商人たちが[アルゲニア王国ルート]を通るように誘導する可能性だってあります。諸侯がまだ強い力を持つイリュリアと違って、パルティア王国は中央集権的な国ですから地方の反発もある程度は度外視で動けます。また、今は[イリュリア縦断ルート]への商船の誘導を許しているアルゲニア王国だって、状況が変われば[ネカウⅡ世の運河ルート]の関税を引き下げてくる可能性もあります」
現状は、アルゲニア王国のかけるネカウⅡ世の運河の通行料がぎりぎりに採算の取れる法外すれすれの値であり、それを嫌う商人が時間的ロスを受け入れ、[イリュリア縦断ルート]を選択してくれているからこそ辛うじて成り立っている。謂わば首の皮一枚で繋がっているような状態だ。
もし、アルゲニア側が関税の引き下げでもしようものなら、即座に我が国の経済は崩壊しかねない。しかも、その下げ幅は雀の涙ほどで事足りるだろう。
しかし、アヒメレクさんは私の懸念に否定的な見解を示す。
「……どうすかね、パルティアの国内事情に関しては疎い俺っすけど、和解の仕方次第な気もするっすよ。アルゲニアにしても、そう簡単に関税の引き下げはできないんじゃないっすかね」
「それは……何故です?」
「アルゲニアも一枚岩じゃないっす。ネカウⅡ世の運河の収益は、そっくりそのままアルゲニア本国が受け取る訳じゃなく、管理維持費の名目でケメト総督府と山分けしてるっすから、既得権が反発すること必至っすよ」
なるほど……確かに。翻って、我がイリュリア王国が大幅な関税引き下げに踏み切ることができたのは、此度の戦争が諸侯派の貴族将校に端を発するものだった事が大きい。その責を問う形で、王党派が諸侯派をやり込めたのだ。
加えて、イリュリア王国が生存の為に手段を選べなかったのに対し、アルゲニア王国は現在存亡の危機とまでは追い込まれていない。既得権の反発を食らうような、無理な関税の引き下げは出来ないだろう。だからこそ、私は『状況が変われば』と言ったのだが。
ネカウⅡ世の運河はほんの二十年前に作られた人工運河だ。それ以前からケメト一帯を支配していたアルゲニアは、もともとあったネカウⅡ世の運河を拡張する国家プロジェクトを立案した。
ネカウⅡ世の運河会社を設立してそこへ多額の投資をし、動かせる魔法使いも総動員し、国家の威信を賭けたとそのプロジェクトは見事成功に終わった。
だが、その過程で沢山の借りを作ってしまった。その借りはネカウⅡ世の運河の利権に食い込み、未だシコリのように残っている。
「……流石は大学で経済を学んでいるだけありますね、アヒメレクさん」
私は、取り敢えず思い付く限り全ての懸念が尽く論破されたので、そろそろ降参する事にした。
「リ、リンちゃんも凄かったわ。ちゃんと勉強してるのね……」
「ですが――」
話に付いて行けずにいた店長がフォローを入れてくれる。だが、まだ話は終わっていない。今までのは半ば八つ当たりのようなもの。むしろ、ここからが本題だ。
「やはりもっとも重大な懸念は、戦争は止められそうにないという事です」
「っかあ~、それな!」
戦争を止める。さっきも言ったように、それが出来れば苦労はしない。
(この国には、それが出来ない理由がある……)
アヒメレクさんも、そこのところは重々承知の様子だった。一人、やっぱり話に付いて行けずにいる店長が私たちを交互に見て尋ねる。
「え、えと……どういう、こと?」
「今のはただの理想って事っす。うちの王様と王党派――の大体半分ぐらい――は厭戦論を支持してるみたいっすけど、問題は残り半分の王党派と諸侯派っすね。この状況下においてもまだ主戦論が根強いっす」
その理由は、店長には言わない方が良いだろう。今以上に貴族たちに幻滅するだけだろうから。
厭戦論者は憂国の情と派閥的対立からなり、もう一方の主戦論者は軍事的名誉と領土的野心からなる。もう少し詳しく説明すると、功績を打ち立てたい王党派・諸侯派双方の軍官と『未回収のイリュリア』に直接領土を面する諸侯派が主戦論を支持している。
「じゃあ、結局は私たちに打つ手はなしってことなの……?」
「いいえ。店長、俺はさっき『一番は戦争を止めること』っつったんすよ。だから、二番もあるっす。貴族たちじゃなく俺たち平民が打てる方策が……といっても、これまた別の理由で実現困難ではあるっすけど……」
