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ハーグスの死闘
膠着戦の始まり
しおりを挟む突如として降り始めた豪雨は地上にも大きな影響を及ぼした。
「見ろ!味方機が敵機をやっつけたぞ!」
陣地内では歓喜の声が上がった。
地上の歩兵隊は地上からの侵攻に備えて雨に打たれながらじっと待ち構えていた。レインコートなどは着ることもできず冷たい雨が体を冷やす。雨の日の塹壕は最悪だった。流れ出た土は泥となって歩兵の機動力を大幅に削りとって行く。それだけでない。泥は銃器をも侵食し、弾詰まりを誘発してしまう。
塹壕の踏み台で銃を構えて1時間程度経った時、麓で大爆発が起きた。その後も立て続けに爆発が続いていき、それが何か分かった。
砲撃だ。
砲撃は麓を集中的に襲った。だが高地にも砲弾は降り注いだ。3時間も続いた。3時間だ。着弾と同時に炸裂する爆音と地響きで5分で気が狂いそうになった。
「トヨなんか比じゃないな」
砲撃が終わったハーグスは、まさにこの世の終わりのように見えた。白煙があちこちから上がり雨音よりも大きい悲鳴があちこちでしていた。しばらくしてから麓で銃撃が始まった。
すっかり緩んだ地面をビチャビチャと音を鳴らして塹壕内を移動する。ブーツの中はすっかり水が染み込んで気持ち悪さが襲う。ライフルを泥で汚さないよう担ぎ上げるような格好をとった。
俺たちは高地の中腹まで降りて迎え撃つよう指令を受けた。中腹にたどり着くと銃声が大きく聞こえ始めた。中腹の塹壕の踏み台を登り双眼鏡で麓を見た。麓には敵兵士が着剣した銃を手に前進してきていた。だが雨の影響を受けているのは俺たちだけでは無かった。彼らも泥に足を取られて動きづらそうにしていた。
中腹にいた砲士官はそれを見逃さなかった。すぐに大きな無線機を取り、各所に砲撃命令を飛ばした。無線から砲兵隊が大砲を操作する音と掛け声が聞こえてきた。
「全部隊へ今から砲撃を開始する。塹壕内で耳閉じとけ!」
訛った口調がしてしばらくすると大きな射撃音が連発して響いた。
さっきと同じように麓には砲弾の雨が降り注いでいた。中腹まで揺れが伝わってくる。土煙が天高く空に舞い上がっていくのが見て取れた。俺は双眼鏡でずっとそんな光景を見ていたのだ。
不意をつかれた敵部隊は慌てふためきながら撤退しようとしていた。敵兵は各々、片手で大きく退がれとジェスチャーしていた。その兵士たちを無慈悲にも155㎜の榴弾砲が襲うのだ。一度着弾すれば大きなクレーターが出来上がる程の威力だった。
俺は彼らが心底気の毒だと思った。だが麓の部隊に目をやると右手を高く上げ喜びをあらわにしていた。俺は何だが自分が偽善者では無いのかと感じ自己嫌悪に駆られた。
「さすがセグワの砲兵隊は素晴らしい腕前ですな」
後ろで日国の砲士官がセグワの砲士官を褒めちぎっていた。
「とんでもありません。さてもう一押し」
そう言うと砲士官は続けて追い討ちをかけた。すっかり逃げ腰になっている敵兵らに再び砲撃が加えられた。さっきまで敵が沢山いた場所は大きなクレーターになって、人はどこかに消え去ってしまう。やがて砲撃が終わり、麓の味方部隊が意気高らかに残党狩りを始めた。
異常がここでは正常だった。麓の味方兵らは今までの恨みを晴らすかのごとく砲撃を免れたジェネッサ兵を蹴り、殴り、刺し、撃ち殺したりしていた。その乱暴な仕打ちを俺は見る事が出来ずに双眼鏡を置いた。後ろの士官らは談笑している。
「いい加減善良な心は捨てろ」
隣にいたケインがさっき置いた双眼鏡を手渡してきた。見ろと言われて俺は再度双眼鏡を覗いた。しばらくの間ずっとその光景を見さされていた。
「ここを通すわけにはいかない、死んでも守りきらなければならない場所なんだ。そんなちっぽけな良心は捨てろ。人間としての良心は得だ。だが兵士としてのソレはここではゴミ同然なんだ」
体が火照っているような感じになった。
「そのポーチの中に詰まってる奴らの分まで戦うのがお前の役目だ。」
「これだけ殺せって事ですか」
「ジェネッサの奴らならそうするさ」
何も言い返す事が出来ずにその光景をただ見ていた。麓では残党狩りを終えた隊員らが次々と塹壕に戻っていき、俺は双眼鏡を置いた。
皆んな.....皆んなならこうするかな
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