そう前置きし、アヒメレクさんは「とにかく」と続けた。
「二番は失業者をどうにかすることっす。港湾での仕事量が減り、職に溢れた失業者たちをどうにか。実は、失業者の存在は二重に損なんすよ。一つは失業者自身の労働力が機能していない事による損、もう一つは失業者に対して否応なく使われる税金の損。放っておいても治安が悪化するだけっすから、そうなると治安維持組織を拡大しなきゃいけないっすよね? だから、行政としては嫌々ながらも失業者を支援するしかないって寸法っす。或いは、公共事業とかで雇用創出したりして」
失業者に対する福祉制度として、この国では救貧法が定められている。教区ごとに設置された救貧院にて労働の出来ない失業者を養い、労働の出来る失業者に強制労働を科す。孤児院と同じく国教会の管轄で、失業者に子供がいる場合は近くの孤児院へ一時預けられる。
しかし、その実態は健全に機能しているとは言い難く、あまりに苛烈な強制労働を科せられる上、救貧税という税金で運営されている事から入居者に向けられる世間の風当たりも強く、進んで入りたがる者は極少数に留まり、結果として浮浪者が街中に溢れ返る事になった。
また問題は他にもあり、強制労働の利潤だけでは運営費(救貧税)をペイできず、莫大な税金が補助金の名目で投入されている。だが、投じた額に比して悪名高き救貧院の状況は一向に改善しない。はてさて、その補助金は何処へ消えているのやら。
「あの、失業者が居ると駄目ってのは分かったわ。だけど、支援も公共事業も結局は貴族様の意向次第。私たち平民から出来ることなんてないんじゃないかしら……」
「いえ、賃金を下げれば良いんす」
「えっ!?」
アヒメレクさんの答えに、店長は眼を丸くする。
「失業者は、現在雇用されている労働者よりも低い賃金を提示することで就職が可能なんすよ」
理論上はそうだ。供給はそれ自身の需要を創造する――『販路の法則』だ。現行の経済学の根底に流れる考え方だが、それをいきなり言ったところで素人の店長は混乱するだけだ。説明が下手なアヒメレクさんに代わって、私が店長に噛み砕いて説明する。
「店長。もし、商人が自分の店で扱う商品が売れなかった時、どうしますか? その商品は農作物でも工芸品でもなんでも良いです」
「え? 商品を店先に置いといても売れないんだったら……値下げして売る?」
「はい。それが市場機能です」
現に、この店も他の格安店に対抗して出来得る限りのコストカットや値下げを行っている。それが、労働市場に対しても適用されるのだ。
「今のイリュリアには失業者が沢山いる……言い換えると、これは労働者が売れ残っているということです。つまり、失業者は自らの労働力の値段=賃金を下げることで、いつかは職を見つけられるんです」
「そういうことっす。国有企業とかはいち早く下げ始めてるっすよ」
すると、店長は「あっ」と得心が行ったというように手をポンと叩いた。
「私も二人にお給料を下げて渡したわね、そういうこと?」
「まあ、そうっす。なんやかんや、上手いこと『見えざる手』が執り成してくれるんすよ」
「やった、じゃあ解決するのね! ……でも、さっき『別の理由で実現困難』って言ってなかった?」
「……っくぅ~!」
アヒメレクさんは、痛いところを突かれたという顔をしながら、ピシッと指を二本立てた。
「理由は二つあるっす。一つは労働者の抵抗。不況によって全体的な物価が下がってる今、賃金の額面である『名目賃金』が減少しても、その実質的な価値である『実質賃金』は減ってないんすけど、労働者は賃金の値下げが行われるとどうしても感情的に反発しちゃうんすよね」
そう、賃金価格の下落に反発する労働者は多い。しかし、それは経済に対する無理解によるものだと経済学者たちは言う。『名目賃金』は減るが、『実質賃金』は減らない。それも、市場機能による商品価格の自由な伸縮が行われるためだ。
「でも、私はその気持ちも分かるわ。誰だって、お給料が減ったら嫌だもの」
「それはそうっすけど……ま、気持ちの話は置いといて、もう一つの問題は物理的な供給不足っす。このデフレ社会の中で、一つだけ値上がりしてるものがあるっすよね」
「値上がり……あっ、麦ね!」
「そうっす」
イリュリア王国は、国内で消費する穀物の大半を『未回収のイリュリア』からの輸入に依存していた。しかし、それも戦争で途絶えている。
単にパルティアからの輸入が途絶えただけなら、他国から輸入すれば簡単に解決したが、運悪く寒波による世界的な不作も重なってしまった。
元から肥沃な『未回収のイリュリア』と違って、イリュリアには貧しい土壌が多い上に水資源にも乏しく、健康な作物を育てるには土地管理官(魔法使いの役職の一つ。一般魔法士官)による細やかな魔法的補助が不可欠。その為、そのコストに見合った高価格で捌ける商品作物をプランテーション栽培しており食料自給率が低かった。
「絶対数が少ないことに加え、平民を顧みない貴族や商人たちの買い占めも重なって、穀物の値上がりは天井知らずっす。そこに戦費を賄う為の増税と、賃金の減少が重なるとなると……」
王国政府は穀物価格に上限を設けるなどの対策を打ったが、それも買い占めを助長するだけに終わり、国民全員に行き渡っているとは言い難かった。
「……ままならないわね……」
「……これ以上戦争を続けたら、いつか国民皆死んじゃうっすよ」
場に重苦しい沈黙が流れた。
どうしたら良いかなんて、きっと誰にも分からない。もちろん、戦争を止めたら良いのは当たり前だが、それをどうしたら実現できるのかが分からない。
所詮、私たちに現状を変える力なんて……。
(……いや、私は違う)
彼らと違って〝力〟なら持っている。『星団』に入るのはゴールでもあり、またスタートでもあるのだ。私は、皆のためにも頑張らなくてはならない。
(でも、どうやって……?)
どうしたら、この流れを変えられる?
アヒメレクさんとの対話で魔女としての自覚を新たにした私だったが、すぐさま現実にどうしたらいいかという問題に直面した。こればかりは、心の持ちようでどうにかなるものでもない。
そもそも、我がイリュリア王国が抱える問題は外部だけではなく、内部にも民宗派を始めとするゴタゴタがある。まさに、内憂外患こもごも至るといった感じで、それらを一挙に片付ける快刀乱麻の解決策なんてのはすぐには思いつきそうになかった。
その代わりとして浮かんできたのは、思いも寄らぬヘレナの存在だった。
ヘレナは私を勧誘した時、こう言っていた。「共に『革命』を起こそう」――と。その『革命』とやらが、この凝り固まった現状を解きほぐせるというのなら、私はきっと協力を惜しまないだろう。この国のため、国民のために、いけ好かないヘレナの手足となって手伝ってやることもやぶさかでない。それぐらいの良心、愛国心はあるつもりだ。もちろん、見返りとして私の夢への協力は求めるが。
しかし、それは『革命』が本当に正しいと確信できた時の話。あまりに貴族的なものであったり、害悪でしかないトンデモ思想を撒き散らすようなら、逆に潰してやる。
(けど、この前の時は顔合わせだけで、説明らしい説明はなかったのよね……)
今の今まで『革命』のことは忘れていたが、思い出すと段々と気になってくる。やはり、私も魔女の端くれ、この国の行く末には多少なりとも関心があった。
だが、私が『革命』について知りたがっていると分かれば、ヘレナはそれを餌に何を要求してくるか……。
(……良し、ヘレナにバレないようにどっからか聞き出してやろう)
目先の指針が定まったところで、私は学院に帰ることにした。思わぬ議論で時間を食ってしまったので、そろそろ帰って就寝しないと明日に響く。政治や経済に対する大層な懸念を語る前に、まずは卑近なところから居住まいを正さなくては。
「私はお先に失礼します。お疲れ様でした」
「おつかれっすー」「お疲れ様」
笑顔で送り出してくれた彼らに手を振り、荷物を持って店を出た。
(そうだ、聞き出すならアイツが良い)
ヘレナ以外の王党派中核メンバーかつ、『革命』についてポロッと教えてくれそうなほどに口の軽そうな奴……まだ一度の顔合わせをしただけだが、そんな男に私は心当たりが合った。
その男の名は――ベネディクト。
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